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第三章 王都攻防編
王都コンテスト⑮
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セヴェリーノの言葉に、カトリーナは思わず愕然とした。
なぜ、自分が生きていることがおかしいのか。
なぜ、自分が死んでいると彼が思っていたのか。
問われた理由がわからず、曖昧にこたえることしかできない。
「セ、セヴェリーノ? 正直、なんでそんなことを疑問に思うのか、私にはわからないのだけど」
できるだけ優しく話したつもりだったが、セヴェリーノは肩をびくりと震わせると、首から下げていたペンダントを握りしめた。
カルラは、その仕草をみて眉をひそめた。
「カトリーナ様。この方は?」
「ええ、カルラ。この子はセヴェリーノ。ラフォン家の使用人よ」
「そうですか……まさか、ここまで」
カルラは何かを理解したかのように頷くと、突然細剣を抜きセヴェリーノに切っ先を向けた。
あまりの行動に、カトリーナは声を荒らげる。
「なにを!?」
とっさにセヴェリーノを庇うようにカルラの前に立ちふがった。
セヴェリーノは驚き後退り、周囲の目もこちらにむく。だが、カルラは落ち着いてカトリーナに語り掛けた。
「彼は魔力を持っています。そして、そのペンダントは魔道具です。セヴェリーノと言いましたね。その魔道具への魔力の供給をやめなければすぐさま切り捨てます」
「切り捨てるって――それに、魔力――」
カトリーナが慌てて振り向くと、セヴェリーノがつかんでいたペンダントが赤く輝き始めた。
それをみた周囲の者たちは、ざわざわと騒ぎ始める。
「おい! その光!!」
「ああ! さっき出てきた魔物も真っ赤に光った後に出て来やがらなかったか!?」
「嘘でしょう!? あの魔物がまた――あなたたち! 逃げなさい! 逃げないとまた魔物が――」
だんだんと強くなった光は、一帯を照らすまでになっていた。
その光の異常性に気づいた住民たちは、一斉に逃げ惑う。
カルラは、目の前でその光を浴びながら目を見開いていた。
「セヴェリーノ……その魔道具って、もしかして」
「ええ、奥様。そうですよ。この魔道具は、自分の身体を魔物に変えるもの。私は、あなたに生きていてもらっては困るのです。ですから、私はこの身を捧げなければならない」
「どうしてよ! どうして、セヴェリーノは私の命を!」
「カトリーナ様、お下がりを! すぐに殺らなければこの子は魔物になってしまう!」
「カルラ様! 申し訳ありません! もう少し話を――」
前に出ようとしたカルラを抑えるカトリーナ。
二人が軽くもみ合っている最中、赤い光はどんどんと強くなっている。おそらくはペンダントに魔力が宿っている証拠なのだろう。
だが、それでもカトリーナは彼の話を聞かずして切り捨てるなどできなかったのだ。
「あなたの話を聞かせてよ! セヴェリーノ!!」
必死の叫びが伝わったのか、うつむいていた彼はゆっくりと顔を上げる。
カトリーナはその顔をみてぎょっとした。頬に伝う涙が、彼の苦しみを物語っていたのだ。
「奥様はおっしゃった……自分を信じすぎず人に頼ることが力だと……。ですが、私は自分の力なんてひとかけらも信じられない。それ以上に人も信じられないのです……。優しさにほだされていては目的は達せられない。私は奥様に死んでいただくしかないのです」
「……私は今でもあなたを信じてるわ」
カトリーナの言葉にセヴェリーノは顔を歪ませる。
「もっと人を疑ってください! 冷酷さと残酷さこそが貴族の力なのです!! どうしてあなたはそうなのですか! この世界はそんなに優しくない! もしそうだとしたら、私の妹はあんなに苦しまなくて済んだんだ!!!」
泣き叫びながら慟哭するセヴェリーノの言葉をカトリーナは真正面から受け止める。
そして、聞き覚えのない妹という単語に、眉を顰める。
「妹のために、死んでください、カトリーナ様……。もう私には、こうするしか助ける術がないのです」
セヴェリーノは目をつぶる。すると、彼の持っているペンダントがさらに赤く輝いた。
カルラは、それをみてすぐさま地面を蹴る。
