婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件

卯月 みつび

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第三章 王都攻防編

王都コンテスト⑧

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「デュランデ家のクーデターですって!?」

 カルラは一連の出来事を走りながら語った。
 デュランデ家の嫡男であるダズルがバルトを神殿に一人で放り込んだこと。
 それが過激派の策略である可能性が高いこと。
 エミリオが時間が稼ぎをしている間に、カルラは王都に来てカトリーナを守りに来たことなどを教えてくれる。

「副隊長が閉じ込められた瞬間に、エミリオは私にカトリーナ様をと……。私の魔法は逃げるにはうってつけですからね。あの一瞬の判断がなければ、私もダズルにとらえられていたと思います」

 カルラは悔しそうに拳を握る。
 その姿を横目でみていたカトリーナは、遠くにいるバルトに想いを馳せ、そしてエミリオに感謝した。 
 おそらく、魔物が現れたという事態は偶発的なものではない。
 一連の流れをみると、過激派がなにがしかの策略をしてきた可能性は否定できない。
 つまり、闘技場に現れた魔物も、穏健派を――いや、ラフォン家を陥れるためなのだろう。
 カトリーナは、想像以上のトラブルに歯を食いしばる。

「なら、エミリオ様には感謝しないとね」
「それよりも、この事態をどうするつもりですか!?」
「もちろん。犠牲者を出さずにおさめないと――」

 カトリーナとカルラは目線が高くなっている観客席から闘技場へと降りていく。
 その視線の先には、人間の倍以上はありそうな大きな魔物が暴れまわっていた。周囲の人間は既に逃げ去っており、石で作った闘技場は跡形もなくなっている。
 その力をぶつける矛先がなくなってしまった魔物は、獲物を探しているのか周囲を見回している。
 
 時間がない。

 そう判断したカトリーナは真っすぐある場所へ向かっていた。
 そこは、予選を突破した本戦出場する冒険者が集まる場所だ。カトリーナはその待合室に飛び込んで声を挙げた。

「お願いです! あなた達の力を借りたいの!」

 突然飛び込んできた貴族令嬢に、冒険者達は目をぱちくりさせた。
 だが、会場の雰囲気がおかしいとは気づいていたのか、すぐさまカトリーナの話を聞く体勢に移行する。

「……何があった」

 誰もカトリーナに言葉を返せない中、一番奥に座っていた物々しい鎧を纏った壮年の男が応える。
 その鋭い視線に応えながらカトリーナはすぐさま依頼をする。 

「闘技場で突然現れた魔物が暴れています。犠牲者が出る前に何としても抑えたい。あなた達に依頼したいの。王都の人達を守って」

 その言葉に、男はじろりとカトリーナを睨みつけた。
 そして、おもむろに立ち上がると、その大きな体躯でゆっくりカトリーナに近づいた。

「報酬は?」
「報酬は望むまま。働き次第で、お金でも、公爵家直属の騎士にでも。私としては、後者を望みますが」
「公爵家の騎士……だと?」
「ええ。私は――」

 ――カトリーナ・ラフォン。黒獅子のバルトの妻でございます。

 そう言って、淑女の礼を優雅にするのだった。

 ◆

 手練れの冒険者達。
 だが、あの大きな魔物を相手取るのに絶対安全というわけにはいかない。
 少しでも戦力の増強が必要だ。
 そう思ったカトリーナはすぐに駆けだす。カルラは、慌ててそのあとを追った。

「カトリーナ様! 冒険者達に任せていいのですか!?」
「これがクーデターなら、もしかしたらここ以外にも何かが起こっている可能性は高い。王都の騎士の方々にはそちらに尽力してもらわなければ」
「ならば! すぐに避難を――って、どっちに行くんですか!?」

 カトリーナは、皆が避難しているであろう王城とは別の方向に走っていく。カルラは、それを正そうと隣に並んだ。

「王城はあっちですよ!?」
「私は避難しないって言ったじゃないですか!」
「ではどこへ!?」
「ここよ!」

 次にカトリーナが飛び込んだのは、武器の品評会の会場だ。
 ここでは、まだ闘技場の混乱は伝わっていないようで、先ほどまでの楽しい様子がそのままである。
 彼女は一番近い鍛冶屋に露店に飛び込むと、店主を見つけて詰め寄った。

「あなたは自分の作る武器に自信がありますか!?」

 突然の出来事に鍛冶師は口をぽかんと開けて首を傾げた。

「なんだぁ? あんたは。そりゃ、自信があるに決まってるが――」
「その武器の性能を実践で披露させてください! いま、闘技場に突然魔物が現れました。冒険者の方々が必死に食い止めてくれています! きっと、あなたが作った武器があれば、冒険者の人の助けになるのでは!?」
「はぁ? 魔物だ!? そんなの王都にでるわけねぇだろうが」

 どうにもカトリーナの言葉を信じてくれない店主に、カルラがさっと出て行って言葉を重ねた。
 
「この方は、王都コンテスト主催者のカトリーナ・ラフォン公爵夫人だ。そして、この方が言っていることは真実だ。もし助力をしていただけるなら、ラフォン家に仕える騎士として、相応の礼をすると約束しよう」

 店主は、使い込まれたカルラの鎧とそこに刻まれた家紋をみてごくりと唾を飲み込んだ。
 そして、険しい表情を浮かべるとカトリーナに視線を向けた。

「……俺の武器が必要なのか?」
「できるなら。ここにいる人達みんなの武器が」

 カトリーナとカルラの真剣さが伝わったのか、店主はすぐさま武器を掴んで外に飛び出す。そして、大声をあげた。

「おおぃ!! お前ら!! 公爵夫人様のご依頼だ! 俺達の武器を冒険者に届けるぞぉ!!」

 そう叫びながら彼はコンテストに参加している鍛冶師達に呼び掛けていく。
 その途中で事情を説明していると、あっという間に皆が武器を持って集まってくれた。

「さっさと行くぞ! 野郎ども!」
「おうよ! 冒険者達だけにまかせておけねぇ! 俺らは武器の専門家だ! ついでに魔物を討伐してやろうじゃねぇか!」

 そんな力強い言葉を発しながら闘技場へと向かってくれる。その後ろ姿を見たカトリーナは、小さく息を吐いた。
 
「それではカトリーナ様、避難を――」
「ねぇ、カルラ様。このあたりに走り回っている孤児達が……あっ! いた! ちょっと、君――」

 そういってあっと今にカルラの前から消えてしまう。
 カルラは走り去っていくカトリーナの後ろ姿を見て思わず頭を抱えていた。

「本当に、規格外なんですね……敵わないわけです」

 そう言って苦笑いを浮かべると、再びカトリーナの後を追って走るのだった。
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