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第二章 波乱の七日間
四日前①
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カトリーナは馬車に揺られながら外を見ていた。
その表情はひどく不機嫌そうで、口はへの字に閉じられている。
結局昨日の衣装合わせやアクセサリーの合わせは深夜近くまで続いた。
時間があればバルトと話したかったのだが、疲れ切ってそれどころではなかった。湯あみをして着替えをして気づいたら朝だった。
今日は、教会への下見と当日の打ち合わせ。
あらかじめエリアナが来ると聞いていたカトリーナは心の準備はしていたが、実際に目の当たりするのこれほどまでに忍耐が求められるのと驚嘆する。
窓枠に頬杖をついて足を組んでいる彼女の目の前では、困ったような表情を浮かべているバルトと、バルトにしな垂れかかるエリアナがいた。
「今日の横顔もとても凛々しいですのね、バルト様。それと、屋敷のほうに部屋を用意していただいて。とっても快適に過ごしておりますよ」
「それはよかったな」
そういいながら、エリアナの手がバルトの腕から肩へすっと滑っていく。
「それより、バルト様。さっきから誰かさんがとても怖い顔でこちらを睨んでくるんですが……エリアナ怖いです」
「それよりも少し離れてくれないか? 邪魔なんだが」
そう言って、ぎゅっとバルトの腕を抱きしめるエリアナ。身長は低めだが胸元はカトリーナよりもかなり豊満なので、だきしめたと同時にぐにゃりと形を変えた。その様子をみて、カトリーナはついぎりっ、と歯を食いしばる。
(我慢よ、我慢。この前みたいな失態はもう見せられないから。バルト様も煙たがっているようだし、あんまり邪険にできないのは何か理由があるのよ、きっと)
そう言い聞かせるカトリーナの目の前では、エリアナが自身の指をバルトの胸元をそっと這わせていた。
「ねぇ、バルト様。この際ですから今日の教会への下見。誰かさんじゃなくて、私との結婚式の下見にしてしまいませんか? 私はいつでも大丈夫ですよ?」
「少し黙っていてくれないか」
「あら冷たい。でも、そんなところも素敵です」
バキッ! ぶちぶちぶち。
そんな擬音がカトリーナから聞こえてくる。
みると、窓枠は大きく歪み、笑顔のカトリーナの額には青筋がありありと浮き出ていた。
それをみたバルトは、途端に表情を崩しカトリーナに声をかける。
「カ、カトリーナ……大丈夫か?」
「はい。バルト様からみて大丈夫に見えるのなら大丈夫なのでしょう」
「いや、まったく見えないんだが」
あくまで笑顔で受け答えするカトリーナをみたバルトの表情はひどく強張っていた。
それもそうだろう。
あきらかに、顔面とそれ以外とのギャップが激しすぎる。
表情以外を見ると、額には青筋、両腕はぎりぎりと筋がでており力が入り切っている。そもそも、背後から湧き出るオーラもひどい。黒い幻影がみえるくらいには、どんよりとした空気が充満していた。
(本当に、バルト様はどういうつもりなのかしら!!)
疑問と怒りを限界まで蓄えたまま、馬車は教会へと向かっていった。
怒りのカトリーナ、困惑のバルト、誘惑のエリアナという布陣は、道中ずっと変わることはなかった。
教会につくと、馬車から先に降りたバルトがそっとカトリーナに手を差し出してくる。
カトリーナは、その仕草をうれしく思うが、ため続けた怒りは容易にその喜びを打ち消した。
「今更なんですか。ずっといちゃいちゃしてたくせに」
「すまない……理由があるんだが今は話せないんだ……」
「それにしたって――」
カトリーナが渋々その手をつかもうとすると、横から飛び出してきたエリアナがバルトの手をつかむ。
バルトもカトリーナも驚きでぽかんとしてしまったが、さすがに振りほどくわけにはいかない。バルトは渋々エリアナを馬車からおろした。
「ありがとうございます、バルト様!」
「あ、ああ……」
そんなやり取りをしている横で、カトリーナは一人馬車から降りた。
バルトはカトリーナに駆け寄ろうとするが、それをエリアナはさりげなく妨害する。
「あ、痛っ!?」
その声にカトリーナとバルトが視線を向けると、エリアナは足首を押さえて倒れていた。
さすがにやはり、放っておけないバルトはエリアナに手を差し伸べた。
「あ、バルト様! もうしわけございません。ちょっとふらついて――」
「……早く立て」
片足を庇いながら歩くエリアナと付き添うバルト。
カトリーナはそんな二人を後ろから眺めながら自分も教会へと入っていく。
だが、その胸中は穏やかではなく、すっかりはっきりむくれていた。
「……なによ。見え透いたお芝居しちゃってさ」
