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四人の妻達
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沼御前、波旬の姿はそこにあった。美しい池の畔で、呑気に釣り糸を垂らしている。
己の住処で釣りを楽しむなど、と琥珀は呆れたが、一つ目小僧が言うには人の真似事がしたいだけだという。
「沼御前。」
「おお、また雁首揃えて来たなあ。」
琥珀の声掛けに、おっとりとした声色で振り向いた美丈夫は、柔らかく微笑んで睡蓮を見る。由春に手を握られた気弱そうな兎の妖かしは、前よりも随分といい顔つきになった。
「おかえり睡蓮、とは言っても、建前だ。どうせ御嶽山に戻るのだろう?」
「波旬様、はい…。」
ぺこりとお辞儀をして、ゆっくりと顔をあげる。波旬は、興味深そうに睡蓮を見つめると、ニコリと微笑んだ。
「雌の匂いだ。わは、ついに腹に種をつけられたか。」
「いや、あ、あのっな、なんっ」
「何を戸惑う、営みは生きとし生ける万物の特権さ。」
「はう…」
「おや、水喰の子だね。やはりお前は色気がないなあ。」
楽しげにくつりと笑うと、睡蓮の隣でぶすくれる由春を見る。まさか沼御前の本性が水喰に負けず劣らずの美丈夫だとは思わなかったらしい。由春は無言でそっぽを向くと、睡蓮を引き寄せて己の盾にした。
「ふふ、気位が高いのは水喰譲りかい、まあいい。どら睡蓮。お前を待ち望んでおるのは何も私だけではないのだよ。」
「あ、」
波旬の黒い虹彩が柔らかく光る。その目元の朱色が流れるように顔を向けた、その男らしい体躯の後ろには、隠れるように藪からぴょこリと顔を出す四羽の兎の妖かしがおり、皆一様にその瞳を潤ませてこちらを見つめていた。
「これ、お前たち。家族が戻ったのだぞ、歓待せねば。」
「依、出雲、志津、梔子!」
「す、すいれんんーーーーー!!」
だっ、と睡蓮が駆け出した。名前を呼ばれた四羽は、皆堪らずに藪から飛び出すと、そのちまこい体を転がすようにして其々が転化する。皆、白い髪に色素の薄い肌は変わらず、色味の違いはあれど玉兎特有の紅玉の瞳を持つ。ただ、四羽が著しく睡蓮と違ったのはその体躯であった。
「でけえ…」
絶句したように琥珀が呟く。呆気にとられた由春も、ぽかんと口を開けたままその光景を見やる。
「睡蓮、ああ、会いたかった!!」
「お前は相変わらず小さいね、可愛い睡蓮、その腕はどうしたんだい?」
「木の色じゃないか!可哀想に、余程えらいめにあったんだね!」
「ああ、柔らかな毛並みは変わらないね、もっとお顔を見せて睡蓮、」
睡蓮の小柄な体躯は玉兎だからだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。睡蓮の周りを囲む玉兎はというと、皆琥珀のように上背があり、紋白蝶のように美しい白い羽のような睫で形のいい目元を縁取り、そして一様に中性的な美貌を讃える。そんな者たちが、桜貝のような爪をつけた白魚の手の平でこぞって睡蓮に構うのだ。年頃の男ならば眼福の光景であろう、波旬の趣味だろうか。みな着丈の短い着物を召しており、豊かな白い尾を隙間から晒し、皆細く長い脚の太ももには鱗のような入れ墨を刺していた。
「私の妻達は皆美しかろう、あそこに睡蓮も加われば、幼妻の枠も埋まるのだがなあ。」
「黙れ変態。睡蓮は俺んだっつの。」
「おや、やはりお前と契ったかい。口の悪いのは嫁似かね。まったく、つれぬところまで似るとは。」
