あなたの蝋燭が消えるまで

晶迦

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3 『命の蝋燭』

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「トキちゃん、大丈夫?」

「……え?ああ、大丈夫」
 
 心配してきた柊ちゃんに、私は慌てて答える。
 どうやら、さっきの授業はもう終わったらしい。
 心配そうな目を避け、私は昨日のことを振り返る。

 口が裂けても「昨日、『死神』を見たから寝不足になった」なんて言えない。
 すぐさま病院送りになるか、よく寝るように懇々と言われるだけだろう。

「最近、ハマったゲームがやめられなくて」

 思わず当たり障りのないことを言う。
 流石に今の状況を素直に話せるほど、彼女との付き合いは長くない。
 というか、今の状況は人に話すこと自体無理だ。

 疑わし気な目をしている彼女に本当のことを言えなくて申し訳ないと思いつつ、次の授業の準備をした。








 大学の授業が終わり、すぐにアパートに帰った。
 色々と考えることがあり過ぎて、自分の落ち着ける場所に一刻も早くいたかった。


 ピンポーン

 勉強机に突っ伏していると、インターフォンが鳴った。
 滅多に鳴ることがないインターフォンに驚きながら、ドアの外が映る画面をそっと見る。

 そして、そっと勉強机に戻った。
 今、この目に映ったものはなかったことにしよう。

 ピンポーン ピンポンピンポン

「うるさっ!」

 流石に相手も諦めなかったようだ。
 諦めてドアの方に向かう。

 ガチャ

「……何の用ですか」

 ドアガードをすることなく、私は目の前にいるものに対面する。
 そんなものをしても無駄だから。

「『死神』さん」

 ふよふよと目の前に浮いている黒い布を見ながら、私は今後の自分の行く末を考えた。
 きっと今までとは違う日常になるのだろうと思いながら。

「……入ってください」

 ソレの返答を待つことなく、私は部屋の中へと戻る。
 微動だにしなかった『死神』が、やっとこちらにやってきだしたのを横目で見た。














「私は死ぬんですね」

「急に物騒なこと言わないでください!」

 部屋に入れて早々に、私は結論を言った。
 しかし、『死神』にいかにも常識的なことを言われて不審に思う。

「いや、だって『死神』さんが『死神』しているとこ見ちゃったし……」

「貴方は『死神』のことどう思ってるんですか……。いや、世間一般だとそう思われてますよね……」

 急に以前のような情けなさを醸し出し始めた『死神』に、私は拍子抜けする。
 命を狩る姿を見られたら、その人間も狩るとかいうのが『死神』なのでは。

「そんなことしてたら、自分が消されます……」

 なるほど、『死神』にも複雑な事情があるようだ。
 納得して頷いていると、ふと違和感を覚えた。

「あれ、今のこと声に出してましたか?」

「え?……あっ」

 明らかにいけないことをした様子の『死神』に、私はニッコリと笑う。
 カタカタと揺れている布に向かって、私は確信をこめて言った。

「心の声、聞こえるんですね?」

 さらに布の震えが激しくなったことが答えだった。
 心を覗かれていたことに居心地の悪さを覚え、意趣返しをした。

(……変態)

「い、いや!自分は表面的なことしか読めなくて……!」

(きゃー、えっちー)

「ち、ちがっ」

 面白いぐらいに反応を示す『死神』が段々可哀想になり、からかうのをやめる。
 表面しか読めないという『死神』の発言はどうやら本当のようだ。
 からかうために心に思い浮かべたのに、その「からかう」という真意は読めなかったみたいだから。

「それで、な『死神』さんは私に何の用でいらっしゃったんですか」

「ほ、ほんとにごめんなさい、もう勝手に覗いたりしませんから……」

 『死神』から言質を取り、本題に入る。
 本当に、この『死神』はこんなに気弱で大丈夫なのだろうか。

「本当に、私に何の用があるんですか?」

 大きな体(布)?を縮めていた『死神』は、やっとこちらを向いた。
 フードの部分は未だに揺れているから、人で想像すると目が泳いでいる状態なのだろう。

「そ、その……」

 ゆっくりと話し始めた『死神』に耳を傾ける。
 以前は中世的な声だと思っていたが、今は変声期前の少年の声に聞こえなくもない。

「まずはこの話を聞いてくれませんか」

 そう言って『死神』が話し始めたのは、『死神』と『人』の物語だった。

”ある貧乏な家に、13人目の子どもが生まれた。両親はその子どもを『死神』に差し出した。彼らは「もう多くの子どもがいるため、自分たちでは育てきれない」と言って、その子どもを『死神』の前に置いていった。一人で孤独だった『死神』は喜んでその子どもを育てた。そして、その子どもを死を予言する者として育て上げ、巨万の富を築かせた。その子どもは欲に狂い、『死神』が管理していた『命の蝋燭』を盗んだ。『死神』は今も、その『命の蝋燭』を探している。”

「なるほど……、その『命の蝋燭』ってなんですか」

「わかりません」

「……ん?」

「その、それを探してほしいんです」

「は?」

「す、すみません!」

 ぶるぶると震える布の塊に、スッと冷静になる。
 つまり、『死神』すらわかっていないモノを『人』の私に探してほしいということらしい。

「無理ですね」

「そこをなんとか!」

 気弱な『死神』がここまで食い下がってくるのがひっかかる。
 なにかを見落としている気がしてならない。

「どうしてそこまで探そうとするんですか?」

 肝心なことを言っていないであろう『死神』に優しく問う。
 なお、今している笑顔は目が笑っていないと定評のものだ。

「そ、それは……」

 ニコッ

「その……」

 ニッコリ

「ひぃっ!『死神』が見える『人』に出会ったら、絶対にそれを探さなければならないんですぅー!」

 やっと隠していたことを吐いたが、話が見えない。
 なぜそんな『命の蝋燭』なんて荒唐無稽なものを探さなければならないのか。

「えっと……、相性がよくないと『人』はその『死神』を見ることができないんです」

「へぇ~、面白いですね」

「『人』で言うところの、『相棒』……みたいなものでしょうか」

 どうやら私は、この目の前の『死神』と相性がいいらしい。
 一体、何をもって相性がいいと判断されるのか気になるところではあるが。

「『命の蝋燭』を探すことを『人』側に同意してもらえないと……」

「もらえないと?」

 言いよどむ『死神』をじれったく思いながら、その先の言葉を促す。
 きっとこの『死神』のことだ。しょうもないことで言いよどんでいるのだろう。

「その『死神』も『人』も神罰が下ります……」

「神罰?!」

 結構重めの罰則があるようだ。
 しょうもないことで言いよどんでいるとか思ってごめん。
 全然しょうもなくなかった。

「ぐ、具体的には?」

「『人』側はいろいろと運が悪くなります。頻繁に足の小指をどこかにぶつけるとか」

「うわ、それ結構いやだ」

 地味に嫌な神罰だ。
 でも、『人』側だから、『死神』はどうなのか。

「それはまあ、追々ということで……」

「そっか」

 自分のことを曖昧にしている『死神』に、私は満面の笑みを浮かべる。
 すぐさまビクついた布に向かって言う。

「じゃあ、心を勝手に読んでたことの弁明を聞きましょうか」

「あ……」

 その後、『死神』と膝を突き合わせて話し合いをした。
 こんなに気弱な『死神』でいいのだろうかという疑問は、全く拭いきれなかった。







 その日から、『人』の私と気弱な『死神』の『命の蝋燭』探しが始まった。


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