狼王の贄神子様

だいきち

文字の大きさ
30 / 111

幸せのしっぽ

しおりを挟む
 こんこんと眠り続けている間に、どうやら城は大きく変わったらしい。ウメノによって、顔以外の殆どを冗談のように包帯だらけにされたティティアは、事後の蜜月にしてはあまりにも薬品臭い中で囲われていた。

「まず見たことのない寝具に変わってる……」
「事故現場もかくやと言わんばかりの凄惨さでしたからね。カエレス様がトラウマにならないようにと変えられました」

 神妙そうな顔つきで宣う姿を前に、もしかしてロクも寝れていなかったんだろうかと思ってしまった。
 ところどころ体に包帯を巻いている様子から、率先してカエレスから体を奪ってくれたのはロクなのかもしれないと思った。答えを求めるように目線をカエレスに向ければ、ぎこちなくそらされた。どうやら完全に黒らしい。

「あ、そう……ちなみに俺はいつ動けるの」
「すまないがまだ心配なんだ。だけど世話は私に任せてくれ」
「それはもう、部下の俺が引くくらい献身的でしたよ」
「ひぇ……」

 ハニにも忙しくさせてしまったようだ。諸々の家具の手配などをしてくれたらしく、あれだけ白かった部屋には色付きの家具が置かれるようになっていた。

「俺、違う部屋に移動されたのかと思ったよ。だってもとの部屋めちゃくちゃ白いし」
「白くすれば、ティティアが怪我をした時にもすぐ気がつけるかと思ったんだ」
「今さらりとでっけえブーメラン放ちましたねえ……」
「シッ、ニル黙って。カエレス様が落ち込んだら面倒臭いの知ってるでしょ!」

 ハニとニルの久しぶりのやり取りに、随分とアホらしい話が混ざっていたような気がしたが、ティティアは無言でロクに目を向けるだけに留めた。しっかりと頷かれたので、どうやら冗談ではなく本気の話であることは明白のようだ。
 なんだか頭が痛くなってきた。体は治癒してもらったはずなので、単純にカエレスの過保護に対しての頭痛だろう。とは言っても、まだ数日は床上げを許されないだろうが。
 
「ゲンナリとしてんとこ悪いんだけどよ、起きたんなら仕事の話がしてえんですけど」
「はいニルさんどうぞ」
「ダメだ。その話は私が聞く。今は遠慮してくれ」
「あんたそれ絶対ですよ。こっちは許可待ちでずっとヤキモキしてんすから」

 ポカンとするティティアを置いてけぼりにして、寝台から離れる二人の背中を見送る。ニルの様子から、どうやらティティアが絡んでいることらしい。なんとなく気にはなったが、必要ならカエレスが後から話してくれるだろう。
 カエレスがいない間にウメノがこそりと耳打ちしてくれたのは、どうやら床上げ自体はいつでも大丈夫と言うことだった。
 
「一応、明日の朝に検査するよ。これでしっかり妊娠していたら、ますますカエレス様の執着が激しくなりそうだけど……まあがんばれ」
「待って、がんばれ以外のアドバイスってないの」
「…………」
「満場一致で無いみたいな顔しないでよ……!」

 きっとこの場にニルがいても結果は同じなのだろう。頭は痛いは気恥ずかしいやらで、表情に困るというのはこういうことを言うのだなと思った。


 結局、宣言通りカエレスによる甲斐甲斐しい介護を受けたティティアはその夜。獣に転化したカエレスを枕がわりにするという贅沢を味わっていた。
 まだその頬は少しばかし赤みを帯びている。まさか己の世話が、食事の介助以外にも及んでいるとは思わなかったのだ。まあ、あらぬところをまざまざと見られているので、恥ずかしいからと言える退路はたたれていたのだが。

「魔力の放出は、止まったの」

 天鵞絨の毛並みに埋もれたまま宣う。カエレスの静かな呼吸を背中で感じながら、ティティアは組んだ前足に顎を乗せるカエレスをくしくしと撫でる。
 胸の上に回された、ふわふわで毛並みのいい立派な狼の尾がパタリと揺れる。金糸水晶の瞳にティティアの横顔を映したカエレスが、くるりと喉を鳴らした。

「ああ。私の魔力は、ティティアの中に落ち着いた。私の命は、君の手で救われたんだよ」
「そっか……、じゃあ、検査しなくてもきっといるね」

 ティティアは、少しだけ気恥ずかしそうな声色で呟くと、そっとぺたんこの腹へと手を伸ばした。カエレスの魔力の放出が止まったということは、妊娠しているということだろう。まだ実感は湧かないが、カエレスの命を繋ぐのは子を孕むことだと聞いていたからだ。
 穏やかな顔をして腹を撫でる。そんなティティアを前に、カエレスの尾っぽは勢いよく膨らんだ。

「うわっ、な、何」
「ティティアの治療ですっかり頭がいっぱいで……失念していた。そうだな……私の魔力の放出が止まったということは……そういうことなのか」
「わかんないけど、多分そうだと思う。俺、カエレスの魔力の色一回しか見てないけど、好きな色だったよ」
「そうか……、そうか……うぅん……」

 どうやら照れているらしい。パタパタと忙しなく尾を振り回すものだから、先ほどからティティアの顔の上をもふもふが往復する。可愛いけど、少しだけ息苦しい。もしかしたらこういうのが幸せの苦しいに近いのだろうかと、少しだけ頭の悪いことを思った。
 頭の背後で、嵐でもきそうなほど、カエレスのご機嫌の雷が鳴っている。前足で顔を隠すように静かに喜ぶ姿が愛おしくて、ティティアは思わずふかりとした尻尾を抱きしめるのであった。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...