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1巻
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しおりを挟むロマンティックにささやいて
1
夕焼けに染まるグラウンド。
一人でサッカーボールを蹴りながら走る少年。
バックネットの裏でそれをずっと見ている少女。
その手に握り締めているのは真っ白なタオル。
でもきっと、今日も渡せない。
まるでお祈りをするかのようにギュッと手を握り締め、切なすぎる眼差しで少年の姿を追っている。
たった一人でボールを追いかけるその姿に、少女の胸がぎゅっと痛くなった。
バックネットから離れ、少しだけ近付いたその時、ふいにボールが少女の足元まで転がってきた。
追ってきた少年はそこで初めて少女に気がつく。
険しかった顔に少しだけ笑みが浮かぶ。
『……なんだ、いたのか』
『……うん』
少年はさらに近づくと、微かに震えている少女の手からタオルをそっと取った。
『使っていい?』
『あっ、うんっ』
自分のタオルで汗を拭く少年の手を、少女は信じられない思いでじっと見つめていた。
汗と砂埃で汚れたタオルを持ったまま、今度は少年が少女を見つめる。
不安げに揺れる少女の眼差しとは対照的に、少年の瞳は熱く燃えている。
少年の腕がすっと上がって、長い指が少女の頬に触れた。
指の冷たさに、少女が小さく震えた。
その様子に少年が艶やかに微笑んだ。
『……あのさ、おれ、お前が……』
ジリリリリ……!!
「……ああもうっ、イイトコだったのにっ」
たった今まで目の前にあったロマンティックな光景は一瞬で消えた。手探りで目覚まし時計を止める。ガンッという音とともにピタリと止まった不快な音。
淡い桃色のカーテン越しに朝の日差しを感じながら、大きくため息をついた。
左手には開いたままの文庫本。眠る直前まで読んでいた、少し古ぼけたその本はピンク色の背表紙で可愛い挿絵がついている。学生の頃からお気に入りの少女小説だ。台詞なんてもう空で言えるくらい繰り返し読んだ。でも、何度読んでも夢に見るくらい素敵なお話。
腕を伸ばして、ベッドのすぐ横にある背の低い本棚にそれをしまった。そこにはもちろんわたしのお気に入りコレクションが入っている。ずらりと並ぶピンクの背表紙に思わずニヤリと笑みがこぼれた。
容姿端麗な男の子と、何の変哲もない〝普通〟の女の子のお伽話みたいな恋愛物語。昔から妹がコレを見るたびに、「お姉ちゃんのイメージに全然似合わないっ」とぶつくさ言っていたことを思い出す。でも妹が隠れてこの本を読んでいたことをわたしは知っていた。
乙女ちっくが好きで何が悪い。
王子様みたいなゴージャスな男の子に憧れて何が悪いの。
二十九歳の独身女が読む内容ではないのはわかっているけれど、今のところやめるつもりはない。だって、誰に迷惑をかけているわけでもないもの。
ぐっと背伸びをしてから、えいっと起き上がる。本棚の上に置いてある読書用の小さなライトはつけっ放しだった。それを消してから、小さなテーブルの上にあるリモコンに手を伸ばしてテレビをつけた。
一人暮らしを始めた時からずっと暮らしている八畳のワンルーム。お給料が上がるたびに引越しを考えるけれど、手を伸ばせば必要なものが取れるというのは結構快適だ。贅沢を言うならユニットバスのトイレとお風呂が分かれていればもっといいけれど、もうそれにもすっかり慣れてしまった。小さなキッチンのたった一つの電気コンロはお湯を沸かす以外ほとんど使ってない。料理はそれなりにできるけれど、あえてする必要もない。コンビニと美味しいレストランを知っていれば、食べることには困らない。
一人暮らしも五年以上経つと朝の支度もお決まりのパターンができていて、意識しなくてもからだが勝手に動く。目覚めてから三十分後にはいつものわたしが出来上がっていた。
