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パウとオユキ 中
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オユキが諦めたことは、こちらに来てからというもの実に多くの事柄がある。
だが、それにしてもどうなのだろうか。
「所詮は、生前と同じ流れです」
そう、既に生前にどうにか折り合いをつけたことでしかない。
両親の事は、既にトモエと義父の為にと一度諦めている。
それ以前の状況にしても、諦観の積み重ねがオユキの人生でしかない。
オユキの在り方を、諦観だと語った時に。
凡そ、かつての世界では上位一桁の百分率で表現されるような、そんな状況であったには違いなく。
その状況を諦観の積み重ねだと表現して、納得できる物等確かにいはしないだろう。
そして、その状況は、こちらの世界でも同じ。
下級貴族だというのに、国王夫妻からの覚えめでたく。前王の時代から長く国に仕えてきた人物からも同様に。
さらには、神国に存在する四公の現当主、うち三者からはやはり同様に。残った一家にしても、前と後についてはやはり定期的に手紙のやり取りなどを行っている始末。
他国、他種族までを含めれば、やはりこの神国において、オユキという一個人に個人として比肩できる者たちというのが、やはり基本として存在しない。
巫女という職分を、気軽に神を降ろして見せる、異邦の巫女という事実を除いたのだとしても、それだけの現実をこれまでに積み上げたのだ。
如何に過去の世界の倍ほどの時間が一年として与えられているのだとしても、僅か四年も無いうちに。
「楽しかったのです。ここ、半年ほどの事が。だからこそ、戻ってきたときに気が付くものがあまりにも多かったのです」
「例えば、あれをその場に遺してというのは」
「あれだけではありません。あんなものは、切欠の一つだとシグルド君とアナさんはともかく」
「リーアは俺よりも」
「そうでしょうとも。ですが、こうして話しているばかりというのも、私としてはもはや意義を見出せません」
オユキは、既に刃を抜き放っている。
パウが大楯こそ構えている物の、己の得物として選択している長大な両刃の剣を構えていない。
普段は鞘に納めた上で、紐を使って背に括りなどとしている武器。オユキでは、とても持ち歩く事すら、構えることもできない程に肉厚で長さもあるヴェトスレオの骨と牙に加えて、鋼鉄を用いた刃。
この場で、オユキと、トモエの徒弟としての立場をこちらに来てから崩していないオユキに向き合うというのに、そのような粗野な武器を持ち出すことにさえ、今のオユキは苛立ちを感じている。
パウの研鑽、どうしたところでトモエが見ることが出来る時間というのが短く。
彼らの中で、どうしたところで役割分担を行う必要があったのだろう。そもそも、トモエにしてもパウに関しては色々と他に指示することを許したのだと、その場面をオユキにしても目撃してきている。
彼らの、パウの研鑽は勿論パウ自身の物。
オユキ自身、トモエに相対するのにトモエから、義父から習った術理ではなく他を頼むと何ら変わりはない。
「過去、トモエさんが私に感じていた感情というのは、凡そこのような物なのでしょうか」
パウとオユキほど極端と言う訳では無い。
パウは、こちらの平均よりも少し高く、それにふさわしい体躯を既に持っている。
年齢を考えれば、今後の成長はもう見込めないかもしれない。しかし、筋力、肉体の厚み、そうした物はいくらでもつけていくことが出来る年齢でしかない。
そして、改めて彼我の差をオユキは想う。
こちらに来てからという物、四尺六寸ほどしかないだろう己の体躯。
翻って、七尺を超えようという程の、パウの体躯。
かつては、此処まで露骨では無かった。
トモエとの差が、尺で表すほどあったはずもない。それでも、四捨五入をすれば一尺にはなろうかという程には。
「どこまで行っても、己の過去が苛む物です。本当に」
かつての己は、これに限りなくと言う事は無いのだが、それでも近しいほどの不利をトモエに与えていたのかと。
今更、そんな事をオユキは苦々しく思う。
