ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 真実を追いかけて

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 あたし、ぎくしゃく、ロボットみたい。

 右手を右足を同時に出して、山門をくぐると、中には日本庭園が広がってた。


 足元にしきつめられているのは玉砂利。石灯篭や、竹のシーソーみたいな、ししおどしまである。

 だけど、そのまわりで刈り込まれた葉っぱをよく見たら、ヨウちゃんちのお庭に植わっている葉っぱに似てた。


「……もしかして、ここにあるのって、ぜんぶハーブですか……?」


「そうですよ。地植えがほとんどなのでね。冬は葉の枯れているものばかりですけどね。ほら、この一帯が、レモンバームね。レモンバームは葉っぱが黄色くなってしまうけど、なんとか枯れないでがんばっているわね」


 涙がこみあげてきた。

 足元におい茂っているのは、ヨウちゃんちで何度も見た、ギザギザの葉っぱ。シソの葉っぱのミニチュア版みたい。


「あの……この葉っぱをわけてください」


「どうぞ」


 橋本さんがほほえんだ。


「葉っぱがぜんぶなくなってしまっても、根や茎さえのこっていれば、春にまた新しい葉がたくさん出てくるんですよ。でもあなた、ハーブティーか何かで葉っぱをつかうのなら、新しい緑の葉のほうがいいんじゃないかしら? 春までは待てないのよね?」


「はい……今すぐじゃなきゃ、ダメなんです」


「わかりました。どんな事情があるのか知らないけど。どうぞ。好きなだけ持っていって」


「ありがとうございますっ!」


 橋本さんが園芸バサミを取りにいってくれている間に。あたしは、レモンバームの前にしゃがみこんだ。

 指先でふれると、つんとレモンみたいな青いにおいがする。


「レモンバームさん、お願い。ヨウちゃんの傷を治す薬になって」


 あたしの呼びかけに答えるみたいに、レモンバームの葉っぱの表面が、ふわっと虹色にかがやいた。


 オーロラみたい。

 虹色は、何事もなかったかのように、またすうっと葉っぱの中に消えていく。

 これ、あたしのフェアリー・ドクターの力。

 あたしとヨウちゃんは、去年の九月、フェアリー・ドクターになるための洗礼を受けた。

 妖精は自然の一部みたいなもの。だから、自然と自分の間の隔たりをなくすために、洗礼を受ける。そうして、自分も自然の一部だってことを、体に思い出させる。

 で、自然と一体になったら、やっと妖精との隔たりもなくなって、妖精を助けたり、妖精から、身を守ったりする薬をつくれるようになるんだって。


「はい。このハサミをつかって」


 お茶室みたいな和室の障子が開いて、橋本さんが縁側からおりてきた。


 ハサミを借りて。あたしはレモンバームの葉っぱをチョキチョキ。

 ナイロン袋をもらって、そこに葉っぱをつめこんで。


「ありがとうございましたっ!」


「いいえ。お役に立ててよかったですよ」


 にっこりと、目じりをさげる橋本さん。


 ぺこぺこ、ぺこぺこ。五回も十回も頭をさげて。あたしはまた、山門をくぐって外に出た。



 ヨウちゃん!


 ヨウちゃんっ!!


 これで傷を治せるよっ!!



 歩いていた足が、早歩きになって、あたし、走り出す。

 走っても、走っても、走り足りない。


 早く、早く、浅山に行かなきゃっ!!



 駅を越えて、家の近くまでもどってきたら、国道に出た。

 歩道のわきを、車がびゅんびゅんと通っていく。左右にならぶ建物は、市役所に消防署に、警察署。


「……綾ちゃん?」


 警察署の前を通ったとき、門から出てくる人が見えた。

 女の人。髪の毛をゆるくパーマさせた、背が低くてカワイイ感じの。


 ……ヨウちゃんのお母さん。
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