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15話
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「あ、そうそう。リシア。キミには今日からオレの下で生活してもらう事になったからよろしく!」
「……へ?」
ヴィリス王子の突然の宣告を受けて、私の口から間の抜けた声が漏れ出てしまった。
あれからしばらくして私は呼び出され、話し合いを終えたお父様たちによる今後についての大まかな説明が終わったタイミングでだ。
没落したとはいえランドロールは元公爵家だ。それなりのお金やコネクションもある。
だからこそずっとという訳にはいかないモノの、王国側に今後の仕事や生活の支援をしてもらえることになったらしい。
具体的には今王国が進めている新領地の開拓に参加するというものらしいが、どうやら私は違うらしい。
「あの、それってどういう……」
「そのまんまの意味さ。キミはこれからオレの管理下に入ってもらうってこと」
「え、あ……お父様?」
「すまない、リシア。王子殿下が是非にと仰ってな……」
……なるほど。恐らくこれは交換条件のようなモノだろう。
自惚れるわけではないが、現時点でこちらの中で一番価値がある人間は間違いなく私だ。
要の巫女としての知名度と力を持つ女。
没落貴族の娘だとしても、他の人達とは違った使い道があるはずだ。
お父様としては反対したかったのだろうけれど、今の立場上強くは出られない。
仕方ないか。ここで辺に抵抗しても時間の無駄でしかない。
「……分かりました。よろしくお願いいたします、ヴィリス王子」
「おっと、随分と物分かりが良いね。少しくらいは嫌がられると思っていたんだけど」
「嫌がるなんてとんでもありません。謹んでお受けいたします」
「うーん、まだまだお堅い感じは抜けそうにないな。ま、いっか。とりあえずこれからよろしく! 準備が出来たらオレの部屋に来てくれ」
「はい、分かりました」
相変わらずの軽いノリで手を振って去っていくヴィリス王子。
私としてはああいうタイプの男性と話す機会があまりなかったので新鮮ではあるが、今後従者として働く中で波長を合わせられるか少し不安ではある。
まあ、同じ王子でもどこぞの男とは全く違うタイプだから余計な事は考えずに済むかもしれないな。
「すまぬな、要の巫女殿。ヴィリスの奴がどうしても巫女殿を近くに置きたいとうるさくてな」
「陛下、いえ、謝られることは……」
「ヴィリスがあれほど他人に興味を示すのは珍しいのだが、まあ悪い奴ではない。不安も多かろうが、一つよろしく頼むよ」
「は、はい。ありがとうございます」
戸惑いを隠しきれていない私を見かねてか、アガレス王国の国王陛下が私に声をかけてくださった。
どうやら私がヴィリス王子の管理下に置かれることは彼の強い希望によるものだけだったらしい。
彼の気まぐれ次第ではあるが、今すぐ何かに利用されるということはなさそうで少しほっとした。
そして老齢ではあるが、王たる迫力と聡明さを持ち合わせたアガレス王。
蓄えた白髭と鋭い目つきからも貫録を感じさせるが、実際は温厚な性格をされている。
ディグランス王国の理不尽で全てを失った私たちを受け入れてくださったのも、ひとえにその寛大さゆえだろう。
「リシア、この後は――」
「準備をして、ヴィリス王子の下へ向かいます。では、失礼いたします」
「あ、ああ……」
少し、冷たかったかな。
そんな事を思いながら、私は貸し与えられた部屋へと戻っていく。
お父様が私を売った、とは思わないけれど、今は胸のざわめきを抑えるので手いっぱいだ。
思ったより早い、いや、早すぎる再会だったな。
これから先彼と関わる事で恐らく何か大きなことが起きて、私はそれに巻き込まれる。
そんな根拠のない勘が働くものの、退屈はしない日々を送れそうだという期待も高める私もいた。
「……へ?」
ヴィリス王子の突然の宣告を受けて、私の口から間の抜けた声が漏れ出てしまった。
あれからしばらくして私は呼び出され、話し合いを終えたお父様たちによる今後についての大まかな説明が終わったタイミングでだ。
没落したとはいえランドロールは元公爵家だ。それなりのお金やコネクションもある。
だからこそずっとという訳にはいかないモノの、王国側に今後の仕事や生活の支援をしてもらえることになったらしい。
具体的には今王国が進めている新領地の開拓に参加するというものらしいが、どうやら私は違うらしい。
「あの、それってどういう……」
「そのまんまの意味さ。キミはこれからオレの管理下に入ってもらうってこと」
「え、あ……お父様?」
「すまない、リシア。王子殿下が是非にと仰ってな……」
……なるほど。恐らくこれは交換条件のようなモノだろう。
自惚れるわけではないが、現時点でこちらの中で一番価値がある人間は間違いなく私だ。
要の巫女としての知名度と力を持つ女。
没落貴族の娘だとしても、他の人達とは違った使い道があるはずだ。
お父様としては反対したかったのだろうけれど、今の立場上強くは出られない。
仕方ないか。ここで辺に抵抗しても時間の無駄でしかない。
「……分かりました。よろしくお願いいたします、ヴィリス王子」
「おっと、随分と物分かりが良いね。少しくらいは嫌がられると思っていたんだけど」
「嫌がるなんてとんでもありません。謹んでお受けいたします」
「うーん、まだまだお堅い感じは抜けそうにないな。ま、いっか。とりあえずこれからよろしく! 準備が出来たらオレの部屋に来てくれ」
「はい、分かりました」
相変わらずの軽いノリで手を振って去っていくヴィリス王子。
私としてはああいうタイプの男性と話す機会があまりなかったので新鮮ではあるが、今後従者として働く中で波長を合わせられるか少し不安ではある。
まあ、同じ王子でもどこぞの男とは全く違うタイプだから余計な事は考えずに済むかもしれないな。
「すまぬな、要の巫女殿。ヴィリスの奴がどうしても巫女殿を近くに置きたいとうるさくてな」
「陛下、いえ、謝られることは……」
「ヴィリスがあれほど他人に興味を示すのは珍しいのだが、まあ悪い奴ではない。不安も多かろうが、一つよろしく頼むよ」
「は、はい。ありがとうございます」
戸惑いを隠しきれていない私を見かねてか、アガレス王国の国王陛下が私に声をかけてくださった。
どうやら私がヴィリス王子の管理下に置かれることは彼の強い希望によるものだけだったらしい。
彼の気まぐれ次第ではあるが、今すぐ何かに利用されるということはなさそうで少しほっとした。
そして老齢ではあるが、王たる迫力と聡明さを持ち合わせたアガレス王。
蓄えた白髭と鋭い目つきからも貫録を感じさせるが、実際は温厚な性格をされている。
ディグランス王国の理不尽で全てを失った私たちを受け入れてくださったのも、ひとえにその寛大さゆえだろう。
「リシア、この後は――」
「準備をして、ヴィリス王子の下へ向かいます。では、失礼いたします」
「あ、ああ……」
少し、冷たかったかな。
そんな事を思いながら、私は貸し与えられた部屋へと戻っていく。
お父様が私を売った、とは思わないけれど、今は胸のざわめきを抑えるので手いっぱいだ。
思ったより早い、いや、早すぎる再会だったな。
これから先彼と関わる事で恐らく何か大きなことが起きて、私はそれに巻き込まれる。
そんな根拠のない勘が働くものの、退屈はしない日々を送れそうだという期待も高める私もいた。
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