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第三章 王都攻防編
王都コンテスト⑨
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王城にダシャ達がたどり着くと、そこでは既に物々しい雰囲気が蔓延っていた。
エリアナのような高位の貴族に連なるものでさえも、しっかりと身分を確認された。
そうして通された先。王城にあるダンスホールでは、穏健派の面々が神妙な面持ちで集まっていた。
エリアナやカトリーナの両親は周囲を見渡しながら、その表情を厳しいものに変えていた。
「闘技場だけではないのですね」
「そのようですね。バルトの騎士の表情や王城の様子を見る限り、カトリーナの言うことはあながち間違いというわけでもないようです」
「過激派の……?」
カトリーナの父とエリアナがぽつりぽつりと話しながら現状を把握していく。
周囲では、二人と同じように話し合っているものが多い。
そこに、一人の貴婦人が近づいてくる。
ドラ・カンパーニュだ。
ドラは、エリアナ達に淑女の礼をすると扇で口元を隠しながら声をかけた。
「ご無沙汰しております、エリアナ様。王都にいらしていらしたのですね」
「ええ。ドラも久しぶりです。変わりはない?」
「私自身にはないのですが……ラフォン家に嫁いできたあの方はとても個性的で、ついつい巻き込まれてしまいました」
「ふふ。私も少しびっくりしているのよ」
そういってエリアナは笑った。
見た目は少女だが、年を重ねた淑女の笑みは周囲のものを安心させる。ドラは、少しだけ緊張を解いたようだった。
「それでドラ。一体何が起こっているのかしら? 王都コンテストをしていた辺りは、魔物が出て大騒ぎよ」
「そうなのですか……私も、ここで聞いた情報を元にしているだけなので詳しくはわかりませんが」
歯切れの悪いドラの物言いに、エリアナは静かに催促をする。
「いいのよ」
「ええ……そのような魔物が王都の各所に現れているようなのです」
エリアナは一瞬眉をひそめた。
後ろでそれを聞いていたカトリーナの両親は、驚きで目を見開いている。
そんな話をしていると、ダンスホールの中央に人だかりができる。その中央には、第一王子であるヤコブ・ストラリアが立っていた。
彼は、第二王子であるヨハンと同じ、紺色の髪の毛をしていた。
彼の内面を示すように、その髪はおとなしくまっすぐとおりている。
「皆の者、聞いてほしい。遠くにいるものは集まってくれ」
ヤコブは通る声でそう言うと、ダンスホールにいた貴族達が集まっていった。
皆の視線はヤコブに集まり、騎士に護衛された彼は中央で渋い表情を浮かべている。
「まずは、皆の無事を喜びたいと思う。私を支援してくれている皆に迷惑をかける形になってしまって申し訳ない」
謝罪から始まった王子の言葉は、しんと静まり返ったホールに寂し気に響いた。
「まずはわかっている事実から話そう……。今、皆が避難しているきっかけ――つまりは王都に突然出現した魔物は城の騎士達が討伐に向かっている。彼らはこの国を守る猛者たちだ。きっと朗報を持ち帰ってくれることだろう」
ヤコブはそういうと、大きく深呼吸をした。
「だが、少なくない犠牲が出るかもしれない。王城まで被害が及ぶかもしれない。ゆえに、まずは貴殿らにはこの王都からの避難を――」
ヤコブがそう呼びかけようとしたその時。
勢いよくダンスホールの扉が開かれた。そこには、息を切らしたカトリーナとカルラが立っていた。
カトリーナは焦った様子で視線を走らせると、エミリオやダシャ達がいるのを見てほっと息を吐く。そして、優雅にヤコブに近づくと、膝まづいて礼をした。
「ヤコブ殿下。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、カトリーナ・ラフォン。黒獅子のバルトの妻でございます」
突然現れたカトリーナを視界に収めながら彼は穏やかに声をかける。
「挨拶をありがとう。だが、今ここは危険だ。すぐに君も避難の準備をしてくれるか? 馬車はこちらで用意する。できるだけ早く――」
「その必要はございません、殿下」
「なに?」
ヤコブの言葉を途中で遮ったカトリーナ。
ただでさえ彼の意見に反論しているのだ。温和と言われているヤコブも、その表情を歪ませる。
「どういうことだ? カトリーナ。君はこの王都の状況を知らないからそういうのだろうが――」
