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第三章 王都攻防編
王都コンテスト⑦
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カトリーナは迫りくる闘技場の破片に、思わず目を瞑った。
すると、突如として身体が浮き上がり、破片を躱すことができた。顔を上げるとそこには見知った顔がある。
バルトの副官であるカルラだ。
「カルラ様!?」
「カトリーナ様。危ないところでした。どこかお怪我は?」
「いいえ、大丈夫だけど……」
そっと地面に下してくれたカルラ。バルトと共に禁断の依頼を受けに行ったはずなのだが、なぜここにいるのか。
その疑問をぶつけようとしたその瞬間、カトリーナは思わずその言葉を飲み込んだ。
カルラの格好が尋常ではなかったからだ。
綺麗に磨かれていたカルラの鎧は傷だらけであり所々血のりがついている。顔つきをみると疲れ切っており、普段の覇気は感じられない。明らかに何かがあったのは明白だが、カルラは有無を言わさない雰囲気でカトリーナに告げた。
「この場は危険です。すぐに安全な場所へ行きましょう」
「一体何が? バルト様はいるの? カルラ様、教えて下さい!」
矢継ぎ早に質問をかなえるカトリーナに、カルラはやや強い口調でたしなめる。
「今はそれどころではありません。まずはあの魔物から身を守らなければ」
その言葉を聞いてカトリーナは周囲を見回した。
中央にいる魔物は遮二無二暴れまわっている。
観客席を見ると、既に傷を負っているものや倒れているものも見えた。全員が混乱状態で避難もままならない状況だ。
そんな中、カトリーナの元には皆が集まってくる。その表情は不安に満ちていた。
「カトリーナ様のお連れの方ですね。私はバルト様の副官のカルラと申します。皆さまをすぐに安全な場所へとお連れしましょう」
カルラはそういって皆を誘導しようとする。
ここには、カトリーナの両親、婆や、そしてエリアナもいるのだ。ダシャやプリ―ニオも護身術は身に着けてはいるが戦うことは専門ではない。避難するのは当然のこと。
だが、カトリーナの胸にざわりとした妙な感覚が襲った。
頭と心が矛盾する。
そんな不愉快な感覚が。
「カルラ様」
立ち止まり、カルラを呼び止めたカトリーナをみて、彼女は顔を顰めた。
「カトリーナ様も早く。あなたに何かあれば、バルト様は――」
「王都コンテストの最中、突如として現れた魔物。カルラ様の容貌とバルト様不在の現状。私が置かれている状況を鑑みると……あまり状況は芳しくない。そうですね? カルラ様」
カトリーナの言葉に、皆が目をむいた。
カルラも驚きを表情に表しながらすぐに言葉を返す。
「そのことも説明します。ですが、今はとにかく避難を!」
「このコンテストはラフォン家を筆頭とした穏健派が主催したもの。そのコンテストで大きな被害が出れば、ラフォン家の失墜は免れません。私がバルト様のお名前を傷つけるわけにはいかない! ですから、ここは引いてはいけない……引けないです」
「……カトリーナ」
離れたところではエリアナも驚いているようだ。
だが、そんなことは気にしてはいられない。今は、自分達だけではない、ここにいるすべての人たちの安全を守る義務が自分にはある。
そう思ったカトリーナは、すぐさま指示を出した。
「ダシャ。あなたは私の両親、婆や、エリアナ様の避難に付き添いなさい。屋敷に戻ってはだめ。急いで王城に逃げ込みなさい」
「王城って……カトリーナ様は――」
「急いで! この騒ぎが過激派の仕業だとしたら、私達の命が狙われる可能性もあるのよ! 私にはカルラ様がついています。ですが、全員は守れない。だから、早く避難するの。もし想定したことが事実なら、屋敷は既に誰かが待ち受けているでしょう……ダシャ! 急いで!」
きっとダシャにも言いたいことはあっただろう。
だが、カトリーナとしばらく目を合わせた後、すぐさま行動に移ってくれた。この会場には貴族用の避難通路もある。そこを使えばすぐに外に出られるだろう。
「プリーニオ。あなたは、ここにいる観客達の避難誘導を。危険だけど……やってくれるわね?」
「ええ! われらはラフォン家の使用人でございます。国民の皆様を守るのは当然の責務」
「ありがとう」
「カトリーナ様も、お気をつけて」
「ええ」
プリ―ニオは言葉少なに礼をすると、すぐさま動き出してくれた。
そして、この場に残ったのはカトリーナとカルラである。
カルラは、カトリーナの行動に驚きすぎて口をはさめないでいた。だが、カトリーナは止まらない。
「ではカルラ様。歩きながら質問に答えてください。とりあえず、あそこへ行きますよ」
「どこへ――って、カトリーナ様!? 待ちなさい!」
「待ちません。身の安全はカルラ様が保障してくれるのでしょう? ならば私は、この事態を沈静させるために知恵を絞らなければ」
