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2:本編
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テーブルの上には、ショートケーキと紅茶が二個ずつ置いてある。
「この間、同じショートケーキを見た気がする・・・」
デジャブーかもしれない。それとも予知夢かもしれない。ひょっとしてスーパーで売っていない高級なショートケーキだった気がする。
「初めてよ。美味しそうだから奮発して買ってきたの」
やっぱり初めて。となるとどっちだろう。
「ひょっとして、高級なところで買ってきたの?」
「初めてなのに、よく気がついたわね。俊くんが喜んでくれるかなって思って買ってきたのよ」
おお、予知夢を見ていたのかもしれない。いつの夢かは思い出せないけどこれは間違いない。
「一緒に食べよ」
嫁が優しい。あまりにも優しい。夢の中では独り占めしていたのに・・・・、と言う事は予知夢ではないのか? 予知が外れるのは残念だけど、こう言う外れ方ならいつでも大歓迎だ。
「このイチゴの香り、凄く良いね。この間もイチゴの良い香りに包まれたような気がする?」
深呼吸をすると、目の前にイチゴ畑が広がる。
「初めての香りでも、他のイチゴの記憶が蘇ったのかもね」
一口食べると、しっかり甘いパウンドケーキ。
「パウンドケーキの部分も美味しいね。素材の小麦粉を活かしましたみたいな甘さ控えめと言うか砂糖をケチったケーキとは違うね。美味しいよ」
ちょっと甘いケーキと紅茶が凄く合う。
「美味しさは、確認済みよ」
と、胸を張って自慢する嫁がちょっと可愛い。
「確認済み・・・・?」
何だろう、このザワツキ・・・・。
「小説サイトには、色々な人が作品を投稿しているのね」
嫁の口元がモグモグ動いている。子どもの頃から可愛いと思っていたけど、近くで見るとホントに可愛い。それなのに、モグモグだと逮捕とイメージが重なる。何でだろう?
「小説サイト?」
小説サイトを確認済みなのか?
「色んな人が投稿しているけど良い作品ばかりだよ。ジャンルも色々あるから普段は手に取らない作品も気軽に読めるのは嬉しいよね」
嫁がモグモグしながら頷いている。
「転生や異世界で成り上がっていくのは流行りでね、前世の経験やスキルと今の素質を使ってサクサク出世していくとテンポが良くて読まれやすいね。あとは、『ざまぁ』要素だね。見返す事でスッキリしたいのは意外と多いよね」
嫁は紅茶の香りを楽しむと静かに一口飲んだ。そして、カップを置くとゆっくり話し始めた。
「私にとって読書は未知の世界に連れて行ってくれる魔法なの。見た事のない街並み、聞いた事のない言語の世界でも言葉が通じて話しが出来る。色んな人たちに出会える。冒険の世界なら一緒に旅をして危険な事も力を合わせて乗り越えるの。未来の世界なら、想像もつかない科学技術が私たちを幸せにしてくれるの。人類に警鐘を鳴らす物語もあるわ。華氏451度を読んだ時は怖くなったわ。そして、俊くんに書いて貰った理系の私が主人公の『マッドサイエンティスト真理子さん』を読んで気がついたの。どの本を読んでも辿り着けなかった世界がある事に。今まで物語の登場人物に思いを重ねる事で私にも出来たような気持になれたのと同時に自分との違いも大きく立ちはだかったの。勇者の物語を読んでも私の背は高くないし力だってない。自分の体育の成績は言われなくても分かっている。魔導士でも同じ。ワクワクするけど私ならそこでそうしないと思ってしまうの。結局、能力も性格も違う登場人物で違う人生を経験しても違う世界の違う人達の話しだった。でも、『マッドサイエンティスト真理子さん』を読んでいると、アイテムがあれば確かにそうする。きっとそうすると思う。主人公の真理子さんには百パーセント完璧に主人公に思いを重ねる事ができるし、感情移入もできる事に気がついたの。そして、もう一つ気がついたの『抑えているな』って。俊くんが思い描く真理子さんに遠慮は要らないと思うの。もっと自由にもっと高く世界を見せてあげて欲しいの。勿論、宇宙にまで飛んで行っても良いと思う。もし、私のリクエストを聞いてくれるのなら、ギガントみたいな飛行機で人類を征服したいの。人類がおとなしくなれば、どの生物にとっても地球は住みやすくなると思うの。海を綺麗にするより海を汚さない世界にしたいの。夏の暑さが子どもの頃より過酷になって人類はエアコンの利いた室内にいるけど、野生動物も街路樹もエアコンのない室外にいるの。だから人間には悪い事に見えても、地球を守るマッドサイエンティストになりたいの」
主人公と読者のズレについて語る嫁は、いつになく熱かった。登場人物と読者が違う事は当たり前すぎて考えた事もなかった。確かに本を閉じれば登場人物とまるで違う自分に戻る事は非日常だから当たり前であったけれど、そこには自分とは違う者と言う絶対的な事実があった。しかし、本を閉じても続く物語の存在に嫁が気づき、それを教えられた。
気がつくと、立ち上がり惜しみない拍手を嫁に送っていた。
片手をあげて拍手に応えてくれた。そして、静寂。
嫁の顔が赤くなっていった。お酒を飲んだ時より赤くなっていた。
「俊くん、ご清聴ありがとう。ところで、ケーキを食べたよね?」
「はい?」
「分かっているよね?」
「はい・・・・」
