DEAD HEAT ~破魔の護法士~

デジタル・ピテクス

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放たれし災

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 辿り着いた新たな空間には、煌びやかな宝物ほうもつが収蔵されていた。
 
 入口の灯篭とうろう松明たいまつの火を移す。

 金銀の彫刻、絵画や壺、硝子ガラスの仮面、古代の歴史が記された石版などに目を配りつつ、広間の中ほどまで移動した。

 そこには台座が置かれ、正方形に加工されたダイヤモンドの首飾りかある。
 
 五人の目が操られたように首飾りを同時に見据える。

 急に視野が狭まり、魅力的な宝石の声なき誘惑が心を満たす。
 ダイヤモンドに手が伸びる。

 手に入れたい、誰にも渡したくない。
 どれだけ野蛮な手段を使っても、これは自分の物・・・。
 
 護法士達は所持する武器を互いに突きつけた。
 美しい宝を奪おうとする独占欲で掌握された感情。

 ただ一人だけ冷静なクレイグは剣を掲げる。

 刃がダイヤモンドを分断した。

 炭素の結晶から漏れた魔性の黒煙。

 煙が消えると護法士達は宝石に対する下劣な熱望を無くした。
 意識が正常に戻る。

 ダイヤモンドは価値の無いくずに変わった。

「すまん・・・あの首飾りに心を操られていた。サタナエルの魔術か・・・」

「私もだ。激しい執着心に囚われていた。魔術の防御には自信があったのだが・・・」

 レビエ、オスカー、リュッセ、ワズホは緩んだ気持ちを引き締めた。

 魔塊の罠に警戒して広間を端まで歩む。

 ここにもサタナエルの姿は無く、次の場所へ繋がる扉や戸口も見当たらない。

 突然、ガタガタと何かが揺れる音が聞こえた。 
 
 壁の隅に立て掛けられた七枚の鏡が、全体に覆い被さる布を払って浮き、護法士の上空で整列する。

 錆び付いて汚れた鏡。中央の一枚にぼんやりと顔が映し出された。

 狐のような丸みを帯びた鼻、頭には縦長のかんむりを乗せている。

『主は命じた・・・。狡猾で醜い盗賊から宝を守れと。今こそ、与えられた使命を果たそうではないか』

 中央の鏡を除く六枚が輝いた。
 それぞれの表面が波打って膨らむ。

 先端が前方に伸び、五本の指に分かれて銀色の腕となった。

 鏡に生えた腕の群集が、猛烈な速度で盗賊とみなした人間達を襲う。
 銀の拳が床を連打した。

 鏡は腕を引き上げ、盗賊を狙いすまして再び拳骨を振り下ろす。

 クレイグは反撃に転じる。

 薙いだ剣が銀の腕に触れた時、鏡から衝撃波が発生して後方へ吹き飛ばされた。

 オスカーとレビエが〈上級斬気流エルティ・シーフ〉と〈救世主降臨プリシス・ラウド〉を放つ。

 二本の腕に命中したものの、術技は護法士へ返された。

 レビエは〈防御障壁ぼうぎょしょうへき〉で防ぎ、オスカーは横に跳ねて回避した。

 宝物ほうもつ庫を守護する七枚の鏡。
 その能力はあらゆる属性の攻撃を反射する。 

 剣や槍の打撃や斬撃でさえ、魔法力の状態を維持したまま撥ね返すのだった。

 盗賊に殴りかかる銀の拳。

 五人は術技を使わず、剣で防御しながら何度も避け続けた。

「術技も剣による攻撃も効かない・・・。おそらく〈療浄天手コンディション〉を発導しても効果はないだろう。反射の呪文を消すことも不可能だ・・・」

 そう言ったリュッセの険しい表情が鏡に写る。

「術技を一点に集中させたら、破壊できるんじゃないか?」

「オスカー、それは危険だ。もしもそのままの威力で反発してきたら、防御障壁でも防ぎきれないだろう・・・」
 クレイグが告げる。

みんな、敵をよく観るんだ。攻撃を反射するのは鏡の表面だけ。背後は無防備だ」
 レビエが鏡の動きと性質を的確に分析した。

 敵の裏に素早く回り込んで跳ぶ。
 自分の体ほどもある煌めく板を両手で抱え、床には降下する。

 鏡は銀の腕を伸ばして床との距離を保つ。

 そこへオスカーが加勢し、二人で押しつけた。

 バリィィィィン!!
 鏡面は細かく割れ、破片が辺りに散る。

 粗い石畳に張り付く金属の板。二度と浮上することはなかった・・・。

 護法士達が鏡を次々と落としてゆく。
 抗う銀の腕は術技を撥ね返す力はあるが、敵を攻撃する能力は乏しい。
 
 七枚は最後の一つとなった。

『主の宝を狙う盗賊に敗北するとは・・・無念。課された使命を果たせないならば、私が存在する理由は何であろうか・・・。主よ、誠に申し訳ございません』
 鏡に映る人物が嘆いた。
 
 表面に小さいひびが刻まれ、数本の歪な線が縦横に走る。

 線は深くなり、内側から打たれたように弾けた。

 灯籠とうろうの明かりを反射する残骸。鮮やかに床へ没落した・・・。

 鏡を退けた五人は広間を進み、次の場所に繋がる扉を探す。

 天井の片隅に掌の模様が描かれていると気づいた。
 それは武者石像と戦った広間の壁にも刻まれていた印。

 感覚を天井の裏に集める。
 神殿の支配者がもたらす猟奇的な魔力を感じた。

「あれが扉だ。間違いない・・・」

 クレイグは天井に飛び、印が描かれた部分を何度か押してみたが、頑丈に進路を閉ざしている。
 光の術技で岩板を貫く。

 その上に長いトンネルが垂直に伸びていた。

 護法士は一列で縦穴を遡上する。
 神殿の外観からは想像もできないほど長い。

 やがてトンネルの出口を抜けた。

 到着した場所は真夜中のように暗く、幾つかの燭台しょくだいが宙に舞い、蝋燭ろうそくが怪しく光る薄い炎を灯していた。

 広間の奥に岩石の祭壇と大理石の椅子。
 体長二メートルなかばもあろう魔塊が鎮座していた。

 黒いマントを肩に纏い、痩せた顔の両側を覆う白銀の長髪が不気味に揺れている。 

 衣装の隙間から見える腹部や腕は血も肉も無く、灰色の骨だけだ。

「奴が・・・サタナエル」
 リュッセが呟く。

 むくろの悪霊と五人の眼差しが静かに衝突した・・・。

 サタナエルは前方に身を乗り出す。

『我がしもべ、ソルネヘブ、アメンヘブ、鏡の守衛が警告を与えたにも関わらず、この最上部まで侵入してくるなど、自ら死の谷へ身を投じるような愚行・・・。
 愚かさを後悔する前に此処ここから去れ。脆弱な人間の住みに戻り、生屍人アンデットに侵される末路を嘆くがいい・・・』

 サタナエルが通告する。
 だが相手の意志は断固として変わらない。

 クレイグは剣の切先を敵へ向ける。
 レビエ、リュッセ、オスカー、ワズホも戦闘に備えた。

 護法士と悪霊の視線が更に強く交錯した。

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