婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件

卯月 みつび

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第二章 波乱の七日間

結婚式当日①

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 青い空。白い雲。目がくらむような日差しに目を細めたカトリーナは、空を見上げて大きく息を吸った。
 昨日は深い口づけの後、お互いに顔を赤らめながら自室へと戻った。
 だんだんと互いに接点が増えるにつれて、気持ちも増していくのがわかる。
 カトリーナは青空に昨日のバルトの顔と唇の感触を思い出し、咄嗟にベッドへダイブした。

「いよいよだぁ……ずいぶん遠かったけど」

 ベッドの上で弾みながら、シーツのなめらかな感触を楽しんだ。耳を澄ますと、すでに、屋敷中はがやがやと動き出している。
 そう。
 ――今日はいよいよ、結婚式当日だ。

 今日の予定は、ごくごくシンプルだ。
 まずは身支度を済ませ、そして家族と打ち合わせを行い、結婚式が始まる。それだけだ。
 だが、そのための細かい仕来りや作法をおさらいしたり、結婚の時に話す誓いの言葉を忘れないようにカンペを用意しておくことを忘れてはいない。
 カトリーナは、前世での乏しい記憶も総動員して、今日に挑んでいた。

「カトリーナ様。おはようございます。いよいよでございますね」

 彼女の自室に入りながらそう声をかけてきたのは専属メイドのダシャだ。
 ダシャはいささかいつもよりテンション高めで動きも弾むようだった。
 
「あら、ダシャ。なんだか今日は楽しそうね」
「それはもう。カトリーナ様の晴れ舞台ですよ? 腕が鳴るじゃありませんか!」
「えっと、あなたが気合入ってるのって珍しいわね……。まあ、頑張りすぎないように頑張ってね」
「はい!」

 そういうと、いつもの二倍くらいの速度でカトリーナの身の回りの世話を始めた。
 カトリーナはその横顔を見ながら、ラフォン家に来てからの日々を思い返していた。
 思えばいろいろあったのだ。
 最初は、バルトと会うことすらままならず、そして会えるようになっても話すことなど皆無だった。
 無理やりパーソナルスペースを侵食していくと、ようやく徐々に心を開き。
 かと思えば、小競り合いに巻き込まれ、暗殺騒動。
 この一週間も、エリアナのことや、指輪盗難事件やエリオットやアンシェラのたくらみ等々、気が休まる暇がなかった。
 
 そんな怒涛の日々をずっとそばで支えてくれたのは、ダシャだった。
 王都に置き去りにしたこともあったが、大体のことは苦笑いを浮かべて許してくれる自分のメイドに、カトリーナは大きな感謝を感じていた。
 
 そんなダシャが自分の結婚式のために今も頑張ってくれている。
 そう思うと、つい感情が高ぶり目頭が熱くなってしまう。そして、感情の赴くままにとりあえず抱き着いた。

「ダシャっ!!」
「びゃっ!?」

 カトリーナの奇行に悲鳴を上げたダシャだが、目が潤んでいるカトリーナの顔をみて、やはり苦笑いを浮かべると小さく嘆息する。

「どうしたんですか? カトリーナ様。それじゃあ、準備ができません」
「あのね。ダシャ……ありがとう。私、ここにきてまだ少ししかたってないけど、ダシャがいてくれてよかったわ」
「カトリーナ様」
「ダシャが私の専属で本当に良かった……大好き」

 未来の公爵令嬢たるもの、メイドにここまで感情を露わにするものではない。
 だからこそ、それがカトリーナの本音だとダシャには伝わったのだろう。
 同じように目を潤ませると、ダシャもカトリーナの背中に腕を回した。

「私も、カトリーナ様の専属でよかったです。退屈はしませんしね」
「それはそうよ。私だってもうすこし暇なほうがよかったんだから」

 二人は互いに目を合わせそして微笑みあうと、一度強く抱きしめあいそっと離れた。

「ほらほら。今日の主役が起きないと、結婚式の最終準備が進みません。急いでいきましょうか」
「ええ!」

 晴れやかな顔の二人は、早々に部屋をでる。
 今日はまだ、始まったばかりだ。



 そのころバルトは、いつも通り庭園で花の世話をしていた。
 昨日の時点でカトリーナが来ないことはわかっていた。自分も今日はカトリーナほどではないが忙しい日だ。
 最低限の世話を終えると、バルトは園芸用具を片づけおもむろに庭園を眺めた。

「父上……」

 義理ではあるが、亡き父を想い目をつぶる。
 もし生きていたのなら、きっとカトリーナとも楽し気に土いじりをしてそれはもうにぎやかになっただろう。
 だが、それも今は叶わない。
 だからせめて。
 天に上った父に向けて、今日の門出を報告することにしたのだ。墓でもなく、教会でもなく、想いでの場所であるこの庭園で。

「きっと守り切って見せます。見ていてください」

 バルトはそういうと、敬礼を行い深く腰を折った。
 最上級の礼をして、颯爽とその場から立ち去った。その背中は、とても堂々としており自信に満ちていた。
 
 その時、バルトの頬を穏やかな風が撫でていく。
 振り向くと、その風は、庭園の花達をにぎやかに揺らし、その彩をちらつかせていた。

 バルトはそれをみてほほ笑むと、今度こそ屋敷の中に入っていった。
 花は、しばらく揺らめいて、そして光を受け輝いていた。
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