飲み屋のトイレで外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話 

だいきち

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ナイトワンダーランド

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「思ってたんと違う…。」

 パカりと口を開けた美樹は、バルではなくクラブの中にいた。
 道中、スマートフォンで調べた道通りに向かっていた美樹だったが、先ほどすれ違ったボインの外国人お姉さんを発見し、そのままフラフラとついて行ってしまった次第である。
 女の尻を追いかけて、当初の目的地とは違う場所に着いてしまったのだ。しかも、バルのようにムーディではない。いや、別のベクトルでは非常にムーディではあったが、少なくともナンパ初心者で若輩者の美樹が足を踏み入れていい場所ではなさそうである。

 体に響くような重低音、チカチカするブラックライト。ミラーボールに反射して散らばったカラフルな光が人混みに降り注ぎ、さまざまな人種性別の人々が、体を揺らしてリズムに乗っている。
 上からも下からも、光線状の光がビュンビュン飛び交うクラブの中は、肌の色を忘れてしまうかのようなピンク色が辺りを覆っている。ナイトクラブなんて来たことがない美樹にとって、ここは異世界だ。思わず呆気に取られて立ち竦んでいると、先ほどのボインなお姉さんがステージ上に現れた。
 
「ここの人だったんだ…」

 人混みに押されるようにして進んだ先のステージ近く、お姉さんはエナメルの水着のようなものに身を包み、その長い足に編みタイツを纏っている。黒い仮面に、真っ赤なルージュ。黒いうさみみを頭につけて、見まごうことなきバニーガールである。
 そんな、大変に色っぽい召し物に身を包んだまま、その豊満な体をポールに押し付けるようにして空を舞う、ポールダンスのショーガールがその正体だったようだ。
 
 赤いヒールが、光線の光に反射して軌跡を描くように振り上げられる。蹴り上げられた光が四方に散らされるたびに、会場のボルテージは音量とともに高まってきたように思えた。
 自分が独り言を言ってても、誰も気にもしないような熱気だ。美樹は、その会場の空気に酔ってしまい、人にぶつかりながら併設されているカウンターへと逃げる。
 ここは、いわゆるパリピの集う場所である。自分は決して陰キャではないと思っていたが、この場所に馴染めないあたり陽キャでもなさそうだ。こんなに歩くのが下手になると思わなかった。美樹は何度も人にぶつかりながら、這々の体でカウンターの淵に手をかけると、ヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。
 
『ちょっと、邪魔よ。』
「あっご、ごめんなさっ」
『ここは未成年の子が来ていい場所じゃないわ。ママはどこ?』
『…成人してるよ、ちょっと人酔いしただけだ。』

 頭上から降ってきたネイティブな発音に、咄嗟に日本語で返してしまった。
 美樹はカウンターのスツールに腰掛け、細い足を拘束するかのようにリボンで巻き上げたウェッジヒールパンプスを履いた、パンクファッションに身を包む女性に声をかけられた。
 
 なんで片足のガーターベルトを外しているんだろうやら、なんて歩きにくそうなレザーのミニスカートだとか、そんな洗濯ネットみたいなハイネックの下にブラトップだけだなんて。やら、美樹の知っている女性のファッションから随分と認識のかけ離れた衣服を身に纏った彼女は、これまたルーズソックスのような真っ黒なアームカバーに包んだ腕の刺青を見せつけるかのように、女性らしい細いタバコをふかしている。

『随分とベビーフェイスだこと。もしかして、あんたもロンサム目当て?』
『ロンサム?』
『嘘、知らないでここ来たの?』

 嘘でしょ!美樹と同じ黒髪をアシメントリーにカットした女性は、外国人らしく両手を大きく広げて肩を竦める。こうして聞くと、オウ、ではなく、アウ、と言っているようにも聞こえる。美樹は久しぶりの異性との会話に少しだけ緊張しながらも曖昧に頷くと、彼女はハ、と息を吐き出して笑った。

『隣、空いてるけど座らないの?』
『お、お邪魔します…』
『日本のドラマでしか聞いたことないセリフね。』

 少しだけ人を小馬鹿にしたような話し方をするのは癖らしい。しかし、美樹としてはこうしてまともに会話をすること事態が久しぶりだったこともあり、もしかしたらこの子はツンデレ属性なのかもしれない…などと、随分と能天気なことを思っていた。
 彼女の名前は、シェネルというらしい。ここでは本名を教えないらしく、シェネルはナイトクラブが初めてと言った美樹を前に、少しだけ得意げになったように説明をしてくれた。
 どうやら、こういうとこにはスーツで来ないらしい。長い爪にネクタイを引っ掛けられて、くい、と引っ張られる。己より小柄な美樹に対しては女王様でいることにしたらしく、シェネルは甘い香りのする煙を美樹に吹きかけると、あっという間にネクタイを緩められ、胸元をだらしなくはだけられた。
 
 苦しくても、第一ボタンしか外したことのない美樹としては落ち着かない。しかし、同時に悪い男にもなった気分だった。
 なんだか少しだけ気持ちが大きくなってしまう。これが、ナイトクラブの魔力、そして、第二ボタンまで開けるという背徳感。

