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「うぉぉぉ!うまぁい!あまぁい!」
王子の雄叫びを聞きながら、私は無視してケーキを眺める。つい先ほどまで王子は興味津々という感じでケーキを眺めていた。しかし突然グサリとフォークを刺した。それはケーキの真ん中、つまりはネコの顔の部分である。そして一口でケーキを食べた。その後大声で騒ぎだしたのである。
王族なのにそんな食べ方していいのかとか、そもそも何か食べただけでそんなに騒いでいいのかとか、いろいろと疑問は湧いて出てくるけれど、そんなことは気にしても仕方がないと思い諦めることにした。王子が陛下やダン様に無視されているのもそんな理由からだろうかと邪推してみる。正直言って、王子はかなり面倒な性格だと思う。しかしそれをいえば陛下もだ。時々芝居めいた口調になるのはクセなのか。いちいち追及しないけど。面倒な親子である。
とにかく私は目の前のケーキに集中しよう。ネコの形をしたレアチーズケーキだ。地元の駅前にあったこのケーキ屋さんは、こぢんまりとしていてまるで絵本に出てくるみたいな可愛らしさだった。オープン当時から気になっていて、最初のうちは外側から眺めるだけで満足していた。
だがそのうちに満足できなくなり一度入ってみようと思ったが、なかなか決心がつかなかった。気楽に買えるような値段ではないとわかっていたからである。
入ったら手ぶらでは出られない。何度も前を行ったり来たりして、不審者丸出しになりながらやっとの思いで店内に入ったのだ。ケーキは全て動物を形どっていて、他にもクマの形のチョコケーキやウサギの形のショートケーキなどがあった。ちなみにどれもお値段はお安くない。
そんな思いをしながら買ったネコの形のレアチーズケーキ。味ははっきりとは覚えていないが、不味くはなかったと思う。あの日のことを思い出し、私は穏やかに微笑む。このケーキにふさわしい人であろうと思ったのだ。ちなみに王子は論外だ。もっともこのケーキにふさわしくない人間と言える。
しかし、まさかこんなところで食べられるとは思わなかった。憧れだったネコレアチーズケーキだ。気持ちを落ち着けて食べることにする。
王子のように顔の真ん中にフォークを突き刺したりしない。耳の部分を小さく切り分けて口に運ぶ。お上品に、と心掛けていたら何故だか小指が立っていた。緊張しすぎである。
ゆっくりと咀嚼したら、レモンの香りを軽く感じた。美味しい。美味しいのだけれど。
私は小さく首を傾げた。何か違和感を感じたのだ。それで今度は片方の耳の部分を切り分けて、目を瞑って食べた。
うーん、これって。
よくよく考えてみる。こんな味だっけ。一度だけ食べたことがあるが、それはしばらく前のことだ。高かったからとケチってチビチビと食べた。味わうというより、いかに長く食べていられるかというしみったれた食べ方だった。お行儀の悪い食べ方とも言える。
そうしてわかったこと。これはあの店のケーキの味ではないということだ。おそらくコンビニで売っていたレアチーズケーキの味。とても庶民的な金額のもので私はよく買っていた。
魔法といえど、私が生み出すものだ。だから私が知っているものでしか生み出せない。リクライニングチェアやティーセットは私が持っているものではなくて、私が見ていたものだ。ハンバーグは私が何度も味わったものだから作り出すことができた。しかしケーキは違う。形だけは見ていたからできたが、味に関してははっきりと覚えていない。だからよく知っているコンビニの味になったのだ。
真相がわかれば、なんだかどうでも良くなってしまった。しかし私以外の人は初めての味で興奮している。王子はいまだに興奮して騒いでいるし、陛下もダン様も嬉しそうだ。彼らからしたらどうでもいい話だろう。
さっきまではあの店のあのケーキ!と思っていたが、単にネコの形をしたコンビニのレアチーズケーキだ。それが悪いということではないが、なんとなく肩透かしを食らった気分でもある。
「こんなに美味しいものは初めて食べた」
笑顔で話す王子が素朴ないい青年に見えてきた。
「これ、良かったら食べます?」
と、食べかけではあるが耳のなくなったケーキを指差した。耳がなくなった・・・って青いロボットみたいだなと何故だか思い出した。王子は目を輝かせていた。
