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16話
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「精霊炉はシェリルさんしか作れない……つまりこの素晴らしい魔導具を一般的に広めることはまだ難しい、と言うわけですか」
「そうなんです。一応作り方というか、どういう仕組みで出来ているのかはある程度まとめられたんですけど、それを再現できる人がいなくて……」
そう。これが今一番私の頭を悩ませている問題だ。
魔導具に関しては正直アイデアさえあれば誰でも似たようなものを作ることはできるだろう。
しかしそれを動かすエネルギー源である精霊炉が作れなければ、それはただのおもちゃに過ぎない。
私の魔導具を平民貴族問わず幅広い人が自由に扱える世界を目指す上で、精霊炉はより簡単に大量生産できるようにしなければならない。
だから私の現在の研究は「精霊炉を作る装置」を生み出す方向へとシフトしていた。
「えっとその、もしよろしければなんですが。その精霊炉を作っているところとかって見せてもらうことはできますか?」
「作っているところ、ですか? ええ、それは構いませんが……」
「是非お願いします!」
私がそう言うと、ライトハルト殿下は出会った時と同じように目をキラキラと輝かせて私に期待の視線を向けてくる。
精霊炉を作るところか……一応みだりに無関係者へ見せてはならないと言う形にはなっているが、王族である殿下ならまあ大丈夫だろう。
一応私が精霊炉を作る工程は魔導王と名高い国王陛下と王立魔導研究所の研究員にしか見せたことはない。
私なりに作り方のイメージを伝えながら再現してもらおうと努力したのだが、陛下を含めて完璧な精霊炉を作れた人はいない。
だから殿下に見せたところで……とは正直思っているが、それは口には出さないでおく。
私は早速引き出しから一つの拳大の石を取り出した。
それはなんて事ないただの石。
魔力的な効果など何も持たないただの石ころだが、それが精霊炉の触媒となる。
「よく見ていてください。これなるは魔導の原点。全ての魔法の根源となる精霊の創造に等しい儀式です」
「はい……」
「其れは魔法の代行者。与えられた魔力を変換し、あらゆる魔法に変換する己の写し身。さあ行きますよ。精霊炉ーー生成!」
私は手のひらに載せた石に意識を集中させ、精霊炉の生成に取り掛かる。
今よりこのなんでもないただの石ころは魔法使いとなる。
ただし与えられた分の魔力で魔導具に注文された魔法を行使するだけの存在ではあるが。
そのイメージを魔力とともにこの石ころに押し付け、定着させる。
すると灰色だった表面が徐々に薄くなり、透明の結晶へと変化していった。
「……出来ました。簡易的なものではありますが、これが私が作り出した魔導具専用の万能エネルギー源、精霊炉です」
そう言って私は出来上がった結晶を殿下へと手渡す。
これは生成の際に込めた魔力を使い切って仕舞えばその時点でもう二度と使えない消耗品。
もっと優れた素材を使って丁寧に生成すれば、定期的に魔力を補充する事で何度でも使える耐久消費財となる。
「これが精霊炉……ふむふむ、なるほど。ただの魔力貯蔵庫ではなく、特定の魔法を行使する力を秘めた石、ですか。あの魔道具の根本的な部分はこうなっていたのか……」
魔力は、そのままでは魔法に使えるエネルギーにはならない。
だから魔法使いは体内で魔力を燃やして"魔法が使える状態"のエネルギーに変換する。
この精霊炉はそれを再現して、魔導具が魔法を発動させるためのエネルギーを生み出すことができるという訳だ。
仕組み自体はそう難しいものではないんだけど、魔力を蓄え、必要に応じて燃やしエネルギーを生成すると言う仕組みを他のものに与えるというのがどうにも私以外には難しい技術らしい。
かくいう私自身も想像でやってみたら出来てしまったと言うのが始まりだったので仕方ないところはあるけれど……
「つまりはこの石を自分の体の中と同じような状態にしている訳か……」
先ほどから殿下は精霊炉を様々な視点から眺め分析し、ブツブツと独り言を呟いている。
もしかして何かが掴めてしまったのだろうか?
