憧れの世界でもう一度・終章

五味

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 トモエは、最早ミズキリという人間に関しては決着をつけねばならぬと考えている。
 あの男に、色々と思い知らせねばならぬと考えていることがある。
 だが、それにしても結局叶っていない。
 ミズキリという人間は、ルーリエラと共に、すっかりと雲隠れしている。
 トモエからは、翼人種に対して試練として得た物の内、一部とはいえそれこそ愉快な大きさの幻想種から得た肉を提供して、探すことを頼んでいる。フスカから、随分と色よい返事をもらえたものだ。問題としては、トモエにとっても埒外の能力を持つ人物でさえ、時間がかかると、それでも結果が出るかは分からないと言われたものだ。

「今更、です。何もかもが」
「ま、そうだろうな。こうして、此処までお前らが来なきゃ話せない事だからな。まぁ、あれだ、このお前かは分からないが、少なくとも作用を得たお前らは残るからな、こっちに」
「アーサー様は」
「気にしても仕方ないだろ。俺だって、前と今と、同じなんて言えやしないからな。当時の俺をまともに知ってるのなんて、今更残っちゃいない」
「それが、アーサー様の解答の形ですか」
「お前も、似たようなもんだろ。まぁ、お前の場合は、俺よりも少しはましだろ。隣にいるしな」

 さて、何やらアーサーが随分とオユキに突っかかっている。
 オユキにしても、いよいよ無視をして門を超える方法などいくらでもあるというのに、付き合っている。
 トモエに、こちらの世界で出会った中で、唯一トモエに己よりも上だと言わしめたからだろうか。今更になって、トモエとしてはその様な事を考えて、反省もするのだが。

「あちらは、仲良く喧嘩をしているだけですから」
「まぁ、そうなのでしょう。ああ、ロゼリア様、申し訳ございませんが、私のほうでもお聞かせいただくことはありません」
「オユキさんが、果たせなかった願い、それに関してもでしょうか」

 軽く、ロゼリアが当たり前のように毒を混ぜようと。
 薬にもなるのは事実、だが、この場に至ってはもはや劇薬でしかない。
 この人物にしても、己に縋るように、己の話を聞く様にと余念がない。
 そもそもが分霊、己の本体へと力を、信仰を集めるための端末の側面がかなり強い存在だというのが、トモエの最終的な結論だ。勿論、そこまで悪辣な事を考えて、それは少ないだろう。だからこそ、神殿や教会では司教以上の物たちが基本として表に出てこないのだろう。
 せいぜいが祭事の折に、ちらりと顔を見る程度。
 だというのに、この司祭を名乗る相手はどうかといえば、寧ろ司祭を名乗る気軽さ故にとでも言えばいいだろうか。シグルドたちにしても、こうしてトモエとオユキにしても。
 オユキが、いつだかに語った言葉。
 悪辣ではない、それは確かに事実ではある。
 今、トモエの目の前で相対しているこの人物にしても、柱そのものではない。分霊ではあるとはいえ、こちらで生きる一つの生命であるには違いない。
 勿論、トモエでは理解の及ばぬ認識能力というのは、存在しているのだろう。トモエの瞳には映らぬものを、見ることが叶うのだろう。
 そして、そうした情報を基に、今後、世界がよりよくなるように、世界の中で生きる命としてよりよく在れるようにと。間違いなく善意であり、トモエやオユキ程度の思考の及ばぬ境地で考えていることだろう。歴史という物を、人のみではそうとしか語ることが出来ないものを、只経験として、実際の認識として持っている者として、最早反抗するのも虚しいほどの上位者からの言葉ではあるのだろう。

「構いません。それを聞くのであれば、私はオユキさんから直接伺いましょう。貴女からでは、ありません」
「まったく、本当に」
「私たちは、少なくとも私は己の歪を今更直す気はありません」

 今から、己の伴侶の説得を行いに行くのかと言われれば、実のところトモエにしても首をかしげるのだ。
 シグルドに頼まれた、それは事実ではある。だが、トモエは其処で約束が出来ることなど何もないと、見ようによってはただ突き放して見せた。

「意趣返し、と言う事はなさそうですが」
「あの子たちの事は、あの子たちの事です。私が願うのは」
「ええ、ロゼリア様が考え、願う事もあるのでしょう。分霊としてではなく、想像と創造ではない存在として。繰り返しますが、その、言葉を作って頂いても構いません。私が、それに応える気が無いと言う事を、ご理解の上でというのでしたら」

 トモエは、ただ待っている。
 オユキの決心が定まるのを。
 パウに手をかけて、さらにはここまでの道行きを、己の器を満たすための協力者たちを頼んで。
 そこまでを行ったうえで、オユキはトモエを警戒している。
 トモエが、優先権を一つ確保している。それこそ、そこでトモエが何を願うのか、それをオユキは理解している。こちらに来る前に、トモエが順番という約束事を一度反故にして見せた、トモエとしてはそう考えているのだが、オユキは己が折れたのだとそう語るからこそ、オユキにとっては、今度の事はいよいよトモエが言えば己はおれるのだと、そう決めている。
 だからこそ、トモエはもとよりこちらに来た時に話した事。
 それ以外の何かをオユキに頼むつもりが無い。

