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第二章 波乱の七日間
結婚式当日②
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「本当に綺麗だよ」
「えぇ、本当に……最初は不安だったけど、本当によかったわ」
そう呟くのはカトリーナの両親だ。
近くの街に泊まっていた二人は、当日の朝、こうしてバルトの屋敷にやってきていた。応接室に通された両親は、カトリーナの姿を見るや否や、二人はカトリーナをほめたたえる。母親は涙ぐんでカトリーナと抱き合っていた。
すでにカトリーナは髪を綺麗にまとめ、ドレスを着こんで準備はほとんど整っている状況だった。
「ありがとう、お父様、お母様」
「たくさんのことがあると思うわ……けれど、バルト様と一緒に支えあっていくのよ」
「わかってるわ。バルト様、実は優しいから大丈夫よ」
「本当? 国中から怖がられているのに?」
「見た目によらずね」
そう言って母と子は笑う。
カトリーナの様子を見て、すでに両親はバルトに対する偏見などない。
幸せそうなカトリーナの様子に目じりを下げるばかりだ。
「じゃあ、そろそろ外に出てこれるかい? 中には入らないって聞かなくてね」
ひとしきり三人で話したのち、父親がそう切り出した。
カトリーナは「らしいな」と思いながら、その言葉に従う。
カトリーナと両親は三人で外に行くと、そこには一台の馬車が止められていた。そして、その前には懐かしい顔が立っていた。
「婆や!!」
そこには、リクライネン家に長年勤めていた使用人の姿があった。
カトリーナは、白いドレスを振り乱しながら婆やに駆け寄った。そして、そのままの勢いで抱き着いた。
「こんなに遠くまで来て大丈夫!?」
あまりに貴族らしくない様子に、婆やはにこにこと笑みを浮かべながらカトリーナをなだめる。
「ほらほら。そんなにお転婆だと綺麗なドレスがよごれちゃいますよ? 公爵家に嫁いでお転婆も治ると思ってたら、相変わらずですね」
「いいの! 婆やに会いたかったんだから! 婆やこそ、大丈夫なの? 疲れたでしょ?」
「ずっと馬車に乗っていただけですからね。大丈夫ですよ? ほら、ちゃんとドレス姿を見せてくださいな」
そういわれて、カトリーナはようやく婆やから離れると、しっかりと背筋を伸ばし姿勢を整えた。
そして、カーテシーをしてしっかりと貴族令嬢としての姿を見せる。
「とてもきれいですよ、お嬢様」
「ありがとう、婆や」
思わず涙ぐみそうになるカトリーナをダシャがなんとかたしなめながら、婆やと離れるカトリーナ。
あとは、両親と簡単な打ち合わせを行えば、いざ結婚式である。
婆やは、公爵家の使用人にたくし、最後の準備へと向かった。もう式はまもなくだ。
婆やとの邂逅で少々乱れてしまった化粧や服を整えていたカトリーナは、結婚式寸前までダシャに小言を言われていた。
たしかについつい興奮してしまったのは悪かったが、こんなときまで、とカトリーナは内心思う。
だが、必死に頑張ってくれているダシャをみると、その気持ちを飲み込み苦笑いを浮かべた。両親は、横でその様子を眺めていた。
そんなとき、プリ―ニオが現れた。
彼はいつも通りの様子で、カトリーナに話しかける。
「本日はおめでとうございます。カトリーナ様」
「ええ、おはよう。プリ―ニオもありがとね? こんな言い方あれだけど、ようやくね」
「本当に。いろいろありましたからな。カトリーナ様のご両親の方々も……この度はおめでとうございます」
「うむ、ありがとう」
「こちらこそ、いつも娘が世話になっているみたいね」
「いえいえ。カトリーナ様は本当に私達を退屈させないすばらしい方です」
プリ―ニオはその笑みに少しばかりの皮肉を込めると、カトリーナへ要件を伝えた。
「そろそろ会場の準備ができ、来賓の方々も席につかれているようです。エリアナ様が調整してくださり万事整っています」
「本当に叔母様には頭があがらないわ。あんな方が、あんな芝居していたかと思うと……本当に心配されていたのね」
つい先日までのエリアナの様子を思い出すと、カトリーナは申し訳なさしかでてこない。
なんとなしに聞いた年齢はカトリーナの倍近くだそうだ。どうやってその外見を保っているのか、その秘密はいつか聞かなければと思っている。
