DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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放たれし災

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 ミオランデ王国南部の街。
 大勢の市民が広場に避難している。

 そこから経路を逆に辿ってゆくと、サタナエルに召喚された無数の生屍人アンデットがいた。

 胸部や腰に古びた麻布を巻き、人間の血を求めて彷徨う。

 護法士と街の保安官達が亡霊の行く手を阻んだ。

 太尉たいいジュナンの号令で護法士が同時に〈鎮守の捕縛リストレント〉を発導する。

 魔法の縄が腕と腹部を頑丈に縛りつけた。
 怪物共は身動きができず、路上に倒れる。
 
 付近に建つ商店の屋上。
 街を見下ろす生屍人アンデット

 護法士のケイヴとカロルは注がれる視線に気付いて振り向く。

 眉間に深くしわを寄せた二体の生屍人がこちらを睨んでいる。
 前傾姿勢になり、猛烈な勢いで襲ってきた。

 片方はケイヴ、もう一方はカロルを狙う。
 鋭く尖った毒の爪を護法士へ突き出す。

 カロルは後ろに移動した。
 怪物はあえなく路面に落下する。

 ケイヴも奇襲を間一髪で避け、生屍人との距離を保ち、互いを牽制するように睨み合う。

「あの二体は他の生屍人とは違うぞ・・・」
 カロルが薄汚れた亡霊を見つめて呟く。

 目の前にいる敵は腕や胸部の筋骨が厚く、動作は機敏だった。悪辣あくらつな唸り声も発せず、背筋を伸ばし、護法士と対峙している。

 生屍人が跳ね、空中から魔手を振り下ろす。

 ケイヴは〈鎮守の捕縛リストレント〉で捕らえようかと考えた。しかし動きが速いため、術技の有効範囲の外に脱出するだろう。 

 身を引き裂こうと伸びる浅黒い拳をなす。

 そして魔物の胴体を剣で斬る。

 道路脇に伏した生屍人はすぐに立ち直り、再度ケイヴに迫る。
 鋭く尖った毒の爪を剣で防いだ。

 横からジュナンが〈真炎球射弾〉を放つ。

 炎の弾丸で標的は燃え、灰煙をくゆらせて後方の道端に倒れた。

 上半身が焼け焦げているが、怪物は何事も無かったかのように起き上がった。

「あれだけ怪我をしているのに、まだ生きている。・・・奴等は不死身なのか?」
 保安官達が驚きと恐怖を示す。

 ケイヴは〈神託の光矢ハルバ・ミナリー〉を撃ち、光のやじりが生屍人の腹部を貫いた。

 体ごと真後ろの建物に突き刺さる。
 怪物は矢を取り除こうと手足を乱雑に動かし、握り締めた両手の拳で壁を叩く。

 時を移さず、ジュナンが捕縛の術技で魔物をかたくなに縛る。

 囚われた不死身の亡者が鎮まることはない。巻き付いた光の輪を破ろうと必死にもがく。

 その力は鋼鉄の鎖でさえ容易に壊すほどだ。
『ガアアアァァ・・ァ・・』

 しばらく暴れていたが魔法の縄を断ち切れず、諦めたように頭と肩がうつむく。
 怪物は腕を震わせ、両手足を垂れ下げた。

 少し離れた場所で、もう一体の生屍人がカロルに襲いかかる。

 護法士は〈戒めの刺雷レイブロス〉を放射した。

 魔物は飛び上がり、雷が残像を通り過ぎる。

 空中から道路に降りた敵を保安官が長銃ライフルで撃つ。
 
 銃弾を俊敏に避ける生屍人。
 そこへカロルが近付き、剣を大きく薙いだ。

 しかし鋼の刃は紙一重でかわされた。       
 怪物が護法士に急接近する。

 剣が空振りしたことにより、カロルは防御の姿勢を構えられず、生屍人が腕に噛みついた。

「ぐああぁぁ!!・・・」 
