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第三話
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「ほい到着ーー。おいどうせ逃げられねぇんだから暴れるな。」
「あ゛ああああ! お説教やああああ!」
じたじた暴れるたびにパシパシとお尻を叩かれる事数回。
足でスパーンと自室の襖を蹴り開け中に入った先生によって背中から投げ落とされたのは十二畳はある和室の真ん中に引かれた先生の布団の上だった。
「む゛っ!!」
咄嗟に受け身は取ったものの打ち付けた背中はジンジンして、酷い……と少し涙目になりながら体を起こし部屋の中を見回す。
部屋の正面には縁側に続く障子戸があり、入って右側の壁には百七十センチくらいの高さがある三段重和箪笥と本棚。
左側の壁には文机が置かれている以外には何もない殺風景な部屋は、いつもどこか寂しくてとても静かで、ここに来たばかりの時はそれがなんだか嫌で、お気に入りのおもちゃを持ち込んでは遊んでいた事を思い出しながら、襖をしっかり閉めた上にさらっと結界まで張ってる先生にどれだけお説教されるのかとどんどん遠い目になっていく。
と言うか……。
「……結界なんて張らなくても逃げないもん。」
あまりの厳重さに唇を尖らせながら言えばおれの前に立った先生にぺしりと頭をはたかれた。
「普段二時間の説教でも音をあげて逃げようとするのはどこのどいつだ。ほれ、もういいからとっとと始めるぞ。さっさとその場で正座しろ。」
「う? でもおれ部屋着とは言えまだお風呂入ってないから、汚くない?」
「――璃。」
そう伝えると先生の声が一オクターブ下がり、これ以上先生を怒らせたくなくてぴゃっと肩をすくませ口を閉ざす。
そのまま布団の上で正座すればよし、と頷いた先生が茶封筒の封蝋に触れた瞬間バチっと電撃が走り先生の指が弾かれた。
「――せっ……!!」
「ああ大丈夫だから座ってろ。……蒼次の奴、こりゃあおれが触れるの分かってて術式組んだな。だが――……。」
思わず立ち上がりかけたおれを制し、僅かに眉を寄せ口の中で呪を唱えながら再び先生が封蝋に触れると今度は電撃が走る事もなくパキン、と何かが壊れる音がしてぴったり封じられていた筈の茶封筒の口が自然に開く。
「――よし。さて、中身は……。やっぱりか。おい、璃。」
封筒の中を覗き込み呆れたような表情を浮かべた先生が中身を引っ張りだせば、そこにあったのは、胸の下で切り替えが付いているやけに透けてる桃色のワンピースと同じ色のショーツをその少し華奢だけどメリハリのある身体に纏い、何て言うか、妖艶という言葉がぴったりな笑みを浮かべながらポーズを取っている頭に金色の毛に覆われた狐耳を生やし、背中の半分くらいの長さで艶やかなストレートヘアを持つ外見的には二十代前半くらいの女性が表紙になっている雑誌だった。
「………………え……せ、これ……。」
「ん、ああ春画……所謂エロ本というやつだな。確か『恋愛について勉強しろ。』と蒼次に言われたと言っとったな。異性の身体を知り、興味を持つのはまあある意味では恋愛の一歩かもしれんが、女性の魅力と言うのは外見的なものだけではないだろう? それに想いを寄せた相手と房事をするようになるまでは色んな段階を踏む必要がある。会ってすぐヤれるのはそれこそ花街の遊女くらいだな。」
多分十秒は固まり、何が起こったか分からずに呆然としながらやっと声を出したおれに先生が朗々と説明し出した。
「……エロ……本……。」
それを聞きながら混乱する頭で改めて表紙に視線を下ろす。
熱があるように頭がぼぅっとして顔がどんどん熱くなるのに、どうしてもその女性から目が離せない。
怪しげに細められた縦長の瞳孔が煌めいたように感じるのと同時に、体がカッと熱くなってどうしたらいいか分からずに涙目になっていると璃?と頭上から声が降ってきて視界から雑誌が取り除かれた。
