狼王の贄神子様

だいきち

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「いいか、ロク。こういうのは難しく考えちゃダメなんだよ。好きな子には好きをきちんと伝えないと。お前のそれは明らかな恋愛感情で、朴念仁なお前が芽生えた育むべき気持ちだと、俺は思うね!」
「そういうものなのか……?」
「これはあれか、遠回しに俺への当てつけが入ってないか」
「今はお前の話をしていない」

 お前俺のこと好きじゃないだろ。こめかみに青筋を浮かべて宣うニルを無視して、ロクはシャワルマを食べ終えた手を拭う。やけにキラキラした顔をして語り出したフリヤに、人の恋路で良くもそこまで楽しめると、妙な関心をした。
 ロクなんか全くもって興味ない。まあ、今回は己のことなのだが。
 
「でもよ、なんでわざわざ種子なんかもらうんだ。遠回しに、俺の腹に仕込んでくださいとかそういうやつか」
「ニル最低だわ。お前すぐそうやって話をエロい方向へと持っていく。そんなことばっか言ってっから遅漏なんだぞ」
「腹からは芽吹くわけないだろう。お前、いい大人なのにそんなことも知らないのか」
「なあ、俺どっちにツッコミ入れたらいいんだ」
 
 この場にハニがいたとしても、四面楚歌に磨きをかけていただろう。ニルは己一人でこの場を納めなくてはいけないことに、頭を抱えている。
 しかし、言われてみれば確かに妙な話である。なんでミツは、ロクに花の種を渡したのだろうか。
 親しくなったきっかけは、ミツを庇ったお礼に店へ招かれて、怪我の手当をしてもらったからだ。
 その時に使われていたテーブルクロスの刺繍に興味を示したことで、ロクはミツと裁縫仲間になったのだ。
 しかし、それを口にすればまたニルが揶揄うのだろう。お前に裁縫は似合わないとか言って。
 ロクは面倒だを瞳に滲ませてニルを見た。
 
「確かに俺と彼とはそういう関係だが……」
「俺と彼はそういう関係⁉︎」
「人にはいえない大人な関係ってこと⁉︎」 
「なんだ急に……、大人なんだから当たり前だろう」
 
 勢いよく身を乗り出す二人に、ロクは少しだけ引いてしまった。大人になってからの友人だ。そういう意味での大人の関係というのは、なんの間違いもない。ロクは眉を寄せながらスープを飲み干すと、そっと皿を重ねる。フリヤが手早くそれを回収すると、頬を赤く染めながら咳払いをした。
 
「ま、まあそうだよな。うん、ロクも大人だし、俺だって経験あるくらいだしな!」
「お前も趣味が同じなのか?」
「シュミ⁉︎ 趣味って俺がニルとそういうことするのがって⁉︎」
「ニルは……、そうなのか。すまない、お前をそういう目で見たことがなかったから。意外な一面もあるんだな」
「い、いい。気にするな。俺のことはそういう目で見なくていいから……な。」
「待ってニルよりも俺のが奔放に見えるってこと⁉︎」
「お前はさっきから何に興奮をしているんだ」
 
 大きな声をあげて悲鳴を上げるフリヤと、青ざめるニルの姿が対照的である。ロクは未だ己の発言がきっかけで二人に勘違いを与えているとはついぞ思っていない。
 久しぶりにこんなに言葉を発したこともあり、口端が少しだけ疲れたなあと他人事のように捉えているほどだ。
 二人が何やら楽しそうなのは結構だが、贈り物の話は解決すらしていないのだ。
 
「何が喜ぶだろう。彼は腹を空かせがちだから、やはり満たされるもののほうがいいだろうか」
「相手の種族の確認していいか」
「だからリス獣人だ。お前は人の話を本当に聞かないな」
「お前ので腹を満たしたら体が弾け飛ぶんじゃねえかな……」
「そんなに大きなものを与えるつもりはない」
「その体格で⁉︎」
 
 だからさっきからなんの話をしているんだ。
 ニルの言葉に眉を顰めれば、ちょっと待ってくれと制された。ニルの手にはしっかりとした大きさのとうもろこしが握りしめられている。それを徐に差し出されて受け取れば、ひどく真剣な顔を向けられた。
 
「このくらいか……お前の、その」
「……なるほど。これを使えということか」
 
 要するに、ロクもミツのように手料理を返せばいいということらしい。ニルにしては随分といい考えだと素直に感心すると、ニルはなぜか口元を抑えるようにして後退りをしていた。
 
「俺よりもすごいなお前は」
「まあ、俺は料理をすることが多いからな。礼を言う、少し光明が見えたかもしれない」
「その、あんまり大きくすると口にも入らねえから、ほどほどにな」
「ミツの口は小さいからな。その時は千切ればいいだろう。心配はいらない」
「千切るの⁉︎」
 
 信じられないと言う顔をするニルとフリヤを前に、ロクは小さく頷いた。きっと、大きなパンを頬張る姿は可愛いだろうが、食べづらいのも可哀想だ。
 それでも、大きく作ろうとしているのは、己の手ずからパンをちぎってミツに分けたいと思っているからに他ならない。ミツが両手にパンの切れ端を持って、まぐまぐと口にする姿はさぞ愛くるしいに違いない。そんな姿を想像して、口元を手で覆う。この二人の前で緩んだ顔を見せるのが癪だったのだ。
 そんなロクの姿を前に、ニルとフリヤは何を想像したのか少しだけ怯えた顔をした。当たり前である。堪えるあまりに、コランダムの瞳が鈍く輝き、いつもよりも目力が強くなっていた。
 まさか己の預かり知らぬところで二人がとんでもない勘違いを起こしているなど、誰が思うだろうか。ロクは一人、相談という形が功を奏して悩みが解決したことを、静かに喜んだ。
 
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