ヤンキー、お山の総大将に拾われる2-お騒がせ若天狗は白兎にご執心-

だいきち

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細やかな宴

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 そうと決まれば。と、呑気に笑って歓待しようなどと宣った波旬に続けと、琥珀も睡蓮も由春も、依を除いた三人の妻達に背を押され、あれよあれよと言う間に御殿の中に案内をされた。水喰の御殿とは違う。沼御前の御殿は水の中の窟の中にあった。道筋は不思議なことに玉砂利が浮かぶようにして続いており、睡蓮も琥珀も沈みやしないかと恐る恐ると踏みしめながら降りていく。由春はというと、早々に下肢を龍に変えていたので、否応なしに跨ればよかったかもしれねえと琥珀がぼやいていた。

 中には岩をくり抜いて作った燭台の道が続き、途中途中で横穴があった。どうやらそれらは椎葉山のあらゆる場所に繋がっているようだ。何かが起きれば、その穴を挟むようにして置かれた燭台の炎の色が変わるという。

「あのね、饒河様がいけないことをしたとわかったのは、梔子のおかげなんだよ。」
「え?」
「志津、おやめよ。恩義せがましくて端ないよ。」
「ええ!ごめん、そんなつもりじゃなかったんだようっ」

 梔子に体当たりをするように抱きつく志津の言葉に、睡蓮がそわりとする。そのからくりが知りたかったのだ。不思議そうに見やる睡蓮にそれを悟ったのか、今度はぴょんと跳ねて琥珀の隣りにいた睡蓮に抱きつくと、その頭を抱えるように抱き締める。

「ぅぶっ!」
「あのね、玉兎はみんな兄弟みたいなものなんだけど、梔子はいっとう睡蓮を愛でていてね、」
「ほう、愛でていたとは?」
「やめろ、由春。てめえまでくっついてくんな。」

 ヒョコリと顔をだした由春が、興味深そうに耳を傾ける。志津はにんまりと笑うと、むぎゅむぎゅと暴れる睡蓮を抱き込みながら、びしりと梔子を指差す。

「得意の八卦占いでずっと見守ってたんだ!」
「もう!志津のばか!言わないでって言ったろう!」
「あいてっ!波旬様梔子がぶったよう!」

 顔を真っ赤にした梔子の嗜めから逃げるように、志津は慌ただしく波旬に飛びつく。それをなんなく受け止めると、わしわしと志津の頭を撫でてやる。

「まあ、お前の番には怪我をさせてしまったが、彼奴がお前に害を成していたら、今頃雷の餌食になっていたろう。」
「あたぼうよ。んなの、こんがり焼いてやらあ。」
「でも、外れるときは外れるのにね?」
「得意って言ったってさ…、下手の横好きみたいなもんだもの。」

 梔子が、申し訳無さそうに睡蓮を見る。まるで、勝手に占ってごめんと言わんばかりであった。ちらりと左腕を見る。その顔に影が指したことに気がつくと、睡蓮は梔子の手を握った。

「…睡蓮に、なにか良くないことが起きるって出たんだ。だけど、それを乗り越えたら願いが叶うって出てたから、僕…」
「ううん、いいの。だって僕、今が一番幸せだもの。」

 柔らかく微笑む睡蓮に、梔子は困ったように笑った。この兄弟はいつも自分のことは後回しである。それでも、ちろりと目配せをするように、琥珀と呼ばれた大天狗を見やるその姿は、幸せという言葉に嘘偽りがないことを示す。

「皆おそいー!僕もう草臥れちゃったよう!」

 先に戻っていた依はというと、前掛けをして木箸片手にぷんすことしていた。どうやら先に宴の準備をしていたらしい。本日の花形は焼き鱒のようだ。依が立つ背後の部屋からは、実に食欲のそそる香ばしい匂いが薫る。

 焼き筍を混ぜ込んだ炊き込みご飯、焼き鱒、人参のきんぴらに、山菜の天麩羅。付け合せにはお漬物と、そして赤みそとあさり、油揚げの浮いたおみおつけ。白い豆腐には葱と生姜が乗せられている。ちりめんじゃこはお好みで、なんともほっこりとする美味そうな飯であった。

 皆が習って席に着き、今日の食事に感謝する。いつもよりも多い人数に、嬉しそうに顔を見合わせて笑い合う四羽の美しい人妻と、満足そうな美丈夫。そしてお呼ばれされた睡蓮達は、なにやら少しだけ面映ゆい。波旬の号令に合わせて仲良く頂きますを口にすると、細やかな宴の始まりだ。

「睡蓮の好きなきんぴら、前と味付け変えてないんだよ。」
「う、うん、っ」

 柔らかく微笑んで、依がそんなことを言った。睡蓮は、胸が一杯でいい子のお返事はすぐに出なかったけれど、大きなおくちでばくりと一口食べると、涙目でふにゃりと笑った。




  
「べろんべろんじゃねえか。」

 真っ赤な顔で、酒の入った甕を抱えて蜷局を巻く由春と、その体にもたれ掛かるようにして、睡蓮がお膝にきんぴらの盛られた器を乗せて、ひっくとしゃっくりをする。
 酒精にやられてへろへろの二人を見下ろした琥珀は、こいつらを俺が運ぶのか?とやや辟易した顔である。