飾り気のないグレー系のスーツ。くせも味気もないまっすぐな黒い髪はきっちりと一つに束ねて黒いバレッタで留める。横長のフレームの眼鏡をかければ、ほら、お局様の出来上がりだ。周囲の評判はあまりよくないけれど、自分では結構気に入っている。この〝ざあます眼鏡〟だって、わざと選んだんだから。
とことんお堅いオールドミス。それはわたしそのものだ。
三浦倫子、二十九歳。独身。
見かけは典型的なお局様。不細工だと言われたことはないけれど、顔立ちは地味だと思う。
理想のタイプは昔の少女小説に出てくるような、ハンサムでゴージャスで王子様みたいな男の子。もちろんそんな人は現実にはなかなか存在しないことも知っている。
社会人になって間もなくできた初めての恋人は会社の先輩で、当然のことながら〝普通〟の人だった。告白されたことに舞い上がって付き合い始めたのはいいけれど、生来地味で頭の固いわたしに嫌気がさした彼は、半年も経たないうちにわたしに別れの言葉を告げ、さらには会社からも去っていった。
随分経ってから上司の恋人にちょっかいを出して地方へ飛ばされたとかなんとか噂も流れたけれど、本当のところはわからない。
ショックを受けて一日寝込んだ後、ただ一つ確実にわかったことは、自分が男性との付き合いに向いていないということだった。
彼と別れて以来誰ともお付き合いができないのは、自分が努力をしていないからだ。何にも努力をしなければ誰も寄ってくることはなく、もちろん自分から行く勇気もない。
友達曰く、おしゃれに気を使って愛想よくすればいいんだとのことだけれど、それができないのがわたしだ。受身なのが駄目なこともわかっている。傷つくことを恐れて臆病になっていることも自覚している。
でも、それでも恋がしたいと思う時もある。
いつか王子様が……なんてもう言うつもりもないけれど、こんなわたしでもいいよって人がどこかにいればいいのに……
あの本に出てくる男の子みたいに……
『おれだけだよ、君のことを守れる男はね。わかってる? 子猫ちゃん』
なんてっ。
きゃーっ、もうなんて素敵なのっ。
とても高校生とは思えないこの台詞っ。
……って、落ち着けわたし。高校生に口説かれると思う方がヤバイでしょ。
こうやって妄想が出てしまうなんて、本当にもう末期かもしれない。
もうっ、悩んでたって仕方がない。妄想は本の中だけで満足しておこう。
はっとテレビの時刻を見ると、もう出かけなければいけない時間になっていた。急いでベッドの横の本棚から今日の一冊を選び、ブックカバーをかけて鞄にしまった。もちろんこれは電車の中や会社の休憩時間に読むつもりだ。
テレビの主電源を切ってから部屋をざっと見回して最後にもう一度鏡を見る。キッチリとまとめられた、色気もそっけもないわたし。これが現実なのだ。
2
いつもどおり始業時刻の三十分前に会社に着く電車に乗った。朝の満員電車はそれほど嫌いじゃない。段々と近づいてくる副都心のビル群。大きな駅で吐き出されるように降りる乗客。無関心を装い、無個性のままでいられる空間。
いつもと変わらないその風景は、安定と不安の両方をもたらす。きっと何も変わらない一日が今日も始まる。
出社後、いつものようにロッカールームで制服に着替えてから、自分の所属する経理部のフロアに向かう。
「おはようございます。三浦主任」
入り口のすぐそばにいた、先月入ったばかりの新入社員が初々しい笑顔で迎えてくれた。
「おはよう」
初々しさなんて当の昔にどこかに行ってしまったわたしは、いつもどおり貼り付けたような笑顔を浮かべて挨拶をしながら自分の席へと向かった。昨日綺麗に片付けてから帰った机の上には、すでにいくつかの書類が載っている。椅子に座って鞄をしまい、はぁと息をつきながらそれを眺めた。
主任。出世がしたかったわけじゃないけれど、いつの間にかポストが上がっていった。
同期で入った何人かがすでに寿退社をしていることは言うまでもない。このままどんどん役職だけが上がって一人取り残されるのかと思うとぞっとする時もある。
