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放たれし災
潜伏
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ハーバに散乱する破壊された建物の廃材。
戦場に変わった街を白煙が漂う。
護法士の精鋭十五名で構成する特使団と、魔塊セプトゥーが対峙していた。
団を率いるアーツは跳躍して鮮烈な雷を敵に落とす。
空気を切り裂く轟音が鳴り、衝撃の振動が路面に広がった。
その両側で護法士が光の術技〈闇払う清廉の威閃〉を放つ。
魔塊は猛攻を防げず、後方に遠く弾かれた。
『ケケケケッ・・・』
奇異な笑顔を示して独眼の瞳を動かし、辺りの状況を観る。
この戦いは分が悪いと考えたのだろうか、突然、背後に身を転じる。
まだ崩壊していない市街地の方へ飛ぶ。
「逃がすな!追うんだ!」
護法士は脱兎を狙う狼のように駆けてゆく。
セプトゥーは体を液状に変えながら街並みの死角に潜み、追手から逃れた。
家屋の影でじっと隠れ、足音は立てずに居場所を転々とし、追跡者の様子を観察した。
視線の先に一人いる。こちらには気付いていない。
液状に変化した容体が道路の側溝へ侵入する。
護法士の息遣いを聞きながら接近して、手が届く距離まで来た。
体を元の状態に戻す。
「ま、魔塊!!ぐあああぁぁ・・・」
セプトゥーが口を大きく開け、抗う人間を丸ごと呑み込んだ。
ゴクリと喉が鳴る。
三つの口から長い舌が伸びて満足げに唇を舐め回す。
『ケッーケケケ、喰ッタ・・・』
仲間の叫び声を聞いた護法士が迫る。
桜色の怪物は身柄を小さく変え、現在地から早急に離れていった・・・。
街の西側。
大通りに面する市場や駅、その周辺などを捜索する護法士。
教会の隣にある広場に立ち入り、噴水の前を通る。
聖杯を模倣した器が、地下から汲み上げた清らかな水をふんだんに散布していた。
物陰に潜んで移動する魔塊を見逃がさぬように、集中して進む。
ここには居ないか・・・。
広場の隅に生え揃う芝生を歩き、大通りに戻る。
その矢先、微かな音の旋律が響く。
どこからか聞こえる音色。
「何だ?・・・ピアノのような音がする」
護法士は道路の反対側の区間に歌劇場があることを思い出した。
市民は街の郊外へ避難している。もしや逃げ遅れた人がいるのでは・・・。
急いで歌劇場に向かう。
すぐ目の前まで着くと音量が増した。
やはりここから聞こえたのだ。
受付やソファーが置かれた待合室には誰一人いない。
廊下を駆け、旋律が歌う場所を目指す。
広間に入った。
客席が数十列にも渡って並んでいる。
天井の煌びやかなシャンデリアの照明が仄かに舞台上を照らす。
ピアノが一台。
幼い少女が軽快な音楽を演奏していた。
黒い髪が背中まで長く、薄い赤のドレスを装う。
護法士は通路を縦断して舞台に行き、優しく声をかける。
「君、なぜ一人で劇場に?ここは危険だ。私と一緒に安全な所へ避難しよう」
少女が奏でるリズムが変調し、音階は最も低い音まで下がる。
心なしか天井の照明が暗くなり、広間全体の空気は重くなった気がした。
ゆっくりと少女が振り向く。
『安全ナ場所ナンテ、何処ニモ無イヨ・・・』
顔に大きな眼が一つ。
口は顎の付け根まで裂けている。
セプトゥーだ!