「まさか、睡蓮がお酒飲めないなんてねえ…、大天狗様、嗜ませたりしないの?」
「飲ませたことねぇな。てか、こいつの歳しらねえ…」
「ええ!思い合ってるのに!?」

 志津が、琥珀の言葉に素っ頓狂な声を上げる。出雲はそれを、波旬の膝の上に腰掛けて眺めている。波旬は梔子の細い体をもたれ掛からせながら、腰に腕を回して満足そうである。給仕は妻達の仕事なようで、出雲は時折波旬の口元に料理を運ぶ。

「睡蓮は、確か人で言うと十七位か。」
「あ!?元服してねえの!?」
「なに、ざっくりと言ったまでさ。」
「ざっくりでも酒飲ませるなや!」

 琥珀は依に頼んで水を持ってきて貰うように言い付ける。志津はというと、睡蓮の横に膝をついた琥珀の背後からひょこりと顔を出す。

「なんで水龍様まで酔ってるの?」
「こいつは飲めるけど蟒蛇うわばみじゃねえんだ。後すぐ寝る。」
「ふぅーん、」

 すうすうと寝息をたてる由春を覗き込むように、志津が見つめる。琥珀はというと、睡蓮の手からきんぴらの皿を取り上げて、その頭をワシャワシャと撫でる。
 
「おら、グダってんな。依が水持ってきてくれっから、とりあえず皿は置いておけ。」
「依のきんぴら…あう…」
「酔い覚めてからまた食えばいいだろうが。ったく、」
 
 琥珀によって取り上げられたきんぴらを名残惜しそうに目で追うも、睡蓮はふんふんと鼻をひくつかせて琥珀を見上げると、すりすりと琥珀の首筋に額を擦り付けるようにして甘える。
 
「おま、…帰ったら覚えておけよ。」
「うん…?」
「なんでもねえ。」
 
 睡蓮の珍しい甘え方に驚いたのは、どうやら琥珀だけではなかったらしい。水を汲んできた依が、わあっと珍しいものを見たかのように反応をすると、志津と共にその様子を茶化す。どうやら、こんな露骨に甘える睡蓮の様子は今までに無いらしい。そんなことを言われれば、琥珀だってまんざらでもないわけだ。無言で睡蓮の頭を引き寄せ、その顔を己の首筋に埋めさせると、華奢な腕を首に回して抱き上げる。
 
「悪いけど一室かしてくんねえか。寝かせたい。」
「波旬様、繁殖したいんだって!」
「おやおや。」
「んなことひっと事も言ってねえ!!」
 
 燥ぐ二羽を嗜める。琥珀としては、座敷にいつまでも酔っぱらいを転がしておくのは片付けができないだろうという配慮だったのだが、なんだか揶揄われた気分である。波旬は膝から出雲を下ろして立ち上がると、梔子と出雲はそそくさと部屋の準備に向かった。片腕で睡蓮を抱き上げた琥珀が、下肢を龍に変えた由春を蹴り起こす。
 
「おら、眠てえならこんなとこで寝るんじゃねえ。片付かねえだろうが。」
「うん、ううぅ…んあ?」
「ほら、眠たいのなら私が運んでやろう。人型に戻りなさい。」
 
 波旬の言葉に、くありと欠伸をした由春は、素直に人型に戻るわけもなく、相変わらずの不遜な態度のまま、その首に腕を回してお言葉に甘える。
 長い下肢をぐるりと巻き付けるように波旬にしがみつくと、そのまま琥珀と共に出雲と梔子が用意した寝室へと向かう。

「あんなにブスくれてたのに、欲求に抗わずに怠惰を優先しやがった…」

 由春を見ながら呆れた声で琥珀が言う。由春を軽々と抱き上げた波旬はというと、由春の長い尾を引き摺りながらついてこいと言う。
 どうやら他の者たちは片付けてから行くと言っていた。琥珀が手伝いを申し出はしたが、お客様だからと断られる。

「大天狗様、おみず!」
「ああ、わりいな。」

 あてがわれた一室の寝具の上に睡蓮を座らせようとしたが、うつらうつらしながらも首に抱きついたまま離れぬ背を、ぽんぽんと宥めるように撫でてやる。
 由春はというと、降ろされた途端にシュルシュルと蜷局を巻いて、己の体を枕にして寝転がる。

「うんん、ぬくもりがたりん…すいれーーん…」
「わっ、ゆ、由春さま!志津は睡蓮じゃないよう!」
「もふもふがないと寝れぬのだ、構うものか。付き合え、」
「ううう、うわきになっちゃううー!」

 細い腕で志津を抱き込むと、わたわたと暴れていた志津が助けてほしそうにこちらを見る。
 波旬は、布団を準備し終えた出雲を抱き上げると、まるでここが定位置だと言わんばかりに足の間に妻を収める。

「随分と気にかけてるじゃねえの。」
「孕んでいるからな、梔子の子ではあるが、皆私の子供のようなものさ。」
「梔子も可愛がってくれるよ、今は僕のお腹が人気者なだけさ。」

 楽しげに笑う出雲は、皆妊娠してるからって優しくしてくれるのが嬉しいと、そう言っていた。志津は、仕方ないと諦めたように由春の腕の中で大人しくしていた。
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