「まあ、会場はお任せして大丈夫かと思いますので……そろそろよろしいですか? さっきからバルト様が落ち着かなくて困っているのですよ」
「バルト様が? どうして?」
「決まってるではありませんか。カトリーナ様に会いたくてしょうがないのですよ」
そういって珍しく声をだして笑うプリ―ニオに、カトリーナは顔を赤く染めた。
すると、部屋の外で聞いていたのだろう。バルトが、慌てた様子で姿を現した。
「プ、プリ―ニオ! 俺は、別に、そんな――」
プリ―ニオをたしなめるバルトだったが、その視界にカトリーナがはいった瞬間。その動きを止めた。
急に石像のようになってしまったバルトをみて、カトリーナは急に不安がこみ上げた。
そんなカトリーナは、その不安を払拭したく、恐る恐るバルトに問いかける。
「あの……バルト様? どうですか? 私、ちゃんとできてます?」
首を傾げ、固まっているバルトをしたから見上げるカトリーナ。
対するバルトは、カトリーナを凝視しながら固まっており、微動だにしない。
「バルト様。女性に対してその態度は失礼ですよ?」
そんなプリ―ニオの苦言にようやくバルトは動き出す。
その顔は、すでに真っ赤に染まり茹でダコのようだ。
「ん、ああ。その、まあ、あれだな……その、カトリーナ?」
「はい、バルト様」
「綺麗だ」
単刀直入な言葉に、カトリーナも顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
「本当に……綺麗だ……。この世のものとは思えないくらいに、愛おしくて抱きしめたくなる。俺にとって、君は本当に天使のような――」
どこか呆けた表情のまま言葉を吐き出すバルトの脇腹を、プリ―ニオが肘でつついた。
「バルト様。愛しの花嫁に愛を囁くのは二人っきりのときにしてください。カトリーナ様もまわりのものも困っておりますよ」
その指摘にバルトが周囲を見回すと、真っ赤になってうつむいているカトリーナとそれを見ながら生暖かい視線を向けてくる両親やダシャの視線に気づき、バルトも同じように顔を赤くして俯いた。
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。
いよいよ、結婚式が始まる時間が迫っていた。
「えぇ、本当に……最初は不安だったけど、本当によかったわ」
そう呟くのはカトリーナの両親だ。
近くの街に泊まっていた二人は、当日の朝、こうしてバルトの屋敷にやってきていた。応接室に通された両親は、カトリーナの姿を見るや否や、二人はカトリーナをほめたたえる。母親は涙ぐんでカトリーナと抱き合っていた。
すでにカトリーナは髪を綺麗にまとめ、ドレスを着こんで準備はほとんど整っている状況だった。
「ありがとう、お父様、お母様」
「たくさんのことがあると思うわ……けれど、バルト様と一緒に支えあっていくのよ」
「わかってるわ。バルト様、実は優しいから大丈夫よ」
「本当? 国中から怖がられているのに?」
「見た目によらずね」
そう言って母と子は笑う。
カトリーナの様子を見て、すでに両親はバルトに対する偏見などない。
幸せそうなカトリーナの様子に目じりを下げるばかりだ。
「じゃあ、そろそろ外に出てこれるかい? 中には入らないって聞かなくてね」
ひとしきり三人で話したのち、父親がそう切り出した。
カトリーナは「らしいな」と思いながら、その言葉に従う。
カトリーナと両親は三人で外に行くと、そこには一台の馬車が止められていた。そして、その前には懐かしい顔が立っていた。
「婆や!!」
そこには、リクライネン家に長年勤めていた使用人の姿があった。
カトリーナは、白いドレスを振り乱しながら婆やに駆け寄った。そして、そのままの勢いで抱き着いた。
「こんなに遠くまで来て大丈夫!?」
あまりに貴族らしくない様子に、婆やはにこにこと笑みを浮かべながらカトリーナをなだめる。
「ほらほら。そんなにお転婆だと綺麗なドレスがよごれちゃいますよ? 公爵家に嫁いでお転婆も治ると思ってたら、相変わらずですね」
「いいの! 婆やに会いたかったんだから! 婆やこそ、大丈夫なの? 疲れたでしょ?」
「ずっと馬車に乗っていただけですからね。大丈夫ですよ? ほら、ちゃんとドレス姿を見せてくださいな」
そういわれて、カトリーナはようやく婆やから離れると、しっかりと背筋を伸ばし姿勢を整えた。