「おいどうした? 大丈夫か?」
さっきよりも近くなった低くて渋味がある温かい響きの声が耳朶を打ち、大好きな手が顎に添えられて無意識に俯いていた顔を上げさせられると、おれの瞳に映ったのは綺麗で大好きな鳶色の瞳で、それを見た瞬間頭の中で何かが弾けて気が付いた時にはおれを心配して膝を折り腰を落とした先生にガバッと勢いよく抱きついていた。
「……っと。おい、璃?」
「……せんせ、助けて……ッ、体……熱いぃぃ……。」
そんな体勢でおれを受け止めたせいで体勢を崩して尻餅を付き、咄嗟に後ろ手を付いた先生に構わずその首に腕を回ししがみついたまま、ぴったりと隙間がないように体を密着させれば心臓がばくばくと早鐘を打っているのが分かってさらに熱くなる体に口をはくはくさせ目尻から涙が溢れ落ちる。
……ッ体、溶けちゃう……。
「璃?!こりゃあ……、まさか雪女の血かっ!? おいあま……」
くらくらする視界の中で珍しく焦った声をあげる先生の薄い唇が目に止まる。
……何で、だろ。凄く。
『美味しそう』。
瞬間的に沸き上がったその衝動のままその唇をかぷりと食むと先生の声がぴたっと止んだのを不思議に思いながら薄く開いた唇の隙間から舌を差し込んで、先生の舌を舌先で舐めた瞬間ぶわっと体が歓喜に包まれて後はただ夢中で先生の舌を舐め回した。
「……ッせんせ、好き……ッ、ンん、ッ好き……。」
口からはおれの声じゃないみたいな甘い声が漏れて。
でも。
こんな事しちゃ駄目なのに。先生に嫌われちゃう、やめて、息子で弟子じゃいられなくなっちゃう。やめてと頭の中で誰かが泣き叫んでいて、でも止める事は出来なくて。
ごめんなさい、ごめんなさいと行為を続けるおれの瞳から涙が溢れた刹那。
先生の手が後頭部に添えられ、それまでぴくりとも動かなかった先生の体ががばっと動き、布団の上に押し倒されるのと同時に先生の舌を舐めているおれの舌を絡めとられてジュッと音を立てて思い切り吸われる。
「んンッ!!」
その刺激にびくんと体か跳ね、それを宥めるように舌の表面を擽るように優しく舐められてくたっと体から力が抜けると、今度はおれの口の中に先生の舌が差し込まれた。
歯列をなぞり、時折舌を絡めとる熱くて湿ったそれに上顎を舐められるとビリビリと電流のように激しい刺激が身体中を走り抜ける。
ン、とかア、とか意味を成さない母音を漏らしながら感じた事のない刺激に身悶えるおれに構わず重点的にそこばかり弄られ、全く体に力が入らなくて先生の首に回していた腕を布団の上にパタリと落とした頃には体の熱は大分治まっていた。
「……せ、んせ……。」
「――泣くな、璃。」
そっと唇を離され、溢れ落ちたおれの声に答えるように囁かれた声はどこまでも優しくて、また目尻から涙が零れると優しくそれを手で拭われる。
「……ったく。だから泣くなっつっただろう? ……俺は昔からお前さんの涙に弱いんだ。泣いているお前さんを見ると泣き止んで欲しくて、笑って欲しくてついつい甘やかしちまう。昔はそれで菓子ばっか与えるなって周に叱られたもんだ。」
「ンッ……。」
懐かしげにそう話す先生の唇がおれの唇に重ねられる。
それが凄く気持ちよくて微かに声を洩らせば先生の顔にあの時の……。
おれを助けてくれた時のあの表情が浮かんだのを見て、胸が締め付けられるように苦しくなった後とくんと胸が高鳴って、それで唐突に。
何となくだけど気が付いた。
――ああ、おれきっとあの時からずっと『そういう意味』でも先生の事、好きだったんだ。
「――安心しろ、璃。何があろうとお前さんは俺の息子で弟子だ。それは例え天地がひっくり返ろうが変わらねえよ。さて、慣れない刺激で疲れただろう。少し眠れ。」
一度気付いてしまえば驚く程ストンと心に落ちたその答えに余計涙に濡れたおれの目元に、覆い被さられた先生の手から先生の霊力が流れてきて、その心地よさにおれの意識は闇に沈んでいった。
