ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

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 「スッゲー」

 ポールはパスタを前に上機嫌である。ダン様も満足げな表情だし、アメリアさんはうっとりとした表情だ。王子はニコニコと笑っている。しかしサイモンは明らかに引いていた。顔が引き攣っている。

「食べられなければいつも通り俺が食べてやるぜ」

 目をギラギラとさせながらポールはサイモンの肩を抱く。サイモンは普段から少食で食べることに興味がないそうだ。全員が食べ始める。私も一口、パスタをフォークでクルクル巻いて食べる。うん、美味しい。トマトソースが絶妙だ。さすがの再現力。

 アメリアさんもダン様も王子も食べ始めた。うんうんと何故か全員がうなづきながら食べている。しかし何も言わない。食レポでもするかと思ったが肩透かしである。まぁでもグダグダ言われるのも面倒だよね。黙って食べろ、それが一番なのだ。

 ポールは大口を開けて食べている。一口が大きい。そしてその大口でパスタがみるみるうちに減っていく。

「うめぇな。これ、こんなの食ったことねえ」

 ポールは確か貴族である。騎士団長の息子である。それにしては品がない。もう少し綺麗な言葉を使うべきと思うが、こういう言葉遣いも少女マンガのせいであろう。深く考えないようにする。

 一方サイモンは未だ口をつけていなかった。しかし何も食べないわけにいかないと、意を決したようにびくつきながらパスタを一口食べた。食べるというより齧るって感じ。

「お、美味しい・・・」

 そう言うともう一口、今度は多めに口の中に入れる。ギョッとした顔をしているポール。

「お前、食べられるのかよ」

 驚きながら話しているが、食べる手を止めることはしない。

「うん、美味しいからね」

 サイモンはそう言うと続きを食べ進めていく。私も食べよう。厚切りのベーコンをもぐもぐと噛みながら、ふと見るとポールは食べ終わろうとしていてサイモンの皿を凝視している。狙っているのが丸わかりだ。

「お、お代わりしますか?」

 何だか気の毒にも思えて声をかけると

「お、頼む!」

 食い気味に答えるポール。最後の一口を口に放り込むともぐもぐと口を動かしながら皿を手渡してきた。

「行儀が悪い」

 サイモンが手を止めポールを諌める。

「お前の少しくれよ」

 ポールはそう言いながらフォークをサイモンの皿に向けた。

「やめてくれ!」

 サイモンは両手で覆うようにして皿を守る。その様子を見て私も内心ガッツポーズをしながらもう一皿ポールの前へ出した。

「ありがとう」

 嬉しそうに笑顔を見せるポール。その笑顔を見てから私も食事を再開する。

「美味しい。さすがリサ様・・・」

 アメリアさんは一口食べるたびに頬を抑え、目を閉じてゆっくりと咀嚼しながら飲み込む。その後はしばらくじっとしてその余韻を楽しんでいるようだ。

 ・・・大袈裟じゃね?たかがパスタだよ。それをそんなに感動されたら困るよ。

「リサの料理はうまいからな」

 王子は得意な顔で言っているが、誰も何も答えない。取り巻きのはずのポールとサイモンも王子を無視して食べ進めている。ダン様は何も言わず黙々と食べている。が、決して不味いからではないのだろう。瞳はキラキラと輝き口元は微かに微笑んでいる。先ほどまでの厳しい表情は遥か彼方に消し飛んでいる。

「うんめぇ、うんうん、うめっなー」

 ポールは一口食べるたびに大声を出す。

「こんなうまいもん、初めて食べたわ」

と、あっという間にふた皿目も食べ終えていた。ちゃんと噛んだ?三口くらいで食べ終わってる感じなんだけど。そして絶対食べ足りないのだろう。またしてもジロジロとサイモンの皿を見ている。

「おい、まだ食うのか。お前、いつも食べないだろ。ほら、よこせよ。俺が食ってやるから」

 お前は無法者か。よこせってやばいだろ。サイモンはポールの手を払うと

「これは僕のものだ。君にはあげられない」

 そうキッパリと言うとわざとポールの目の前で厚切りにしたベーコンを口に入れている。ポールの悲しそうな顔。あまりに気の毒なのでもう一皿お代わりを出してあげた。

「うんめぇ~!」

 口の周りを真っ赤にさせて、ポールはパスタを平らげていく。いったい何皿食べるだろうか。見ているとお腹がいっぱいになっているのを実感する。でもなぁ。お腹はいっぱいなのに甘いものが食べたいのだ。どうしようかなと私は考えてしまうのだった。
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