こうして、己が向き合う相手、シグルドではなく、パウである事。
まるで、これにしてもミズキリの予定の内だと、神々の配剤だとでも言わんばかりに実に綺麗に事が運んでいる。
それが、今回の旅行にしても、末期の旅だと定め、トモエに攫われてみてからの間も感じ続けていたことが、またもオユキの脳裏をよぎるのだ。
「約束にしても、トモエさんのというよりも」
そう、互いに互いに対する優先権を。
意見が対立した時に、舌鋒ではあまりにもオユキが有利。武力ではトモエが圧倒的に。そのような関係だからこそ、決めていたことがある。それにしても、こちらに来る時までを考えたのだとして、次はトモエの番なのだ。
勿論、トモエがそうしたように。
過去に、何度かオユキがそうしたように。
それを無視したうえでと言う事を、行う事とて勿論互いの中では納得済み。
「ああ、いえ、いけませんね。向き合わねば、礼を欠いていると理解はあるのですが」
そして、なにより今のオユキにとっては、それほど肉体的に差のあるパウですら、相手になりはしないのだ。
トモエに、こちらの世界に来てからのトモエに対して己の力で打ち勝つには、それを考え続けた結果として。
勿論、その限りではないことも多い。
だが、この、王都の闘技場においては。
戦と武技の柱の名のもとに、加護の一切を排すると謳いながらも、種族としての特性が残るこの場に置いては。
個人の持つ、明確な才覚としての能力、肉体としての、加護を含まない鍛錬による成果というのが残されるこの場に於いては。
「パウ君、貴方程度では、やはり相手にもなりません」
オユキの手には、すっかりと馴染んでいる幅広く少し肉厚の剣鉈に近い形状の武器。そして、対の手にはこちらに来たばかりの時にウーヴェに頼んで、二度ほどトモエに別の形を言われたものだが、それでもオユキが最初に選んだ形をトモエは尊重して。
トモエの判断では、やはり蛮刀というのは作りが分かりやすすぎて、少々工夫したところで届きはしないと言う事なのだろう。
だが、オユキとしてはトモエに言われた他の武器。
流派で市場とする形、それよりも、この武器にこそ見出せるものがあるのだ。
「トモエさんは、やはりシグルド君と時間をとるようですね」
オユキとしても、つらつらと考え事をしながら。
そして、パウの準備が整うまでの時間を、只使う。
威圧も、行いながら。
既に舞台には、緩やかに粉雪が舞っている。足の置き場には、霜が張っている。
セツナをはじめ、多くの氷の乙女たちから散々に習った種族としての特性。ここ暫くは、トモエに与えられた雷剣等と言う仰々しい者に対して、氷雪の魔女等と呼ばれるようになったオユキの種族としての特性。
戦と武技の法則が支配する、アイリスの願い、それよりも先にあった多くの願いをかなえるための舞台。
「オユキは」
「繰り返しますが、意義を感じません」
「ならば」
そして、ここにきてようやくパウが己の得物に手をかける。
「一つ、約束を願っても」
「叶えるとは言えませんが、それでも宜しければ聞くだけは聞きましょう」
ああ、こうして言葉を重ねるたびに。
パウの言葉選びが悪いなどとは、流石にオユキも考えていない。
そもそも、パウはオユキがどれほどの目に合ってきたのか理解していない。
近しい理解を持っているのは、彼の側にいる人間ではサキとアナだけ。
ファルコも、彼の支えにと側に侍る少女たちにしても。上役のメイにしても。
知っているのは、トモエが許していた場面だけ。それ以外の事は、全て伝聞でしかない。
一月どころではなく、二月近く寝台の住人となった事件。その内、二週ほどは、オユキが意識を取り戻さなかった日々。トモエのほうは、四日ほどで意識を取り戻してしまった事もあり、そこで改めて色々と考えなければならないと、そう決めてしまった切っ掛け。
「人国での事は、話しでは聞いている」
「話だけでしょう。戻るのには、少しかかりました。そして、戻ってからも私は生憎と記憶にありませんが」
そもそも、オユキの認識では事が終わって、気が付けば神国にいたのだ。
未だに、その時の事、あまりに汚染が進んでいたあの国、そこでの出来事はオユキにとっては未だに夢現。
