1 / 68
1
しおりを挟む
目の前には男の人がいる。人の良さそうなその人のことを私は「先生」と呼んでいた。孤児院の院長だったからだ。先生は言った。
「リサ、おめでとう。君は魔法の才能があるようだ」
その瞬間、私は思い出した。ここは少女マンガの世界だ。今目の前にいる先生の顔も、先生が言ったセリフも私は読んだ記憶がある。
小学生の時に母の実家に行った時のこと。物置の奥から昔母が読んでいたというマンガが出てきた。母は懐かしいと笑っていた。ヒマだった私はさっそく埃だらけでカビ臭いその本を読み出した。
主人公は孤児院で暮らす少女リサ。魔法のある世界で才能があるとのことで学校に通うことになった。そこは金持ちしか通うことができないところで、リサは同級生達にいじめられる。しかし学校で人気のある男性達がリサに興味を持ち、リサも彼らと親しくなっていく。
まだ幼かった私は男の子と仲良くなることに何の意味も感じていなかった。それよりも魔法の才能があるというのに魔法の勉強をしないことにイラついた。それですぐに飽きてしまい、マンガのことも忘れてしまったのだった。
思い出したのは、母が亡くなったからだ。葬式に来てくれたいとこ達と思い出話をしていて何故だか唐突に思い出したのである。なんとなくネットで調べたらすぐに見つけることができたので、久々に読み返してみることにした。
リサは学校で孤児院出身であることを理由に同級生達からいじめられる。孤立していくリサは誰も来ない校舎の裏でお昼を食べることになる。そこで偶然、学校内でも人気のある王子や大臣の息子や大商人の息子たちに出会う。彼らはこんなところでパンを食べているリサに興味を持つ。リサは魔法の才能を認められた孤児ということで注目されていたのだ。徐々に親しくなっていくリサと男性達。私が読んだのはこの辺りまでだ。
おそらくリサは男性の誰かとより親しくなり幸せになる。そう思っていたが、そんなことはなかった。リサは魔法の勉強もしないまま落ちこぼれていき、結局学校を卒業することもできずに退学を余儀なくされる。最後はどこにも行き場がなくなり、落ちぶれた外見で孤児院へ戻る。それを院長先生が出迎えるのだが、突き放したような冷たい目が印象的だった。少女マンガなのにずいぶん救いのないストーリーである。
このマンガについてファンの人がブログに書いていたのだが、当時作者は恋仲だった担当編集者と破局したらしい。編集者は別のマンガ家と二股交際をしていて、かなりの修羅場になったそうだ。リサは相手のマンガ家をモデルにしているとのことで、リサを幸せにしなかったのはそのせいだったのだ。こういう形で溜飲を下げるとは凄いなと感心した。
それを知ってから再度読み返してみてわかった。確かにリサは同級生からいじめられてはいたが、それはリサに理由がある。リサは誰もが知るような一般常識が足りていなかったからだ。平気で廊下を走ったり、並んでいる列に横入りしたりする。当然同級生は注意するのだが、リサはそれをいじめられたと解釈する。
男性たちも普通に挨拶しただけなのに、リサは自分に気があるのだと思いこむ。そして好き勝手に行動する。おかしな自信がついてしまったリサは傲慢に振る舞うようになり、やがて誰からも相手にされなくなっていく。あんまりな話なのだ。
すごいマンガだなという感想を持ち、私は眠りについた。・・・はずだった。それが気がつけば、どういうわけだか私はそのリサになっていた。夢なんかじゃない。夢ならこんなにハッキリとしていないはずだ。
ちょうどこれから孤児院を出発して都会にある学校に通うことになる。院長先生はニコニコと微笑みながら、リサの門出を祝福してくれている。こんなシーン、確かにあった。そう思っていると、あっという間に私は馬車に乗せられた。これから学校に向かうのだ。
逃げ出すことはできない。なんとかしなければ、マンガの通りだとリサは数年後ここに戻ってくる。氷のような院長先生の瞳を見たくはない。
なんとかしよう。私は馬車の中で作戦を練るのだった。
「リサ、おめでとう。君は魔法の才能があるようだ」
その瞬間、私は思い出した。ここは少女マンガの世界だ。今目の前にいる先生の顔も、先生が言ったセリフも私は読んだ記憶がある。
小学生の時に母の実家に行った時のこと。物置の奥から昔母が読んでいたというマンガが出てきた。母は懐かしいと笑っていた。ヒマだった私はさっそく埃だらけでカビ臭いその本を読み出した。
主人公は孤児院で暮らす少女リサ。魔法のある世界で才能があるとのことで学校に通うことになった。そこは金持ちしか通うことができないところで、リサは同級生達にいじめられる。しかし学校で人気のある男性達がリサに興味を持ち、リサも彼らと親しくなっていく。
まだ幼かった私は男の子と仲良くなることに何の意味も感じていなかった。それよりも魔法の才能があるというのに魔法の勉強をしないことにイラついた。それですぐに飽きてしまい、マンガのことも忘れてしまったのだった。
思い出したのは、母が亡くなったからだ。葬式に来てくれたいとこ達と思い出話をしていて何故だか唐突に思い出したのである。なんとなくネットで調べたらすぐに見つけることができたので、久々に読み返してみることにした。
リサは学校で孤児院出身であることを理由に同級生達からいじめられる。孤立していくリサは誰も来ない校舎の裏でお昼を食べることになる。そこで偶然、学校内でも人気のある王子や大臣の息子や大商人の息子たちに出会う。彼らはこんなところでパンを食べているリサに興味を持つ。リサは魔法の才能を認められた孤児ということで注目されていたのだ。徐々に親しくなっていくリサと男性達。私が読んだのはこの辺りまでだ。
