前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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レイヴン1

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人々が寝静まる頃、毒の入った薬瓶を分けていると扉が小さく叩かれる。レイヴンは薬瓶をポシェットに仕舞い、カツラを被って返事をした。

扉から現れたのはキーラだった。護衛もメイドも連れず、一人でやってきたキーラは葡萄酒と果物を入れたかごを掲げると、いたずらな笑顔をレイヴンに向ける。

「お酒は嫌い?」
「キーラ様…12歳の飲酒は禁止されています」
「冗談よ、ただのぶどうジュースだから…そんなに怖い顔をしないで?別に…私は貴方を悪いようにするつもりはないのよ…?レイヴン様」
「………」
「ふふ」

レイヴンはナイフがある腰に手を起き、身構える。

この女は何者なんだ、どこまで知っている?それに…ただでさえユフィが「聖女」と言われ捕えられ、悠長に会話なんてしていられないのに…

「何が目的?」
「あら、それはこちらのセリフでもありますわ」
「あんたが禁呪に手を出したから探ってた」
「ふーん…残念ながら外出の厳しい今の年齢じゃ禁呪を調べるのも難しいのよね」

警戒心など微塵もないと言うようにキーラが葡萄ジュースを注いだグラスをレイヴンの前に置くと、窓台にだらしなく座った。グイッと煽ったグラスにまた並々と葡萄ジュースを注いでいる。

「私はヘリオス殿下とユフィさんはお似合いだと思うの」

ベリーをひとつ摘んだキーラはレイヴンの返事を待つことなく話し続ける。

「でもあの瞳の色でしょ?それに性格もなんだか臆病で…また私が婚約者候補に戻る気がしてならないのよ」
「出来るならそうしてほしいけど」
「私は王妃になんてなりたくないのよ」
「あんたの事情なんて知らない」
「もう、そんな事言わないでよ…貴方がユフィさんと親しいことは分かってるのよ?でも…」

キーラはレイヴンに近寄り、その長い黒髪を掬いとる。

「「聖女」だと分かれば、この国はあの子を離さないわ」

冷たいアイスブルーの瞳は弧を描く。レイヴンはキーラの手にカツラを残して、後ろに身を引いた。くすんだ黒色の地毛が顕になり、頬を滑る。

「まぁ…ごめんなさいね、でも本当に綺麗なお顔ね」
「あんたに言われても嬉しくない」
「ふふ、それでね…私、この国には呆れているのよ…聖女聖女って神殿中心の国政になっているせいでまともな法律がないんですもの、まぁユフィさんは大事にされるでしょうけどね」
「フィは聖女じゃない」
「貴方の願いはそうよね…でもこんなデタラメな国が今も生きている理由くらいは分かるでしょ?帝国の歴史をお知りの貴方なら」

キーラは100年前に帝国が聖王国を侵略し、その国土の大半を奪ったことを言っているのだろう。

「奪った土地では聖女は産まれない」
「そう…それ以来、誰もこの聖王国を侵略しなくなった。その代わりに聖女信仰は更に根付いたのだけど…綺麗なのは名前だけで実際は、私生児の国よね」
「自分の国をそんな風に言うなんてよっぽどなんだね」
「よっぽどよ…私がユフィさんを探すために孤児を集めていたら、大人たちがなんて言ったと思う?聖女候補じゃない孤児が多すぎるから、纏めて鉱山に送れって平気で言ったのよ?」
「そんなものだよ」
「……貴方も冷たいわね…神殿は聖女補佐しか受け入れないし、他国の尊い血筋が混ざっていそうな子供も見かけて戦々恐々としたわ、孤児院を建ててもすぐに埋まってしまうし…」
「そんなことをする必要はない、生き残れないやつに手を差し伸べても更に生きづらくなるだけだ」
「いいえ、生きる手段を知らないだけよ…貴方だって最初からなんでも出来ていた訳では無いでしょう?」
「………」
「それに私は使えるお金があるから使っているの、拾った孤児達も素直で覚えがいいから領地の為に役に立ってくれているわ…だけどユフィさんはどうかしら」
「フィは関係ないでしょ」
「そう?その力を隠し「聖女」と名乗り出てくれない限り、この国は子供を作り続けるのよ?」
「それがフィのせいだっていうの?」
「いいえ、でもこの国の打開策だと思っているのは本当よ。ユフィさんにとっても悪いことでは無いでしょう?何不自由ない生活を送れて皆に愛されるんですもの…正直、あの子が何を考えているのか分からないわ」
「分かるわけないよ」
「そうよね、だから歩み寄りたいと思っているの。婚約は16歳、結婚ができるのは18歳…あと6年もあるのだし、私やヘリオス殿下との交流を許して欲しいの。決して無理強いはしないわ、その間にユフィさんの気持ちも見えるようになるかもしれないから」
「僕は何も手伝わないよ」
「ええ、だけど手段は選ばないってことだけは覚えておいてね」

キーラはレイヴンが手を付けなかったグラスを取り、それを飲みきるとどこかすっきりした顔でレイヴンを見る。

帰り際に振り返り「あ、女装のことは誰にも言わないわ」と言って立ち去った。
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