婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件

卯月 みつび

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第三章 王都攻防編

ピンぼけ夫婦の奮闘①

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 カトリーナが目を覚ます。
 まだ、ぼやける視界をぬぐう様に目をこすると、その光景に驚いた。なぜなら、目の前にバルトが横たわっていたからだ。それも裸で。
 未だ覚め切らない思考を振り返ると、昨日の夜が鮮明に呼び起こされる。
 思わず顔を真っ赤にしたカトリーナは、布団に再び潜りこみ、そしておずおずと目の下あたりまで顔をだした。

(夢じゃ……ないんだよね)

 お互いに触れるだけで照れてしまっていた。
 だが、それは互いに自覚と覚悟が足りなかったせいだ。
 今は二人とも、やるべきことを見据え支えあっていこうと決心している。だからこそ、一線を踏み越えることができたのだろう。

 カトリーナは照れながらも、まるで彫刻のようなバルトの身体を思わず見つめてしまった。

「さすがはバルト様……造形が芸術的」

 そっと肩のあたりに指を這わすと、重く分厚い質感に頼もしさを感じてしまう。
 もっと触れていたいと思うあたり、どうかしてしまったのだろうか。そんな感情すら抱いていた。
 そうして、腕や肩、胸やお腹のあたり堪能してから顔に視線を移すと、なぜだかバルトが目を開いてカトリーナを見つめていた。

「きゃっ!?」

 そういえば自分も裸だったと状況を思い出したカトリーナは咄嗟に布団にくるまってしまう。そんなカトリーナを、バルトはほほ笑みながら抱き寄せた。

「おはよう、カトリーナ」
「お、おはようございます」

 一生懸命布団に顔を隠そうとしても、それをだめだと言わんばかりに剥いでいくバルトの力には抵抗すらできない。
 しかたなく顔だけだしたカトリーナは、非難するような表情を浮かべながら顔をそむけた。
 そんな彼女を、バルトはどこか楽しそうに笑みをこぼして見つめている。

「さて……何をしてたか教えてもらるかな?」
「い、言えません! 起きたなら声をかけてくれればよかったのに!」
「カトリーナが楽しそうに何かをやっていたからだ。それで……、いったい何を?」

 既にバルトの胸のなかにすっぽり収まっているカトリーナは羞恥で顔が真っ赤だ。
 昨日のことを思い出しながら触れていたなど、そんなことを言えるはずがないのだ。

「バルト様の……いじわる」

 彼女が言うことができたのはそれが限界であった。
 見るからに真っ赤になったカトリーナの反応に満足したのか、バルトは寝起きとは思えないほど颯爽と布団から滑りでる。
 そして、昨日投げ捨てていた寝衣を羽織ると、カトリーナの額に唇を落とした。

「さぁ、俺は仕事にいくが、カトリーナはもう少し休んでいるといい。やるべきことが見えたからな。頑張ってくる」
「あ、はい……いってらっしゃい」
「ああ。愛してるよ、カトリーナ」
「はい……私もです」

 短いけれど、甘い時間。
 あっという間に過ぎたその甘味を味わいながら、カトリーナは再びベッドに寝ころんだ。

「バルト様も頑張るっていってたし……私もちゃんと、頑張ろう」

 天井にほほ笑んだバルトの顔を思い出したカトリーナは、愛する人に宣言するようにそう呟いた。
 だが、ふと思考がそれると昨日の情事を呼び起こしてしまうので、慌てて飛び起きる。
 少し歩きづらいけど、どこか誇らしかった。


 
「それで……少し相談したいことがあって」
 
 カトリーナは食堂にプリ―ニオやダシャ、リリやララ、セヴェリーノという主要な使用人を集めて相談を始めていた。
 集められた皆はどうしたことかと訝し気な表情を浮かべている。
 そんな中、カトリーナは意を決して頭を下げた。
 
「ごめんなさい!」

 突然謝られた年少組はぽかんとした顔を浮かべていた。プリ―ニオとダシャは訳知り顔でほほ笑んでいる。

「その、どういうことですか? 奥様が私達に謝ることなんてなにも……」
「そうです。そんな簡単に使用人に頭を下げるなんてどういうつもりなんですか!」

 ララとリリがそれぞれ口を開いた。セヴェリーノは恭しく頭を下げている。

「奥様が謝ることな何一つありません。顔をお上げください」

 そんな固い言葉に応えるように、カトリーナは顔を挙げてまっすぐ皆を見つめた。

「違うのよ。謝る理由はちゃんとあるの。何かっていうと、今まで皆にはつらい想いをさせてしまっていたから」
「つらい想い?」

 ララが首をコテンとかしげると、カトリーナは応えるように小さく微笑む。

「私は公爵夫人としての自覚が足りなかったから。いろいろといわれることもあったでしょう? 王都での私の評判があまりいいものではなかったと思うし……。だからそれについての謝罪。ここまではいい?」

 皆が一様に頷いたのを見て、カトリーナは続けて口を開く。

「でも謝って終わりじゃだめだと思ってるの。この先、私は公爵家としていろいろな責務を背負うことになるわ。ただバルト様の隣で笑っていればいいわけじゃない。私にできること以上に、私は力を手にれなきゃならないの」

 プリ―ニオはその言葉を聞いて、何度も頷いている。

「ようやくお気づきになられましたか……エリアナ様に助言を禁じられておりましたが、これでもう安心ですな」
「ええ。それに、二人はようやく本当の夫婦になったようですから。これまで以上に公爵家としての自覚が芽生えたのではないでしょうか」

 ダシャの言葉に、カトリーナは瞬時に顔を赤く染め、ダシャはにやけ、プリ―ニオはほっとしたように頷いている。リリとララは首を傾げ、セヴェリーノはどこか気まずげに顔を逸らした。

「ちょっと、ダシャ! 余計なことは言わなくていいのよ!」
「どこが余計なことですか。跡継ぎのこともありますから、大事なことです」
「跡継ぎ……って、え――」
「ふーん、そういうことですか」

 わかっていなかったララとリリは、二人してやはり顔を赤く染めていた。
 知識はあっても、そういう話を赤裸々にされるのはひどく恥ずかしいのだろう。

「もう! 私が言いたいのはそんなことじゃなくて!」

 そこからひとしきりからかわれたカトリーナ。
 ようやく、ダシャも満足したのか、無理やり話題をすり替えるカトリーナにのってきてくれた。

「それで、相談事ってなんでしょう?」
「それなんだけどね。聞きたいことがあったの」
「聞きたいことですか?」

 ララが問いかけると、カトリーナは表情を戒めて皆の目を一瞥した。

「ええ。さっきも言ったけど、私は公爵夫人として力を得なければならないの。バルト様の顔をつぶさず、それでいて支えられるような、そんな力が……。でもね……」
「でも?」
「公爵夫人の力ってなに?」

 そんな間抜けな質問に、さっきまで喜んでいたプリ―ニオやダシャは小さくため息をついたのだった。
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