おそらくリサは男性の誰かとより親しくなり幸せになる。そう思っていたが、そんなことはなかった。リサは魔法の勉強もしないまま落ちこぼれていき、結局学校を卒業することもできずに退学を余儀なくされる。最後はどこにも行き場がなくなり、落ちぶれた外見で孤児院へ戻る。それを院長先生が出迎えるのだが、突き放したような冷たい目が印象的だった。少女マンガなのにずいぶん救いのないストーリーである。
このマンガについてファンの人がブログに書いていたのだが、当時作者は恋仲だった担当編集者と破局したらしい。編集者は別のマンガ家と二股交際をしていて、かなりの修羅場になったそうだ。リサは相手のマンガ家をモデルにしているとのことで、リサを幸せにしなかったのはそのせいだったのだ。こういう形で溜飲を下げるとは凄いなと感心した。
それを知ってから再度読み返してみてわかった。確かにリサは同級生からいじめられてはいたが、それはリサに理由がある。リサは誰もが知るような一般常識が足りていなかったからだ。平気で廊下を走ったり、並んでいる列に横入りしたりする。当然同級生は注意するのだが、リサはそれをいじめられたと解釈する。
男性たちも普通に挨拶しただけなのに、リサは自分に気があるのだと思いこむ。そして好き勝手に行動する。おかしな自信がついてしまったリサは傲慢に振る舞うようになり、やがて誰からも相手にされなくなっていく。あんまりな話なのだ。
すごいマンガだなという感想を持ち、私は眠りについた。・・・はずだった。それが気がつけば、どういうわけだか私はそのリサになっていた。夢なんかじゃない。夢ならこんなにハッキリとしていないはずだ。
ちょうどこれから孤児院を出発して都会にある学校に通うことになる。院長先生はニコニコと微笑みながら、リサの門出を祝福してくれている。こんなシーン、確かにあった。そう思っていると、あっという間に私は馬車に乗せられた。これから学校に向かうのだ。
逃げ出すことはできない。なんとかしなければ、マンガの通りだとリサは数年後ここに戻ってくる。氷のような院長先生の瞳を見たくはない。
なんとかしよう。私は馬車の中で作戦を練るのだった。
93
あなたにおすすめの小説
夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」
夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。
この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。
そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!
アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」
ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。
理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。
すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。
「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」
ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。
その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。
最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。
2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。
3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。
幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。
4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが…
魔王の供物として生贄にされて命を落とした。
5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。
炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。
そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り…
「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」
そう言って、ノワールは城から出て行った。
5度による浮いた話もなく死んでしまった人生…
6度目には絶対に幸せになってみせる!
そう誓って、家に帰ったのだが…?
一応恋愛として話を完結する予定ですが…
作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。
今回はHOTランキングは最高9位でした。
皆様、有り難う御座います!
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる