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放たれし災
甦る畏怖
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「失礼します!」
臣下がドアを突き飛ばすように開ける。
ユンフは苛立ったが臣下の慌てた表情を視て、良からぬ事が起きているのだと悟った。
メルクリオ公国の議院では首相のユンフと各省の大臣が軍事会議の真っ最中だ。
隣国のノースキャトルとの国境付近の森に魔物の大群が押し寄せ、討伐作戦を検討している。
「魔物の群れが大都市コノイと繋がる東の平原まで到達しています。
現場に防衛部隊を派遣しましたが、侵攻を止める事ができません・・・」
臣下が差し迫った危機を告げる。
「ミオランデ王国、インバベル公国など数ヵ国が魔物の襲撃に遇い、甚大な被害が発生しています。
これはムンゾが送り出した兵団かと想定していましたが、どうやら違うようです・・・」
「では誰の企みであろうか・・・」
ユンフは顔色を曇らせた。
「分かりません。調査団が調べた情報によれば、ノースキャトルの東に広がる樹海に得体の知らない影が落ち、一本の巨大な木が森に発現したと・・・。
以降、樹海から這い出る怪物が各国を襲っています」
「敵は人間ではなく魔物・・・どのような様態なのだ?」
「形は私達と同じですが、身長がおよそ十メートル。緑や茶色の頑丈な皮膚が有ります」
「魔物の大群がコノイに侵入する前に駆逐できるか?」
大臣達は答えられず沈黙した。
それが問いに対する代弁となった。
静寂が怪物の恐ろしい想像を増長させる。
強い危機感を拭うように、ユンフは意を決して口を開いた。
「数日後には都にも魔の手が及ぶだろう。
市民にこの事実を報せよ。一刻も早く避難するのだ・・・。
私は防衛部隊と共に留まり、陣の指揮を執る」
炎天下で照らされた砂漠。
深い谷の砂地に建つ巌窟神殿。
岩山を掘削して造られた古の遺跡は二千年以上もの歴史を持ち、かつて砂漠の国を治めた王族の亡骸と埋蔵品が眠っていた。
固く閉ざす遺跡の扉の前に、魔術師サタナエルがいる。
「汝を阻む門は在らぬ」
古代語の鍵言葉を囁くと魔術印が発光し、扉が開いた。
通路の両側に鳥や蛇などの石像が並び、平列する数十本の燭台に一つずつ炎が点いてゆく。
暗い密室は蝋燭が放つ薄弱の明かりで満たされた。
低い階段を上がった祭壇に金銀で装飾した大型の棺が安置してある。
死者を納める器の外周に、嘆きの弔文と再生を願う古代文字。
サタナエルが唱える。
「 魔体武装 」
全身から白煙が溢れ出し、煙は包帯のように痩身を包んだ。
包帯が剥がれて微細な塵と化し、中身が露になる。
銀の長髪は痩せた頬の前で揺れ動き、衣装の隙間から肋骨が見え、肩から伸びる腕には血も肉もなく骨だけだ。
サタナエルは悪霊と化した。
室内の中央まで歩み、斜め下へ骸の手を翳す。
足元に正方形の枠が光った。
鋭い棘が生えた茨や交差した三日月、黒い星などの記号が刻まれている。
悪霊の魔力が枠へ伝い、岩石の床が消えた。
真下を貫く縦穴は先が見えないほど深い。
骸の怪物は闇の洞穴に身を投じる。
遺跡の地下空間に着地した。
亡き王と共に眠る数百人の僕達の墓標が、広大な下層部に等間隔で埋められている。
悪霊は掌を地面に向け、邪悪な魔術を流した。
そして彼らに語り出す。
『新たな王が命を授けよう・・・。永久の休息から覚め、不死身の肉体で復活せよ・・・』
墓の立つ地盤がひび割れる。
土砂を掻き分け、灰色の腕が次々と垂直に出た。
頭部、胴体、両足が砂を撒き散らして土の中から続出する。
不死身の怪物〈生屍人〉だ。
姿は人間だが灰色の皮膚に赤や紫の斑点がある。
痩せた肩や腰に汚い麻布を着け、口に生える尖った歯の間から、耳を塞ぎたくなる呻き声が漏れていた。
悪霊が僕に説く。