誰にも聞こえない愚痴は、そのまま地面へとゆらりゆらりと落ちて消えていった。
その表情はひどく不機嫌そうで、口はへの字に閉じられている。
結局昨日の衣装合わせやアクセサリーの合わせは深夜近くまで続いた。
時間があればバルトと話したかったのだが、疲れ切ってそれどころではなかった。湯あみをして着替えをして気づいたら朝だった。
今日は、教会への下見と当日の打ち合わせ。
あらかじめエリアナが来ると聞いていたカトリーナは心の準備はしていたが、実際に目の当たりするのこれほどまでに忍耐が求められるのと驚嘆する。
窓枠に頬杖をついて足を組んでいる彼女の目の前では、困ったような表情を浮かべているバルトと、バルトにしな垂れかかるエリアナがいた。
「今日の横顔もとても凛々しいですのね、バルト様。それと、屋敷のほうに部屋を用意していただいて。とっても快適に過ごしておりますよ」
「それはよかったな」
そういいながら、エリアナの手がバルトの腕から肩へすっと滑っていく。
「それより、バルト様。さっきから誰かさんがとても怖い顔でこちらを睨んでくるんですが……エリアナ怖いです」
「それよりも少し離れてくれないか? 邪魔なんだが」
そう言って、ぎゅっとバルトの腕を抱きしめるエリアナ。身長は低めだが胸元はカトリーナよりもかなり豊満なので、だきしめたと同時にぐにゃりと形を変えた。その様子をみて、カトリーナはついぎりっ、と歯を食いしばる。
(我慢よ、我慢。この前みたいな失態はもう見せられないから。バルト様も煙たがっているようだし、あんまり邪険にできないのは何か理由があるのよ、きっと)
そう言い聞かせるカトリーナの目の前では、エリアナが自身の指をバルトの胸元をそっと這わせていた。
「ねぇ、バルト様。この際ですから今日の教会への下見。誰かさんじゃなくて、私との結婚式の下見にしてしまいませんか? 私はいつでも大丈夫ですよ?」
「少し黙っていてくれないか」
「あら冷たい。でも、そんなところも素敵です」
バキッ! ぶちぶちぶち。
そんな擬音がカトリーナから聞こえてくる。
みると、窓枠は大きく歪み、笑顔のカトリーナの額には青筋がありありと浮き出ていた。
それをみたバルトは、途端に表情を崩しカトリーナに声をかける。
「カ、カトリーナ……大丈夫か?」
「はい。バルト様からみて大丈夫に見えるのなら大丈夫なのでしょう」
「いや、まったく見えないんだが」
あくまで笑顔で受け答えするカトリーナをみたバルトの表情はひどく強張っていた。
それもそうだろう。
あきらかに、顔面とそれ以外とのギャップが激しすぎる。
表情以外を見ると、額には青筋、両腕はぎりぎりと筋がでており力が入り切っている。そもそも、背後から湧き出るオーラもひどい。黒い幻影がみえるくらいには、どんよりとした空気が充満していた。
(本当に、バルト様はどういうつもりなのかしら!!)
疑問と怒りを限界まで蓄えたまま、馬車は教会へと向かっていった。
怒りのカトリーナ、困惑のバルト、誘惑のエリアナという布陣は、道中ずっと変わることはなかった。
教会につくと、馬車から先に降りたバルトがそっとカトリーナに手を差し出してくる。
カトリーナは、その仕草をうれしく思うが、ため続けた怒りは容易にその喜びを打ち消した。
「今更なんですか。ずっといちゃいちゃしてたくせに」
「すまない……理由があるんだが今は話せないんだ……」
「それにしたって――」
カトリーナが渋々その手をつかもうとすると、横から飛び出してきたエリアナがバルトの手をつかむ。
バルトもカトリーナも驚きでぽかんとしてしまったが、さすがに振りほどくわけにはいかない。バルトは渋々エリアナを馬車からおろした。
「ありがとうございます、バルト様!」
「あ、ああ……」
そんなやり取りをしている横で、カトリーナは一人馬車から降りた。
バルトはカトリーナに駆け寄ろうとするが、それをエリアナはさりげなく妨害する。
「あ、痛っ!?」
その声にカトリーナとバルトが視線を向けると、エリアナは足首を押さえて倒れていた。
さすがにやはり、放っておけないバルトはエリアナに手を差し伸べた。
「あ、バルト様! もうしわけございません。ちょっとふらついて――」
「……早く立て」
片足を庇いながら歩くエリアナと付き添うバルト。
カトリーナはそんな二人を後ろから眺めながら自分も教会へと入っていく。
だが、その胸中は穏やかではなく、すっかりはっきりむくれていた。
「……なによ。見え透いたお芝居しちゃってさ」
誰にも聞こえない愚痴は、そのまま地面へとゆらりゆらりと落ちて消えていった。
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