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第三章 王都攻防編
王都コンテスト⑩
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憎々し気に呟くカトリーナに、ドラは慌てて声をかけた。
「ど、どうしたのですか? カトリーナ様」
「あぁ、ドラ様。ご無事でなによりです。色々と話したいことはありますが、今は――」
そう言いながら周囲を見渡すと、すぐに大きな声をだした。
「皆様! 今現在、王都は過激派の軍勢に襲われているようです!」
その言葉に、穏健派の貴族達の不安は増大する。
それとともにざわめきは増し、空気も緊迫していった。
「ヤコブ殿下! 王都からの避難はおそらく難しいかと。それよりも、皆様をより安全な場所へとお連れできませんか? ここは王城の外から近いです。殿下も、できれば守りが強固な場所へ避難したほうがよろしいかと」
穏やかに告げるカトリーナに、ヤコブはとうとう我慢できずに声を荒らげた。
「一体どういうことなんだ! なぜ君がそんな情報を知っている! 諜報部も把握していない情報だぞ? 一体どうやって!」
理解できないものを見るような、怯えすら透けて見えるようなそんな視線をカトリーナに向けた。
彼女は、その視線を真っ向から受け止めると、堂々と答える。
「冒険者の方々も、素晴らしい武器も、こうして集まる情報もすべてこの王都の民達がもたらしたものです。そして、私はその助けを得ているにすぎません。そして殿下……。我がラフォン家は王家に忠誠を誓い殿下をお支えするためにここにいます。この力はあなたのもの。この力をもって、あなたの身を守り民を守ることが私の使命でございます」
そういって頭を下げるカトリーナ。
ヤコブは、それをみて一瞬訝し気な表情を浮かべたが、すぐに表情を律するとその場にいた貴族達を奥への案内していった。
一通り、王城の奥へと非難が済んだ面々を見送りながら、ヤコブはカトリーナをじっと見つめている。
「そなたは……味方なのだな?」
「ええ。それは疑いようもなく」
「わかった。信じよう……君たちも、すぐに奥へ避難を」
「はい」
走り去るヤコブの後ろ姿をカトリーナは追いかけた。
そしてこれからどんなことが起こるのか。想像すら難しい事態に頭をフル回転させて考えていた。
そもそも。
この王都コンテストは、穏健派の力を高めるために行われたものだ。
経済的な発展と市民からの支持を目的に、数々のコンテストを行った。
だが、その裏でカトリーナが考えていたことはラフォン家の繁栄だ。
貴族社会であるこのストラリア王国では、貴族は貴族、平民は平民とくっきりした枠組みができている。
当然、その枠組みは制度上だけでなく人々の頭や心にも大きな影響を与えていた。つまり、貴族は平民に興味はなく、平民は貴族など雲の上の存在といないものとして生活をしていた。
そこにきて今回の王都コンテストである。
皆は同時開催することでの表向きなメリットに目がいったが、カトリーナはそうではなかった。
彼女は、この王都コンテストを大きなオーディションの場であると思っていたのだ。
つまり。
ミスコン、ないしは美魔女コンテストでは見目麗しいものがあつまる。
外見は貴族社会では武器だ。その武器を手に入れられれば、外交の場でもラフォン家は力を手に入れられる。
画家や美術家も同様であり、カトリーナの前世の知識と彼らの技術が交われば、今までにない芸術が生まれる可能性だってある。
冒険者や鍛冶師も、ラフォン家直属の騎士として召し抱えれば、軍事力は高まる。それは、バルトを直接的に守ることにもつながると考えていた。
そして、スラムを拠点とした情報網は、今現在も活用できている切り札といっても過言ではないだろう。
王都コンテストの最中も、カトリーナは多くのものにラフォン家に仕えないか勧誘を行っていた。
そうすることで、ラフォン家は王都で優秀な人材を抱え込み、強固な情報網を構築できる算段だった。
それをこんなにも早く活用することになるとは、と独り言ちながら、ヤコブの背中を追っていた。
(田舎じゃ、一人に言ったら全員に伝わるっていうくらい情報の回りが早いんだから。こんなもんでびっくりしてちゃだめよ、ヤコブ殿下ったら)
小さくため息を吐いたカトリーナは、赤い狼煙――緊急事態の合図をみて、城下の様子をおもんばかる。
