こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

文字の大きさ
51 / 151

50

しおりを挟む
 マリーは、顔も見たことがない母がいた。母もマリーと同じ男娼で、お父さんはその男娼を雇っていた主だ。二人は愛し合って、そして母は産後の肥え立ちが悪くてなくなった。マリーの母は、この体に半魔の血を残してくれた。人よりは多い魔力と、半魔にしては少ない魔力。黒髪褐色の赤目は、少しだけ人狼の血を引いているかららしい。

 マリーは、生みの親の顔は知らない。だけど、少しの間育ててくれた、美しい男娼のことは覚えている。膨らんだ腹を重そうにしながら、マリーは他の二人とともに育てられた。
 なんでそんなことを覚えているか、だって、マリーは一度だけこの館から連れ出されたことがあったからだ。美しい男娼と、おそらく番であろう褐色の肌の男。あとから知ったが、ねじれた角を持つその男こそが魔物だったらしい。
 その男と男娼によって、この箱庭から連れ出された。孤児院に3人で入れられ、そうして二人は何処かへ行った。悲しかった。連れて行ってほしかった。子供だったから、意味もわからずにひたすら恨んだこともあった。だけど、大人になった今はわかる。あの二人は、マリーを守ってくれようとしたのだと。

 マリーは二人に会いたかった。寂しくて、だから探しに行こうと思って、愚かにも一人孤児院を抜け出した。そうして、探しに来ていた今のお父さんに捕まって戻された。

ー可愛いマリー、お前は誘拐されたんだ。あの愚か者二人に。可哀想に、怖かったよね。もう本当のお父さんもいないけど、僕が君のお父さんになってあげるからね。
ーなんで、おとうさんいないの?
ーお父さんはね、あの魔物に殺されたんだ。怖いことだよ、君を誘拐したアイツを許すまいとしてね。
ーお、おかあさんは?
ーあの愚かな男娼のことかい?あいつは一人逃げてしまった。まあ、あの腹だ。遠くへは逃げれない。惜しむらくは君に兄弟をみせてやれないことか。ああ、本当に口惜しい。

「愚かなマリー、僕は、だめなこ。」

 ひっく、と喉が震えた。ちがうよ、きっと、あの魔物が殺されたのは、あの男娼を守るためだ。細い手足を小さくさせて、マリーは膝を抱える。マリーはここしか生きられない。孤児院に行って、兄弟たちに会いたくても、きっともう居ないだろう。男娼は、無事に産めたのだろうか。でも、彼も妊娠薬を飲まされていた。きっと、きっともう死んでしまっているに違いない。

「おか、あさん…っ、うぅ、っ…」

 お母さんと呼んでもいいよと言ってくれた。あの日から、彼はマリーのお母さんだったのだ。血の繋がらない母、マリーは本物を持っていない。
 妊娠はしたくない、怖い。自分の体すら、自分のものではなくなってしまう気がして怖いのだ。
 マリーは一瓶飲んでしまった。もう後がない、誰でもいいから助けてほしい。子を孕んでも、きっとこの娼館の男娼として育てられるに違いない。ヒュキントスの箱庭、魔物のように美しい美男が揃うと言われるこの場所は、いつぞやか本物の半魔の者しか残らなくなった。

「リンドウは、」

 不意に、最近入ってきた新しい男娼の事を思い出した。いいな、リンドウだけ人間だ。魔力がたくさんある人間。半端のマリーと違って、教養もあって、治癒術だって使える。きっと本物のお父さんとお母さんだっている。リンドウは、リンドウだけ人間だ、あのきれいな男娼と同じで、同じ人間だ。いいな、いいなあ。

「人間が番ったほうが、美しい半魔は生まれやすい。」

 半魔は半魔だ。魔物と番っても、生まれるのは半魔だけ。でも、何処かに魔物の要素が色濃く出る。マリーの赤目のように。シスの腰の痣のように。
 人が交じると、分からない。見分けは耳しかないのだ。血の黄金比があると聞いた。今のお父さんは学者だったから、魔物の魔力に負けない器を探していると言っていた。

「ああ、だからリンドウなんだ。」

 魔力が多くて、器が大きければ、魔物の魔力と薬が反応しても劣化は緩やかになる。リンドウは、それを満たしてるから、繋にはいいんだ。
 マリーは、それならきっと、もうこんな怖い思いはしないかもしれないと思った。自分たちは、子を産めば老いて死ぬしかない。でもリンドウは、きっと老いが緩やかだろうから、次の男娼が来るまでは働けるのだ。
 今はユリもいる。ストックが二人もいるから、さきにリンドウを実験するつもりなのだろう。

「マリーは、マリーはまだ死にたくない。」

 3日、リンドウはあの貴族のところに向かっていった。スミレを騙したあの貴族のもとに行ったということは、お父さんは次がもう欲しいのだ。よかった、マリーはまだ選ばれない。リンドウがうまくやればやるほど、マリーは長く生きられる。
 頑張って、応援するから、全力でマリーの為に頑張ってほしい。

「ユリにもいわなきゃ、リンドウがいれば、こわくないよって。」

 マリーは、長くここにいる。ずっと身近な恐怖に苛まれ続けていたから、少し壊れていた。自覚もなく、周りも気が付かず、緩やかに己の心を壊していった。縁を持たぬ半端なマリーは、今日も一人で隠れるように、自分の部屋のクロゼットの巣の中で縮こまる。
 胎児に戻りたい。腹の中でこもっている頃が、幸せだった気がするから。

「誰か、たすけて。」

 掠れた声でポツリと呟いた。鼻を啜る、膝を抱えて体を小さくする。このまま、小さな点になって消えてしまえたら、こんなことを思う自分も気にならなくなるのにな。そんなことを思って、マリーは自分の腕に爪を立てながら静かに心を殺すのであった。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...