『シェネル、君から見て、俺は魅力的になったかな?』
『野生的なチワワくらいにはなったんじゃない?』
「ち、ちわ…」

 真っ黒なアイメイクに囲まれたアイスグレーの瞳が楽しそうに歪む。どうやらシェネルは酔っているらしい。自分のマティーニを飲み干すと、次にバーテンダーに注文をしたのは、ゾンビという名のアルコール度数の高いカクテルだ。ラム三種類にアプリコットブランデー、柑橘系のジュース三種類にグレナデンシロップやらダークラムのフロートなどが入った、口当たりも良く飲みやすい。一見オレンジジュースにも見えるそれを美樹に手渡すと、星が飛びそうなほど茶目っ気のあるウインクを放った。

『今日の出会いに』
『き、今日の出会いに…』

 得体の知れないカクテルを手渡されるままに受け取った。見た目はただのジュースだが、やたら訳のわからないリキュールをバカすかと混ぜているのを目にしていた。
 背中にじんわりと汗をかく。これを飲んでしまったら、まずい気がする。美樹は酒が得意ではないのだ。しかし、シェネルはまるで美樹が口にする事を疑わないといわんばかりに可愛く見つめてくる。カクテルで濡れた口元が艶を帯びていて、目が離せない。どうしよう、男を見せるべきだろうか。でも、今日の出会いに感謝してくれたし、彼女が頼んだものを口にしないのもな、などと悶々と考えていれば、目の前のシェネルの瞳が、うっとりと細められた。

 こ、これは、もしかして俺に気があるのかも知れない。

 美樹は、己がチワワ扱いをされていたことなどすっかりと忘れて、ごくりと生唾を飲み込んだ。シェネルが立ち上がる。美樹の前に、控えめな大きさの二つの膨らみが近づいてきた。
 いい匂いがする。もしかして、抱きしめられちゃったりするのだろうか。いわゆる、ボディランゲージってやつで。

『シェネル、またこんなところにいたのか。』
『ロンサム!今日はもう会えないのかと思った!』
『ウェッ』

 その時だった。美樹の頭上から、少しだけ不機嫌そうな声が降ってくる。ギョッとして、振り向こうとしたのも束の間で、美樹は妙な奇声をあげる羽目になった。
 どうやらシェネルが見知らぬ外国人に抱きついたらしい。しかも、美樹を挟んでだ。望んだ形とは随分と異なってしまったが、シェネルの二つの膨らみが美樹の頭の上に乗っかった。柔らかなお腹と、硬い男の腹の間に挟まれた美樹は、二種類の甘い香水の香りをダイレクトに受けて、ピシリと身をこわばらせた。

『ロンサム、今夜のお相手は誰?それとも、私をシンデレラにしてくれる?』
『さては君、相当酔っているな?今日は帰った方がいい。また君は若い男に意地悪をするだろう。』
『そんなことしないわ。今だって、迷子の子犬を可愛がっていただけだもの。』
『子犬…?』

 硬い男の腹に頭を預けていた美樹が、シェネルの胸が退かされたことによって、恐る恐る頭上を見上げる。顔に、まだシェネルの柔らかなお腹の感触と熱が残っている。とんでもない経験をしてしまったと頬を染め、心拍数を上げたままの涙目が捉えたのは、絵に描いたような美形であった。

「ヒェ…」
『…日本人?』
『日本のチワワよ。彼、これで成人してるんですって。』
『ふうん。』

 ぎこちなく、美樹が顔の位置をずらす。目線を泳がせるようにしてステージに目を向けようとすると、男性の腕に刻まれた椿と龍の和彫が目に入った。
 単色ではあるが、随分と見事な彫り物だ。美樹が憧れる男らしさの一つでもあるそれをまじまじと見つめてしまうと、その手が徐に美樹の頬を包み、顎を持ち上げた。

「コニチハ?」
「こ、今日は…」

 本当はこんばんわだろうが。そんなことを思ったが、当然口にすることなんて出来る訳が無い。柔らかく微笑まれれば、その顔の良さに思わず目がくしゃっとなった。外国人の黒髪はずるい。少しウェーブがかかった髪は、濡れたような仕上がりになっており、薄いブルーにも見えるグレーの瞳が真っ直ぐに美樹を移している。
 厚みのある唇は色気があって、背中を預けてしまった体は、しっかりと鍛え上げられていた。そんな、随分と上等な男から放たれるぎこちない日本語のギャップがまた可愛らしい。

「ロンサム、チットワカル。ニホンゴ、イタダキマス、オハヨゴザマス、メダマヤキ、マジデヤバーイ?」
「め、目玉焼きマジでやばいは面白い…」
「オカワリ?」
「それ、お分かりって言ってる?」
『通じてる?』
『君が言ったのは、もっと食べたいって意味のやつ。』

 ロンサムは、顔はハリウッド俳優ばりに整って入るが、中身は気さくな外国人だったようだ。美樹が英語を話せるとわかった途端、背中に花を散らすかのようにして喜んだ。
 シェネル曰く、ロンサムは日本が好きらしく、語学留学に来ているそうだ。日本の友達を作りたくても、外国人というだけで身構えられたりするようで、なかなか出来ないと言っていた。日本人の気質に、外国人のコミュニケーション力はなかなかに合致しない。ロンサムのように顔のいい外国人が声をかけてきたら、ハニートラップだと思われても仕方がないような気がした。
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