憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

トロフィーの追加

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「これ、どうすっかな。」

トモエも一緒に戻ってくると、すでに見えていたグレイハウンドの首を、シグルドが地面に置く。
そして、その横に、きれいな一枚物の毛皮を並べる。
彼もトロフィーを得られたらしい。
ただ、既にトモエに頭を叩かれた後だからか、そう嬉しそうに言いながらも、武器の手入れを始めている。

「詳しい方に聞きましょうか。」
「おう、呼んでくる。」

オユキがそう言えば、側にいた傭兵が、それを買って出てくれる。
近くにいた傭兵が、代わる代わる様子を見に来ては、シグルドの肩を軽くたたきながら、祝福の言葉をかける。

「やったじゃねーか、坊主。」
「まぐれっぽかったけど、大したもんだ。」
「アレを毎回できるようになるまで、きっちり体に叩き込めよ。おめでとさん。」

ただ、そこは傭兵達も手練れであるため、一言きっちり付け加えてはいたが。

「分かってるよ。くそ、曲がったな。」
「素振りの時、何故毎回きっちり止めるように言っているか、よくわかるでしょう。」
「なにも、こんな形じゃなくても。」
「替えは、まだありますか。」
「次が、最後なんだよな。」

そういって、シグルドは鞘に剣を納めようとするが、曲がった剣ではそれもままならない。
頭を掻いて、困ったと再度シグルドが呟いたところに、ホセが数人の傭兵に守られてやってくる。
それこそ人が歩く程度の速さではあったが、進んでいた馬車も今は止まっているようだ。

「これはこれは。おめでとうございます。」
「ああ、ありがと。で、これなんだけど。どうすりゃいいんだ。」

ホセがお祝いの言葉を告げると、シグルドはそれに軽く答えて、困り顔のまま話を続ける。

「正直、これで武器が手に入ればいいんだけど。ここまでの稼ぎじゃ、足りないんだろうから。」
「そうですね。新調するには十分すぎる金額にはなるでしょう。
 まずは、これを狩猟者ギルドに持ち込んで、そこで換金するのがいいかと。」
「そっか。これで武器は買えるのか。で、これって武器作るのには使えるのか。」
「使えますよ。質は鉄よりも良くなりますが。量は、どうでしょう。」

ホセがそういって、側の傭兵、ルイスを見れば首を縦に振る。

「4振りくらいは作れるはずだぞ。」
「成程。」
「毛皮で、防具の補強もいいが、このあたりだとかなり暑いからな。
 それに、そこまで丈夫でもない。」
「じゃ、毛皮は売るとして、武器か、どうするかな。」
「なに、今決める事でもないさ。トモエたち一緒に工房に言って、どんな仕上がりになるか聞いてから決めりゃいい。」
「でも、それだと、金、足りるかな。」
「毛皮の状態が非常にいいですからね。かなりの金額になりますよ。
 それだけで、武器の10や20は買えるほどに。」

その言葉に、少年たちが息を呑む。

「トロフィーでもなければ、このように一枚の大きな毛皮は、それこそ家畜の物だけですから。
 どうしますか。こちらで、積み込んで今いましょうか。」
「ああ、頼む。」

そこで、ひとまず処理が終わり、ただ生首をそのまま馬車に乗せるのかと、トモエとオユキとしては複雑な気分にはなったが、血などが垂れているわけではないからと、ひとまず飲み込むこととした。

「よかったですね。武器の替えも手に入りそうです。」
「ほんと、助かった。こんな高いのに、消耗品てのがなぁ。」
「そればっかりはなぁ。俺らでも頭抱えるからな。
 魔物相手にするなら、一生ついて回るぞ。」

ルイスがそうシグルドに声をかければ、少年たちからため息が漏れる。
始まりの町では、手に入りにくいのだ。町で作っているわけでもないため、お高いというおまけ付きで。

「では、気を取り直して、次は誰が行きましょうか。」

トモエがそういって、手を叩けば、今度はアナが向かう。

「さて、ルイスさん、こちらはお任せしても。」
「おう。お守りは任せとけ。」

少し離れた位置から走ってくる鹿を目にして、オユキがイマノルにそう声をかける。
グレイハウンドは少年たちに回すとしても、流石に鹿はまだ早いと思えてしまう。
こちらは、いよいよ一度のミスで大けがをしてしまいそうでもある。