依と呼ばれた長髪巻き髪の玉兎が睡蓮の頭を抱き込んで頬擦りをすれば、出雲と呼ばれた気の強そうな短髪の玉兎が睡蓮を引き寄せ、ふんふんと匂いを見分する。
「い、出雲くすぐったいよう!」
「知らない雄の匂いがする、睡蓮も番ったの?」
出雲の言葉に、志津と呼ばれた前髪を上げた眠そうな目の玉兎は頬を染め、梔子と呼ばれた癖の無い長髪を三編みにした玉兎は、まるでその匂いを辿るかのように後ろを振り向く。
「天狗と龍!」
「睡蓮!やだ、玉の輿じゃないか!」
「お前の旦那はどちら?僕たちの旦那様はね、」
「み、みんな!わかった、わかったから落ち着いてぇ!」
みな玉兎は好奇心が旺盛らしい。四羽によってもみくちゃにされた睡蓮は、嬉しいやら気恥ずかしいやら、ぴるぴるとオッポを振りながらも、ボサボサになった髪を手櫛で整える。
「お前達、紹介をする前に燥ぐでないよ。私の美しい妻達は皆腕白で困る。」
こちらにおいで、波旬がそう言って手を広げれば、皆嬉しそうにする。はにかむ者や、照れ臭そうにする者もいた。四羽の美しき玉兎の妻達は、まるで横に侍ることが幸せだと言わんばかりに波旬に寄り添う。
睡蓮は、なんだかそれが少しだけ大人な光景に見えてしまい、皆己よりも余程進んでいるなあと、まるで他人事かのように見やる。
「仕えるのが幸福だと言うのなら、皆娶って仕舞えばいいのだよ。ただ無作為に指示をし、ふんぞりかえるなど愚か者がやることだ。皆こうして一様に愛してやれば、愛情を持って返してくれるしなあ。」
「俺には酒池肉林のすけべ野郎に見える…」
「黙っておれ琥珀、まあ、私も同意見だがな。」
波旬は皆等しく愛しているらしい。特に四羽は仲間割れを起こす気配もない。なんでそんな器用なことができるのだと、頭が痛そうに琥珀が眉間を抑えると、波旬に腰を抱かれていた出雲が睡蓮をみた。
「睡蓮も、早く孕んでしまいなよ。血を頂き、繋がりを持つというのは、とても光栄なことだよ。」
「えっ、出雲妊娠してるの!」
白銀の髪を短く整えている出雲は、気の強そうな瞳を嬉しそうに緩ませる。梔子の細い腕が出雲の腰に回ると、そっとこめかみに口付ける。
「出雲の子は、僕の子だよ。だけど、波旬様はおめでとうって言ってくれるんだ。」
「愛しき妻の子ぞ。愛でぬわけがないだろう。」
「波旬様と褥を共にすることもあるけど、僕たちは僕たちで遊ぶことの方が多いから。ね?」
「うん、ほら。僕達ってそういう欲求強いし。」
あっけらかんと曰う仲間達に、今度は睡蓮の方が赤面する。自覚は大いにある分、なんというか居た堪れないのだ。波旬は出雲の肩を抱いてその身を引き寄せると、チラリと琥珀を見た。
「なんなら滞在中に混ざればいい。宴でも開こうか。」
「余計な世話だっつの!生憎竿は一本しかねえもんで。」
「そうか、二本あるのは私だけか。それは野暮を申した。」
琥珀が断るとわかってて言ったのだろう。波旬はくつくつと笑うと、依に二、三囁くように言伝をする。依は軽やかな足取りで波旬の背後にある美しい青の水面に駆け寄ると、戸惑いなく水面にその身を沈める姿にギョッとした。
「ぎょ、玉兎は泳げません!」
「うん?ああ、妻達は私の眷属の証を身に刻んでおるからな、水の方が守ってくれるのさ。」
波旬の説明に加えるかのように、志津がその長い足に刺された蛇のような帯状の刺青を見せる。
「これが僕らの番いの証。もう皆体に波旬様の血を取り込んでるから、僕たちはもう玉兎であっても少しだけ違うんだ。」
「え、そうなの?」
「睡蓮もそうだよ。僕たちの体は、主人をたてなければうまく妖力が使えない。もし睡蓮が大天狗様のご寵愛を賜われたのだとしたら、その体は変わるはずだよ。」