カトリーナをすり抜けセヴェリーノの前に躍り出たカルラはその剣を振りかぶった。
「くっ――これ以上は待てないっ!」
「ダメ! カルラ!」
セヴェリーノに斬りかかるカルラ。
カルラに追いすがるカトリーナ。
三人が一点に収束する――――。
「な、なぜですか――」
顔を上げたセヴェリーノの前には、カトリーナが両手を広げて立ちふさがっていた。
カルラの剣は彼女の額にわずかに触れており、そこから血が一筋流れている。
苦痛に顔を歪めるカルラとは違い、カトリーナの表情は迷いなく一点を見つめていた。その手には、セヴェリーノが付けていたペンダントがいつのまにか握られている。
そのペンダントはいまだ赤く輝き続けていた。
「カ、カトリーナ様……一体、なにを――」
「セヴェリーノはラフォン家の使用人ですから。何があっても守ります。ですからどきません。使用人に刃を向けるなら、私が戦います」
カトリーナはそう言って振り向くと、セヴェリーノを抱きしめ語り掛ける。
「セヴェリーノ。ペンダントは預かったわ。妹さんのことは初めて聞いたけど、ちゃんと何があったか教えてちょうだい。私とあなたは雇い主と使用人だけど、同じ家に住む家族だと思ってるわ。だから、頼って? 私もバルト様も、あなたのためなら命だってかけれる。絶対に守ってあげるから」
「お、奥様……血が――」
「血? ああ、これくらい大丈夫よ。きっとカルラなら私の動きをみて剣を止めてくれるって信じてたから。それよりも、あなたが無事でよかったわ」
「あ、あぁ、あ――――あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁっ」
カトリーナの胸のなかでセヴェリーノが叫んだ。
その胸を引き裂くような叫びは空に広がっていく。
カトリーナは彼の背中をぽんぽん、と叩きながら小さく微笑んでいた。
その時。
カトリーナの手に握られていたペンダントは輝き続けながらその形を変えていく。
突然大きく広がったかと思えば、大きく布状になりカトリーナの周りを取り囲んだ。
「……え」
そして咄嗟に手を伸ばしたカルラも間に合わず、カトリーナはペンダントに飲み込まれてしまう。
残されたのは、空中に浮かぶ黒い丸い球だけだった。
なぜ、自分が生きていることがおかしいのか。
なぜ、自分が死んでいると彼が思っていたのか。
問われた理由がわからず、曖昧にこたえることしかできない。
「セ、セヴェリーノ? 正直、なんでそんなことを疑問に思うのか、私にはわからないのだけど」
できるだけ優しく話したつもりだったが、セヴェリーノは肩をびくりと震わせると、首から下げていたペンダントを握りしめた。
カルラは、その仕草をみて眉をひそめた。
「カトリーナ様。この方は?」
「ええ、カルラ。この子はセヴェリーノ。ラフォン家の使用人よ」
「そうですか……まさか、ここまで」
カルラは何かを理解したかのように頷くと、突然細剣を抜きセヴェリーノに切っ先を向けた。
あまりの行動に、カトリーナは声を荒らげる。
「なにを!?」
とっさにセヴェリーノを庇うようにカルラの前に立ちふがった。
セヴェリーノは驚き後退り、周囲の目もこちらにむく。だが、カルラは落ち着いてカトリーナに語り掛けた。
「彼は魔力を持っています。そして、そのペンダントは魔道具です。セヴェリーノと言いましたね。その魔道具への魔力の供給をやめなければすぐさま切り捨てます」
「切り捨てるって――それに、魔力――」
カトリーナが慌てて振り向くと、セヴェリーノがつかんでいたペンダントが赤く輝き始めた。
それをみた周囲の者たちは、ざわざわと騒ぎ始める。
「おい! その光!!」
「ああ! さっき出てきた魔物も真っ赤に光った後に出て来やがらなかったか!?」
「嘘でしょう!? あの魔物がまた――あなたたち! 逃げなさい! 逃げないとまた魔物が――」
だんだんと強くなった光は、一帯を照らすまでになっていた。
その光の異常性に気づいた住民たちは、一斉に逃げ惑う。
カルラは、目の前でその光を浴びながら目を見開いていた。
「セヴェリーノ……その魔道具って、もしかして」
「ええ、奥様。そうですよ。この魔道具は、自分の身体を魔物に変えるもの。私は、あなたに生きていてもらっては困るのです。ですから、私はこの身を捧げなければならない」