そして、カーテシーをしてしっかりと貴族令嬢としての姿を見せる。
「とてもきれいですよ、お嬢様」
「ありがとう、婆や」
思わず涙ぐみそうになるカトリーナをダシャがなんとかたしなめながら、婆やと離れるカトリーナ。
あとは、両親と簡単な打ち合わせを行えば、いざ結婚式である。
婆やは、公爵家の使用人にたくし、最後の準備へと向かった。もう式はまもなくだ。
婆やとの邂逅で少々乱れてしまった化粧や服を整えていたカトリーナは、結婚式寸前までダシャに小言を言われていた。
たしかについつい興奮してしまったのは悪かったが、こんなときまで、とカトリーナは内心思う。
だが、必死に頑張ってくれているダシャをみると、その気持ちを飲み込み苦笑いを浮かべた。両親は、横でその様子を眺めていた。
そんなとき、プリ―ニオが現れた。
彼はいつも通りの様子で、カトリーナに話しかける。
「本日はおめでとうございます。カトリーナ様」
「ええ、おはよう。プリ―ニオもありがとね? こんな言い方あれだけど、ようやくね」
「本当に。いろいろありましたからな。カトリーナ様のご両親の方々も……この度はおめでとうございます」
「うむ、ありがとう」
「こちらこそ、いつも娘が世話になっているみたいね」
「いえいえ。カトリーナ様は本当に私達を退屈させないすばらしい方です」
プリ―ニオはその笑みに少しばかりの皮肉を込めると、カトリーナへ要件を伝えた。
「そろそろ会場の準備ができ、来賓の方々も席につかれているようです。エリアナ様が調整してくださり万事整っています」
「本当に叔母様には頭があがらないわ。あんな方が、あんな芝居していたかと思うと……本当に心配されていたのね」
つい先日までのエリアナの様子を思い出すと、カトリーナは申し訳なさしかでてこない。
なんとなしに聞いた年齢はカトリーナの倍近くだそうだ。どうやってその外見を保っているのか、その秘密はいつか聞かなければと思っている。
「まあ、会場はお任せして大丈夫かと思いますので……そろそろよろしいですか? さっきからバルト様が落ち着かなくて困っているのですよ」
「バルト様が? どうして?」
「決まってるではありませんか。カトリーナ様に会いたくてしょうがないのですよ」
そういって珍しく声をだして笑うプリ―ニオに、カトリーナは顔を赤く染めた。
すると、部屋の外で聞いていたのだろう。バルトが、慌てた様子で姿を現した。
「プ、プリ―ニオ! 俺は、別に、そんな――」
プリ―ニオをたしなめるバルトだったが、その視界にカトリーナがはいった瞬間。その動きを止めた。
急に石像のようになってしまったバルトをみて、カトリーナは急に不安がこみ上げた。
そんなカトリーナは、その不安を払拭したく、恐る恐るバルトに問いかける。
「あの……バルト様? どうですか? 私、ちゃんとできてます?」
首を傾げ、固まっているバルトをしたから見上げるカトリーナ。
対するバルトは、カトリーナを凝視しながら固まっており、微動だにしない。
「バルト様。女性に対してその態度は失礼ですよ?」
そんなプリ―ニオの苦言にようやくバルトは動き出す。
その顔は、すでに真っ赤に染まり茹でダコのようだ。
「ん、ああ。その、まあ、あれだな……その、カトリーナ?」
「はい、バルト様」
「綺麗だ」
単刀直入な言葉に、カトリーナも顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
「本当に……綺麗だ……。この世のものとは思えないくらいに、愛おしくて抱きしめたくなる。俺にとって、君は本当に天使のような――」
どこか呆けた表情のまま言葉を吐き出すバルトの脇腹を、プリ―ニオが肘でつついた。
「バルト様。愛しの花嫁に愛を囁くのは二人っきりのときにしてください。カトリーナ様もまわりのものも困っておりますよ」
その指摘にバルトが周囲を見回すと、真っ赤になってうつむいているカトリーナとそれを見ながら生暖かい視線を向けてくる両親やダシャの視線に気づき、バルトも同じように顔を赤くして俯いた。
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。
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