こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 カインは、まるで湯に使ったかのようなだらしの無い声を上げると、その手を目に当てた。眼精疲労が辛い。こんなにだらしのない体制ができるのもミハエルの前だけである。その点は結婚したとしたらメリットになるだろう。

「だけど俺はお前みたいな女々しい男はきらいなんだよ。」
「わかってるよ、僕もそう思うし…」

 というか、なんでまた蒸し返すの。そんな目でカインを見つめると、面倒くさそうに座り直して指を弾く。
まるで最初からそこに用意されていたかのよう羊皮紙と羽ペンが現れると、そこにサラサラと先程の取り決めを書いていく。
 殿下が自らの作成した誓約書、というか勤務契約書だろうか。ミハエルは、医術局の火急の仕事とダブルブッキングした場合は医術局を優先するようにとも約束をさせる。

 はたから見れば、二人で一枚の羊皮紙挟んでああだこうだ言いながらの睦まじいやりとりだ。書いている内容はまったくもって可愛くはないが。

 荒削りではあるが、もし追加で取り決めをする場合は要相談という文言まで認めると、カインは名前の横に己の印章を押した。

「あ、あのさ、これかえすね。なんか首輪みたいでいやだし。」
「持っておけ。俺のケイデンシーだぞ。何かあったときに役に立つ。ただし悪用はするな。」
「なにかあるかなあ…なら、インベントリに入れておく。」
「城にいるときは下げとけ、あれだ。入館証だと思え。」

 適当なことを抜かすカインに、一体どこの世界に第一王子のマークを施した入館証があるのだと思う。ミハエルは困った顔をしながら石をつまむと、カインは何が不満だと言わんばかりに片眉を上げた。

「…サディンくんにへんにおもわれたらどうしよう…」
「は、そもそもスタートラインに立ってもいないやつが無用な心配をするな。時間の無駄だ。」

 鼻で笑うカインは、間違いなく二人の性格を受け継いでいる。ミハエルはぐうの音も出ない事実に肩を落とすと、もうお家帰りたいなあと漏らす。だって、今日は誕生日なのだ。カインはミハエルの服を改めてみたあと、漸く今日がなんの日かを思い至ったらしい。

「その服を見せに行ってくればいいだろう。普段野暮ったい白衣ばかりなんだから。」
「医術局の制服なんですけど…」
「ああ、色気ないよなあ。いっそのこと足でも出してみたらどうだ。」
「薬品かからないようにあの白衣着てるの。防御力減らしてなんの得もないよ。それに危ないし。」

 なるほど、一応理にかなっているのかと納得すると、隣の部屋がにわかに騒がしいことに気がついた。なんでわかったかというと、カインとミハエルの飲んでいた茶の水面が揺れていたからである。

「イズナ、」
「確認してまいります。」

 一礼をして、イズナが部屋を出ていく。通常なら王子とふたりきりなんてタブーだ。それでもミハエルは特別らしい。カインは書いたばかりの契約書を複製すると、そのもう一枚をミハエルに渡した。

「む、」

 数分後、控えめなノックと共に入室の許可を得たイズナがひょこりとドアの隙間から顔を出した。
 困り顔でミハエルを見つめてくるので、どうやらまたダラスが何かやらかしたのかと察したらしい。裾を正して立ち上がると、居たたまれなさそうにしながら側による。

「あ、あの…父がすみません…」
「…まだ何も申してはおりませんが、そうですね…ミハエル殿のお力をお借りしても?」
「無論です。」

 カインは他人事だとわかった途端に腰を上げた。立ち上がるとミハエルより頭一つ分高いのが悔しい。自分よりも年下のくせに、なんで自分にはカインのような威厳というものが出ないのだろうと思った。

「向かおう、こちらの話はまとまったからな。」
「絶対面白がってますよね…」

 クシャッとした顔でミハエルがぼやくのが面白い。カインは乱雑に頭を撫でると、やけに楽しそうにしながらイズナについて執務室に向かう。

 近づくに連れて、なにやら不穏な音が聞こえてくる。戦いているミハエルの様子に、カインは執務室にもしっかりと防壁魔法がかけられているから安心しろといってのけた。心配しているのはそういうとこではないのだが、ミハエルは一際大きな音が聞こえると、その細い体をびくんと跳ねさせた。

「待て、話せば分かる!」

 バタン!と大きな音とともに扉から転げ出てきたのは、ダラスとカインの父親であるジルバであった。
ダラスはともかく、ジルバまで珍しく顔を引き攣らせているものだから、ミハエルもイズナも何事かと顔を見合わせた。

「聖属性魔法は半魔にも効くのでしょうか。」

 優しい声色で聞こえてきたのはルキーノの声であった。どうやら拗れたらしい、ルキーノの腰にしがみつくようにして真っ青な顔をしたグレイシスがミハエルを見上げる。

「ミハエル!!はやくルキーノを止めろ!!」
「はぁ、は、はい!お、おかあさんやめてください!」

 静かに怒るルキーノに、まさかの空身でミハエルが突撃をした。両手を広げてがばりと抱きついたミハエルに、ダラスは助かったといった具合に壁に背をもたれかからせた。

「一体何があったのですか。」
「楽しい家族計画の話をしていたら着火した。」
「馬鹿者、そんな生易しいものではないわ!」

 悪びれなく言ってのけるジルバの頭をグレイシスが引っ叩く。話を聞くに、とりあえず子だけ成せば離婚しても構わんと、デリカシーの欠片もないことを言ってのけたジルバが火種だったらしい。

「俺も思ったが口にはしなかったぞ。ミハエルに嫌われたくないからな。」
「うちの息子はそういうの気にしないからいいかと思ったのだが。」
「自分の息子をなんだと思っているのだ貴様は!」

 グレイシスもやはりキレたらしいが、こちらはいっとうにまともであった。いわく、王政など自分の代で終わりだと。自分たちの子供が番うのは素晴らしいが、本人たちの望まぬ結婚など不利益しか産まない。だとしたら好きなものと婚約させて、国の頭脳を外に出さぬほうが合理的であるといったのだ。
 その頭脳のなかにミハエルも入っているとほのめかされると、嬉しいような恐れ多いような。ミハエルは頬を染めながら素直に礼を言う。

「グレイシス様にお褒めいただいて恐悦至極です。」
「お前本当にダラスの息子か。ルキーノが良い子育てをしたのだな。うむ、父の手綱は母としっかりと握っておれよ。」

 ルキーノはミハエルの腕の中で瞬き一つせずにジルバを真っ直ぐに見つめている。変な寒気がするのは殺意を向けられているからだろう。一気にルキーノの中でのジルバの立ち位置が天敵認定になったのは面白い。
 過去は世話になったくせに、子が絡むとルキーノの沸点は一気に低くなるのであった。
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