ヨロズ探偵倶楽部

久環紫久

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幼き日の思い出(4)

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 商店街を歩いている。米穂付高校は田園のど真ん中にある学校で、そこから歩いてニ十分ほどで市街地に出る。今はその商店街を歩いていた。夕飯時だからか、いい匂いもするし、人も多くにぎわっていた。

「どう?あとどれくらい?」
「わからん」
「うげ、早く帰りてえ、チャンネルが合わなくなってきた。しっかし腹減ったなあ」
「同じく」


「あの、どこに向かってるんですか?」
「さあ?知らない」

 雅が訊ねると、全は首を横に振って返した。

「入院してるって言ってたからな、病院だとは思うぜ?」
「だと思うって……」
「そういうこともあんだよ。キーホルダーって子供が使う場合がおおいだろ?だからなんでか子供っぽくなりやすいみたいで。病院ってことしかわかんねえの。あでもまだいい方だぜ?めっちゃゴリゴリにドリームキャッチャーみたいなやつとかはもう論外。あいつら夢掴むことしか考えてねえから。話が通じねえ」
 適当に相槌を打って、雅は南雲に声をかけた。

「南雲先輩は何をしてるんですか?」
「縁を辿ってるんだ」「はあ?」雅は首を傾げた。
「ガンちゃんにはそう言うのが見えるんだよ。あれ、言わなかったっけ」
「言ってないんじゃないか?」
「さっきも説明省いたか」
「でも、説明したところでだろ」

 二人がそんなことを言った。
「どういうことですか?」

 雅が訊ねると、全はまた頭を掻いた。唸って言葉を探す。
「まあ、有体に言えば?ガンちゃんは目が良すぎて、俺は耳が良すぎるからお互い知らなくていいもんまで知ってんの」

「はあ……?」
「まあとにかく今はお前の友達探してんだ、ありがたく思え」
「あ、ありがとうございます?」疑問形の感謝を送った。
「俺も見えたらいいんだけどなあ。俺にも見えるのなんてマジな妖だけだもんなあ」
「見えるのも気分がいいもんじゃないぞ、聞こえるのも地獄だろうが」
「違いねえな」
 二人は笑う。随分妙なことに巻き込まれてしまった。
 おかしな二人だと思うが、昨日のキーホルダーを探し当てたことといい、雅の過去の友人といい、なぜわかるのだろう。疑問に思ったが、今すぐに説明してもらってもきっと納得出来ないと思ったので、余計なことは言わずただ二人についていくことにした。

 時刻は十七時を回った。やば、と呟いて雅は母親へ連絡を入れた。
 少し遅くなります、夕飯何?
 送ってスマホを制服のポケットに入れた。

「あ、そうかもうそんな時間か。ガンちゃん、おばさんに連絡入れとけ」
「見つけた」「おばさん?」「んなわけあるか」「そりゃそうか」
「あそこだ」


 南雲が指差した先には市民病院があった。雅は拍子抜けした。まさかこんなに近くにいたなんて。市民病院と雅の自宅は歩いて二十分程度の距離だった。それどころか、今年の頭に市民病院でインフルエンザの予防接種を受けている。会っていてもおかしくないだろうに、と思ってしまうと、二人のことがにわかには信じられない。

「本当に、いるんですか?」

 訊ねてさらに不安になった。もしいなかったらどうしよう。
 横にいる二人を見ると、退屈そうにしてはいたが、その目は真面目だった。

「これが必要だろうから、返す」「ちゃんと居るから会ってこい」

 南雲がキーホルダーを雅に返す。雅が大事そうに手で包むと、全が雅の背を叩いた。

「じゃ、俺ら帰るから」「え!?」
「家近いんだろ?ごゆっくりどうぞ」

 雅が色々と言っているにもかかわらず、全と南雲は今晩の献立を予想しながら去っていった。その背が見えなくなる頃には、空に星が瞬き始めていた。
 雅は意を決して市民病院へと向かっていった。
 勝手がわからず右往左往したが、看護師たちに手助けしてもらった結果、確かに『羽島梨衣』の名前はあった。その病室の扉を開けて、中に入っていく。
 相部屋で四人部屋だった。ベッドの上の顔を見渡す。いた。面影がある。
 羽島の手元には本があって、視線を落としている。しかしその横顔からでも面影が感ぜられた。


「リイちゃん……?」
 呼ばれて羽島が顔を上げた。戸惑ったような顔で雅を見ていたが、雅はキーホルダーを羽島に見せた。すぐに羽島の顔が明るくなった。羽島も手元のしおりを持ち上げた。そこには同じテディベアのキーホルダーがあった。