まあ実際、確実にそのコースを歩んでいることは否定できない。安定と不安。時々ふと訪れる、背筋がぞっと震える感覚。傍らに寄り添える人が欲しいと心から思う瞬間。
あーあ、恋がしたい。
その時ドサッと音がした。ふと目を向けると、真っ赤なブランドのバッグが隣の机に置かれたところだった。
「おはよう、倫子」
「おはよう」
「ねえ、明日飲み会があるんだけど、久しぶりに来ない? ちなみ合コンじゃないわよ」
「……朝からいきなり話す話題じゃないわよ」
やんわりと睨むように見上げると、同期の田端寛美が赤く塗られた唇の端に小さな笑みを浮かべた。
「予約を取るから早めに人数確認しておかないとね」
「……わたしはいいわよ」
「たまには来なさいよ。浅倉さんは来ないけど、営業部とかからもイイトコ来るわよ」
イイトコって、肉とか魚の切り身みたい……
寛美のそんな言い方がおかしかったので思わず心の中で笑ってしまった。
「ごめん。せっかくだけどわたしはいいわ。それよりも、週末はほぼ毎週飲み会に行ってるじゃない。あなたこそ気をつけなさいよ」
もう若くないんだから。その言葉を視線に乗せて、めっと睨む。
「大丈夫よ。自分でちゃんとセーブできてるんだから」
寛美はまたふふっと笑って席を立つと、別の後輩のところに行って同じ話をし出した。
同期の田端寛美は垢抜けた美人で、同じ歳の二十九歳だ。派手めの彼女と地味なわたしだけど、性格が正反対のせいか初対面の時から結構仲よくしている。
寛美がちょっと前まで夢中になっていた浅倉さんは同じ会社の情報管理部の課長さんだ。彼に恋人ができたことが明らかになって、しばらくは彼女も自暴自棄気味だったけれど、最近になってようやく落ち着いてきた。それでも彼の姿を追わずにはいられないらしい。本人は目の保養だと言って彼との接点を探し続けている。
コンパや飲み会に頻繁に参加して、新しい恋を見つけようとしている彼女を羨ましく思うこともあるけれど、自分も同じようにしようとは思わなかった。基本的に社交的なことが苦手なのだ。
それに、お酒が飲めない。お酒の席で気の利いた会話もできない。だから新人歓迎会や送別会、忘年会以外はほとんど出たことがない。それでも毎回声をかけてくれる寛美には感謝をしている。
ちなみに浅倉課長は近寄りがたいくらいの美形だ。確かにゴージャスな王子様タイプではあるけど、冷たい感じが否めないのでわたしはあんまり興味がない。見る分にはかなり目の保養になるけれど。
でもどうせ見るなら子犬みたいな男の子の方がいい。
そう、あの夕焼けのグラウンドで、一人でボールを蹴っているような……
カモシカみたいに細くて、でもたくましい脚。風に揺れるのは少し長めの髪。
運動部だけど、絶対っ汗くさくなんてなくて……そうっ、柑橘系の香りよ。レモンとかライムとか……
それから、心地よく耳に響くバリトンの声。
……ん? バリトン? どんな声だろう。イマイチ想像ができないけど、まあいいわ。
スマートで格好よくて、いつも優雅に微笑んで……
たくましい腕と長い指。乱暴にかき上げられた長めの前髪から覗く、熱く燃える瞳。
女の子を抱く腕は力強くて、でも優しくて。情熱の嵐みたいに強引で……
……って、おいおい大丈夫か、わたしっ。
子犬からは程遠いし、ああもう、色々キャラが混じってるわっ。それに高校生に欲情してどうすんのっ。
変態さんよっ、変態さんっ。落ち着け、倫子っ。
「百面相ですか? 三浦主任」
「……えっ、うあぁ……っ」
いきなり話しかけられたのでものすごく変な声が出てしまった。大慌てで顔を向けると、目の前に楽しそうな顔をした営業部の藤崎彬が立っていた。
「ふ、藤崎くん……な、なあに?」
取り繕ったような表情を急いで貼り付ける。何事もなかったような顔ができていればいいけれど、イマイチ自信がない。
でも藤崎くんはお日様みたいな笑顔を向けただけで、それ以上は何も突っ込まなかった。ギリギリセーフだったのかしら?