『我等の敵は世界全土に在り・・・。まずは此の地より北部と南部に赴き、人間の街を墜とすのだ』
巌窟神殿より進出する魔物の群集が砂漠に放たれた・・・。
臣下がドアを突き飛ばすように開ける。
ユンフは苛立ったが臣下の慌てた表情を視て、良からぬ事が起きているのだと悟った。
メルクリオ公国の議院では首相のユンフと各省の大臣が軍事会議の真っ最中だ。
隣国のノースキャトルとの国境付近の森に魔物の大群が押し寄せ、討伐作戦を検討している。
「魔物の群れが大都市コノイと繋がる東の平原まで到達しています。
現場に防衛部隊を派遣しましたが、侵攻を止める事ができません・・・」
臣下が差し迫った危機を告げる。
「ミオランデ王国、インバベル公国など数ヵ国が魔物の襲撃に遇い、甚大な被害が発生しています。
これはムンゾが送り出した兵団かと想定していましたが、どうやら違うようです・・・」
「では誰の企みであろうか・・・」
ユンフは顔色を曇らせた。
「分かりません。調査団が調べた情報によれば、ノースキャトルの東に広がる樹海に得体の知らない影が落ち、一本の巨大な木が森に発現したと・・・。
以降、樹海から這い出る怪物が各国を襲っています」
「敵は人間ではなく魔物・・・どのような様態なのだ?」
「形は私達と同じですが、身長がおよそ十メートル。緑や茶色の頑丈な皮膚が有ります」
「魔物の大群がコノイに侵入する前に駆逐できるか?」
大臣達は答えられず沈黙した。
それが問いに対する代弁となった。
静寂が怪物の恐ろしい想像を増長させる。
強い危機感を拭うように、ユンフは意を決して口を開いた。
「数日後には都にも魔の手が及ぶだろう。
市民にこの事実を報せよ。一刻も早く避難するのだ・・・。
私は防衛部隊と共に留まり、陣の指揮を執る」
炎天下で照らされた砂漠。
深い谷の砂地に建つ巌窟神殿。
岩山を掘削して造られた古の遺跡は二千年以上もの歴史を持ち、かつて砂漠の国を治めた王族の亡骸と埋蔵品が眠っていた。
固く閉ざす遺跡の扉の前に、魔術師サタナエルがいる。
「汝を阻む門は在らぬ」
古代語の鍵言葉を囁くと魔術印が発光し、扉が開いた。
通路の両側に鳥や蛇などの石像が並び、平列する数十本の燭台に一つずつ炎が点いてゆく。
暗い密室は蝋燭が放つ薄弱の明かりで満たされた。
低い階段を上がった祭壇に金銀で装飾した大型の棺が安置してある。
死者を納める器の外周に、嘆きの弔文と再生を願う古代文字。
サタナエルが唱える。
「 魔体武装 」
全身から白煙が溢れ出し、煙は包帯のように痩身を包んだ。
包帯が剥がれて微細な塵と化し、中身が露になる。
銀の長髪は痩せた頬の前で揺れ動き、衣装の隙間から肋骨が見え、肩から伸びる腕には血も肉もなく骨だけだ。
サタナエルは悪霊と化した。
室内の中央まで歩み、斜め下へ骸の手を翳す。
足元に正方形の枠が光った。
鋭い棘が生えた茨や交差した三日月、黒い星などの記号が刻まれている。
悪霊の魔力が枠へ伝い、岩石の床が消えた。
真下を貫く縦穴は先が見えないほど深い。
骸の怪物は闇の洞穴に身を投じる。
遺跡の地下空間に着地した。
亡き王と共に眠る数百人の僕達の墓標が、広大な下層部に等間隔で埋められている。
悪霊は掌を地面に向け、邪悪な魔術を流した。
そして彼らに語り出す。
『新たな王が命を授けよう・・・。永久の休息から覚め、不死身の肉体で復活せよ・・・』
墓の立つ地盤がひび割れる。
土砂を掻き分け、灰色の腕が次々と垂直に出た。
頭部、胴体、両足が砂を撒き散らして土の中から続出する。
不死身の怪物〈生屍人〉だ。
姿は人間だが灰色の皮膚に赤や紫の斑点がある。
痩せた肩や腰に汚い麻布を着け、口に生える尖った歯の間から、耳を塞ぎたくなる呻き声が漏れていた。
悪霊が僕に説く。
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