ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ

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第二章

29話 レシピ

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 紹介を終え、ガウルとモコは各自、鍛錬を始めた。
 残ったシンがアリカに言う。

「いやぁ、反対されるとは思わなくて焦ったけど、何とかなって良かった」
「ええ、ほんとに……。受け入れてくれた恩に報いれるようこれから頑張るわ」

 アリカは強く意気込んだ。

「それで、このクランの活動目標だけど、とりあえずは天獄の大迷宮をクリアすることを目指してるんだ」
「へぇ、そーなの?」

 目的を告げるが、アリカは全く驚くことなく平然とした態度だった。

「驚かないんだ?」
「ライルも、よく言ってたからね。ま、夢が大きくていいんじゃない?」

 アリカはシンが夢として語っていると受け取っていた。
 未だクリアされていない最難関ダンジョンとして知られているので、そう取られても無理ないことである。
 実際は、そう遠くないうちに挑める態勢だったが、シンはあえて教えずに訊く。

「じゃあアリカも協力してくれる?」
「ええ、クランに入ったのだから、リーダーが目指すって言うなら付き合うわよ」

 本気で挑むとは思っていないアリカは軽い気持ちで承諾した。
 全然、本気に取ってくれなかったが、共に活動していくうちに理解するだろうと、シンは誤解の訂正をしなかった。

「ありがとう。助かるよ。後でアリカ用に教科書作っておくから。あ、なりたい上級クラスとかある?」
「? アルケミストだけど?」
「あー……薬屋だもんな。まぁ、まぁいいだろう。オッケー分かった」

 アルケミストは道具作成に長けたクラスである。
 作成した道具を利用した攻撃や多少の魔法攻撃は使えるが、制作系寄りである為、戦闘能力で見ると不便な点が多かった。
 しかも、作成できるようになる回復補助系のアイテムの効果がモコが目指すシャーマンと被っているので、攻略パーティのメンバーとして考えると微妙なクラスと言える。

 現実問題、ゲームのように都合よくベストなパーティが組める訳ではない。
 とはいえ、シンのモンクも同じようなものである為、使いようによっては十分戦力となる。
 メンバーが増えるだけでも大きなプラスであることには間違いなかった。

「それで、一つ頼みたいことがあるんだけど、薬の作成はできる?」
「そりゃあ出来るわよ。専門クラスには及ばないけど、一般的な薬なら一通り作れるわ」
「それは良かった。じゃあ魔力回復薬の作成頼むよ。大量に使うから」

 シンは取り出した袋から、薬を生成する道具と植物などの魔力回復薬の材料を大量に出し、机の上に乗せる。

 薬は現物を店で買うより、材料から自作した方が安い。
 魔力回復薬だけでなく、今後の攻略では薬も最大限に活用する予定だったので、シンは出来るだけ出費を抑えられるよう自作で調達しておきたかったのである。
 実は、これがアリカを引き入れた一番の理由でもあった。

「配合は、これでお願い」

 シンはアリカに薬の配合を書いた紙を渡す。

「うちのレシピでやってあげるわよ? 教えることは出来ないけど作るだけなら大丈夫だから」

 薬は配合によって効力や付属効果が千差万別である。
 アリカの家系は代々薬屋を生業としてきたので、所持しているレシピは、よく練られていて非常に質の良いものであった。

「いや、この通りにやってくれれば十分だから」
「そう?」

 シンはアリカの申し出を断り、自分のレシピで作らせるよう言った。
 アリカとしても進んで披露するものではなかったので、あっさりと引き下がった。

――――

「な、な、な……何よこれー!」

 クランハウス内にアリカの声が響き渡る。
 そして作業机の前で強化を作りをしていたシンの下に、血相をかいたアリカが駆け寄ってきた。

「このレシピ何なの!? 有り得ないわ!」

 シンが渡したレシピで薬を作ったアリカだが、出来上がったものはアリカの家のものより遥かに高品質なものであった。

 シンは調合のアルゴリズムを知っていたので、組み合わせや分量の最適解が分かっていたのだ。
 作成者のスキルレベルや道具、環境で多少質の変化はあるが、それでも非常に高い効果の薬が作れる。

「出所は言わないよ」

 当然そんなことは言えない為、シンは即座に回答拒否した。
 食い下がるかと思いきや、アリカは察して息を呑む。

「……やっぱりヤバいものなの?」
「ヤバくはないけど」
「嘘。どこぞの財閥企業か研究機関から盗み出したものなんでしょ。こんな凄いの見たことない。ど、どうしよう。私もレシピ知っちゃったから消される……」

 アリカは勝手に怖がり、頭を抱えて怯える。

「だから危険なものでも非合法なものでもないって」
「信じられないわ。じゃなきゃ、こんな凄いレシピ、薬剤師でもない貴方が持ってる訳ないじゃない」

 頑なに信用しようとしないアリカに、シンは溜息をつく。

「そんなに怖いならレシピ見なかったことにして忘れなよ。あーあ、残念だな。せっかくアリカの店でも使っていいって言おうと思ってたのに」

 その言葉を聞き、アリカはピタッと止まる。

「これ程のものなら、悪い噂があっても客は来ると思うんだけどな」
「うっ」
「まだ他にも同等のレシピが沢山あるから、それも売り出したら、きっと大盛況になるだろうなぁ」
「うぅ……」

 先程まで怖がっていたアリカだが、落ち込んでいた客足を戻せるということに、かなり惹かれていた。

「いらないなら残りのレシピは捨てちゃうけどどうする?」

 シンは控えあった他のレシピを出し、アリカに選択を迫った。

 アリカは葛藤する。
 シンのレシピは極めて怪しい。
 手を出してしまうと、危険なトラブルに巻き込まれるかもしれない。
 しかし、そのレシピがあれば店の問題は解決できる。
 それに何より、薬剤師の端くれとして、極上のレシピに興味があった。

「う……く……」

 アリカは手を中途半端に伸ばした状態でプルプルと震わせる。
 葛藤に葛藤を重ね。
 とうとうシンが持つレシピを取った。

「それでいい。レシピは外で言い触らしたりしなければ、店で好きに使っていいから」
「……お店、焼き討ちされたりしない?」
「されないよ……」
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