志津の言葉に、琥珀も由春も一様に睡蓮を見下ろした。びくんと肩を揺らして、突然注目をされたことに気恥ずかしそうにすると、おずおずと琥珀に寄り添う。
「志津、でも睡蓮は生まれた時から僕たちよりもずっと小さかったんだ。だから、もしかしたら大きくなることはないのかも。」
「梔子、わかんないよ。だって僕たちですら身長が伸びたじゃないか。それに、背丈は望めなくても、もしかしたら妖力は増えるかも。」
基本的に、無垢な玉兎が番うと、相手が己よりも上位種であるなら、その恩恵が体のどこかに現れる。沼御前波旬の妻達は、皆その真名を伝えられ、身に眷属の証を刻み、そうして血を与えられたことで、皆水を使った妖術を扱えるようになった。無論、皆一様に波旬が分け隔てなく愛しているので、その肌も知らぬものはいない。しかし兎の発情期は一斉に揃うのだ。そういった場合は、やはり異種である波旬の種よりも、玉兎の種が優先されるという。
「いやらしくて可愛らしい。皆聡明であるしな。」
「やっぱただのすけべじゃねえか!」
「すけべなんかじゃないよ、波旬様はとってもお上手なんだから!」
「わああ!皆明け透けなのはやめてえ!」
頭が弱いのがバレてしまう!睡蓮が慌てて間に入るも、玉兎の性質は由春も琥珀も存じ上げるところであった。梔子が止めに入った睡蓮に抱きつく。
「ねえ睡蓮、日帰りだなんてつれないこと言わないでさ、お家においでよ。いま依が宴の支度をしているし!」
「えぇ!」
「ふん、良いではないか。私も腹が空いたしな。泊まりはせんでもご相伴は預かろう。」
「ゆ、由春様まで!」
由春が腕を組み、見下すようにふんと笑う。その様子を、玉兎達は嬉しそうに燥ぐものだから、思っていた反応と違ったらしい由春が、無言で睡蓮を見つめてくる。やめてほしい、そんな目で見られても質は変えられないのだから。
己の住処で釣りを楽しむなど、と琥珀は呆れたが、一つ目小僧が言うには人の真似事がしたいだけだという。
「沼御前。」
「おお、また雁首揃えて来たなあ。」
琥珀の声掛けに、おっとりとした声色で振り向いた美丈夫は、柔らかく微笑んで睡蓮を見る。由春に手を握られた気弱そうな兎の妖かしは、前よりも随分といい顔つきになった。
「おかえり睡蓮、とは言っても、建前だ。どうせ御嶽山に戻るのだろう?」
「波旬様、はい…。」
ぺこりとお辞儀をして、ゆっくりと顔をあげる。波旬は、興味深そうに睡蓮を見つめると、ニコリと微笑んだ。
「雌の匂いだ。わは、ついに腹に種をつけられたか。」
「いや、あ、あのっな、なんっ」
「何を戸惑う、営みは生きとし生ける万物の特権さ。」
「はう…」
「おや、水喰の子だね。やはりお前は色気がないなあ。」
楽しげにくつりと笑うと、睡蓮の隣でぶすくれる由春を見る。まさか沼御前の本性が水喰に負けず劣らずの美丈夫だとは思わなかったらしい。由春は無言でそっぽを向くと、睡蓮を引き寄せて己の盾にした。
「ふふ、気位が高いのは水喰譲りかい、まあいい。どら睡蓮。お前を待ち望んでおるのは何も私だけではないのだよ。」
「あ、」
波旬の黒い虹彩が柔らかく光る。その目元の朱色が流れるように顔を向けた、その男らしい体躯の後ろには、隠れるように藪からぴょこリと顔を出す四羽の兎の妖かしがおり、皆一様にその瞳を潤ませてこちらを見つめていた。
「これ、お前たち。家族が戻ったのだぞ、歓待せねば。」
「依、出雲、志津、梔子!」
「す、すいれんんーーーーー!!」