王子の雄叫びを聞きながら、私は無視してケーキを眺める。つい先ほどまで王子は興味津々という感じでケーキを眺めていた。しかし突然グサリとフォークを刺した。それはケーキの真ん中、つまりはネコの顔の部分である。そして一口でケーキを食べた。その後大声で騒ぎだしたのである。
王族なのにそんな食べ方していいのかとか、そもそも何か食べただけでそんなに騒いでいいのかとか、いろいろと疑問は湧いて出てくるけれど、そんなことは気にしても仕方がないと思い諦めることにした。王子が陛下やダン様に無視されているのもそんな理由からだろうかと邪推してみる。正直言って、王子はかなり面倒な性格だと思う。しかしそれをいえば陛下もだ。時々芝居めいた口調になるのはクセなのか。いちいち追及しないけど。面倒な親子である。
とにかく私は目の前のケーキに集中しよう。ネコの形をしたレアチーズケーキだ。地元の駅前にあったこのケーキ屋さんは、こぢんまりとしていてまるで絵本に出てくるみたいな可愛らしさだった。オープン当時から気になっていて、最初のうちは外側から眺めるだけで満足していた。
だがそのうちに満足できなくなり一度入ってみようと思ったが、なかなか決心がつかなかった。気楽に買えるような値段ではないとわかっていたからである。
入ったら手ぶらでは出られない。何度も前を行ったり来たりして、不審者丸出しになりながらやっとの思いで店内に入ったのだ。ケーキは全て動物を形どっていて、他にもクマの形のチョコケーキやウサギの形のショートケーキなどがあった。ちなみにどれもお値段はお安くない。
そんな思いをしながら買ったネコの形のレアチーズケーキ。味ははっきりとは覚えていないが、不味くはなかったと思う。あの日のことを思い出し、私は穏やかに微笑む。このケーキにふさわしい人であろうと思ったのだ。ちなみに王子は論外だ。もっともこのケーキにふさわしくない人間と言える。
しかし、まさかこんなところで食べられるとは思わなかった。憧れだったネコレアチーズケーキだ。気持ちを落ち着けて食べることにする。
王子のように顔の真ん中にフォークを突き刺したりしない。耳の部分を小さく切り分けて口に運ぶ。お上品に、と心掛けていたら何故だか小指が立っていた。緊張しすぎである。
ゆっくりと咀嚼したら、レモンの香りを軽く感じた。美味しい。美味しいのだけれど。
私は小さく首を傾げた。何か違和感を感じたのだ。それで今度は片方の耳の部分を切り分けて、目を瞑って食べた。
うーん、これって。
よくよく考えてみる。こんな味だっけ。一度だけ食べたことがあるが、それはしばらく前のことだ。高かったからとケチってチビチビと食べた。味わうというより、いかに長く食べていられるかというしみったれた食べ方だった。お行儀の悪い食べ方とも言える。
そうしてわかったこと。これはあの店のケーキの味ではないということだ。おそらくコンビニで売っていたレアチーズケーキの味。とても庶民的な金額のもので私はよく買っていた。
魔法といえど、私が生み出すものだ。だから私が知っているものでしか生み出せない。リクライニングチェアやティーセットは私が持っているものではなくて、私が見ていたものだ。ハンバーグは私が何度も味わったものだから作り出すことができた。しかしケーキは違う。形だけは見ていたからできたが、味に関してははっきりと覚えていない。だからよく知っているコンビニの味になったのだ。
真相がわかれば、なんだかどうでも良くなってしまった。しかし私以外の人は初めての味で興奮している。王子はいまだに興奮して騒いでいるし、陛下もダン様も嬉しそうだ。彼らからしたらどうでもいい話だろう。
さっきまではあの店のあのケーキ!と思っていたが、単にネコの形をしたコンビニのレアチーズケーキだ。それが悪いということではないが、なんとなく肩透かしを食らった気分でもある。
「こんなに美味しいものは初めて食べた」
笑顔で話す王子が素朴ないい青年に見えてきた。
「これ、良かったら食べます?」
と、食べかけではあるが耳のなくなったケーキを指差した。耳がなくなった・・・って青いロボットみたいだなと何故だか思い出した。王子は目を輝かせていた。
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