少女に化け、ピアノの音色で護法士を誘き寄せたのだ。
黒い髪を乱して少女が襲いかかる。
空中で魔塊の姿に変わった。
護法士は風の術技を発導する。
しかし敵を撃つ寸前で避けられた。
セプトゥーは両手で獲物を捕まえると口を開けて押し入れ、脱出を図る護法士を咀嚼もせず腹に収めた。
邪気の力が上がり、地肌に眩しいほどの光沢と艶が生じる。
『ケケケケッ・・・マタ一人、喰ッタ。力、強クナル・・・』
食後の休息をとる間もなく、歌劇場を出る。
追手の行動を警戒しつつ、港から街の外へ続く幹線道路を越え、雑木林が生い茂る庭園に隠れた。
木々の間に忍び、次の獲物をじっと待つ・・・。
街の東側から来た護法士が庭園の傍を通る。
懸命に魔塊を探すが何処にも見当たらない。
庭園を走り過ぎようとした時、雑木林の中に鮮やかな桜の木が一本あることに気付く。
美しい桃色の花が満開に咲いていた。
護法士は強い邪気を感じ取り、直感的にあれが魔塊だと確信した。
携えた剣を両手で握ると、瞬く間に距離を縮め、桜の木を断つ。
舞い散った華麗な花びら。
赤い渦になって護法士を囲み、息もできないほど体に密着した。
倒された木が浮遊し、幹に出現する独眼と口。
姿がセプトゥーに戻った。左右の腕は無い。
『ケケケッ・・・バレタカ。デモ人間、捕マエタ』
花びらに捕らわれた護法士は身動きがとれず、大きく開いた口の中へ吸い込まれた。
魔塊の腕が肩の断面から生え伸びる。
「見つけたぞ!ここだ!」
追跡者の声。
セプトゥーは庭園から出た。
裏道を低く飛び、何度か角を曲がったあと周囲に濠が巡る古い城塞まで来た。
かつて街を統治した貴族が住んでいたのだが、今は街の歴史を伝える資料館として使われている。
水を湛えた濠にセプトゥーが沈む。
しばらく経ち、二人の護法士が現れた。
魔塊は水の底で状況を窺う。
濠の隅に身を寄せ、水面から顔を潜水艦のように少しだけ上げる。
護法士の位置を確認した。泳いでゆく。
道路と城塞を繋ぐ橋の真下に潜み、護法士が橋の手摺りに近寄った瞬間、セプトゥーが浮上する。
眼前の獲物を捕らえると一口で飲み込んだ。
「うああぁ!!・・ぁぁ・・」
もう一人の護法士が炎の術技を放つ。
魔塊が濠に潜ったため、炎は水面で蒸発した。
セプトゥーは水の中を泳ぎ、どこへ行こうかと模索している。
城塞を支える石垣の角に水道管があった。
体を細め、長いトンネルを逆流してゆく・・・。
戦場に変わった街を白煙が漂う。
護法士の精鋭十五名で構成する特使団と、魔塊セプトゥーが対峙していた。
団を率いるアーツは跳躍して鮮烈な雷を敵に落とす。
空気を切り裂く轟音が鳴り、衝撃の振動が路面に広がった。
その両側で護法士が光の術技〈闇払う清廉の威閃〉を放つ。
魔塊は猛攻を防げず、後方に遠く弾かれた。
『ケケケケッ・・・』
奇異な笑顔を示して独眼の瞳を動かし、辺りの状況を観る。
この戦いは分が悪いと考えたのだろうか、突然、背後に身を転じる。
まだ崩壊していない市街地の方へ飛ぶ。
「逃がすな!追うんだ!」
護法士は脱兎を狙う狼のように駆けてゆく。
セプトゥーは体を液状に変えながら街並みの死角に潜み、追手から逃れた。
家屋の影でじっと隠れ、足音は立てずに居場所を転々とし、追跡者の様子を観察した。
視線の先に一人いる。こちらには気付いていない。
液状に変化した容体が道路の側溝へ侵入する。
護法士の息遣いを聞きながら接近して、手が届く距離まで来た。
体を元の状態に戻す。
「ま、魔塊!!ぐあああぁぁ・・・」
セプトゥーが口を大きく開け、抗う人間を丸ごと呑み込んだ。
ゴクリと喉が鳴る。
三つの口から長い舌が伸びて満足げに唇を舐め回す。
『ケッーケケケ、喰ッタ・・・』
仲間の叫び声を聞いた護法士が迫る。
桜色の怪物は身柄を小さく変え、現在地から早急に離れていった・・・。
街の西側。
大通りに面する市場や駅、その周辺などを捜索する護法士。