そういって駆け出すカトリーナの後ろを、焦った様子でカルラが追いかけるのであった。
すると、突如として身体が浮き上がり、破片を躱すことができた。顔を上げるとそこには見知った顔がある。
バルトの副官であるカルラだ。
「カルラ様!?」
「カトリーナ様。危ないところでした。どこかお怪我は?」
「いいえ、大丈夫だけど……」
そっと地面に下してくれたカルラ。バルトと共に禁断の依頼を受けに行ったはずなのだが、なぜここにいるのか。
その疑問をぶつけようとしたその瞬間、カトリーナは思わずその言葉を飲み込んだ。
カルラの格好が尋常ではなかったからだ。
綺麗に磨かれていたカルラの鎧は傷だらけであり所々血のりがついている。顔つきをみると疲れ切っており、普段の覇気は感じられない。明らかに何かがあったのは明白だが、カルラは有無を言わさない雰囲気でカトリーナに告げた。
「この場は危険です。すぐに安全な場所へ行きましょう」
「一体何が? バルト様はいるの? カルラ様、教えて下さい!」
矢継ぎ早に質問をかなえるカトリーナに、カルラはやや強い口調でたしなめる。
「今はそれどころではありません。まずはあの魔物から身を守らなければ」
その言葉を聞いてカトリーナは周囲を見回した。
中央にいる魔物は遮二無二暴れまわっている。
観客席を見ると、既に傷を負っているものや倒れているものも見えた。全員が混乱状態で避難もままならない状況だ。
そんな中、カトリーナの元には皆が集まってくる。その表情は不安に満ちていた。
「カトリーナ様のお連れの方ですね。私はバルト様の副官のカルラと申します。皆さまをすぐに安全な場所へとお連れしましょう」
カルラはそういって皆を誘導しようとする。
ここには、カトリーナの両親、婆や、そしてエリアナもいるのだ。ダシャやプリ―ニオも護身術は身に着けてはいるが戦うことは専門ではない。避難するのは当然のこと。
だが、カトリーナの胸にざわりとした妙な感覚が襲った。
頭と心が矛盾する。
そんな不愉快な感覚が。
「カルラ様」
立ち止まり、カルラを呼び止めたカトリーナをみて、彼女は顔を顰めた。
「カトリーナ様も早く。あなたに何かあれば、バルト様は――」
「王都コンテストの最中、突如として現れた魔物。カルラ様の容貌とバルト様不在の現状。私が置かれている状況を鑑みると……あまり状況は芳しくない。そうですね? カルラ様」
カトリーナの言葉に、皆が目をむいた。
カルラも驚きを表情に表しながらすぐに言葉を返す。
「そのことも説明します。ですが、今はとにかく避難を!」
「このコンテストはラフォン家を筆頭とした穏健派が主催したもの。そのコンテストで大きな被害が出れば、ラフォン家の失墜は免れません。私がバルト様のお名前を傷つけるわけにはいかない! ですから、ここは引いてはいけない……引けないです」
「……カトリーナ」
離れたところではエリアナも驚いているようだ。
だが、そんなことは気にしてはいられない。今は、自分達だけではない、ここにいるすべての人たちの安全を守る義務が自分にはある。
そう思ったカトリーナは、すぐさま指示を出した。
「ダシャ。あなたは私の両親、婆や、エリアナ様の避難に付き添いなさい。屋敷に戻ってはだめ。急いで王城に逃げ込みなさい」
「王城って……カトリーナ様は――」
「急いで! この騒ぎが過激派の仕業だとしたら、私達の命が狙われる可能性もあるのよ! 私にはカルラ様がついています。ですが、全員は守れない。だから、早く避難するの。もし想定したことが事実なら、屋敷は既に誰かが待ち受けているでしょう……ダシャ! 急いで!」
きっとダシャにも言いたいことはあっただろう。
だが、カトリーナとしばらく目を合わせた後、すぐさま行動に移ってくれた。この会場には貴族用の避難通路もある。そこを使えばすぐに外に出られるだろう。
「プリーニオ。あなたは、ここにいる観客達の避難誘導を。危険だけど……やってくれるわね?」
「ええ! われらはラフォン家の使用人でございます。国民の皆様を守るのは当然の責務」
「ありがとう」
「カトリーナ様も、お気をつけて」
「ええ」
プリ―ニオは言葉少なに礼をすると、すぐさま動き出してくれた。
そして、この場に残ったのはカトリーナとカルラである。
カルラは、カトリーナの行動に驚きすぎて口をはさめないでいた。だが、カトリーナは止まらない。
「ではカルラ様。歩きながら質問に答えてください。とりあえず、あそこへ行きますよ」
「どこへ――って、カトリーナ様!? 待ちなさい!」
「待ちません。身の安全はカルラ様が保障してくれるのでしょう? ならば私は、この事態を沈静させるために知恵を絞らなければ」
そういって駆け出すカトリーナの後ろを、焦った様子でカルラが追いかけるのであった。
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