47 / 102
第二章 波乱の七日間
結婚式当日①
しおりを挟む
青い空。白い雲。目がくらむような日差しに目を細めたカトリーナは、空を見上げて大きく息を吸った。
昨日は深い口づけの後、お互いに顔を赤らめながら自室へと戻った。
だんだんと互いに接点が増えるにつれて、気持ちも増していくのがわかる。
カトリーナは青空に昨日のバルトの顔と唇の感触を思い出し、咄嗟にベッドへダイブした。
「いよいよだぁ……ずいぶん遠かったけど」
ベッドの上で弾みながら、シーツのなめらかな感触を楽しんだ。耳を澄ますと、すでに、屋敷中はがやがやと動き出している。
そう。
――今日はいよいよ、結婚式当日だ。
今日の予定は、ごくごくシンプルだ。
まずは身支度を済ませ、そして家族と打ち合わせを行い、結婚式が始まる。それだけだ。
だが、そのための細かい仕来りや作法をおさらいしたり、結婚の時に話す誓いの言葉を忘れないようにカンペを用意しておくことを忘れてはいない。
カトリーナは、前世での乏しい記憶も総動員して、今日に挑んでいた。
「カトリーナ様。おはようございます。いよいよでございますね」
彼女の自室に入りながらそう声をかけてきたのは専属メイドのダシャだ。
ダシャはいささかいつもよりテンション高めで動きも弾むようだった。
「あら、ダシャ。なんだか今日は楽しそうね」
「それはもう。カトリーナ様の晴れ舞台ですよ? 腕が鳴るじゃありませんか!」
「えっと、あなたが気合入ってるのって珍しいわね……。まあ、頑張りすぎないように頑張ってね」
「はい!」
そういうと、いつもの二倍くらいの速度でカトリーナの身の回りの世話を始めた。
カトリーナはその横顔を見ながら、ラフォン家に来てからの日々を思い返していた。
思えばいろいろあったのだ。
最初は、バルトと会うことすらままならず、そして会えるようになっても話すことなど皆無だった。
無理やりパーソナルスペースを侵食していくと、ようやく徐々に心を開き。
かと思えば、小競り合いに巻き込まれ、暗殺騒動。
この一週間も、エリアナのことや、指輪盗難事件やエリオットやアンシェラのたくらみ等々、気が休まる暇がなかった。
そんな怒涛の日々をずっとそばで支えてくれたのは、ダシャだった。
王都に置き去りにしたこともあったが、大体のことは苦笑いを浮かべて許してくれる自分のメイドに、カトリーナは大きな感謝を感じていた。
そんなダシャが自分の結婚式のために今も頑張ってくれている。
そう思うと、つい感情が高ぶり目頭が熱くなってしまう。そして、感情の赴くままにとりあえず抱き着いた。
「ダシャっ!!」
「びゃっ!?」
カトリーナの奇行に悲鳴を上げたダシャだが、目が潤んでいるカトリーナの顔をみて、やはり苦笑いを浮かべると小さく嘆息する。
「どうしたんですか? カトリーナ様。それじゃあ、準備ができません」
「あのね。ダシャ……ありがとう。私、ここにきてまだ少ししかたってないけど、ダシャがいてくれてよかったわ」
「カトリーナ様」
「ダシャが私の専属で本当に良かった……大好き」
未来の公爵令嬢たるもの、メイドにここまで感情を露わにするものではない。
だからこそ、それがカトリーナの本音だとダシャには伝わったのだろう。
同じように目を潤ませると、ダシャもカトリーナの背中に腕を回した。
「私も、カトリーナ様の専属でよかったです。退屈はしませんしね」
「それはそうよ。私だってもうすこし暇なほうがよかったんだから」
二人は互いに目を合わせそして微笑みあうと、一度強く抱きしめあいそっと離れた。
「ほらほら。今日の主役が起きないと、結婚式の最終準備が進みません。急いでいきましょうか」
「ええ!」
晴れやかな顔の二人は、早々に部屋をでる。
今日はまだ、始まったばかりだ。
そのころバルトは、いつも通り庭園で花の世話をしていた。
昨日の時点でカトリーナが来ないことはわかっていた。自分も今日はカトリーナほどではないが忙しい日だ。
最低限の世話を終えると、バルトは園芸用具を片づけおもむろに庭園を眺めた。
「父上……」
義理ではあるが、亡き父を想い目をつぶる。
もし生きていたのなら、きっとカトリーナとも楽し気に土いじりをしてそれはもうにぎやかになっただろう。
だが、それも今は叶わない。
だからせめて。
天に上った父に向けて、今日の門出を報告することにしたのだ。墓でもなく、教会でもなく、想いでの場所であるこの庭園で。
「きっと守り切って見せます。見ていてください」
バルトはそういうと、敬礼を行い深く腰を折った。
最上級の礼をして、颯爽とその場から立ち去った。その背中は、とても堂々としており自信に満ちていた。
その時、バルトの頬を穏やかな風が撫でていく。
振り向くと、その風は、庭園の花達をにぎやかに揺らし、その彩をちらつかせていた。
バルトはそれをみてほほ笑むと、今度こそ屋敷の中に入っていった。