「ミイちゃん?」「そう、久しぶりだね」
「なんで、どうしたの?」「それはこっちのセリフだよ」

 二人は久しぶりに会って、始めこそ気まずさがあったが、あっという間に打ち解けていた。今までの出来事をお互いに記憶を補完するように話していく。それを病室の扉から覗き見て、全と南雲は今度こそ帰路に着く。

「よし、真相解明終了。問題なさそうだな」
「さっき本当に帰るのかと思ったんだが」
「ちゃんと最後まで見届けてほしいってのがキーホルダーからのお願いだったからなー」
「最後までならもう少しかかるんじゃないか」
「いや、もういいんじゃない?十分見たと思うけど?腹減ったし?」
「なら急いで帰ろう。問題が起きた」
「なんだよ」「母さんが泣いてる」「……なんで?」
「俺が連絡を忘れたからだ」「バカ!バカバカ!連絡入れろって言ったろ!」
「いや、だからさっき帰るのかと思ったんだ。まさかこんなに遅くなるとは」
「今日は、俺は帰ろうかな」「いいから家で食っていけ」
「いやだよ、おばさん泣くと長えんだよ、料理美味しいのに涙の味がすんだよ!」
「一緒に謝ろう」「……ひとつ貸しだからな」
「ああ、お前に貸した分は山ほどあるからな、どんどん返してくれ」
「クソが!」


 翌日の放課後。雅の姿が、再び部室の前にあった。彼女の目線より少し上のところに張り紙があって、『ありとあらゆるご依頼なんでも承り升』と書いてある。呪文のように何度か読んで、呼吸を整える。深呼吸をおまけに一度して、ドアノブに手をかけた。

「お、雅、ちょうど」「ひえええい!!!」

 全が声をかけると、想定外だったようで雅が奇声を上げて背筋を伸びに伸ばした。

「なんなんだよ。悪いんだけど、ドア開けてくんない?優しくな」

 全を見てみれば、両腕で大量のマックスコーヒーを抱えていた。
 全の言葉に頷いて、雅はドアを開けてやった。

「サンキュー」

 全は部室に入ると冷蔵庫にマックスコーヒーを詰め込み始めた。
 雅がぼけーっとその様子を眺めていると、その視線に気付いた全がマックスコーヒーを握った。

「飲む?」顔元で掲げて雅に訊ねた。
 少し遅れて声をかけられたことに気づいた雅は、小刻みに顔を揺らして首を傾げた。

「ほれ、投げるぞ」
 言って全は雅にマックスコーヒーを投げてやった。それを受けとって「ありがとうございます」と雅は言った。


 入り口近くの壁にもたれていた雅だったが、これではいけないと思い直した。
 今日は感謝と謝罪に来たのだ。
 全はずっとマックスコーヒーを詰め込むのに躍起になっている。

「全先輩」「なんだー?」
「あの、ありがとうございました」「…………おう」

 全は雅を一瞥すると短く返した。

「あの」「なに?まだなんかあるの?」
「私、ここに入りたいです」

 缶ジュースが転げる音がした。

「はあ?」

 全が怪訝そうに雅を見ている。

「二人に助けてもらった恩を返したいんです」
「鶴の恩返しかよ」「違いますけど、似たようなもんです」
「いや似てねえだろ」「入部オッケーですか?」
「いや、えー?」「なんでダメなんです?」
「いやあ、そのお。うちって、部活の体を装ってるだけで実は危険なところなんだよ」
「それでも構わないです」「こっちが構ってんだよ、察しろ」
「どうすれば入部出来ますか?」
「どうすればって言われてもなあ、どうしたって出来ないんだよ」


 部室のドアが開く。南雲がやってきた。

「なあ、ガンちゃん。こいつうちに入部したいんだって」
「よかったじゃん」「え?」
「今年から部の規定が変わって、最低三人は必要らしいからな」
「聞いてないんだけど」「今聞いたろ」「そういう問題じゃねえよ」

 南雲がソファに寝転がり、本を読み始めた。

 雅がしたり顔になる。

「入部届書いてきます!出してきます!」

 一礼して脱兎の如く去っていった。誰もおらず空いたままの扉を全が見つめた。

「じゃあ、書記っつうことで」「部活に書記いるのか?」
「そういう部活なんだよ」「どんな部活だ」
「んなもんお前、ありとあらゆるご依頼を承り升でお馴染みの」

 にやりと全が笑った。

「ヨロズ探偵倶楽部だよ」
「俺にもマックスコーヒーくれ」「やだ、自分で買ってこい馬鹿野郎」
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