ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

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「この騒ぎは何ですの?」

 大勢で私を罵る声の中で、ひときわ際立つ凛とした声。決して大声を出したわけではないのに、確実に教室内に広がった。その瞬間全員の声が静まった。まるでモーゼの十戒のように周囲に人が分かれ、その中央から1人の女子生徒が進み出てくる。

 何、この状況。まるで芝居のワンシーンを見ているようだ。呆気に取られてつい呆然と見てしまう。

 目の前にいる女子生徒。細くシャープな輪郭に涼やかな印象を与える切れ長のつり目、鼻筋の通った高い鼻に陶器のような滑らかな肌。本当に少女マンガから抜け出てきたような美人。確かにここは少女マンガの世界かもしれないが、ここまで本当にマンガのような人間がいるとは思わなかった。

「皆さん、淑女たるもの、お静かにお過ごしなさいませ」

 その言葉に鳥肌が立ってしまった。うっわー。なんか時代錯誤な人だよ、この人。ここの時代背景がどうなっているかわからないけどさ、なんか明治時代のおばあちゃんを見ている気分だ。お静かにお過ごしなさいませ?聞いたことないセリフだよ。

 この人が誰だかは、わかっている。王子の婚約者のシャロンだ。

 原作では女子生徒を束ねてリサに嫌がらせをする、いわゆる悪役令嬢だった。しかしそれも前半まで。後半になると実はリサをいじめていたわけではなく、貴族世界のマナーを教えようとしていただけ。リサがそれを過剰に受け取り、いじめだと思っていただけということが描かれる。

 公爵家に生まれ、幼い頃に王子の婚約者に内定。厳しいお妃教育の傍ら、学校では女生徒の中で一番高い身分。常に人から見られ期待され、正しい生き方を望まれていた。そんな時にリサのような自由奔放な人間がいたら苦労するだろう。

 思わず、社会人のマナーを身につけずに学生時代のノリのまま入社した新人を思い出す。敬語も使えず常識もわからず、それなのに何故だか自信満々だった。注意すればするほど、反発して違う方向へ向かってしまう。砂漠に水を撒くような虚しさを味わったっけ。

 思い出したら悲しくなった。シャロンの手を取り、苦労したわね、あなたは悪くないわよと言ってあげたい。いや、リサである私が大人しくシャロンの言うことを聞けばいいだけか。なんか混乱しているわ、私。それもこれも女生徒が集まりすぎのせいである。おそらく学校中の女生徒がこの教室に集まっているのだ。魔法を使っているからわからないけど、この部屋今どれだけ臭いんだろうか。

「シャロン様、この者は・・・」

 シャロンの右横にいる女生徒が耳打ちをする。あぁ、この人はサイモンの婚約者のアンだ。色白で儚げな印象の美少女だが、マンガでは結構嫌味な発言をしていた。サイモンの前では無邪気な天然ちゃんって感じなのだが、リサに向かってはそうではなかった。マンガ通りだとしたらであるが、今のところはわからない。

 アンに耳打ちされ、シャロンは明らかに目つきがキツく変わった。

「まぁ・・・」

 もう1人、シャロンの左横にいた少女が口に手を当てて声を発した。ポールの婚約者のメイミーである。田舎の地方都市出身の彼女は、どこか垢抜けない印象だ。まぁ脳筋のポールが婚約者だからお似合いとも言える。何を聞いたのか知らないが、メイミーは驚いたように目を見開いてこちらを凝視していた。

 シャロンもアンもメイミーも髪を高く結い上げ、シャロンはリボン、アンはウサギのぬいぐるみ、メイミーは大輪の花を頭の上に乗せている。こいつらもか。もう追求したくないが、どうにかならないのだろうか。きっと臭いんだろうな、そう思うと王子たち3人が気の毒に思える。

「平民の方が入学されたと聞きましたが、あなたでしたの」

 シャロンの顔はにこやかに笑っているが、どこかバカにしたような言い方だった。まぁ、バカにしてるんだろうな。平民のどこが悪いんだ、バカにすんなと思うが面倒なので言わない。

「ダン様を突き飛ばしたとのことですが、本当ですの?」

 確かにそれは本当のことだ。でもそれを認めてしまうと面倒なことになる。今でさえ面倒な状態になっているのだ。教室内には大量の女生徒。どう決着をつければいいのか。このまま時間が来て先生が現れるまで待つべきか。そんなことを考えていた。

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