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ベッドから落ちる時のような突然の浮遊感が襲い、急激に目が覚める。
「ったぁ…」
ソファから転げ落ちたユフィはぶつけた顔を擦りながら立ち上がった。両腕を上げて伸びをしていると、外から花火の音が聞こえてくる。
その音に誘われるように窓際へ寄ると、紺色の騎士服を着た人達が、空に向けて手をかざしていた。
「建国祭の花火って…魔法だったんだ」
初めて知る事実に関心していると扉が叩かれ、そこからレイヴンが顔を出した。
「ヴィ」
目が合うとレイヴンが早歩きでこちらへと歩み寄り、苦しくなるほどに抱きしめてくる。
「うぅ…」
「あ…ごめんね」
呻くことしか出来なくなったユフィはレイヴンの肩を叩いた。
「寂しかった」
腕を緩めるも抱きしめたまま、首に頭を埋めたレイヴンは小さな声で呟いた。ユフィがいつも通りのように頭を撫でる。
「大変なことになっちゃった…ね」
「フィは聖女になるの?」
「ううん、ならないよ」
レイヴンはユフィの頬を持ち上げて、その瞳を覗く。
「赤い瞳も綺麗だったけどこっちの色の方が…好き」
「ほんと?私も良いなと思ったんだけど…この色は不吉なものなんでしょう?」
「フィは不吉じゃないよ、僕の瞳の色が混ざってるみたいで嬉しい」
レイヴンの瞳を覗き込むと、その深い青色に吸い込まれそうな気持ちになる。見惚れていると、唇が当たりそうな距離にいることに気付く。慌てて腕を解き、鏡台に向かった。
「あっ…ほんとだね!ヴィの青色と似てる」
鏡越しにレイヴンを見ると不貞腐れたような顔をして、また抱きついた。
「はっ…レイラ様…はぁ…あなた、速すぎるわよ…」
「だ、大丈夫ですか?」
声のするほうを見れば扉の枠に手をかけ、必死に息を整えているキーラがいる。その後ろにはヘリオスが呆れた顔をして立っていた。
「おはよう、朝からにぎやかだね」
よく見ると二人は豪奢な出で立ちをしていた。キーラは黒のレースリボンが映える深紅のドレス、ヘリオスは金糸の刺繍が施された真っ白な礼服でキラキラと輝いている。
「フィも着てみたい?」
思わず見惚れているとレイヴンがユフィの手を引いた。
「ううん、ヴィはお洒落しないの?」
「うん」
レイヴンが着ているのはドレスではなく動きやすそうなワンピースと黒のコートだった。長い黒髪を横で緩く結んでいるだけで飾り気もない。
「本当は君たちも式典会場に連れて行こうかと思ったんだけど……約束を破らせる訳にはいかないからね」
ヘリオスは相変わらず困った顔でそう言うと、ユフィの背後を見てため息をついた。
「レイラ嬢…何かあればすぐに公爵に知らせるからね」
「……」
「今すぐ便りを送ったっていいんだよ?」
「分かりました」
「はぁぁ…頼んだよ?」
「フィ……行こ」
「う、うん」
ユフィが「お世話になりました」というと「ちゃんと帰ってきてね?」とヘリオスに言われ、愛想笑いで返す。
そのまま、すぐにレイヴンに手を引かれて広い王城を正門まで迷うことなく歩いた。
「道わかるんだね」
「うん、覚えるのは得意だから」
あっという間に繁華街まで降りると、そのままマーサ達のいる市場まで行く乗り合い馬車の方へ行こうとしたユフィはピタリと足を止めたレイヴンに振り向いた。
「僕のあげた髪飾り持ってる?」
「あ、森の小屋に荷物と一緒に置いてるよ」
「先にそっちに寄ろう」
マーサ達が無事かをすぐに確認したかったけど、森に近い道を知ってるからというレイヴンに言われるがまま、小屋へ向かう。
壁の出っ張りに足をかけて、むき出しになった天井の木造の柱に手を伸ばす。そこに置いていた新調した旅用の鞄を下ろすと、その中から綺麗な布に包んだ髪飾りを取り出す。
「今の格好じゃ似合わないし…傷付けたくないから鞄に入れてたの」
布を広げて見せると、レイヴンはその中にある髪飾りを手に取る。
「つけなきゃ意味がないのに…」
「それは…そうなんだけど…大事にしたかったの」
「そっか…今度は気軽に身につけられるものにしないと、だね」
そう言いながら、レイヴンは帽子とかつらを外して、いきなりワンピースを脱ぎ始めた。
「ちょっ、ヴィ?……私、水浴びしてくるね」
急なことに腕で視界を塞ぐもワンピースの下にショートパンツを履いているのが見えて、その腰に着けたポシェットを開いている。ユフィはなんだか恥ずかしくなって、外へと飛び出した。
女装を解くならそう言ってよ……でも疲れて王城のお風呂も借りれなかったし、小屋に寄れてちょうど良かった…
準備体操をして、外套と服を脱ぎ捨てると湖へと飛び込んだ。寒さからくる痛みは一瞬で、肌に張り付いた気泡が離れていくのを眺めているとじわりと湧き出した魔力が体を温める。