だっ、と睡蓮が駆け出した。名前を呼ばれた四羽は、皆堪らずに藪から飛び出すと、そのちまこい体を転がすようにして其々が転化する。皆、白い髪に色素の薄い肌は変わらず、色味の違いはあれど玉兎特有の紅玉の瞳を持つ。ただ、四羽が著しく睡蓮と違ったのはその体躯であった。
「でけえ…」
絶句したように琥珀が呟く。呆気にとられた由春も、ぽかんと口を開けたままその光景を見やる。
「睡蓮、ああ、会いたかった!!」
「お前は相変わらず小さいね、可愛い睡蓮、その腕はどうしたんだい?」
「木の色じゃないか!可哀想に、余程えらいめにあったんだね!」
「ああ、柔らかな毛並みは変わらないね、もっとお顔を見せて睡蓮、」
睡蓮の小柄な体躯は玉兎だからだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。睡蓮の周りを囲む玉兎はというと、皆琥珀のように上背があり、紋白蝶のように美しい白い羽のような睫で形のいい目元を縁取り、そして一様に中性的な美貌を讃える。そんな者たちが、桜貝のような爪をつけた白魚の手の平でこぞって睡蓮に構うのだ。年頃の男ならば眼福の光景であろう、波旬の趣味だろうか。みな着丈の短い着物を召しており、豊かな白い尾を隙間から晒し、皆細く長い脚の太ももには鱗のような入れ墨を刺していた。
「私の妻達は皆美しかろう、あそこに睡蓮も加われば、幼妻の枠も埋まるのだがなあ。」
「黙れ変態。睡蓮は俺んだっつの。」
「おや、やはりお前と契ったかい。口の悪いのは嫁似かね。まったく、つれぬところまで似るとは。」
依と呼ばれた長髪巻き髪の玉兎が睡蓮の頭を抱き込んで頬擦りをすれば、出雲と呼ばれた気の強そうな短髪の玉兎が睡蓮を引き寄せ、ふんふんと匂いを見分する。
「い、出雲くすぐったいよう!」
「知らない雄の匂いがする、睡蓮も番ったの?」
出雲の言葉に、志津と呼ばれた前髪を上げた眠そうな目の玉兎は頬を染め、梔子と呼ばれた癖の無い長髪を三編みにした玉兎は、まるでその匂いを辿るかのように後ろを振り向く。
「天狗と龍!」
「睡蓮!やだ、玉の輿じゃないか!」
「お前の旦那はどちら?僕たちの旦那様はね、」
「み、みんな!わかった、わかったから落ち着いてぇ!」
みな玉兎は好奇心が旺盛らしい。四羽によってもみくちゃにされた睡蓮は、嬉しいやら気恥ずかしいやら、ぴるぴるとオッポを振りながらも、ボサボサになった髪を手櫛で整える。
「お前達、紹介をする前に燥ぐでないよ。私の美しい妻達は皆腕白で困る。」
こちらにおいで、波旬がそう言って手を広げれば、皆嬉しそうにする。はにかむ者や、照れ臭そうにする者もいた。四羽の美しき玉兎の妻達は、まるで横に侍ることが幸せだと言わんばかりに波旬に寄り添う。
睡蓮は、なんだかそれが少しだけ大人な光景に見えてしまい、皆己よりも余程進んでいるなあと、まるで他人事かのように見やる。
「仕えるのが幸福だと言うのなら、皆娶って仕舞えばいいのだよ。ただ無作為に指示をし、ふんぞりかえるなど愚か者がやることだ。皆こうして一様に愛してやれば、愛情を持って返してくれるしなあ。」
「俺には酒池肉林のすけべ野郎に見える…」
「黙っておれ琥珀、まあ、私も同意見だがな。」
波旬は皆等しく愛しているらしい。特に四羽は仲間割れを起こす気配もない。なんでそんな器用なことができるのだと、頭が痛そうに琥珀が眉間を抑えると、波旬に腰を抱かれていた出雲が睡蓮をみた。
「睡蓮も、早く孕んでしまいなよ。血を頂き、繋がりを持つというのは、とても光栄なことだよ。」
「えっ、出雲妊娠してるの!」
白銀の髪を短く整えている出雲は、気の強そうな瞳を嬉しそうに緩ませる。梔子の細い腕が出雲の腰に回ると、そっとこめかみに口付ける。