花は、しばらく揺らめいて、そして光を受け輝いていた。
昨日は深い口づけの後、お互いに顔を赤らめながら自室へと戻った。
だんだんと互いに接点が増えるにつれて、気持ちも増していくのがわかる。
カトリーナは青空に昨日のバルトの顔と唇の感触を思い出し、咄嗟にベッドへダイブした。
「いよいよだぁ……ずいぶん遠かったけど」
ベッドの上で弾みながら、シーツのなめらかな感触を楽しんだ。耳を澄ますと、すでに、屋敷中はがやがやと動き出している。
そう。
――今日はいよいよ、結婚式当日だ。
今日の予定は、ごくごくシンプルだ。
まずは身支度を済ませ、そして家族と打ち合わせを行い、結婚式が始まる。それだけだ。
だが、そのための細かい仕来りや作法をおさらいしたり、結婚の時に話す誓いの言葉を忘れないようにカンペを用意しておくことを忘れてはいない。
カトリーナは、前世での乏しい記憶も総動員して、今日に挑んでいた。
「カトリーナ様。おはようございます。いよいよでございますね」
彼女の自室に入りながらそう声をかけてきたのは専属メイドのダシャだ。
ダシャはいささかいつもよりテンション高めで動きも弾むようだった。
「あら、ダシャ。なんだか今日は楽しそうね」
「それはもう。カトリーナ様の晴れ舞台ですよ? 腕が鳴るじゃありませんか!」
「えっと、あなたが気合入ってるのって珍しいわね……。まあ、頑張りすぎないように頑張ってね」
「はい!」
そういうと、いつもの二倍くらいの速度でカトリーナの身の回りの世話を始めた。
カトリーナはその横顔を見ながら、ラフォン家に来てからの日々を思い返していた。
思えばいろいろあったのだ。
最初は、バルトと会うことすらままならず、そして会えるようになっても話すことなど皆無だった。
無理やりパーソナルスペースを侵食していくと、ようやく徐々に心を開き。
かと思えば、小競り合いに巻き込まれ、暗殺騒動。
この一週間も、エリアナのことや、指輪盗難事件やエリオットやアンシェラのたくらみ等々、気が休まる暇がなかった。
そんな怒涛の日々をずっとそばで支えてくれたのは、ダシャだった。
王都に置き去りにしたこともあったが、大体のことは苦笑いを浮かべて許してくれる自分のメイドに、カトリーナは大きな感謝を感じていた。
そんなダシャが自分の結婚式のために今も頑張ってくれている。
そう思うと、つい感情が高ぶり目頭が熱くなってしまう。そして、感情の赴くままにとりあえず抱き着いた。
「ダシャっ!!」
「びゃっ!?」
カトリーナの奇行に悲鳴を上げたダシャだが、目が潤んでいるカトリーナの顔をみて、やはり苦笑いを浮かべると小さく嘆息する。
「どうしたんですか? カトリーナ様。それじゃあ、準備ができません」
「あのね。ダシャ……ありがとう。私、ここにきてまだ少ししかたってないけど、ダシャがいてくれてよかったわ」
「カトリーナ様」
「ダシャが私の専属で本当に良かった……大好き」
未来の公爵令嬢たるもの、メイドにここまで感情を露わにするものではない。
だからこそ、それがカトリーナの本音だとダシャには伝わったのだろう。
同じように目を潤ませると、ダシャもカトリーナの背中に腕を回した。
「私も、カトリーナ様の専属でよかったです。退屈はしませんしね」
「それはそうよ。私だってもうすこし暇なほうがよかったんだから」
二人は互いに目を合わせそして微笑みあうと、一度強く抱きしめあいそっと離れた。
「ほらほら。今日の主役が起きないと、結婚式の最終準備が進みません。急いでいきましょうか」
「ええ!」
晴れやかな顔の二人は、早々に部屋をでる。
今日はまだ、始まったばかりだ。
そのころバルトは、いつも通り庭園で花の世話をしていた。
昨日の時点でカトリーナが来ないことはわかっていた。自分も今日はカトリーナほどではないが忙しい日だ。
最低限の世話を終えると、バルトは園芸用具を片づけおもむろに庭園を眺めた。
「父上……」
義理ではあるが、亡き父を想い目をつぶる。
もし生きていたのなら、きっとカトリーナとも楽し気に土いじりをしてそれはもうにぎやかになっただろう。
だが、それも今は叶わない。
だからせめて。
天に上った父に向けて、今日の門出を報告することにしたのだ。墓でもなく、教会でもなく、想いでの場所であるこの庭園で。
「きっと守り切って見せます。見ていてください」
バルトはそういうと、敬礼を行い深く腰を折った。
最上級の礼をして、颯爽とその場から立ち去った。その背中は、とても堂々としており自信に満ちていた。
その時、バルトの頬を穏やかな風が撫でていく。
振り向くと、その風は、庭園の花達をにぎやかに揺らし、その彩をちらつかせていた。
バルトはそれをみてほほ笑むと、今度こそ屋敷の中に入っていった。
花は、しばらく揺らめいて、そして光を受け輝いていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。