「どうしてよ! どうして、セヴェリーノは私の命を!」
「カトリーナ様、お下がりを! すぐに殺らなければこの子は魔物になってしまう!」
「カルラ様! 申し訳ありません! もう少し話を――」
前に出ようとしたカルラを抑えるカトリーナ。
二人が軽くもみ合っている最中、赤い光はどんどんと強くなっている。おそらくはペンダントに魔力が宿っている証拠なのだろう。
だが、それでもカトリーナは彼の話を聞かずして切り捨てるなどできなかったのだ。
「あなたの話を聞かせてよ! セヴェリーノ!!」
必死の叫びが伝わったのか、うつむいていた彼はゆっくりと顔を上げる。
カトリーナはその顔をみてぎょっとした。頬に伝う涙が、彼の苦しみを物語っていたのだ。
「奥様はおっしゃった……自分を信じすぎず人に頼ることが力だと……。ですが、私は自分の力なんてひとかけらも信じられない。それ以上に人も信じられないのです……。優しさにほだされていては目的は達せられない。私は奥様に死んでいただくしかないのです」
「……私は今でもあなたを信じてるわ」
カトリーナの言葉にセヴェリーノは顔を歪ませる。
「もっと人を疑ってください! 冷酷さと残酷さこそが貴族の力なのです!! どうしてあなたはそうなのですか! この世界はそんなに優しくない! もしそうだとしたら、私の妹はあんなに苦しまなくて済んだんだ!!!」
泣き叫びながら慟哭するセヴェリーノの言葉をカトリーナは真正面から受け止める。
そして、聞き覚えのない妹という単語に、眉を顰める。
「妹のために、死んでください、カトリーナ様……。もう私には、こうするしか助ける術がないのです」
セヴェリーノは目をつぶる。すると、彼の持っているペンダントがさらに赤く輝いた。
カルラは、それをみてすぐさま地面を蹴る。
カトリーナをすり抜けセヴェリーノの前に躍り出たカルラはその剣を振りかぶった。
「くっ――これ以上は待てないっ!」
「ダメ! カルラ!」
セヴェリーノに斬りかかるカルラ。
カルラに追いすがるカトリーナ。
三人が一点に収束する――――。
「な、なぜですか――」
顔を上げたセヴェリーノの前には、カトリーナが両手を広げて立ちふさがっていた。
カルラの剣は彼女の額にわずかに触れており、そこから血が一筋流れている。
苦痛に顔を歪めるカルラとは違い、カトリーナの表情は迷いなく一点を見つめていた。その手には、セヴェリーノが付けていたペンダントがいつのまにか握られている。
そのペンダントはいまだ赤く輝き続けていた。
「カ、カトリーナ様……一体、なにを――」
「セヴェリーノはラフォン家の使用人ですから。何があっても守ります。ですからどきません。使用人に刃を向けるなら、私が戦います」
カトリーナはそう言って振り向くと、セヴェリーノを抱きしめ語り掛ける。
「セヴェリーノ。ペンダントは預かったわ。妹さんのことは初めて聞いたけど、ちゃんと何があったか教えてちょうだい。私とあなたは雇い主と使用人だけど、同じ家に住む家族だと思ってるわ。だから、頼って? 私もバルト様も、あなたのためなら命だってかけれる。絶対に守ってあげるから」
「お、奥様……血が――」
「血? ああ、これくらい大丈夫よ。きっとカルラなら私の動きをみて剣を止めてくれるって信じてたから。それよりも、あなたが無事でよかったわ」
「あ、あぁ、あ――――あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁっ」
カトリーナの胸のなかでセヴェリーノが叫んだ。
その胸を引き裂くような叫びは空に広がっていく。
カトリーナは彼の背中をぽんぽん、と叩きながら小さく微笑んでいた。
その時。
カトリーナの手に握られていたペンダントは輝き続けながらその形を変えていく。
突然大きく広がったかと思えば、大きく布状になりカトリーナの周りを取り囲んだ。
「……え」
そして咄嗟に手を伸ばしたカルラも間に合わず、カトリーナはペンダントに飲み込まれてしまう。
残されたのは、空中に浮かぶ黒い丸い球だけだった。
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