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第一章 誕生
動き出す足音 幸せな時間
しおりを挟む「神の子だ!」
「神の子が産まれたぞ!」
各町では、神々の子が産まれた事でお祭り騒ぎとなっていた。
ある町では、赤ん坊が泣き声を上げると、大きな風が巻き起こり、とある町では、空に光の亀裂を巻き起こした。
別の町では、赤ん坊が泣くと熱湯すらも凍らせ、大きな町では、土を盛り上がらせ、時に大地を揺らした。
ギンフォン国中、人々は少ない酒を懸命にかき集め、笑って酒を飲み、踊り、神々の子の親たちは赤ん坊を大切そうに抱いていた。
だが、彼らの下に「大変だ!」予期せぬ知らせが訪れる事で、祭りは一時中断された。闇の子が誕生した知らせを受けたのだ。それを聞いた瞬間、歓喜に満ちあふれていた彼らの顔は、まるで時が止まったかのように、硬直したのだった。
ギンフォン国の南に位置するミウンタと呼ばれる小さな町。そこで炎の神の力を持った闇の子が誕生し、隣町のカントリーと呼ばれる町で水の力を持った灰の子が誕生した。
神々の子の誕生を祝っていた町の人々のリーダーは「ミウンタとカントリーに行こう」と、それぞれ数人の仲間を引き連れ、闇と灰の子が産まれた町へ向かう準備を開始したのだった。それは、灰の子へ祝福の声を届けるため、そして、闇の子の、今後の行く末を話し合うためでもあった。
大きな島国のギンフォン国は、20もの町がある。
各々の町は大きく、人々の人数も多い。各町の中に、タウンと呼ばれる地がいくつも存在し、タウンを仕切るリーダーが一人、町全体を見るリーダーが一人と言うふうに各町やタウンで代表が決められている。
灰の子が誕生したのは、カントリーと言う町の中のコンハタウンと呼ばれる場所だった。町の中でもカントリーはタウンを三つしか持たない小さな町だ。
闇の子が産まれたのは、ミウンタと呼ばれる、カントリーの隣に存在する町である。そして、それはミウンタのバッハタウンと言う場所だった。ミウンタは五つのタウンを持ち、カントリーよりも広い町であるが、ギンフォン国の中では比較的小さな町として知られている。
ギンフォン国、20の町の内、カントリー町とミウンタ町を除いた代表18名と、神々の子が産まれたタウンのリーダー4人が、ミウンタとカントリーに向け、一斉に町を出た。
彼らが最初に向かった先は、灰の子が産まれたカントリー町のコンハタウン。
灰の子を産んだ女性の夫、カイム・ラリーは、胸騒ぎを覚えているかのように、落ち着かない面持ちを見せていた。
カイムは、灰の子を抱く妻のラリー・ラムと目を合わせ「皆、集まる」と口にし、これから起こる事に覚悟を決めたかのようだった。
灰の子を産んだ妻、ラム・ラリーは、やわらかそうな布に包まれた赤ん坊を抱き、不安そうに夫の顔を見上げていた。
祝福されていた空気が一変し、ギンフォン国中の人々が慌ただしく動き出した事への不安を隠せないでいる夫婦は、彼らの到着を待つ事しか出来なかった。
「ラム、おまえは心配しなくてもいい。その子の事だけ考えろ」
不安そうに見上げた妻に、優しい言葉をかける夫の顔は、彼女が安心するほど清らかなものだった。
「名前」
夫のカイムは彼女のベッドに腰掛け、赤ん坊の顔をのぞき込み、つぶやいた。
「え……」
ラムは、小さく声を漏らしたが、その後、すぐに「ずっと前に決めたでしょ」と赤ん坊を見てほほ笑んだ。
「女の子だったらリン、男の子だったら……」
彼女が優しい声を出して話す中、カイムもまた笑顔になり「シエル」と言った。どんな状況であったとしても、わが子の誕生はこの上なくうれしく、幸せなものだ。
「シエル、この子の名はシエル・ラリーだ」
ラムの肩に手を回したカイムは、妻とともに赤ん坊の顔を見ながら口にする。
「キャ! キャ!」
赤ん坊ら手足をばたつかせ、うれしそうに声を上げた。
シエルと名付けられた灰の子は、両親に笑顔を向けた。
「シエルは、ギンフォン国を潤わせる子だ」
カイムは、期待や希望に込めたような瞳でシエルを見る。
水不足が深刻化するギンフォン国にとって、神の水の力を持つシエルの誕生は大きな意味があるのだ。
「今はゆっくり休んで。明日は忙しくなる」
カイムは疲れたであろう妻に声をかけ、シエルを優しく抱き上げ、前から用意していた赤ん坊が寝られる小さな箱に、シエルをそっと下ろした。
やわらかな布に包まれた赤ん坊のベッドは、夫婦の寝るベッドのすぐ横に配置されている。
町の代表たちがカントリーに到着するのは明日になるだろう。
「シエルは俺が見てるよ」
出産を終えてから休む事もなく起き続けていたラムは、カイムの一声で、安心したように目を閉じた。それを見たカイムは、ゆっくりと立ち上がり、ベッドから、少し、離れた所にあるテーブルへ歩いて行き、静かに椅子に腰掛ける。
赤ん坊は静かでどうやら眠っているようだ。
落ち着かないのか、テーブルと赤ん坊の ベッドへ行ったり来たりし始めたカイム。少し物音がするとすぐに赤ん坊を見に、ベッドの所まで歩いていた。
我が子の寝顔を見るとうれしそうにほほ笑み、またテーブルまで歩いて行き、椅子に腰掛ける。いつもの日常を送ろうと椅子に座ったはいいものの、赤ん坊が気になって仕方がないようだ。
ラムは赤ん坊とともに寝息を立て、カイムは落ち着かない様子で、少し物音がするだけで赤ん坊を心配そうに見に行っていた。
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