「出雲の子は、僕の子だよ。だけど、波旬様はおめでとうって言ってくれるんだ。」
「愛しき妻の子ぞ。愛でぬわけがないだろう。」
「波旬様と褥を共にすることもあるけど、僕たちは僕たちで遊ぶことの方が多いから。ね?」
「うん、ほら。僕達ってそういう欲求強いし。」
あっけらかんと曰う仲間達に、今度は睡蓮の方が赤面する。自覚は大いにある分、なんというか居た堪れないのだ。波旬は出雲の肩を抱いてその身を引き寄せると、チラリと琥珀を見た。
「なんなら滞在中に混ざればいい。宴でも開こうか。」
「余計な世話だっつの!生憎竿は一本しかねえもんで。」
「そうか、二本あるのは私だけか。それは野暮を申した。」
琥珀が断るとわかってて言ったのだろう。波旬はくつくつと笑うと、依に二、三囁くように言伝をする。依は軽やかな足取りで波旬の背後にある美しい青の水面に駆け寄ると、戸惑いなく水面にその身を沈める姿にギョッとした。
「ぎょ、玉兎は泳げません!」
「うん?ああ、妻達は私の眷属の証を身に刻んでおるからな、水の方が守ってくれるのさ。」
波旬の説明に加えるかのように、志津がその長い足に刺された蛇のような帯状の刺青を見せる。
「これが僕らの番いの証。もう皆体に波旬様の血を取り込んでるから、僕たちはもう玉兎であっても少しだけ違うんだ。」
「え、そうなの?」
「睡蓮もそうだよ。僕たちの体は、主人をたてなければうまく妖力が使えない。もし睡蓮が大天狗様のご寵愛を賜われたのだとしたら、その体は変わるはずだよ。」
志津の言葉に、琥珀も由春も一様に睡蓮を見下ろした。びくんと肩を揺らして、突然注目をされたことに気恥ずかしそうにすると、おずおずと琥珀に寄り添う。
「志津、でも睡蓮は生まれた時から僕たちよりもずっと小さかったんだ。だから、もしかしたら大きくなることはないのかも。」
「梔子、わかんないよ。だって僕たちですら身長が伸びたじゃないか。それに、背丈は望めなくても、もしかしたら妖力は増えるかも。」
基本的に、無垢な玉兎が番うと、相手が己よりも上位種であるなら、その恩恵が体のどこかに現れる。沼御前波旬の妻達は、皆その真名を伝えられ、身に眷属の証を刻み、そうして血を与えられたことで、皆水を使った妖術を扱えるようになった。無論、皆一様に波旬が分け隔てなく愛しているので、その肌も知らぬものはいない。しかし兎の発情期は一斉に揃うのだ。そういった場合は、やはり異種である波旬の種よりも、玉兎の種が優先されるという。
「いやらしくて可愛らしい。皆聡明であるしな。」
「やっぱただのすけべじゃねえか!」
「すけべなんかじゃないよ、波旬様はとってもお上手なんだから!」
「わああ!皆明け透けなのはやめてえ!」
頭が弱いのがバレてしまう!睡蓮が慌てて間に入るも、玉兎の性質は由春も琥珀も存じ上げるところであった。梔子が止めに入った睡蓮に抱きつく。
「ねえ睡蓮、日帰りだなんてつれないこと言わないでさ、お家においでよ。いま依が宴の支度をしているし!」
「えぇ!」
「ふん、良いではないか。私も腹が空いたしな。泊まりはせんでもご相伴は預かろう。」
「ゆ、由春様まで!」
由春が腕を組み、見下すようにふんと笑う。その様子を、玉兎達は嬉しそうに燥ぐものだから、思っていた反応と違ったらしい由春が、無言で睡蓮を見つめてくる。やめてほしい、そんな目で見られても質は変えられないのだから。
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