慟哭のシヴリングス

ろんれん

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姦邪Ⅰ -ルィリア編-

第21話 秘密の発表会

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「じゃあ今度はワタクシの番です!」

 俺が作り出してしまった重苦しい空気の中、それをぶち壊すかのようにルィリアが高い声で言った。

「え?」
「だってワタクシは言いたくない事を言って差し上げたんですよ? なら君達も何か秘密を明かさないと!」
「……そんな事で、許される訳が」
「許す許さないの問題じゃなくないですか?」
「それは……」
「これから一緒の家で過ごす仲なんですから、隠し事は無しで行きましょ!」
「いや……」
「そうですねぇ……ではまず、君の名前!」

 ルィリアは俺の返答を全て遮るように次から次へと言葉を発していく。きっと俺が喋ると暗くなるからそれを防ぐ為に遮っているのだろう。
 ……って、名前?

「は?」
「シャーロットには名乗ったかもしれませんが、ワタクシは名乗られてません! だから教えてください! 因みに君の妹はクオンちゃんですよね!」
「おや、フェリノート様では?」

 俺の妹の名前に対し、シャーロットが思わず反応する。
 そういえばルィリアには久遠と伝えていて、シャーロットには久遠がフェリノートと名乗っていたのを思い出した。

「えっ? ワタクシはクオンって聞いた記憶が」
「……久遠は、零にぃちゃんの前世の妹の名前。今の私の名前はフェリノート。でも、出来れば久遠って呼んでほしい」

 俺が喋るよりも先に、久遠が自ら説明した。

「前世?」
「俺達兄妹は、こことは違う別の世界……異世界から転生してきたんだ。何故だか、前世の記憶を引き継いだ状態でな」
「ほう……転生論ですか。ワタクシの専門ではありませんが、聞いた事だけはあります。具体的に憶えてませんが“万物には全て前世が存在し、生まれ変わる際に記憶は消えるが能力は受け継がれる”……的なやつですよね! 例えば泳ぎが得意な人は前世が魚だったみたいな! ごく稀に前世の記憶を保持したまま転生する特異点的存在が居るとされてますが、まさかそれが君達だったとは! しかも前世で兄妹だった2人が転生してもなお兄妹な上に記憶も受け継いでいるなんて、奇跡が連鎖し過ぎてますっ!」

 ルィリアはまたもや長々とテンション上げて言った。
 “専門じゃない”だとか“憶えてない”とかほざいておきながら、めちゃくちゃ喋るなコイツ。絶対“専門でもないのによくわかるね!”って褒めてもらいたい奴じゃないか。絶対に褒めないぞ。

「……うん。私達が兄妹になれたのは、奇跡」
「本当、君達は相思相愛なんですね」
「やめてくれ……愛とか、そんなんじゃない」
「全くもう照れちゃって……可愛いですねっ」
「とにかく! 俺達は異世界転生者だって事! これが俺達の秘密だ!」

 俺はさっきのやり返しをするように、ルィリアの声をかき消すような大声でそう言った。

「予想だにしない秘密を暴露されちゃいましたね……では次はワタクシの番ですね!」
「またルィリアの番かよ!?」
「ワタクシの秘密は結構高いんですよー? そんじょそこらの秘密一個じゃ釣り合いません」
「この詐欺師!」
「取引なんて大概詐欺みたいなものでしょう? 安く仕入れて高く売る……商売はそういうものですが、捉えようによっては詐欺に見えるでしょう?」
「……言われてみればそうかもな」

 ルィリアの屁理屈に、俺は面倒くさくなったので適当に返した。
 しかしその言い分だと、俺達が異世界転生者だという秘密が安いものだって事じゃないか。あれだけ転生という単語に勝手に盛り上がってたくせに……と言ってやりたくもなったが、それすらも面倒に思えてきたので何も言わなかった。

「論破! はいワタクシの勝ちです! て事で次の質問……何で君達は家出したんですか? きっと両親心配してますよ?」
「じゃあ今から親の元に帰ってもいいのか?」
「……どうぞ?」
「……」

 俺の言葉に、ルィリアは意外にもあっさりとそう言ってきた。てっきり反対してくるものだと思っていたから、予想外の反応に思わず黙り込んでしまった。

「——ふふっ、冗談ですよ。せっかく養子として迎えたのに1日も満たずに居なくなっちゃうなんて寂しいじゃないですか。せめてもう少しだけ家族として、君達の母親として一緒に過ごさせてくださいよ」

 ルィリアは表情を柔らかくして優しく微笑みながらそう言うと、俺の頭を優しく撫でてきた。

「……大丈夫だ。俺達が親の元に帰るつもりは毛頭ないし、両親が俺達を心配する事はない」
「複雑ですね……果たして喜んでいいのでしょうか、それは」
「喜んでいいと思うぞ」
「どうして両親が心配する事はないって言い切れるんですか? 母親にとって君達はお腹を痛めて産んだ子供なんですよ?」
「久遠……フェリノートはともかく、俺は望まれて生まれた訳じゃない。愛は人を狂わす……時に愛が人を優しくさせるし、時にどうしようもないくらい残酷にさせる」
「……まぁその言い分だと、君達の母親は愛によってどうしようもなく残酷になったんでしょうね。前に聞いた、君とクオンちゃんの父親が違うという話と照らし合わせると、さしずめ不倫ですか」
「そういう事だ」
「しかし君だけが望まれて生まれた訳じゃない、というのはどういう事なんです?」
「どうやら、俺の父親とはそもそも結婚した記憶も性行為をした記憶も無いらしい。気が付いたら夫婦関係になっていて孕っていたんだそうだ」
「なんですかそれ。被害者ヅラする為の嘘にしか思えませんが」
「100%の確証は無いけど、事実だ。俺の母親……シェリルは洗脳魔術を施されていた可能性が」
「ちょっと待ってください、洗脳魔術って?」

 突然食い気味に、ルィリアがそんな質問をしてきた。

「いや、洗脳魔術だよ。普通にあるだろ? 実際、洗脳魔術とか悪魔召喚とかって書いてある魔導書を見た事があるぞ、俺」
「悪魔召喚……まさか」

 何か心当たりがあるのか、ルィリアは顎に手を当てて深刻そうな表情を浮かべた。

「心当たりがあるのか?」
「えっ、あ……いや、その……」
「なんだよ?」
「……もしかしたら君が読んでいたのは、ただの魔導書ではないかもしれません」
「どういう意味だ……じゃあ、俺は一体何を」
「——七つの大罪の一画を担う悪魔の力、もしくは悪魔そのものが封印された……の可能性があります」
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