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第二章 波乱の七日間
三日前⑥
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「何を、言って……」
カトリーナはエリオットの言葉が信じられなかった。
やってもいない罪で謝罪をし、悪くもないのに好きな人の元から去れ。
エリオットの言うことは端的に言うとそういうことだった。
「何を言って――」
「カトリーナ嬢。きっと思うところはあると思います。ですが……」
エリオットの視線の動きにならって振り向くと、そこには使用人達が彼女達を見つめている。
その表情は顰められており、カトリーナへの非難が透けて見えるようだった。
「それくらいの落とし前をつけなければ、きっと皆さんは納得なさりません」
肩にぽん、と手が置かれる。
まるで電流が流れたかのようにカトリーナはびくりと体を震わせると、エリオットを見た。彼はやはりほほ笑んでおり、頷きながらカトリーナに謝罪を促してくる。
「そう……なのかな」
「ええ、そうですよ」
カトリーナは思う。
なぜ、やってもいないことで謝罪をするのか。
しかし、今こうして皆が自分を非難しているのは紛れもない事実だ。
そんな状況でここに居続けることはできないし、ましてやバルトと結婚するなんて夢のまた夢。
それならば、きっとエリオットの言うとおり皆に謝罪をしてここから去ればいい。きっと、それが一番の選択なのだろう。
そう。
それが一番いい選択だ。
きっとエリオットも自分をどうにかしてくれる。迷う必要なんてない。今から自分はこのラフォン家を捨てて、エリオットの元に――。
「みなさ――」
――パキン。
今すぐにでも謝ろうとしていたカトリーナだったが、乾いた音が唐突に聞こえたかと思ったら、先ほどまで考えていたことが雲散した。
目の前を見ると、バルトが剣を抜いて空中を横薙ぎにしていたのだ。
「今、わたし、何を――」
急に頭の中がクリアになったようだった。
今のカトリーナには、さっきまで自分が謝ろうとしたことが信じられない。
やっていないことで謝るなんてふざけるんじゃない。そんな確固たる想いを自分の中に感じていた。
「やはり貴様はおかしいと思っていた。何のつもりだ。答えろ」
「バルト様。いきなり剣を振りかざしておかしいとは思いませんか? 一体どうしたというのです。気でもくるってしまわれたのですか?」
「黙れ。カトリーナだけではなく、俺の使用人達に何をした! 殺されたくなければ……吐け」
すると、今まで微笑みを携えていたエリオットの口元が途端に歪む。
そして、カトリーナの首に腕を回し後ろから羽交い絞めにした。その苦しさで、カトリーナはうめき声をあげる。
「うぅっ!」
「やはり、あなたには効かなかったようですね……。なんとも困ったものだ。そう思いませんか、皆さん」
エリオットの声に一斉に反応した使用人達。
ダシャもプリ―ニオも皆がバルトに視線を向ける。その瞳はどこか虚ろであり、焦点が合ってはいなかった。
不気味なその光景に、一瞬バルトが怯んだところ、なぜだか皆が一様にナイフやフォークなどを手に持って、振りかぶってバルトに飛び掛かった。
「ちぃ――!!」
バルトは、その狭間を凄まじい勢いですり抜け、エリオットに肉薄する。
そして、瞬く間にカトリーナをエリオットから奪い取ると、そのまま部屋の窓に足をかけた。
「カトリーナ、舌を噛むなよ」
「え!? え!! えぇ!?」
バルトの脇に抱えられたカトリーナは、落ちていく感覚を全身で感じながら戸惑いの悲鳴を上げるのだった。
カトリーナはエリオットの言葉が信じられなかった。
やってもいない罪で謝罪をし、悪くもないのに好きな人の元から去れ。
エリオットの言うことは端的に言うとそういうことだった。
「何を言って――」
「カトリーナ嬢。きっと思うところはあると思います。ですが……」
エリオットの視線の動きにならって振り向くと、そこには使用人達が彼女達を見つめている。
その表情は顰められており、カトリーナへの非難が透けて見えるようだった。
「それくらいの落とし前をつけなければ、きっと皆さんは納得なさりません」
肩にぽん、と手が置かれる。
まるで電流が流れたかのようにカトリーナはびくりと体を震わせると、エリオットを見た。彼はやはりほほ笑んでおり、頷きながらカトリーナに謝罪を促してくる。
「そう……なのかな」
「ええ、そうですよ」
カトリーナは思う。
なぜ、やってもいないことで謝罪をするのか。
しかし、今こうして皆が自分を非難しているのは紛れもない事実だ。
そんな状況でここに居続けることはできないし、ましてやバルトと結婚するなんて夢のまた夢。
それならば、きっとエリオットの言うとおり皆に謝罪をしてここから去ればいい。きっと、それが一番の選択なのだろう。
そう。
それが一番いい選択だ。
きっとエリオットも自分をどうにかしてくれる。迷う必要なんてない。今から自分はこのラフォン家を捨てて、エリオットの元に――。
「みなさ――」
――パキン。
今すぐにでも謝ろうとしていたカトリーナだったが、乾いた音が唐突に聞こえたかと思ったら、先ほどまで考えていたことが雲散した。
目の前を見ると、バルトが剣を抜いて空中を横薙ぎにしていたのだ。
「今、わたし、何を――」
急に頭の中がクリアになったようだった。
今のカトリーナには、さっきまで自分が謝ろうとしたことが信じられない。
やっていないことで謝るなんてふざけるんじゃない。そんな確固たる想いを自分の中に感じていた。
「やはり貴様はおかしいと思っていた。何のつもりだ。答えろ」
「バルト様。いきなり剣を振りかざしておかしいとは思いませんか? 一体どうしたというのです。気でもくるってしまわれたのですか?」
「黙れ。カトリーナだけではなく、俺の使用人達に何をした! 殺されたくなければ……吐け」
すると、今まで微笑みを携えていたエリオットの口元が途端に歪む。
そして、カトリーナの首に腕を回し後ろから羽交い絞めにした。その苦しさで、カトリーナはうめき声をあげる。
「うぅっ!」
「やはり、あなたには効かなかったようですね……。なんとも困ったものだ。そう思いませんか、皆さん」
エリオットの声に一斉に反応した使用人達。
ダシャもプリ―ニオも皆がバルトに視線を向ける。その瞳はどこか虚ろであり、焦点が合ってはいなかった。
不気味なその光景に、一瞬バルトが怯んだところ、なぜだか皆が一様にナイフやフォークなどを手に持って、振りかぶってバルトに飛び掛かった。
「ちぃ――!!」
バルトは、その狭間を凄まじい勢いですり抜け、エリオットに肉薄する。
そして、瞬く間にカトリーナをエリオットから奪い取ると、そのまま部屋の窓に足をかけた。
「カトリーナ、舌を噛むなよ」
「え!? え!! えぇ!?」
バルトの脇に抱えられたカトリーナは、落ちていく感覚を全身で感じながら戸惑いの悲鳴を上げるのだった。
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