なんで、最後に圧を掛けてくるんだろう? でも、色んな意味での誉め言葉をしっかり心に刻んだよ。
「この間、同じショートケーキを見た気がする・・・」
デジャブーかもしれない。それとも予知夢かもしれない。ひょっとしてスーパーで売っていない高級なショートケーキだった気がする。
「初めてよ。美味しそうだから奮発して買ってきたの」
やっぱり初めて。となるとどっちだろう。
「ひょっとして、高級なところで買ってきたの?」
「初めてなのに、よく気がついたわね。俊くんが喜んでくれるかなって思って買ってきたのよ」
おお、予知夢を見ていたのかもしれない。いつの夢かは思い出せないけどこれは間違いない。
「一緒に食べよ」
嫁が優しい。あまりにも優しい。夢の中では独り占めしていたのに・・・・、と言う事は予知夢ではないのか? 予知が外れるのは残念だけど、こう言う外れ方ならいつでも大歓迎だ。
「このイチゴの香り、凄く良いね。この間もイチゴの良い香りに包まれたような気がする?」
深呼吸をすると、目の前にイチゴ畑が広がる。
「初めての香りでも、他のイチゴの記憶が蘇ったのかもね」
一口食べると、しっかり甘いパウンドケーキ。
「パウンドケーキの部分も美味しいね。素材の小麦粉を活かしましたみたいな甘さ控えめと言うか砂糖をケチったケーキとは違うね。美味しいよ」
ちょっと甘いケーキと紅茶が凄く合う。
「美味しさは、確認済みよ」
と、胸を張って自慢する嫁がちょっと可愛い。
「確認済み・・・・?」
何だろう、このザワツキ・・・・。
「小説サイトには、色々な人が作品を投稿しているのね」
嫁の口元がモグモグ動いている。子どもの頃から可愛いと思っていたけど、近くで見るとホントに可愛い。それなのに、モグモグだと逮捕とイメージが重なる。何でだろう?
「小説サイト?」
小説サイトを確認済みなのか?
「色んな人が投稿しているけど良い作品ばかりだよ。ジャンルも色々あるから普段は手に取らない作品も気軽に読めるのは嬉しいよね」
嫁がモグモグしながら頷いている。
「転生や異世界で成り上がっていくのは流行りでね、前世の経験やスキルと今の素質を使ってサクサク出世していくとテンポが良くて読まれやすいね。あとは、『ざまぁ』要素だね。見返す事でスッキリしたいのは意外と多いよね」
嫁は紅茶の香りを楽しむと静かに一口飲んだ。そして、カップを置くとゆっくり話し始めた。
「私にとって読書は未知の世界に連れて行ってくれる魔法なの。見た事のない街並み、聞いた事のない言語の世界でも言葉が通じて話しが出来る。色んな人たちに出会える。冒険の世界なら一緒に旅をして危険な事も力を合わせて乗り越えるの。未来の世界なら、想像もつかない科学技術が私たちを幸せにしてくれるの。人類に警鐘を鳴らす物語もあるわ。華氏451度を読んだ時は怖くなったわ。そして、俊くんに書いて貰った理系の私が主人公の『マッドサイエンティスト真理子さん』を読んで気がついたの。どの本を読んでも辿り着けなかった世界がある事に。今まで物語の登場人物に思いを重ねる事で私にも出来たような気持になれたのと同時に自分との違いも大きく立ちはだかったの。勇者の物語を読んでも私の背は高くないし力だってない。自分の体育の成績は言われなくても分かっている。魔導士でも同じ。ワクワクするけど私ならそこでそうしないと思ってしまうの。結局、能力も性格も違う登場人物で違う人生を経験しても違う世界の違う人達の話しだった。でも、『マッドサイエンティスト真理子さん』を読んでいると、アイテムがあれば確かにそうする。きっとそうすると思う。主人公の真理子さんには百パーセント完璧に主人公に思いを重ねる事ができるし、感情移入もできる事に気がついたの。そして、もう一つ気がついたの『抑えているな』って。俊くんが思い描く真理子さんに遠慮は要らないと思うの。もっと自由にもっと高く世界を見せてあげて欲しいの。勿論、宇宙にまで飛んで行っても良いと思う。もし、私のリクエストを聞いてくれるのなら、ギガントみたいな飛行機で人類を征服したいの。人類がおとなしくなれば、どの生物にとっても地球は住みやすくなると思うの。海を綺麗にするより海を汚さない世界にしたいの。夏の暑さが子どもの頃より過酷になって人類はエアコンの利いた室内にいるけど、野生動物も街路樹もエアコンのない室外にいるの。だから人間には悪い事に見えても、地球を守るマッドサイエンティストになりたいの」
主人公と読者のズレについて語る嫁は、いつになく熱かった。登場人物と読者が違う事は当たり前すぎて考えた事もなかった。確かに本を閉じれば登場人物とまるで違う自分に戻る事は非日常だから当たり前であったけれど、そこには自分とは違う者と言う絶対的な事実があった。しかし、本を閉じても続く物語の存在に嫁が気づき、それを教えられた。
気がつくと、立ち上がり惜しみない拍手を嫁に送っていた。
片手をあげて拍手に応えてくれた。そして、静寂。
嫁の顔が赤くなっていった。お酒を飲んだ時より赤くなっていた。
「俊くん、ご清聴ありがとう。ところで、ケーキを食べたよね?」
「はい?」
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「はい・・・・」
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