いや、そんなはずはない。
なにしろあの魔導王ですら匙を投げたのだから、魔法があまり得意ではない殿下には難しい話だろう。
そう思っていたのだけど……
「すみませんシェリルさん。さっきの石、もう一個ありませんか?」
「えっ……? ありますけど、一体何にお使いになるんですか?」
「これ、もしかしたら僕でも再現できるかもしれないなって思ったので。試してみたいなぁって」
「……そうですか。ではこれを」
引き出しからもう一個石を取り出し、殿下に手渡した。
絶対に無理だ。出来るはずがない。
私はそう確信していたのに、殿下は何故か自信満々でそれを受け取った。
そして殿下は私と同じように手のひらに載せた石へと深く集中する。
「……っ!? うそ……まさか!!」
すると、あろうことか石が徐々に透明な物体へと変化していくではないか。
ありえない。偶然似たような形に変化しただけに違いない。
そう否定したくても、私の頭がそれを否定している。
あれは間違いなく……
「……よし! シェリルさん! どうですか! これ、再現できてますか?」
「これは……ちょっとお待ちください殿下」
私は慌てて引き出しを漁り、灯を照らす魔導具を一つ取り出した。
これは精霊炉が正しく機能するかを試す試験機であり、本物の精霊炉ならこれに繋ぐことで光が灯る。
私は殿下から精霊炉(?)を受け取り、それに接続した。
「うそ…‥光ってる……」
答えは出た。
薄暗い部屋で一際強い光を放つそれは、殿下が作り出したものが紛れもない本物の精霊炉であることを証明していた。
「殿下がお作りになったこれは間違いなく精霊炉です。でも一体どうやって……?」
「実はリディア姉様から貰ったシェリルさんの魔導具を僕なりにずっと研究してみていたんです。それである程度の仕組みは理解できたので、もしかしたら出来るかなって思って……」
私の魔導具を分析して理解し、再現した。
その事実に私はひどく衝撃を受けた。
それはつまり、現状私の頭の中にある世界を理解できる唯一の人と言うことだからだ。
気付けば私は殿下の両手を取り、強く握り締めていた。
「殿下! 是非私の研究に力を貸してください! 私にはあなたが必要なんです!」
「え、えええええっ!!」
思わず抱きしめてしまいたくなるほど、私は興奮してしまった。
「そうなんです。一応作り方というか、どういう仕組みで出来ているのかはある程度まとめられたんですけど、それを再現できる人がいなくて……」
そう。これが今一番私の頭を悩ませている問題だ。
魔導具に関しては正直アイデアさえあれば誰でも似たようなものを作ることはできるだろう。
しかしそれを動かすエネルギー源である精霊炉が作れなければ、それはただのおもちゃに過ぎない。
私の魔導具を平民貴族問わず幅広い人が自由に扱える世界を目指す上で、精霊炉はより簡単に大量生産できるようにしなければならない。
だから私の現在の研究は「精霊炉を作る装置」を生み出す方向へとシフトしていた。
「えっとその、もしよろしければなんですが。その精霊炉を作っているところとかって見せてもらうことはできますか?」
「作っているところ、ですか? ええ、それは構いませんが……」
「是非お願いします!」
私がそう言うと、ライトハルト殿下は出会った時と同じように目をキラキラと輝かせて私に期待の視線を向けてくる。
精霊炉を作るところか……一応みだりに無関係者へ見せてはならないと言う形にはなっているが、王族である殿下ならまあ大丈夫だろう。
一応私が精霊炉を作る工程は魔導王と名高い国王陛下と王立魔導研究所の研究員にしか見せたことはない。
私なりに作り方のイメージを伝えながら再現してもらおうと努力したのだが、陛下を含めて完璧な精霊炉を作れた人はいない。
だから殿下に見せたところで……とは正直思っているが、それは口には出さないでおく。
私は早速引き出しから一つの拳大の石を取り出した。
それはなんて事ないただの石。
魔力的な効果など何も持たないただの石ころだが、それが精霊炉の触媒となる。
「よく見ていてください。これなるは魔導の原点。全ての魔法の根源となる精霊の創造に等しい儀式です」
「はい……」
「其れは魔法の代行者。与えられた魔力を変換し、あらゆる魔法に変換する己の写し身。さあ行きますよ。精霊炉ーー生成!」