教会の隣にある広場に立ち入り、噴水の前を通る。
聖杯を模倣した器が、地下から汲み上げた清らかな水をふんだんに散布していた。
物陰に潜んで移動する魔塊を見逃がさぬように、集中して進む。
ここには居ないか・・・。
広場の隅に生え揃う芝生を歩き、大通りに戻る。
その矢先、微かな音の旋律が響く。
どこからか聞こえる音色。
「何だ?・・・ピアノのような音がする」
護法士は道路の反対側の区間に歌劇場があることを思い出した。
市民は街の郊外へ避難している。もしや逃げ遅れた人がいるのでは・・・。
急いで歌劇場に向かう。
すぐ目の前まで着くと音量が増した。
やはりここから聞こえたのだ。
受付やソファーが置かれた待合室には誰一人いない。
廊下を駆け、旋律が歌う場所を目指す。
広間に入った。
客席が数十列にも渡って並んでいる。
天井の煌びやかなシャンデリアの照明が仄かに舞台上を照らす。
ピアノが一台。
幼い少女が軽快な音楽を演奏していた。
黒い髪が背中まで長く、薄い赤のドレスを装う。
護法士は通路を縦断して舞台に行き、優しく声をかける。
「君、なぜ一人で劇場に?ここは危険だ。私と一緒に安全な所へ避難しよう」
少女が奏でるリズムが変調し、音階は最も低い音まで下がる。
心なしか天井の照明が暗くなり、広間全体の空気は重くなった気がした。
ゆっくりと少女が振り向く。
『安全ナ場所ナンテ、何処ニモ無イヨ・・・』
顔に大きな眼が一つ。
口は顎の付け根まで裂けている。
セプトゥーだ!
少女に化け、ピアノの音色で護法士を誘き寄せたのだ。
黒い髪を乱して少女が襲いかかる。
空中で魔塊の姿に変わった。
護法士は風の術技を発導する。
しかし敵を撃つ寸前で避けられた。
セプトゥーは両手で獲物を捕まえると口を開けて押し入れ、脱出を図る護法士を咀嚼もせず腹に収めた。
邪気の力が上がり、地肌に眩しいほどの光沢と艶が生じる。
『ケケケケッ・・・マタ一人、喰ッタ。力、強クナル・・・』
食後の休息をとる間もなく、歌劇場を出る。
追手の行動を警戒しつつ、港から街の外へ続く幹線道路を越え、雑木林が生い茂る庭園に隠れた。
木々の間に忍び、次の獲物をじっと待つ・・・。
街の東側から来た護法士が庭園の傍を通る。
懸命に魔塊を探すが何処にも見当たらない。
庭園を走り過ぎようとした時、雑木林の中に鮮やかな桜の木が一本あることに気付く。
美しい桃色の花が満開に咲いていた。
護法士は強い邪気を感じ取り、直感的にあれが魔塊だと確信した。
携えた剣を両手で握ると、瞬く間に距離を縮め、桜の木を断つ。
舞い散った華麗な花びら。
赤い渦になって護法士を囲み、息もできないほど体に密着した。
倒された木が浮遊し、幹に出現する独眼と口。
姿がセプトゥーに戻った。左右の腕は無い。
『ケケケッ・・・バレタカ。デモ人間、捕マエタ』
花びらに捕らわれた護法士は身動きがとれず、大きく開いた口の中へ吸い込まれた。
魔塊の腕が肩の断面から生え伸びる。
「見つけたぞ!ここだ!」
追跡者の声。
セプトゥーは庭園から出た。
裏道を低く飛び、何度か角を曲がったあと周囲に濠が巡る古い城塞まで来た。
かつて街を統治した貴族が住んでいたのだが、今は街の歴史を伝える資料館として使われている。
水を湛えた濠にセプトゥーが沈む。
しばらく経ち、二人の護法士が現れた。
魔塊は水の底で状況を窺う。
濠の隅に身を寄せ、水面から顔を潜水艦のように少しだけ上げる。
護法士の位置を確認した。泳いでゆく。
道路と城塞を繋ぐ橋の真下に潜み、護法士が橋の手摺りに近寄った瞬間、セプトゥーが浮上する。
眼前の獲物を捕らえると一口で飲み込んだ。
「うああぁ!!・・ぁぁ・・」
もう一人の護法士が炎の術技を放つ。
魔塊が濠に潜ったため、炎は水面で蒸発した。
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