ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
150 / 646
5 決戦は卒業キャンプで

59

しおりを挟む

 自分で言っておきながら、おかしいと思う。

「帰れない」って泣いている人たちに、「帰れ」ってせっつくなんてさ。


 でも、たぶん、この人たち、本当は帰れるんだよ。


 ただ、ヨウちゃんみたいに、自分の心を自分でがんじがらめにして。はじめから「帰れない」って決めてかかってるだけで。


「たしかに、あなたたちの体はもう、この世にはないかもしれない。だけど、心は自由でしょ? 浅山にいなくてもいい。あなたたちの心は、どこにでも行けるんだよ」


 黒い影が身じろいだ気がした。


 気づいたら、さっきまで影の頭から出ていた、黒いモヤが消えている。


「帰んなきゃ、ダメ。あなたたちの大切な人も、あなたたちの帰りを待っている」


 あたしは、知ってる。

 二度とにぎれないと思っていた手を、にぎったときのいとおしさ。

 大切な人が、そばにいることの、あたたかさ。


 兵士たちの黒い輪郭に、ザザザと横からノイズが入った。

 輪郭がぼやけ出す。

 頭や肩が、砂のようにサラサラとくずれ出す。

 まるで、浜にのこされた砂の人型。

 乾いた砂を、風がくずして、とばしてく。


 黒い砂になった兵士たちの霊が、風に舞って散っていくのを、あたしはずっと見続けた。





 パアっ!


 砲弾倉庫の中のかがやきが増した。


「ヨウちゃんっ!」


 きびすを返して、あたしはまた、砲弾倉庫の入り口へ走りだした。

 ハアハア息をついて、中をのぞきこむ。


 倉庫の中で、ヨウちゃんが虹色の小ビンをかまえていた。

 レンガ造りのゆかの上に、一個、二個、転がっているのはきっと、呪い返しでつかってしまった、空のビン。

 ヨウちゃんは、肩で息をつきながら、まだ半分入ったビンをにぎりしめてる。

 一歩。

 その足が、観音開きのとびらへ近寄った。

 二歩。三歩。


 とびらの中は静まり返っている。

 虹色の光に照らされて、タマゴが見えた。

 黒い殻から、完全に光沢が消えてる。まるでカラカラに乾燥した、ウエハースみたい。


 パキ、パキ、パキ、パキ。


 殻にヒビが入っていく。くもの巣もようの細かいヒビ。


「チチチチチチ!」


 あたしの足元から妖精の声がした。


「ヒメっ!」


 羽に虹色の針を刺したまま、ヒメがふらふらと砲弾倉庫の中へ入っていく。

 細い足で、よたよたとヨウちゃんの前を歩きすぎ、タマゴへ近寄る。


「な、何する気だっ!? 」


 ヨウちゃんがさけんだ。

 だけどヒメは、細い両手で、ただ、ぎゅっとタマゴを抱きしめた。


「ヒメ……もしかして、自分のタマゴを、ヨウちゃんに取りあげられるって思ってる……?」


 タマゴは、最初から、禍々しい黒いタマゴだったわけじゃない。

 ホントは白くてキレイな、ヒメのタマゴ。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

この町ってなんなんだ!

朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

軽トラ移動スーパーはじめました! 買い物・サービス難民ゼロへ! 遠くの孫より、近くの太郎!

しらかわからし
経済・企業
(あらすじ) 約10年ニートをしていた中卒の青年(主人公・25歳)の山田太郎が、過疎化に悩む町や村を軽トラで巡る移動食品店を開業しました。 自治会で出会った一人の女性の話をきっかけに、独居老人の買い物困難という社会課題に気づき、奮起します。 資金調達から事業計画、仕入れ交渉、営業ルートの構築まで、すべてを自力で乗り越えながら、地域に根ざした『御用聞き』として信頼を築いていく。 やがて、彼の誠実な仕事ぶりは地域の人々の心を動かし、事業は軌道に乗ります。 最終話では、仲間や家族、そして地域への感謝を胸に、太郎が描く未来への希望が語られる。 これは、ひとりの若者が「誰かの役に立ちたい」という思いを原動力に、人生を切り拓いていく感動の地域再生ドラマです。 基本の小説は太郎の業務日誌です。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

処理中です...