「すみません。ええと。交通費の請求したいんですけど、領収書がないんで……」
「ああ、じゃあこれに書いて出してください」
わたしは慌てないように気をつけながら、引き出しを開けて書類を一枚取り出した。
「どうもありがとうございました」
藤崎くんはまた晴れやかな笑顔をわたしに向けて、颯爽と出ていった。
あー、もうっ。変な顔してたのかしら? わたしっ。二十九歳の独身の堅物女に、さらに変態の称号がつくなんて……それだけは絶対に避けたいわ。妄想は家の中だけにしないと。
なんて、一人で苦悶していると寛美が席に戻ってきた。
「今、藤崎くん来てたわね。相変わらずイイオトコだけど、年下なのが残念だわ」
本当に残念に思っているのかはわからないけれど、寛美が年下に興味がないのは本当だ。
藤崎くんは二十五歳。わたしよりも四つも年下で、しかも妹と同い年だ。営業部の若きホープ。見た目は今時のハンサムな男の子で、女の子たちの人気を集めている。今のところ彼女はいないという噂。
染めてない真っ黒な髪は少し長め。明るくて人懐っこくて、優しそうな笑顔はどことなく子犬を連想させる。なんとなく小説の中に出てくる王子様みたいな男の子に似ているような気がして、実はちょっとだけ気になっていた。
女性すべてに優しいから、わたしに対しても分け隔てなく声をかけてくれる。寛美の浅倉課長じゃないけれど、目の保養にたまに見るくらいならいいよね別に、なんて自分に言い聞かせて、時々こっそりと見ていることはもちろん誰にも秘密。
同じことだ。昔の少女小説に想いをはせることも、見目麗しい男の子を盗み見ることも。どっちも同じ。堅苦しい二十九歳の三浦倫子の裏側に隠された、ほんのささやかな楽しみ。
そう、それだけ。
昼休み。社内食堂の一番後ろの隅っこの席でランチを食べ終わった後、カフェオレを飲みながら持ってきた本を読むのが日課になっている。
寛美と食べることもあるけれど、一人の方が気分が楽だ。後ろは壁だし隣にも誰もいないから、わたしが何を読んでいるかなんてわからない。このほんの少しのティータイムがわたしの息抜きだった。
大きな笑い声が聞こえてきた。視線だけを向けると、前の方のテーブルで営業部の人たちが楽しそうに食事をしていた。一番大きな声で話しているのは、営業部のお祭り男、高坂くんだ。その隣には藤崎くんが座っている。
こちら側を向いている藤崎くんの顔が一瞬わたしを見たような気がしたのは、きっと気のせいに違いない。きっと。
「そういえば、営業部の藤崎さんってさぁ」
急に聞こえてきた名前に一瞬だけ心臓が大きく鳴った。ちらりと顔を上げると、すぐ前のテーブルに女の子が三人座ったところだった。それぞれの手に飲み物を持っている。
「総務の有田さんから猛アタックされてるらしいわよ。ほら、今もでしょ」
女の子たちは前方の席の彼らを見ていた。
「……あら、ホントだ」
「有田さんって可愛いわよねぇ」
「彼女って、どうすれば自分が一番可愛く見せられるのか知ってるのよね」
「そして男はそれに騙される」
「所詮男って可愛い女に弱いものなのよ。藤崎さんも時間の問題じゃない?」
「あーあ。これでまたイイオトコが一人いなくなったわ」
「ねえ、それよりさ……」
彼女らの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。胸の奥がちくちくとするのは何故だろう。