唯一得た物と言えば、すっかりと慣れてしまったこうした氷の乙女としての振る舞いばかり。
「もしも、俺がオユキに傷をつけられたなら」
「ああ、そうした話ですか。ええ、それでしたら構いません」
パウの言葉に、そういえば少年たちの間で、オユキを、トモエを驚かせようなどとそんな話をしていたなと、古いと感じてしまう記憶をオユキは思い返す。
あれは、さて。
一体、誰から聞いたことであっただろうかと。
今こうして己のある舞台、そこでの出来事であったかのように思えば、あの幼さ故の残酷さしか持たぬ創造神の腹の内であったかと。
「私にパウ君、貴方の刃が届くことがあれば、ええ、言葉を聞きましょう」
それこそ、こちらに残れと言われれば、それでもかまわない。
誰かの、最早交流を立つのだと決めた相手と話をしろというのであれば、それにしても構いはしない。
オユキに毛頭こちらに残るつもりなどないのだが、家督をパウの両親にという話でさえも構いはしないのだ。
「それで、準備は十分でしょうか」
オユキは、ただ待っている。
一応は、兄弟弟子という程ではないのだが、同じ師に学んだ期間もあるからと、その程度の意識はオユキも持っている。
摩耗した、オユキ自身でもそう感じる心では、トモエが大事にしている相手だとそうした考えがあるのだとしても、最早老境の、末期の時に得ていた感情と変わりはない。
オユキの世界には、トモエだけ。
集中が深まった時には、トモエにだけ色が残るように。
その他一切は、まさに有象無象。
オユキの言葉に、パウが頷きを一つ返してくる。
そして、武器を鞘から抜き放つ。
それを合図に、それを契機にすらせずに。
抜き放った勢いそのままに、切り飛ばされたパウの手首が、長大な武器までもが、まるでずれる様に落ちていく。
左手には鞘を持ち、そこから刃を引き抜き切った。そして、そのまま手首が下に落ちて、当然それを支えていたはずの剣までも。
「開始の合図は、先ほどの物で、良かったのでしょう」
観客から悲鳴が上がる気配。
彼を応援する相手からは、悲鳴を無理に飲み込む気配。
だが、オユキとしての言い分など、いくらでもある。
「言ったでしょう。もう、私は疲れているのです」
だが、それにしてもどうなのだろうか。
「所詮は、生前と同じ流れです」
そう、既に生前にどうにか折り合いをつけたことでしかない。
両親の事は、既にトモエと義父の為にと一度諦めている。
それ以前の状況にしても、諦観の積み重ねがオユキの人生でしかない。
オユキの在り方を、諦観だと語った時に。
凡そ、かつての世界では上位一桁の百分率で表現されるような、そんな状況であったには違いなく。
その状況を諦観の積み重ねだと表現して、納得できる物等確かにいはしないだろう。
そして、その状況は、こちらの世界でも同じ。
下級貴族だというのに、国王夫妻からの覚えめでたく。前王の時代から長く国に仕えてきた人物からも同様に。
さらには、神国に存在する四公の現当主、うち三者からはやはり同様に。残った一家にしても、前と後についてはやはり定期的に手紙のやり取りなどを行っている始末。
他国、他種族までを含めれば、やはりこの神国において、オユキという一個人に個人として比肩できる者たちというのが、やはり基本として存在しない。
巫女という職分を、気軽に神を降ろして見せる、異邦の巫女という事実を除いたのだとしても、それだけの現実をこれまでに積み上げたのだ。
如何に過去の世界の倍ほどの時間が一年として与えられているのだとしても、僅か四年も無いうちに。
「楽しかったのです。ここ、半年ほどの事が。だからこそ、戻ってきたときに気が付くものがあまりにも多かったのです」
「例えば、あれをその場に遺してというのは」
「あれだけではありません。あんなものは、切欠の一つだとシグルド君とアナさんはともかく」
「リーアは俺よりも」
「そうでしょうとも。ですが、こうして話しているばかりというのも、私としてはもはや意義を見出せません」
オユキは、既に刃を抜き放っている。
パウが大楯こそ構えている物の、己の得物として選択している長大な両刃の剣を構えていない。