私は手のひらに載せた石に意識を集中させ、精霊炉の生成に取り掛かる。
今よりこのなんでもないただの石ころは魔法使いとなる。
ただし与えられた分の魔力で魔導具に注文された魔法を行使するだけの存在ではあるが。
そのイメージを魔力とともにこの石ころに押し付け、定着させる。
すると灰色だった表面が徐々に薄くなり、透明の結晶へと変化していった。
「……出来ました。簡易的なものではありますが、これが私が作り出した魔導具専用の万能エネルギー源、精霊炉です」
そう言って私は出来上がった結晶を殿下へと手渡す。
これは生成の際に込めた魔力を使い切って仕舞えばその時点でもう二度と使えない消耗品。
もっと優れた素材を使って丁寧に生成すれば、定期的に魔力を補充する事で何度でも使える耐久消費財となる。
「これが精霊炉……ふむふむ、なるほど。ただの魔力貯蔵庫ではなく、特定の魔法を行使する力を秘めた石、ですか。あの魔道具の根本的な部分はこうなっていたのか……」
魔力は、そのままでは魔法に使えるエネルギーにはならない。
だから魔法使いは体内で魔力を燃やして"魔法が使える状態"のエネルギーに変換する。
この精霊炉はそれを再現して、魔導具が魔法を発動させるためのエネルギーを生み出すことができるという訳だ。
仕組み自体はそう難しいものではないんだけど、魔力を蓄え、必要に応じて燃やしエネルギーを生成すると言う仕組みを他のものに与えるというのがどうにも私以外には難しい技術らしい。
かくいう私自身も想像でやってみたら出来てしまったと言うのが始まりだったので仕方ないところはあるけれど……
「つまりはこの石を自分の体の中と同じような状態にしている訳か……」
先ほどから殿下は精霊炉を様々な視点から眺め分析し、ブツブツと独り言を呟いている。
もしかして何かが掴めてしまったのだろうか?
いや、そんなはずはない。
なにしろあの魔導王ですら匙を投げたのだから、魔法があまり得意ではない殿下には難しい話だろう。
そう思っていたのだけど……
「すみませんシェリルさん。さっきの石、もう一個ありませんか?」
「えっ……? ありますけど、一体何にお使いになるんですか?」
「これ、もしかしたら僕でも再現できるかもしれないなって思ったので。試してみたいなぁって」
「……そうですか。ではこれを」
引き出しからもう一個石を取り出し、殿下に手渡した。
絶対に無理だ。出来るはずがない。
私はそう確信していたのに、殿下は何故か自信満々でそれを受け取った。
そして殿下は私と同じように手のひらに載せた石へと深く集中する。
「……っ!? うそ……まさか!!」
すると、あろうことか石が徐々に透明な物体へと変化していくではないか。
ありえない。偶然似たような形に変化しただけに違いない。
そう否定したくても、私の頭がそれを否定している。
あれは間違いなく……
「……よし! シェリルさん! どうですか! これ、再現できてますか?」
「これは……ちょっとお待ちください殿下」
私は慌てて引き出しを漁り、灯を照らす魔導具を一つ取り出した。
これは精霊炉が正しく機能するかを試す試験機であり、本物の精霊炉ならこれに繋ぐことで光が灯る。
私は殿下から精霊炉(?)を受け取り、それに接続した。
「うそ…‥光ってる……」
答えは出た。
薄暗い部屋で一際強い光を放つそれは、殿下が作り出したものが紛れもない本物の精霊炉であることを証明していた。
「殿下がお作りになったこれは間違いなく精霊炉です。でも一体どうやって……?」
「実はリディア姉様から貰ったシェリルさんの魔導具を僕なりにずっと研究してみていたんです。それである程度の仕組みは理解できたので、もしかしたら出来るかなって思って……」
私の魔導具を分析して理解し、再現した。
その事実に私はひどく衝撃を受けた。
それはつまり、現状私の頭の中にある世界を理解できる唯一の人と言うことだからだ。
気付けば私は殿下の両手を取り、強く握り締めていた。
「殿下! 是非私の研究に力を貸してください! 私にはあなたが必要なんです!」
「え、えええええっ!!」
思わず抱きしめてしまいたくなるほど、私は興奮してしまった。
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