わたしは本を読むフリをしながら、もう一度前方を見た。藤崎くんの隣に座っている、可愛らしい女の子が目に留まった。楽しそうに笑いながら、一生懸命話しかけている。はにかむような笑顔と今風にふわりと広がった茶色い柔らかそうな髪。わたしのお気に入りの恋愛小説の主人公みたいに可愛い子。きっと彼よりも年下だろう。
そっか、うん。確かに可愛い。
藤崎くんの隣にはああいう子がよく似合う。
なんだ。なーんだ……
結局その日、わたしは一ページもお気に入りの本を読むことなく、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いた。
3
彼が走っている。
グラウンドに響く歓声と叫び声。
わたしは試合を見守るその他大勢の女の子の中にいて、走る彼を見ていた。
彼は時々ちらりとこっちを見る。
勘違いした他の女の子が黄色い声を上げるけれど、彼が見ているのはもっと後ろだ。
隠れるようにして見ている一人の女の子。
彼の蹴ったボールがゴールネットに吸い込まれる。
同時に鳴る試合終了の笛の音。
一際大きく響く歓声の中、彼は彼女だけに笑顔を向けた。
試合を終えた彼が走ってくる。
取り囲もうとするわたしたちの間を器用にすり抜けて、彼は一直線に彼女のもとへと行き、その華奢なからだを持ち上げて力いっぱい抱きしめた。
悲鳴と歓声が響く中、わたしは口づけを交わす二人を見つめた。
彼の顔がいつの間にか藤崎くんの顔に変わった。
それから彼女の顔はあの有田さんになった。
わたしは遠くからその二人を見上げて、そっと涙をこぼした。
ジリリリリ……!!
目覚まし時計の音と共にバッと目が覚めた瞬間、心の中で悪態をついた。
まったくもうっ、自分の夢くらい自分中心にできないもんなの?
主人公になったっていいじゃない。夢の中くらいカッコイイ男の子に抱きしめられたっていいじゃない。
なのに、なのに、なのにっ。なんでその他大勢の女の子なの!?
しかも名前すらついてない、主人公のライバルにもなれない端役も端役。いてもいなくてもわからないような存在。
それにしても、夢の中にまで二人で出てくるなんて……。
わかりきっていた現実を目の当たりにしたくらいで夢を見るほど動揺してどうするの。年下の見目麗しい男の子に可愛い彼女ができるのは当然のこと。今更ショックを受けることなど一つもない。これまでだって何度かあったことだ。
夢の中でも現実でも、わたしはただ見ているだけのその他大勢の一人でしかないのだから。
いつもどおり支度をして、重いからだを引きずったまま家を出た。満員電車の窓から見えるお気に入りの風景も今朝はそれほど興味を覚えない。それでもいつもの時間に会社に入り、いつもと同じようにキッチリと着替えて自分の職場へと向かった。
「おはよう、倫子」
珍しくわたしよりも早く来ていた寛美が声をかけてきた。
「おはよう」
椅子を引いて鞄をしまう。机の上に重ねられた書類をちらりと見て、思わずまたため息が漏れた。
「ねえ」
「ん?」
顔を上げて横を向く。今日の寛美はいつも以上にお化粧に気合が入っているようだ。髪はゆるく巻かれ、アイラインはいつもより濃かった。
「今日の飲み会やっぱり来ない?」
「うーん、ごめん。いいわ」
「飛び入り参加でも大丈夫だから、気が向いたら来なさいよね。たまにはハメを外すことも必要よ」
寛美は呆れる風もなくそう言うと、定時に帰るためにさっさと仕事を始めた。
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