ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

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 馬車はゆっくりと動いている。たいして進んでいないように思う。飛び降りても何とかなるんじゃないかと思ったが、知らない土地でどうやって生きていけばいいか。少なくてもこのまま学校に連れて行ってもらえればなんとか生きていく術はあるのだ。

 仕方なく私はノロノロと進む馬車の中で大人しく座っていた。しかしずっと座っていてお尻が痛い。クッションなどもない木の椅子なのだ。こんな調子で進むのであれば、先行きは不安である。学校に着く頃にはリサのお尻は真っ平になっているであろう。

 気を紛らすために私はマンガを思い出していた。この世界は魔法が存在しており、リサは魔法の才能があるはずだ。しかしマンガの中では魔法を使うシーンは出てこなかった。リサだけではなく、他の人もである。まるでそんな設定は最初から無かったとでもいうくらいだ。だからこの世界での魔法とはどんなものかわからない。だが才能があるというのだから、使えるはずである。

 私はラノベやアニメが好きだった。特に異世界転生とか異世界召喚ものとかが大好きだった。異世界では魔法のある世界が多い。そして魔法とは想像力だ、とラノベやアニメの登場人物は言っていた。それから魔法を使う時は体内にある魔力を感じるのだ、とも言っていた。そうだ、やってみよう。

 身体の中にある魔力を感じて・・・。私は目を瞑り魔力を感じようとした。しかしよくわからない。そもそも魔力とは何か。ラノベでは温かいもの、とよく表現されているがそんなものがあるのかわからない。しばらく身体中に力を込めたが何もわからないので疲れただけだった。

 それで私は身体の中の魔力をわからないまま、指先に火がつくことを想像した。ライターの火が着くことを想像したのだ。しばらくそんなことをぼんやりと考えていたら。

 シュボッという音と共に私の左の人差し指から火が出た。驚いて悲鳴が出た。多分グワっとかいう可愛くない声である。人は本当に驚いた時に可愛らしい声なんか出せないものなのだ。慌てたせいか火はすぐに消えてしまった。

 御者の人に聞こえたかと思ったが、大丈夫なようだ。馬の歩く音はそれなりの音量だったし、木々が風に揺れる音とか、鳥の鳴き声、それに遠くで獣が咆哮を上げているような声が聞こえてきていた。のどかな田園風景が広がってはいるが、決して静かではないのだ。

 安心して私は何度か繰り返すことにした。練習というのは何度も繰り返すことに意味がある。一度だけではダメなのだ。そのうちに火の大きさは簡単にコントロールできることがわかった。手のひらの上にバスケットボールのような大きさの火の玉を作ることだってできるようになる。

 とりあえず火はここまでにして、次は水を出してみよう。私は両手のひらに水が湧き出ることを想像した。すぐに顔を洗う時のように両手のひらに水が出てくる。飲んでみたら美味しかった。喉が渇いたので何度か出して飲んだ。ついでにこの水を冷たくもできたし温かいお湯にすることもできた。流石に沸騰したお湯にするのは躊躇われたのでやらなかったが、多分できるだろう。

 私は面白くて色々と試してみた。休憩の時に拾った石や葉っぱや土を隠し持ち、形を変えてみる。石はハート型のペンダントトップにしてみた。葉っぱはメモ帳にし、土でペンを作る。心の中で柔らかくなれとか、硬くなれとか、違うものになれと念じれば出来上がってしまったのだ。

 御者の人が見ていない隙にウィンドカッターとか、ストーンバレットとかもやってみた。割と簡単にできた。ついでに離れたところから御者の人を見ていたら、何やら黒いモヤのようなものが見えた。きっとそれは疲れとかネガティブなものなのだと解釈し、それが消えてなくなるイメージで彼を見た。すると黒いモヤが霧散して見えなくなった。御者の人は少し不思議そうな顔をして背を伸ばしていた。

 あまりに色々なことが簡単にできてしまう。面白くてやめられなかった。そして思った。こんなことができるなら、リサはもっと真面目にやっていればよかったのだ。そうすれば院長先生だって笑顔のままでいられたはずなのに。でもすぐに考えを変える。リサは作者の鬱憤を晴らすために生まれたのだ。決して幸せにはなれなかったのだ。そのことに私は呆然となってしまうのだった。
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