「さて、皆さんはよく見ておいてくださいね。今模索している物では無い、流派の物、その技の一つをお見せしますから。」

オユキはそう声をかけると、相も変わらず一心不乱に突っ込んでくる鹿に対峙する。
鋭い角を突きだして走ってくるその姿は、槍衾がそのまま突っ込んできていると、そう言っても良いほどである。
オユキは長さを調整したグレイブではなく、持っていた両手剣を鞘から抜く。
グレイブはこの旅路の半ばで、既に予備も含めて、駄目にしてしまっていた。
技を試すために、無理な使い方を繰り返したことがその原因であるため、こればかりは反省するしかない。
そんな事を思いながら、角の外側に剣を当て、逸らしながら、鹿の脇を抜ける。
槍を相手にするときは、前後、斜めに動く。
間合いの違いがある、左右にかわすだけでは、こちらの攻撃が届く距離に至ることはない。
左右に動く、その反動を殺すために、動きが止まり、そこを狙われる。
だからこそ、躱すのなら、相手の間合いから外れるしかない。
すれ違いざまに、前足を一本、剣で切り取る。
突進の勢いのまま、バランスを崩し前に倒れようとするところを、片足だというのに、上手く支え、オユキの方を振り向こうとする。
その動きに意外を覚えながら、トモエのように角を、そんな欲が脳裏をよぎるが、振り返ろうと無くなった足の方に体を捻ろうと動き、それを邪魔するように後ろ脚に蹴りを。
よろけ、首が下がった鹿の、その首を切り落とす。
首には複雑に骨が入っているだろうに、熊の時と同様に、刃は抵抗なく進み、半ばまでしか切れないだろうというのに、きれいにその首が落ちる。
技を磨くには、正直不便だなと、落ちた首を見て、そんなことを考えれば、落とした首をそのままに、鹿の胴体が消える。
トロフィーと、そう呼ぶに相応しい物がそこには残ったままになった。

「まだまだですね。私も。」

首を落とすのに、何処か技を頼る心があったから、ゲームの時から馴染んだ技が出たのか。
それとも意識して抑えねばならぬほどに馴染んでいるのか。
そのどちらとも判断はつかないが、それに頼らず、角を切り落とすトモエに、技では及ぶべくもないなと、そんなことをやはり考えてしまう。
そして、熊よりも小さいとはいえ、角まで含めればオユキの身長程はあるそれを、さてどうしたものかと、見てしまう。
そのまま周囲に気を配りながら、武器の状態だけ確認していると、ルイスが少年たちを連れて近寄ってくる。

「相変わらず、見た目に似合わない腕前だよなぁ。」
「ありがとうございます。その、申し訳ありませんが。」
「ああ、任せとけ。」

ルイスがそういって、オユキの代わりに、鹿の首を軽々と持ち上げる。
それも、その鋭い刃のようになっている角を、素手で掴んで。
相変わらず、こちらの人たちは底知れないと、その姿を見て思っていると、シグルドがオユキに早速とばかりに質問する。

「なぁ、あの角をすり抜けたみたいなのは。」
「あれが歩法ですよ。今後皆さんに教えていくものです。」
「立ち方しか習ってないけど。」
「そもそも、その立ち方ができないと、やろうとしてもこけるだけですよ。」
「そんなもんか。それにしても、まだまだ、遠いなぁ。」

そういって、ルイスがホセに掲げるようにして見せる鹿の首を眺めながら、シグルドがそう呟く。

「おや、追いつかせる気はありませんよ。私達も成長しますから。」
「そうなんだよなぁ。」

シグルドがそう呟いて、視線をそのまま上に向ける。

「いやさ、物語とかだと、師の背を超えるとか、アンが呼んでる本に書いてあったりするけど。
 現実だと、まぁ、無理だよなぁ。」

その言葉に、夢を壊してしまったかと、オユキは少し言葉を探すが、ふさわしい言葉など、そもそも今の理不尽というしかない状況以外に存在しない。

「その、私達は異邦人ですから。」
「分かっちゃいるけど。」

かといって、手心を加えて、足を止めてそれで追い越させる気もオユキにはないのだ。
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