普段は鞘に納めた上で、紐を使って背に括りなどとしている武器。オユキでは、とても持ち歩く事すら、構えることもできない程に肉厚で長さもあるヴェトスレオの骨と牙に加えて、鋼鉄を用いた刃。
この場で、オユキと、トモエの徒弟としての立場をこちらに来てから崩していないオユキに向き合うというのに、そのような粗野な武器を持ち出すことにさえ、今のオユキは苛立ちを感じている。
パウの研鑽、どうしたところでトモエが見ることが出来る時間というのが短く。
彼らの中で、どうしたところで役割分担を行う必要があったのだろう。そもそも、トモエにしてもパウに関しては色々と他に指示することを許したのだと、その場面をオユキにしても目撃してきている。
彼らの、パウの研鑽は勿論パウ自身の物。
オユキ自身、トモエに相対するのにトモエから、義父から習った術理ではなく他を頼むと何ら変わりはない。
「過去、トモエさんが私に感じていた感情というのは、凡そこのような物なのでしょうか」
パウとオユキほど極端と言う訳では無い。
パウは、こちらの平均よりも少し高く、それにふさわしい体躯を既に持っている。
年齢を考えれば、今後の成長はもう見込めないかもしれない。しかし、筋力、肉体の厚み、そうした物はいくらでもつけていくことが出来る年齢でしかない。
そして、改めて彼我の差をオユキは想う。
こちらに来てからという物、四尺六寸ほどしかないだろう己の体躯。
翻って、七尺を超えようという程の、パウの体躯。
かつては、此処まで露骨では無かった。
トモエとの差が、尺で表すほどあったはずもない。それでも、四捨五入をすれば一尺にはなろうかという程には。
「どこまで行っても、己の過去が苛む物です。本当に」
かつての己は、これに限りなくと言う事は無いのだが、それでも近しいほどの不利をトモエに与えていたのかと。
今更、そんな事をオユキは苦々しく思う。
こうして、己が向き合う相手、シグルドではなく、パウである事。
まるで、これにしてもミズキリの予定の内だと、神々の配剤だとでも言わんばかりに実に綺麗に事が運んでいる。
それが、今回の旅行にしても、末期の旅だと定め、トモエに攫われてみてからの間も感じ続けていたことが、またもオユキの脳裏をよぎるのだ。
「約束にしても、トモエさんのというよりも」
そう、互いに互いに対する優先権を。
意見が対立した時に、舌鋒ではあまりにもオユキが有利。武力ではトモエが圧倒的に。そのような関係だからこそ、決めていたことがある。それにしても、こちらに来る時までを考えたのだとして、次はトモエの番なのだ。
勿論、トモエがそうしたように。
過去に、何度かオユキがそうしたように。
それを無視したうえでと言う事を、行う事とて勿論互いの中では納得済み。
「ああ、いえ、いけませんね。向き合わねば、礼を欠いていると理解はあるのですが」
そして、なにより今のオユキにとっては、それほど肉体的に差のあるパウですら、相手になりはしないのだ。
トモエに、こちらの世界に来てからのトモエに対して己の力で打ち勝つには、それを考え続けた結果として。
勿論、その限りではないことも多い。
だが、この、王都の闘技場においては。
戦と武技の柱の名のもとに、加護の一切を排すると謳いながらも、種族としての特性が残るこの場に置いては。
個人の持つ、明確な才覚としての能力、肉体としての、加護を含まない鍛錬による成果というのが残されるこの場に於いては。
「パウ君、貴方程度では、やはり相手にもなりません」
オユキの手には、すっかりと馴染んでいる幅広く少し肉厚の剣鉈に近い形状の武器。そして、対の手にはこちらに来たばかりの時にウーヴェに頼んで、二度ほどトモエに別の形を言われたものだが、それでもオユキが最初に選んだ形をトモエは尊重して。
トモエの判断では、やはり蛮刀というのは作りが分かりやすすぎて、少々工夫したところで届きはしないと言う事なのだろう。
だが、オユキとしてはトモエに言われた他の武器。
流派で市場とする形、それよりも、この武器にこそ見出せるものがあるのだ。
「トモエさんは、やはりシグルド君と時間をとるようですね」
オユキとしても、つらつらと考え事をしながら。
そして、パウの準備が整うまでの時間を、只使う。
