DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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放たれし災

災封具

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 夜空に浮かぶ満月。
 生命いのち芽吹めぶく予感すらない寂寞せきばくの地を照らす。

 生温なまぬるい乾燥した空気が全域を占め、大地の歪な肌には獣のつののように尖った岩山が幾つも密集していた。

 荒野を滑るように移動する四つの影。
 黒衣のマントと装飾品を身に纏う。

 岩山の間を通り抜け、隆起した丘の上に到着した。

 山頂の地面には白い円が描かれ、その中に奇怪な形の文字と記号。
 円全体が煌めき、ドーム状に膨らんだ光で内部を覆う。

 円の中心に箱が四つあり、ふたは縦と横に交差した銀の鎖が固くほどこされていた。

 光のドームは箱に向けて呪文を放ち、バリバリと激しい摩擦音が鳴る。

 閉じられた蓋が上下に振動した。
 鎖に付与された魔法が反応し、深紅に染まっている。

「今日で十三日目・・・。ついに粉砕できよう。禁呪崩壊タブーキルの効果で災封具さいほうぐを縛る鎖は脆弱化したようだ・・・」
 
 鎖を見ると深い亀裂が所々に確認できる。

 丘に立つ者達が黒衣のマントを外した。

 長い髪が腰まで伸びる痩身の老人。
 細かい刺繍ししゅうが施された民族衣装を纏う白い肌の青年。
 恰幅のいい坊主の男。
 紫の長衣ローブと金銀の装飾を首元に着けた人物・・・。

 彼らの正体は魔術師サタナエル、ジュガラ、セプトゥー、ブラッドモア。

 全員が体を前方に屈め、円の外側の線に片手を置く。
 
 魔力が流れて腕を昇り、各自の体内に浸透する。
 
 円が煌めきを失い、ドーム状の光は旋回しながら消えていった。

 魔術師達は首元から下げた小さな銀のアクセサリーを掴み、紐から離して掌に乗せた。

 アクセサリーは黒く変色して形が変わる。

 片手には収まらないほど横に長く伸び、巨大な漆黒の鎌が現れた。

「打撃を与え、破壊する・・・」
 四人が災封具さいほうぐの真上へ跳ぶ。
 
 鎌を振り上げ、着地すると同時に鎖を刃で打った。

 その瞬間、鎖から目を焼き付けるような強い光と突風が溢れ、四人を弾き返す。

 猛烈な衝撃波で白い円を囲んだ魔術師は後方に吹き飛ばされた・・・。

 尚も深紅に染まる鎖。

 どんな攻撃にも動じない魔獣の目の如き赤い怪光かいこうが、丘の上に充満する砂塵の中で揺らめいている。
 
 四人は慎重な足取りで箱につどう。

 再び全員が跳躍して、鎌の刃が災封具を打ちつけた。
 
 鎖の全体に細い溝が裂けてゆく。
 一気に割れ、隙間なく接地していた箱のふたが、内側から圧力を受けてねる。

 蓋は無重力のように宙で何度も空転し、地面に落ちて砕けた。

 それぞれの箱から濃い灰色の気体が浮き上がる。
 
 丘の真上で留まった四つの気体。
 束の間、魔術師と互いを見合った。

「これが・・・至高の魔力が秘められているとう〈怒りと悔恨の邪気〉か・・・」

 ネオマリーは目を輝かせて呟く。
 その瞳はうるわしき許嫁いいなずけとの逢瀬おうせが、時を越えて叶ったかのように恍惚こうこつとしていた。

 隣でたたずむ三人も邪気から目を離さず、妖しく揺れ動く未知の存在を注視している。

 ブラッドモアが両腕を外側に広げ、闇の気体に手をかざした。

 ジュガラ、サタナエル、セプトゥーも同じく腕を気体へ向けて掲げる。

 四つの邪気が一つずつ魔術師の掌に落ちて行く。
 
 鼓動を鳴らして腕や肩、腰や脚を包んで体内に吸収された。
 闇夜やみよの風が荒野をう。 

「これで際限なき魔力と不滅の命を獲得した。人を超え、魔物を超え、神にも等しい力だ」
 ジュガラが握った拳を掲げる。

血染めに闇同盟レッド・ファミリアが世界の頂点に君臨し、下等な民を統べる。まずは我らの力を魅せよう・・・」
 ブラッドモアが不敵に笑った。

 空に舞い上がる四人の魔術師。行くべき方角を思索しさくする。
 そして目にも止まらぬ速さで四方へ飛び、地平線の先へ姿を消した・・・。

  

 ロハリネ共和国の港湾都市ハーバ。
 複雑に曲がった川が建物の間を流れ、蒸気船が係留する港まで注がれる。
 
 川沿いの遊歩道を歩く人や市内を通る自家用車などが、いつもと同様に街を往来していた。

 突然、何処どこからか飛んできた灰色の影が、穏やかな街の空を横切る。

 魔術師のセプトゥーが道路に着地した。
 両手を強く握り、自分に暗示をかけるように唱える。

「 魔体武装またいぶそう 」

 全身が輝いて輪郭が歪む。
 肌は薄い赤に染まってゆき、天辺は丸みを帯びた。触覚に似た突起が口と眼の間に生じる。

 膨らんだ先端に手と足が形成され、肩から幕のようなものが下がって背中を覆う。

 そこにいたのは独眼の怪物・・・。


 体が桜色で顔に眼が一つ。口は三つある。
 黒の毛皮を纏い、下腹部と両腕の側面に魔性の紋様が刻まれていた。

『ケケケケッ・・・』
 口を顔の端まで横に伸ばし、妖しげな笑い声を発した。

 目の前の物体を見つめ、ただ唖然あぜんとする保安官と市民達。

 怪物の眼が彼らに向く。
 口から長い舌が這い出した。
 保安官の一人に舌が絡まり、口の中に吸引する。

 外に出ようと必死にもがくが怪物は口を閉め、あごり潰すように動かしている。

「なっ、なんて事を!?」
 保安官は腰に携帯したピストルを掴む。敵に銃口を定めた。

 弾丸は怪物の胸部に当たったが的を貫くことはなく、体の表面で反発して道端に廃棄された。

 怪物が腕を肩の高さまでかざす。
 掌に灯る青い光球。

 光を無造作に投げ、路面と触れた瞬間、直視できぬほどの閃光が広範囲に浸透した。

 爆発が起き、衝撃の暴風は瓦礫や犠牲者達の未来をさらってゆく。

 あらゆるものが空中に舞い、魔性の光で焼け崩れた。
 ハーバの街を大勢の市民が逃げまどう。

 空間にとどこおる粉塵の奥から、邪悪な笑い声が聞こえる・・・。
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