 苦痛の声を叫ぶ。剣が地面に落ちた。

 ジュナンの〈神託の光矢ハルバ・ミナリー〉が敵の胴体を射抜く。

 動作が鈍った魔物。
 ケイヴは黄金に輝く光のかせで身柄を封じた。

 護法士達が道路にうずくまるカロルの傍に集まった。
 怪物の牙から染み出た毒素が彼の全身を巡る。

 肩に濁った煙が生じ、皮膚は蒼白に変わってゆく。瞳も色を失い、体中に赤や紫の斑点。

 カロルが生屍人に変貌した。
 ジュナンとケイヴを怒りの眼差しで睨む。

 完全に我を忘れ、保安官や仲間の護法士を憎い魔物だと思い込んでいた。

 地面に落ちた剣を拾う。
 銀の刀身が黒く変色し、風のような波紋が沸く。

 カロルの魔法力に闇の性質が帯びた。
 剣を正面に翳す。

 足元から生じた闇の力が体中を覆う。

 剣の黒い刃に周囲の空気が吸収された。生屍人の毒素でカロルが操る術技は、憎しみが満たす邪悪な魔術に変わった。

 翳した剣から漆黒の炎が噴き、火の粉を散らしながら、容赦なく護法士を襲う。

 ジュナンとケイヴは〈防御障壁ぼうぎょしょうへき〉を築く。

 炎は壁に弾かれ、反射した高熱の飛沫が四方に滴る。
 道路は焦げつき、異臭と濃い煙が街に紛れた・・・。

 カロルは火炎の砲撃を続けたが、堅牢な障壁の強度を思い知ったのか、それとも魔法力の消費による疲労だろうか、攻撃を止めた。

 護法士も腕を下ろす。
 輝く壁は収縮して無くなった。
 
 怪物のカロルが駆ける。
 ケイヴに迫り、闇で包まれた剣を振り落とす。

 刃の軌道から身を転じたケイヴは雷の術技を放つ。カロルは後方へ宙返り、雷撃を回避した。

 その背後に忍び寄るジュナン。怪物の背中に掌を添えた。
氷式封監パレン・シルマ
 
 青白い霧が生屍人を内包する。
 霧が固まって、巨大な氷の中に怒りの表情を見せる護法士が納められている。

 透明な青い塊へケイヴが歩み寄る。

「生屍人の毒を除けば、本来の姿と感情を取り戻すはず・・・。治療の術技で毒を浄化しよう。上手くいけば良いのだが・・・」
 
 ケイヴは氷の前で腕を広げた。
療浄天手コンディション

 純白の小さい光源が氷上に灯され、天使の姿に変身してゆく。
 内側から輝きを放ち、背中には四枚の翼。

 その姿を見ているだけで心が爽快な気分になるだろう。
 天使は呪われた患者に舞い降りると、慈悲深く微笑んで抱擁した。

 癒しの手が闇に囚われた護法士を洗浄する。

 冷たい氷の表層が溶け、カロルは醜い魔物から人間に戻った。
 蒼白の体は健康的な肌色に変わり、皮膚の赤い斑点が消えた。

 意識を失った状態の患者を天使が抱え、路上に優しく寝かしつける。

 数分後、カロルが目を覚ました。
「私の事が分かるか?・・・」

 ジュナンの問いかけに、カロルはゆっくりと慎重に答えた。まだ頭の中がぼやけているらしい。

「はい、太尉・・・。すいませんでした・・・。微かな意識はあったのですが、目に映るもの全てに抑えられぬ憎しみを感じていたのです・・・」

 体を起こそうとするが駄目だった。毒の影響で手足は麻痺している。
 保安官が担架で担ぎ、近くの医院へ搬送した。

 護法士達は周辺を見回す。
 捕らえ損ねた生屍人がどこかに潜んでいるかもしれない。
 
 街の情報に詳しい保安官と共に市街地を巡回し、大通りや建物の路地裏、屋上などを余す所なく探した。

 魔物は一体も見つからなかった。
「現在、街は安全だが敵は神出鬼没、警戒を怠らぬように」
 ジュナンが護法士と保安官に告げた。

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