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season 1
05
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京輔さんに一緒に住もうって言われてから3ヶ月。
まだ一緒に住むのは実現してない。
それは、私がまだ学校に通ってるから。
でもちょくちょく準備は進めてる。
私の家族に会う前に、京輔さんの家族に会うことになって、先週それが叶った。
京輔さんのお父さんには、面接の時に会ったことがあって、お父さんのおかけで雇ってもらえるようになったから、ある意味京輔さんとの関係のきっかけを作ってくれた方。
挨拶した時真っ先に言われたのは、「そうか!やっぱりか!よかった!」だった。
お父さん曰く、私は京輔さんのタイプドストライクだったらしく、恋人も作らない息子が心配で、そう言う関係になったらいいなぁの気持ちで雇えって言ったらしい。
それ聞いた京輔さんは、驚いてた。
自分では自分の好きな人のタイプわかってなかったらしく、「なんで親父は知ってるんだ…」てなんかちょっとヘコんでた。
京輔さんのお母さんは、おっとりしてて、京輔さんに似てた。
子供な私にも優しくて、「娘が出来たわ!嬉しいわ!」って言ってくれた。
そんなご両親に育てられた京輔さんは、だからこんなに優しいんだなぁって。
私のことは、全部ではないけど伝えてある。
伝えた時、2人とも泣きそうな顔してぎゅって抱きしめてくれて。
初めて、両親ではないけど親の暖かさを感じることが出来た。
そして今日、私の両親に会う。
怖い。すごく怖い。何言われるんだろうとか、どう思われるんだろうとか、色々考えるとすごく怖い。
「梨恵、大丈夫」
「……うん」
力強く握られた手に、勇気をもらった。
大丈夫。京輔さんがいるから。
「……お母さん」
「…なに?って…」
2人で家に入って、リビングに行ったらお母さんがいた。
一応、今日お付き合いしてる人連れてくるって伝えはしたけど、興味ないから無視された。
でも、ちゃんと伝えはした。
それでも、この態度。
お母さんの顔には「なんで連れてくるの?」って書いてあった。
多分、世間体のこと気にしてる。
「…お付き合いしてる人、連れてきた」
「………、」
「初めまして。荻原 京輔と言います。梨恵さんとお付き合いさせていただいてます」
お母さんは京輔さんの顔を見て、一瞬で態度を変えた。
それは他所行きの、外で家族を偽る時の顔になった。
「あらぁ!初めましてぇ。母親の沙苗です」
「初めまして」
「梨恵にこんな素敵な人がいたなんて知りませんでしたわぁ」
気持ち悪い。すごく気持ち悪い。
良い母親を演じて、京輔さんに好かれようとしてるのが丸わかりで気持ち悪い。
家にはお母さんだけかと思ったら、上の階から物音がするから、多分姉がいる。
きっと、私たちのこと気づいて降りてくると思う。
「お母様にお許しをいただきたく、今日は伺いました」
「お許し?何かしら?」
「梨恵さんと一緒に住む許可をいただきたくて」
「え?」
多分、京輔さんもここにあまりいたくないらしく、早速本題に入った。
手は、繋がれたまま。隣に京輔さんの体温を感じたままだから、まだ落ち着いていられる。大丈夫。
「一緒に、住む?」
「はい。結婚を前提にお付き合いしています」
「…そう」
「お許しいただけませんか?」
「それは、」
「ちょっと待って!」
お母さんが返事しようとしたら、リビングのドアが開けられて、叫ぶように姉が割って入ってきた。
「茉莉絵ちゃん、どうしたの?」
「どういうこと?」
「え?」
「なんで、あんた彼氏出来てんの?」
「え?」
出た。出たよ、これ。
姉のわがまま。
私が少しでも、姉よりも優ってるところがあると難色示すやつ。
昔からそうだった。
親から興味持たれてないのはいいとして、私が学校の友達と遊んでるとその輪に入ってきて全部奪っていく。
頭良くてなんでもそつなくこなす姉でも、私が楽しそうだったりしあわせそうにしてると、それが許せないのか全部奪っていく。
いや、頭良くてなんでもそつなくこなすからこそ、全部奪っていく。
だから本当は、京輔さんを家族に会わせたくなかったんだ。
「どういうこと?」
「可笑しいでしょ。あんたそんなに根暗なのに。なに幸せになろうとしてんの?」
「………」
「私より先に幸せになるとか、あり得ない」
そんなこと言われても…しあわせになるのは人それぞれだし、それに姉に決められることでもない。
私が幸せになろうがなかろうが、姉の生活には関係ないし、干渉されたくもない。
でも、そう言いたくても言えない自分がいる。
何か言ったらその何倍もの言葉で言い返されるから、言えない。怖い。
「っ……」
「大丈夫」
気づいたら握ってた手に力が入ってて、京輔さんに耳元で優しく慰められた。
そうだ。大丈夫。京輔さんがいるから、大丈夫。
「梨恵のお姉さんですか?」
「…そうですけど?」
「初めまして。梨恵とお付き合いしてる荻原 京輔と言います」
「…どうも」
「梨恵と結婚しようと思ってます」
「………」
「あと、梨恵は根暗ではありません」
「は?」
「芯が通ってて、心優しくて、周りの人から愛される人です」
「なに言って、」
「現に、俺はすっごく大好きです」
「………」
「いくらお姉さんだからって、梨恵のこと悪く言わないでいただきたい」
「っ……、」
こんな時でも、京輔さんが好きだって気持ちになる。
愛されることを教えてくれて、愛することも教えてくれた。
京輔さんがいれば、怖いものなんかない。
「…お母さん、お姉ちゃん。私、京輔さんと一緒に暮らしたい」
「………」
「もう、いいよ」
「え?」
「私のこと、もういいよ」
「なに言って、」
「家族ごっこ、やめよう?」
「っ!」
「来週には高校卒業するし、もう私18歳だよ」
「………、」
「世間的にはもう子供じゃない。成人したんだよ」
「………」
「だから、もういいよ」
気まずそうに目を逸らすお母さんと、それでも気に食わない顔してる姉。
それでもいいよ。私には、京輔さんがいるから。
もう良いんだ。無理に家族ごっこなんかしなくて。
その後、帰ってきたらお父さんにも伝えたら、「勝手にしろ」って言われたから、そうすることにした。
家族に気づかれないように、私の荷物は徐々に減らしてたから、あとは数着の服を持って出て行くだけ。
京輔さんに手伝ってもらって全ての荷物をカバンに詰め込んで、家を出た。
その時、家族は誰一人見送りにはきてくれなかった。
でも、それでいい。これで終わり。家族ごっこも、何もかも全て。
でも、泣きたい気持ちはある。
愛されなかったとしても、家族ではあったから。
辛くないわけがなく、でもそれでも前を向く。
「梨恵。頑張ったね?」
「っうん」
「大好きだよ、梨恵」
「うん…っ」
「誰よりも、しあわせに、なろうね?」
「うんっ!」
その日から私は、京輔さんと暮らすことになった。
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