「いいえ。私は、魔物が現れた闘技場の様子も見ております。勝手ながら、夫であるバルトの名を借り王都中の冒険者の手を借りております。闘技場の魔物は討伐され、冒険者は王都各地の魔物の討伐に向かっていただいているのです」
カトリーナの言葉に、周囲の貴族達からは喜色の声が響いた。
「そ、それは本当か!?」
「あのような魔物をどうやって!?」
カトリーナはその言葉に笑顔で応えると、ヤコブに向かって言葉を重ねた。
「王都に現れた魔物は六体。そのすべての場所に冒険者の方が向かっています。現場の騎士の方にも伝達は済んでおりますので、きっと協力して魔物達を駆逐してくれることでしょう」
「王都に六体、だと? その情報は、まだこちらにも回ってきていないはず――」
ヤコブはカトリーナの言葉に目を見開いて驚いている。
そんな彼の姿を見ながら、カトリーナは笑顔で話を続けていた。
「私にも情報を入手する方法はありますから」
そう穏やかに語るカトリーナの姿をみて、周囲の貴族達は息を呑む。
「それよりも殿下。さらにお伝えしなければならないことがあります」
「な、なんだ?」
「今回の件。確証はありませんが、おそらくは過激派のクーデターかと思われます。その証拠に、王城周辺に潜伏していた過激派の騎士達を捕縛しております。混乱に乗じて王城に攻め入る気だったのでしょう。そちらの件も、事後報告で申し訳ありませんが騎士の方々に助力をしていただきました。この場を借りて、お礼を申し上げます」
その報告にヤコブは今度こそ度肝を抜かれた。
当然である。
今、王城には魔物が各所に現れたこと。その被害が広がりつつあること。その程度の情報しか集まっていなかったのだ。
そんな中、目の前のカトリーナはさらに詳細な情報を持っているだけでなく、過激派の騎士の捕縛という信じられないことも行っている。
それが真実だとしたら、どうやってやったのかも検討がつかなかった。
「ま、まさか……そんなことが……」
「詳細は後ほど……それよりも――」
カトリーナはヤコブにレイをして立ち上がると、ダンスホールの窓に近づいて空を見上げた。
そこには、赤色の狼煙が上がっている。
「次から次へとひっきりなしに……田舎のゴキブリより質が悪いわよ」
そういって、カトリーナは笑みを消し、鋭い視線でヤコブを見つめたのだった。
エリアナのような高位の貴族に連なるものでさえも、しっかりと身分を確認された。
そうして通された先。王城にあるダンスホールでは、穏健派の面々が神妙な面持ちで集まっていた。
エリアナやカトリーナの両親は周囲を見渡しながら、その表情を厳しいものに変えていた。
「闘技場だけではないのですね」
「そのようですね。バルトの騎士の表情や王城の様子を見る限り、カトリーナの言うことはあながち間違いというわけでもないようです」
「過激派の……?」
カトリーナの父とエリアナがぽつりぽつりと話しながら現状を把握していく。
周囲では、二人と同じように話し合っているものが多い。
そこに、一人の貴婦人が近づいてくる。
ドラ・カンパーニュだ。
ドラは、エリアナ達に淑女の礼をすると扇で口元を隠しながら声をかけた。
「ご無沙汰しております、エリアナ様。王都にいらしていらしたのですね」
「ええ。ドラも久しぶりです。変わりはない?」
「私自身にはないのですが……ラフォン家に嫁いできたあの方はとても個性的で、ついつい巻き込まれてしまいました」
「ふふ。私も少しびっくりしているのよ」
そういってエリアナは笑った。
見た目は少女だが、年を重ねた淑女の笑みは周囲のものを安心させる。ドラは、少しだけ緊張を解いたようだった。
「それでドラ。一体何が起こっているのかしら? 王都コンテストをしていた辺りは、魔物が出て大騒ぎよ」
「そうなのですか……私も、ここで聞いた情報を元にしているだけなので詳しくはわかりませんが」
歯切れの悪いドラの物言いに、エリアナは静かに催促をする。
「いいのよ」
「ええ……そのような魔物が王都の各所に現れているようなのです」
エリアナは一瞬眉をひそめた。
後ろでそれを聞いていたカトリーナの両親は、驚きで目を見開いている。
そんな話をしていると、ダンスホールの中央に人だかりができる。その中央には、第一王子であるヤコブ・ストラリアが立っていた。
彼は、第二王子であるヨハンと同じ、紺色の髪の毛をしていた。
彼の内面を示すように、その髪はおとなしくまっすぐとおりている。