威圧も、行いながら。
既に舞台には、緩やかに粉雪が舞っている。足の置き場には、霜が張っている。
セツナをはじめ、多くの氷の乙女たちから散々に習った種族としての特性。ここ暫くは、トモエに与えられた雷剣等と言う仰々しい者に対して、氷雪の魔女等と呼ばれるようになったオユキの種族としての特性。
戦と武技の法則が支配する、アイリスの願い、それよりも先にあった多くの願いをかなえるための舞台。
「オユキは」
「繰り返しますが、意義を感じません」
「ならば」
そして、ここにきてようやくパウが己の得物に手をかける。
「一つ、約束を願っても」
「叶えるとは言えませんが、それでも宜しければ聞くだけは聞きましょう」
ああ、こうして言葉を重ねるたびに。
パウの言葉選びが悪いなどとは、流石にオユキも考えていない。
そもそも、パウはオユキがどれほどの目に合ってきたのか理解していない。
近しい理解を持っているのは、彼の側にいる人間ではサキとアナだけ。
ファルコも、彼の支えにと側に侍る少女たちにしても。上役のメイにしても。
知っているのは、トモエが許していた場面だけ。それ以外の事は、全て伝聞でしかない。
一月どころではなく、二月近く寝台の住人となった事件。その内、二週ほどは、オユキが意識を取り戻さなかった日々。トモエのほうは、四日ほどで意識を取り戻してしまった事もあり、そこで改めて色々と考えなければならないと、そう決めてしまった切っ掛け。
「人国での事は、話しでは聞いている」
「話だけでしょう。戻るのには、少しかかりました。そして、戻ってからも私は生憎と記憶にありませんが」
そもそも、オユキの認識では事が終わって、気が付けば神国にいたのだ。
未だに、その時の事、あまりに汚染が進んでいたあの国、そこでの出来事はオユキにとっては未だに夢現。
唯一得た物と言えば、すっかりと慣れてしまったこうした氷の乙女としての振る舞いばかり。
「もしも、俺がオユキに傷をつけられたなら」
「ああ、そうした話ですか。ええ、それでしたら構いません」
パウの言葉に、そういえば少年たちの間で、オユキを、トモエを驚かせようなどとそんな話をしていたなと、古いと感じてしまう記憶をオユキは思い返す。
あれは、さて。
一体、誰から聞いたことであっただろうかと。
今こうして己のある舞台、そこでの出来事であったかのように思えば、あの幼さ故の残酷さしか持たぬ創造神の腹の内であったかと。
「私にパウ君、貴方の刃が届くことがあれば、ええ、言葉を聞きましょう」
それこそ、こちらに残れと言われれば、それでもかまわない。
誰かの、最早交流を立つのだと決めた相手と話をしろというのであれば、それにしても構いはしない。
オユキに毛頭こちらに残るつもりなどないのだが、家督をパウの両親にという話でさえも構いはしないのだ。
「それで、準備は十分でしょうか」
オユキは、ただ待っている。
一応は、兄弟弟子という程ではないのだが、同じ師に学んだ期間もあるからと、その程度の意識はオユキも持っている。
摩耗した、オユキ自身でもそう感じる心では、トモエが大事にしている相手だとそうした考えがあるのだとしても、最早老境の、末期の時に得ていた感情と変わりはない。
オユキの世界には、トモエだけ。
集中が深まった時には、トモエにだけ色が残るように。
その他一切は、まさに有象無象。
オユキの言葉に、パウが頷きを一つ返してくる。
そして、武器を鞘から抜き放つ。
それを合図に、それを契機にすらせずに。
抜き放った勢いそのままに、切り飛ばされたパウの手首が、長大な武器までもが、まるでずれる様に落ちていく。
左手には鞘を持ち、そこから刃を引き抜き切った。そして、そのまま手首が下に落ちて、当然それを支えていたはずの剣までも。
「開始の合図は、先ほどの物で、良かったのでしょう」
観客から悲鳴が上がる気配。
彼を応援する相手からは、悲鳴を無理に飲み込む気配。
だが、オユキとしての言い分など、いくらでもある。
「言ったでしょう。もう、私は疲れているのです」
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