今は、ここに避難しつつ、情報を集めることしかできないのだとわかってはいながら。
「ど、どうしたのですか? カトリーナ様」
「あぁ、ドラ様。ご無事でなによりです。色々と話したいことはありますが、今は――」
そう言いながら周囲を見渡すと、すぐに大きな声をだした。
「皆様! 今現在、王都は過激派の軍勢に襲われているようです!」
その言葉に、穏健派の貴族達の不安は増大する。
それとともにざわめきは増し、空気も緊迫していった。
「ヤコブ殿下! 王都からの避難はおそらく難しいかと。それよりも、皆様をより安全な場所へとお連れできませんか? ここは王城の外から近いです。殿下も、できれば守りが強固な場所へ避難したほうがよろしいかと」
穏やかに告げるカトリーナに、ヤコブはとうとう我慢できずに声を荒らげた。
「一体どういうことなんだ! なぜ君がそんな情報を知っている! 諜報部も把握していない情報だぞ? 一体どうやって!」
理解できないものを見るような、怯えすら透けて見えるようなそんな視線をカトリーナに向けた。
彼女は、その視線を真っ向から受け止めると、堂々と答える。
「冒険者の方々も、素晴らしい武器も、こうして集まる情報もすべてこの王都の民達がもたらしたものです。そして、私はその助けを得ているにすぎません。そして殿下……。我がラフォン家は王家に忠誠を誓い殿下をお支えするためにここにいます。この力はあなたのもの。この力をもって、あなたの身を守り民を守ることが私の使命でございます」
そういって頭を下げるカトリーナ。
ヤコブは、それをみて一瞬訝し気な表情を浮かべたが、すぐに表情を律するとその場にいた貴族達を奥への案内していった。
一通り、王城の奥へと非難が済んだ面々を見送りながら、ヤコブはカトリーナをじっと見つめている。
「そなたは……味方なのだな?」
「ええ。それは疑いようもなく」
「わかった。信じよう……君たちも、すぐに奥へ避難を」
「はい」
走り去るヤコブの後ろ姿をカトリーナは追いかけた。
そしてこれからどんなことが起こるのか。想像すら難しい事態に頭をフル回転させて考えていた。
そもそも。
この王都コンテストは、穏健派の力を高めるために行われたものだ。
経済的な発展と市民からの支持を目的に、数々のコンテストを行った。
だが、その裏でカトリーナが考えていたことはラフォン家の繁栄だ。
貴族社会であるこのストラリア王国では、貴族は貴族、平民は平民とくっきりした枠組みができている。
当然、その枠組みは制度上だけでなく人々の頭や心にも大きな影響を与えていた。つまり、貴族は平民に興味はなく、平民は貴族など雲の上の存在といないものとして生活をしていた。
そこにきて今回の王都コンテストである。
皆は同時開催することでの表向きなメリットに目がいったが、カトリーナはそうではなかった。
彼女は、この王都コンテストを大きなオーディションの場であると思っていたのだ。
つまり。
ミスコン、ないしは美魔女コンテストでは見目麗しいものがあつまる。
外見は貴族社会では武器だ。その武器を手に入れられれば、外交の場でもラフォン家は力を手に入れられる。
画家や美術家も同様であり、カトリーナの前世の知識と彼らの技術が交われば、今までにない芸術が生まれる可能性だってある。
冒険者や鍛冶師も、ラフォン家直属の騎士として召し抱えれば、軍事力は高まる。それは、バルトを直接的に守ることにもつながると考えていた。
そして、スラムを拠点とした情報網は、今現在も活用できている切り札といっても過言ではないだろう。
王都コンテストの最中も、カトリーナは多くのものにラフォン家に仕えないか勧誘を行っていた。
そうすることで、ラフォン家は王都で優秀な人材を抱え込み、強固な情報網を構築できる算段だった。
それをこんなにも早く活用することになるとは、と独り言ちながら、ヤコブの背中を追っていた。
(田舎じゃ、一人に言ったら全員に伝わるっていうくらい情報の回りが早いんだから。こんなもんでびっくりしてちゃだめよ、ヤコブ殿下ったら)
小さくため息を吐いたカトリーナは、赤い狼煙――緊急事態の合図をみて、城下の様子をおもんばかる。
今は、ここに避難しつつ、情報を集めることしかできないのだとわかってはいながら。
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