「あ゛ああああ! お説教やああああ!」
じたじた暴れるたびにパシパシとお尻を叩かれる事数回。
足でスパーンと自室の襖を蹴り開け中に入った先生によって背中から投げ落とされたのは十二畳はある和室の真ん中に引かれた先生の布団の上だった。
「む゛っ!!」
咄嗟に受け身は取ったものの打ち付けた背中はジンジンして、酷い……と少し涙目になりながら体を起こし部屋の中を見回す。
部屋の正面には縁側に続く障子戸があり、入って右側の壁には百七十センチくらいの高さがある三段重和箪笥と本棚。
左側の壁には文机が置かれている以外には何もない殺風景な部屋は、いつもどこか寂しくてとても静かで、ここに来たばかりの時はそれがなんだか嫌で、お気に入りのおもちゃを持ち込んでは遊んでいた事を思い出しながら、襖をしっかり閉めた上にさらっと結界まで張ってる先生にどれだけお説教されるのかとどんどん遠い目になっていく。
と言うか……。
「……結界なんて張らなくても逃げないもん。」
あまりの厳重さに唇を尖らせながら言えばおれの前に立った先生にぺしりと頭をはたかれた。
「普段二時間の説教でも音をあげて逃げようとするのはどこのどいつだ。ほれ、もういいからとっとと始めるぞ。さっさとその場で正座しろ。」
「う? でもおれ部屋着とは言えまだお風呂入ってないから、汚くない?」
「――璃。」
そう伝えると先生の声が一オクターブ下がり、これ以上先生を怒らせたくなくてぴゃっと肩をすくませ口を閉ざす。
そのまま布団の上で正座すればよし、と頷いた先生が茶封筒の封蝋に触れた瞬間バチっと電撃が走り先生の指が弾かれた。
「――せっ……!!」
「ああ大丈夫だから座ってろ。……蒼次の奴、こりゃあおれが触れるの分かってて術式組んだな。だが――……。」
思わず立ち上がりかけたおれを制し、僅かに眉を寄せ口の中で呪を唱えながら再び先生が封蝋に触れると今度は電撃が走る事もなくパキン、と何かが壊れる音がしてぴったり封じられていた筈の茶封筒の口が自然に開く。
「――よし。さて、中身は……。やっぱりか。おい、璃。」
封筒の中を覗き込み呆れたような表情を浮かべた先生が中身を引っ張りだせば、そこにあったのは、胸の下で切り替えが付いているやけに透けてる桃色のワンピースと同じ色のショーツをその少し華奢だけどメリハリのある身体に纏い、何て言うか、妖艶という言葉がぴったりな笑みを浮かべながらポーズを取っている頭に金色の毛に覆われた狐耳を生やし、背中の半分くらいの長さで艶やかなストレートヘアを持つ外見的には二十代前半くらいの女性が表紙になっている雑誌だった。
「………………え……せ、これ……。」
「ん、ああ春画……所謂エロ本というやつだな。確か『恋愛について勉強しろ。』と蒼次に言われたと言っとったな。異性の身体を知り、興味を持つのはまあある意味では恋愛の一歩かもしれんが、女性の魅力と言うのは外見的なものだけではないだろう? それに想いを寄せた相手と房事をするようになるまでは色んな段階を踏む必要がある。会ってすぐヤれるのはそれこそ花街の遊女くらいだな。」
多分十秒は固まり、何が起こったか分からずに呆然としながらやっと声を出したおれに先生が朗々と説明し出した。
「……エロ……本……。」
それを聞きながら混乱する頭で改めて表紙に視線を下ろす。
熱があるように頭がぼぅっとして顔がどんどん熱くなるのに、どうしてもその女性から目が離せない。
怪しげに細められた縦長の瞳孔が煌めいたように感じるのと同時に、体がカッと熱くなってどうしたらいいか分からずに涙目になっていると璃?と頭上から声が降ってきて視界から雑誌が取り除かれた。
「おいどうした? 大丈夫か?」