「ったぁ…」
ソファから転げ落ちたユフィはぶつけた顔を擦りながら立ち上がった。両腕を上げて伸びをしていると、外から花火の音が聞こえてくる。
その音に誘われるように窓際へ寄ると、紺色の騎士服を着た人達が、空に向けて手をかざしていた。
「建国祭の花火って…魔法だったんだ」
初めて知る事実に関心していると扉が叩かれ、そこからレイヴンが顔を出した。
「ヴィ」
目が合うとレイヴンが早歩きでこちらへと歩み寄り、苦しくなるほどに抱きしめてくる。
「うぅ…」
「あ…ごめんね」
呻くことしか出来なくなったユフィはレイヴンの肩を叩いた。
「寂しかった」
腕を緩めるも抱きしめたまま、首に頭を埋めたレイヴンは小さな声で呟いた。ユフィがいつも通りのように頭を撫でる。
「大変なことになっちゃった…ね」
「フィは聖女になるの?」
「ううん、ならないよ」
レイヴンはユフィの頬を持ち上げて、その瞳を覗く。
「赤い瞳も綺麗だったけどこっちの色の方が…好き」
「ほんと?私も良いなと思ったんだけど…この色は不吉なものなんでしょう?」
「フィは不吉じゃないよ、僕の瞳の色が混ざってるみたいで嬉しい」
レイヴンの瞳を覗き込むと、その深い青色に吸い込まれそうな気持ちになる。見惚れていると、唇が当たりそうな距離にいることに気付く。慌てて腕を解き、鏡台に向かった。
「あっ…ほんとだね!ヴィの青色と似てる」
鏡越しにレイヴンを見ると不貞腐れたような顔をして、また抱きついた。
「はっ…レイラ様…はぁ…あなた、速すぎるわよ…」
「だ、大丈夫ですか?」
声のするほうを見れば扉の枠に手をかけ、必死に息を整えているキーラがいる。その後ろにはヘリオスが呆れた顔をして立っていた。
「おはよう、朝からにぎやかだね」
よく見ると二人は豪奢な出で立ちをしていた。キーラは黒のレースリボンが映える深紅のドレス、ヘリオスは金糸の刺繍が施された真っ白な礼服でキラキラと輝いている。
「フィも着てみたい?」
思わず見惚れているとレイヴンがユフィの手を引いた。
「ううん、ヴィはお洒落しないの?」
「うん」
レイヴンが着ているのはドレスではなく動きやすそうなワンピースと黒のコートだった。長い黒髪を横で緩く結んでいるだけで飾り気もない。
「本当は君たちも式典会場に連れて行こうかと思ったんだけど……約束を破らせる訳にはいかないからね」
ヘリオスは相変わらず困った顔でそう言うと、ユフィの背後を見てため息をついた。
「レイラ嬢…何かあればすぐに公爵に知らせるからね」
「……」
「今すぐ便りを送ったっていいんだよ?」
「分かりました」
「はぁぁ…頼んだよ?」
「フィ……行こ」
「う、うん」
ユフィが「お世話になりました」というと「ちゃんと帰ってきてね?」とヘリオスに言われ、愛想笑いで返す。
そのまま、すぐにレイヴンに手を引かれて広い王城を正門まで迷うことなく歩いた。
「道わかるんだね」
「うん、覚えるのは得意だから」
あっという間に繁華街まで降りると、そのままマーサ達のいる市場まで行く乗り合い馬車の方へ行こうとしたユフィはピタリと足を止めたレイヴンに振り向いた。
「僕のあげた髪飾り持ってる?」
「あ、森の小屋に荷物と一緒に置いてるよ」
「先にそっちに寄ろう」
マーサ達が無事かをすぐに確認したかったけど、森に近い道を知ってるからというレイヴンに言われるがまま、小屋へ向かう。
壁の出っ張りに足をかけて、むき出しになった天井の木造の柱に手を伸ばす。そこに置いていた新調した旅用の鞄を下ろすと、その中から綺麗な布に包んだ髪飾りを取り出す。
「今の格好じゃ似合わないし…傷付けたくないから鞄に入れてたの」
布を広げて見せると、レイヴンはその中にある髪飾りを手に取る。
「つけなきゃ意味がないのに…」
「それは…そうなんだけど…大事にしたかったの」
「そっか…今度は気軽に身につけられるものにしないと、だね」
そう言いながら、レイヴンは帽子とかつらを外して、いきなりワンピースを脱ぎ始めた。
「ちょっ、ヴィ?……私、水浴びしてくるね」
急なことに腕で視界を塞ぐもワンピースの下にショートパンツを履いているのが見えて、その腰に着けたポシェットを開いている。ユフィはなんだか恥ずかしくなって、外へと飛び出した。
女装を解くならそう言ってよ……でも疲れて王城のお風呂も借りれなかったし、小屋に寄れてちょうど良かった…
準備体操をして、外套と服を脱ぎ捨てると湖へと飛び込んだ。寒さからくる痛みは一瞬で、肌に張り付いた気泡が離れていくのを眺めているとじわりと湧き出した魔力が体を温める。
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