婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件

卯月 みつび

文字の大きさ
44 / 102
第二章 波乱の七日間

二日前②

しおりを挟む
「本当に君は! 何を考えているんだ! 無事だったからよかったものの、もしかしたら死んでいたかもしれないんだぞ!」

 カトリーナの部屋で、バルトは大声で怒鳴っていた。
 怒りを露わにして怒鳴る、ということ自体、プリ―ニオでさえあまりみない姿だったのだ。皆、目ぱちくりさせて驚いており、怒られているカトリーナはしゅんと小さくなっている。

「でも、あそこでアンシェラを逃がしちゃいけないとおもって……」
「それでもだ! どうして俺を頼ってくれない! 俺は、君が炎に包まれたとき、どんな気持ちになったか」
「えっとね……? もし戦争が起こったらバルト様は悲しむでしょ? 私、バルト様が悲しむようなこと、嫌だなって思って。それに、アンシェラは私を憎んでいたみたいだから、自分がなんとかしなきゃって……その……ごめんなさい」

 珍しく殊勝な態度で謝ってくるカトリーナを見て、バルトの怒りも徐々に収まってきた。
 そして、怒りが通り過ぎると次に襲ってくるのは生きていてよかったという安堵。
 バルトは、さっきまでとは異なるやわからない表情で、そっとカトリーナの頭に手をのせた。

「本当に……。頼むから、無茶はしないでくれ。俺は、君が大事なんだ。君を失ったら、俺は……」
「バルト様……」

 急にピンク色になってしまった雰囲気に、近くにいたプリ―ニオが咳ばらいをする。
 すると、部屋にエミリオとカルラが入ってくる。二人は、この屋敷で夜を明かしていた。
 エミリオはいつも通りの爽やかな笑みを、カルラはやはりいつも通りの仏頂面でカトリーナを睨みつけていた。

「おやおや、お邪魔でしたか? そうしたら出直しましょうか?」
「いいんです。どうせ、私達の報告が終わったら好きにやるんでしょうから。ほら、隊長、カトリーナ様。さっさと聞いてくれますか? こんなもったりとした部屋にいると胸やけしてしまいますんで」

 そんなカルラの辛辣な言葉を受けて、バルトとカトリーナは目を見合わせて苦笑いを浮かべた。
 
「ああ、じゃあ報告を聞けるか? エミリオ」
「はい。まずは、今回の被害報告ですが、一応けが人をおりませんでした。アンシェラが入れ替わっていたラフォン家のメイドも無事でしたよ。アンシェラとともにいた男達も、国境沿いに進みながらあそこにたどり着いた直後のようでしたから。傷者にされた事実はありませんでした。まあ、誘拐されたという心的外傷はありますから、もちろんケアは必要ですがね」

 カトリーナは気がかりだったメイドのことが無事だとわかると、大きく息を吐いた。
 だが、とても恐ろしい想いをしたに違いない。彼女の心持をおもうと胸が痛んだ。

「それと……一番の被害は、あばら家とならず者達でしょうか」
「あばら家?」

 エミリオの報告に、カトリーナは首を傾げ、バルトは気まずそうに顔をそらした。

「あばら家に被害ですか? もしかして、私が破ってしまった窓?」
「いいえ。カトリーナ様が壊した窓など被害の一端にもなりません。結論だけ申し上げると、あのあばら家はもうありません。跡形もなく消し飛んでしまいましたから」
「消し飛んだ!?」

 予想だにしない答えに、カトリーナは思わず声を挙げていた。
 そして、結末を知っているだろうバルトに思わず顔を向けた。

「どういうことですか!?」
「ん? まあ、その、な」

 歯切れの悪いバルトに変わり、カルラが口を挟む。

「隊長は、カトリーナ様が倒れたことに怒り狂ってブチ切れて、あのあばら家を魔力で叩き潰してしまったんですよ。あの男達ごと……私が中にいるにもかかわらず。……かかわらずっ!!」

 その言葉には明らかに怒りが込められており、バルトは冷や汗を垂らしながらたじたじだ。
 
「いや、違うんだ、カルラ。悪かった! 俺も頭に血が上ってな!」
「本当に死ぬとこだったんですから! カトリーナ様からも言ってください! あばら家もそうですけど、あのあたり、バルト様の剣劇でぼこぼこで、ぼろぼろになっちゃったんですからね! 何度も言いますが、私が生き残ったのは運ですよ、運! 生きているだけでも神に感謝です!」
「バ、バルト様……」

 あまりの状況に、カトリーナはジト目でバルトをみる。

「あの……気を付けるのは私だけじゃないみたいね」
「む……すまんな。そのようだ」

 そう言ってうなるバルトを見ながら、カトリーナは声を挙げて笑った。
 
 皆、一応は無事だったのだ。
 そして、皆それぞれに危険はあったが今こうして笑いあっているのだから。それはよかったとカトリーナは笑った。
 なんとなく丸く収まったかのように見えた今回の事件。
 
 だが、その温かい空気に横やりを入れる人物が現れる。
 その人物は冷気を漂わせながら、部屋の入口に立っていた。

「騒がしいと思ったら……カトリーナ。起きていたのですね。全く……あれだけのことがあったにも拘わらず暢気なものです」

 今まで聞いたことのない口調で叱責してくるのはエリアナだ。
 普段とは違う冷徹な雰囲気に、思わずカトリーナは息をのんだ。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。