「皆の者、聞いてほしい。遠くにいるものは集まってくれ」
ヤコブは通る声でそう言うと、ダンスホールにいた貴族達が集まっていった。
皆の視線はヤコブに集まり、騎士に護衛された彼は中央で渋い表情を浮かべている。
「まずは、皆の無事を喜びたいと思う。私を支援してくれている皆に迷惑をかける形になってしまって申し訳ない」
謝罪から始まった王子の言葉は、しんと静まり返ったホールに寂し気に響いた。
「まずはわかっている事実から話そう……。今、皆が避難しているきっかけ――つまりは王都に突然出現した魔物は城の騎士達が討伐に向かっている。彼らはこの国を守る猛者たちだ。きっと朗報を持ち帰ってくれることだろう」
ヤコブはそういうと、大きく深呼吸をした。
「だが、少なくない犠牲が出るかもしれない。王城まで被害が及ぶかもしれない。ゆえに、まずは貴殿らにはこの王都からの避難を――」
ヤコブがそう呼びかけようとしたその時。
勢いよくダンスホールの扉が開かれた。そこには、息を切らしたカトリーナとカルラが立っていた。
カトリーナは焦った様子で視線を走らせると、エミリオやダシャ達がいるのを見てほっと息を吐く。そして、優雅にヤコブに近づくと、膝まづいて礼をした。
「ヤコブ殿下。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、カトリーナ・ラフォン。黒獅子のバルトの妻でございます」
突然現れたカトリーナを視界に収めながら彼は穏やかに声をかける。
「挨拶をありがとう。だが、今ここは危険だ。すぐに君も避難の準備をしてくれるか? 馬車はこちらで用意する。できるだけ早く――」
「その必要はございません、殿下」
「なに?」
ヤコブの言葉を途中で遮ったカトリーナ。
ただでさえ彼の意見に反論しているのだ。温和と言われているヤコブも、その表情を歪ませる。
「どういうことだ? カトリーナ。君はこの王都の状況を知らないからそういうのだろうが――」
「いいえ。私は、魔物が現れた闘技場の様子も見ております。勝手ながら、夫であるバルトの名を借り王都中の冒険者の手を借りております。闘技場の魔物は討伐され、冒険者は王都各地の魔物の討伐に向かっていただいているのです」
カトリーナの言葉に、周囲の貴族達からは喜色の声が響いた。
「そ、それは本当か!?」
「あのような魔物をどうやって!?」
カトリーナはその言葉に笑顔で応えると、ヤコブに向かって言葉を重ねた。
「王都に現れた魔物は六体。そのすべての場所に冒険者の方が向かっています。現場の騎士の方にも伝達は済んでおりますので、きっと協力して魔物達を駆逐してくれることでしょう」
「王都に六体、だと? その情報は、まだこちらにも回ってきていないはず――」
ヤコブはカトリーナの言葉に目を見開いて驚いている。
そんな彼の姿を見ながら、カトリーナは笑顔で話を続けていた。
「私にも情報を入手する方法はありますから」
そう穏やかに語るカトリーナの姿をみて、周囲の貴族達は息を呑む。
「それよりも殿下。さらにお伝えしなければならないことがあります」
「な、なんだ?」
「今回の件。確証はありませんが、おそらくは過激派のクーデターかと思われます。その証拠に、王城周辺に潜伏していた過激派の騎士達を捕縛しております。混乱に乗じて王城に攻め入る気だったのでしょう。そちらの件も、事後報告で申し訳ありませんが騎士の方々に助力をしていただきました。この場を借りて、お礼を申し上げます」
その報告にヤコブは今度こそ度肝を抜かれた。
当然である。
今、王城には魔物が各所に現れたこと。その被害が広がりつつあること。その程度の情報しか集まっていなかったのだ。
そんな中、目の前のカトリーナはさらに詳細な情報を持っているだけでなく、過激派の騎士の捕縛という信じられないことも行っている。
それが真実だとしたら、どうやってやったのかも検討がつかなかった。
「ま、まさか……そんなことが……」
「詳細は後ほど……それよりも――」
カトリーナはヤコブにレイをして立ち上がると、ダンスホールの窓に近づいて空を見上げた。
そこには、赤色の狼煙が上がっている。
「次から次へとひっきりなしに……田舎のゴキブリより質が悪いわよ」
そういって、カトリーナは笑みを消し、鋭い視線でヤコブを見つめたのだった。
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