さっきよりも近くなった低くて渋味がある温かい響きの声が耳朶を打ち、大好きな手が顎に添えられて無意識に俯いていた顔を上げさせられると、おれの瞳に映ったのは綺麗で大好きな鳶色の瞳で、それを見た瞬間頭の中で何かが弾けて気が付いた時にはおれを心配して膝を折り腰を落とした先生にガバッと勢いよく抱きついていた。
「……っと。おい、璃?」
「……せんせ、助けて……ッ、体……熱いぃぃ……。」
そんな体勢でおれを受け止めたせいで体勢を崩して尻餅を付き、咄嗟に後ろ手を付いた先生に構わずその首に腕を回ししがみついたまま、ぴったりと隙間がないように体を密着させれば心臓がばくばくと早鐘を打っているのが分かってさらに熱くなる体に口をはくはくさせ目尻から涙が溢れ落ちる。
……ッ体、溶けちゃう……。
「璃?!こりゃあ……、まさか雪女の血かっ!? おいあま……」
くらくらする視界の中で珍しく焦った声をあげる先生の薄い唇が目に止まる。
……何で、だろ。凄く。
『美味しそう』。
瞬間的に沸き上がったその衝動のままその唇をかぷりと食むと先生の声がぴたっと止んだのを不思議に思いながら薄く開いた唇の隙間から舌を差し込んで、先生の舌を舌先で舐めた瞬間ぶわっと体が歓喜に包まれて後はただ夢中で先生の舌を舐め回した。
「……ッせんせ、好き……ッ、ンん、ッ好き……。」
口からはおれの声じゃないみたいな甘い声が漏れて。
でも。
こんな事しちゃ駄目なのに。先生に嫌われちゃう、やめて、息子で弟子じゃいられなくなっちゃう。やめてと頭の中で誰かが泣き叫んでいて、でも止める事は出来なくて。
ごめんなさい、ごめんなさいと行為を続けるおれの瞳から涙が溢れた刹那。
先生の手が後頭部に添えられ、それまでぴくりとも動かなかった先生の体ががばっと動き、布団の上に押し倒されるのと同時に先生の舌を舐めているおれの舌を絡めとられてジュッと音を立てて思い切り吸われる。
「んンッ!!」
その刺激にびくんと体か跳ね、それを宥めるように舌の表面を擽るように優しく舐められてくたっと体から力が抜けると、今度はおれの口の中に先生の舌が差し込まれた。
歯列をなぞり、時折舌を絡めとる熱くて湿ったそれに上顎を舐められるとビリビリと電流のように激しい刺激が身体中を走り抜ける。
ン、とかア、とか意味を成さない母音を漏らしながら感じた事のない刺激に身悶えるおれに構わず重点的にそこばかり弄られ、全く体に力が入らなくて先生の首に回していた腕を布団の上にパタリと落とした頃には体の熱は大分治まっていた。
「……せ、んせ……。」
「――泣くな、璃。」
そっと唇を離され、溢れ落ちたおれの声に答えるように囁かれた声はどこまでも優しくて、また目尻から涙が零れると優しくそれを手で拭われる。
「……ったく。だから泣くなっつっただろう? ……俺は昔からお前さんの涙に弱いんだ。泣いているお前さんを見ると泣き止んで欲しくて、笑って欲しくてついつい甘やかしちまう。昔はそれで菓子ばっか与えるなって周に叱られたもんだ。」
「ンッ……。」
懐かしげにそう話す先生の唇がおれの唇に重ねられる。
それが凄く気持ちよくて微かに声を洩らせば先生の顔にあの時の……。
おれを助けてくれた時のあの表情が浮かんだのを見て、胸が締め付けられるように苦しくなった後とくんと胸が高鳴って、それで唐突に。
何となくだけど気が付いた。
――ああ、おれきっとあの時からずっと『そういう意味』でも先生の事、好きだったんだ。
「――安心しろ、璃。何があろうとお前さんは俺の息子で弟子だ。それは例え天地がひっくり返ろうが変わらねえよ。さて、慣れない刺激で疲れただろう。少し眠れ。」
一度気付いてしまえば驚く程ストンと心に落ちたその答えに余計涙に濡れたおれの目元に、覆い被さられた先生の手から先生の霊力が流れてきて、その心地よさにおれの意識は闇に沈んでいった。
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