「ともすれば、私たちのこうした思考ですら、掌中でしょうが」
「私に関しては、そこまで言う事もありません。ですが、やはり老婆心とでも言えばいいのでしょうか。疑われているのは、こちらに来てからの事、それも大きいのでしょうが」

 試しの心算なのだろう。ロゼリアが、トモエとオユキの間にある事を、言葉を作ろうなどとしている。
 では、それをトモエが聞くのかと言われれば、その様な事は無い。無視をするのともまた違う、ただただ、よく知らぬ者が、トモエとオユキについて話しているのだとその事実だけを認識して見せる。
 確かに、ロゼリアが何やら賢しらにあれこれと語って見せている。
 オユキが、トモエの何を疑っているのか。
 初めから、始まりからそこにあった違和感というのが、とかく強調される日々であったのだと、そうした話をトモエはロゼリアから聞かされている。
 だが、トモエはやはり聞かされたところで、変わりはしないのだ。

「一先ず、ロゼリア様の言葉としては、理解しました。では、後は直接オユキさんに尋ねましょう」

 そう、他人の推測、それ以上でもそれ以下でもないのだ、トモエにとっては。
 結局のところ、本人が何をどのように感じているかなど、他人からの言葉でわかるようなものではない。

「こちらに戻ってくることが、いえ、器として、精神の作用を受けた複製は間違いなく戻ってくるのでしょうから」

 今、この場にあるトモエとオユキの認識としては、やはりここは終わりの場なのだ。

「ですので、その折にでも、改めて採点といえばいいのでしょうか」

 どの程度、このロゼリアという人物の見立てがあっていたのか。それを話しながら、こちらに来た時にあった様に、説明を受けた時のように。改めて、ゆっくりと時間を使うのも良いかもしれない。
 トモエも、その程度はやはり考える。

「無用な、事なのでしょう。これが、逆の立場とできている場と、考えてしまいますが」
「オユキさんは、確かにと思う所もあれば、そうでは無い事もあります」

 この場を終えるには、門を潜るには、門が開かなければならぬ。
 そして、問題としては、門番が今この場にいるのだと、オユキがそう考えてしまっていること。

「流石に、トモエさんの権能を使ってとなると、私が止めますよ」
「まったく、そのあたりは隠す気も無い」
「既に確信を持たれている方に対して、一体何をもって隠そうのかという物です」
「逆説的に、嘘がつけぬ以上は、そう見せて頂いたとしても、正直な所」

 そう、正直な所、トモエにとってこのロゼリアという人物の語る言葉の尽くはよく知らぬ誰かの言葉。
 このようにトモエに説明を、トモエの知らぬことを放して見せた人物がいるのだと、そうしてただただトモエの中に記録されていく。特に感情を伴わぬ記憶として、残されていく。

「正直な所、オユキさん以外で、オユキさんからの言葉以外で、そうなってしまうと」
「トモエさんは、やはり難易度としては非常に高い者でしたから」

 それに関しては、トモエにも自覚はある。
 だが、最早治りようも無い。

「一度死を得て、それから」
「ええ、どうしたところで時間の不足はついて回りましたから」
「そういえば、戯れに尋ねてみたい事もありますが」

 トモエとしても、いくつかどころではなく疑問を持っている。
 だが、それに関して今問わねばならぬのか、この場で問わねばならぬのかと言われれば、やはりそうでは無い。

「オユキさん。もう、十分ですか」

だからこそ、トモエから決定的な言葉を。

「この二人は、私たちの道行きを止める者たちではありません」
「ですが、トモエさん」
「問われているのは、意識です」

 門を抜けた先がどこなのか、それに関してはこうして繋がれている以上は間違いない。
 だからこそ、此処に必要なのは意識と覚悟。

「そう、ですか」
「ええ。敵意を向けたとて、邪魔だと考えたとて」
「確かに、周囲にここまで炎熱が満ちていれば、という物ですか」
「そうではなくとも、道自体が、翼人種の方々による物ですから。それに、私とオユキさん程度の能力では、お二方とも、どうなるものではありませんよ。」

 オユキは、此処までの間アーサーと話しながらも、門への干渉を行ってしまおうと動いている。
 オユキ自身の力の発露、氷雪という形の種族としての特性。
 ここ暫くは、本当に色々と難しくなっているオユキの特性としての能力。オユキのほうでは、この辺り一帯が容赦なく氷雪に沈んでしまえば、扉を開けることが難しくなると考えての事ではあるのだろう。少し、ロゼリアとアーサーが何某かの手を打って、先ほどまでのトモエトロゼリアのやり取りにオユキが気が付いた風も無いのだが、それでも、トモエがはっきりとオユキに意識を向ければこそ。

「そう、ですか」
「ええ、ここに至って、もはや問答は無用です」
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