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第6話 死神
しおりを挟む「ちょっと、あんた、まさか、トモエのこと忘れたなんて言わないわよね!?」
栄一郎の不自然な様子に、沙耶香は苛立つ。
「トモエが死ぬ前、あんたが一番仲良かったじゃない!!」
沙耶香は怒りを露わにするが、死という言葉で栄一郎はさらにパニックになった。
「死んだ?……トモエが?……死んだのは……トモエ?…… 死んだ?……トモエが?……死んだのは……トモエ?……」
体と声を震わせながら壊れたテープのようにトモエという名と死という言葉を繰り返した。
「あ、ごめん、間、今のは私が悪かった!!」
栄一郎の異様な様子に、沙耶香は何かを察し謝った。
「そうだよね、トモエはあんたの目の前でいきなり死んじゃったんだもんね?思い出したくないよね?あの日のあんた、さすがにおかしかったもん」
沙耶香は、栄一郎が、トモエの死のショックで、PTSDか何かを患ってしまったのだと解釈した。
当の栄一郎は過呼吸になりかけているのを必死に気持ちを落ち着けて呼吸を整えた。
「一条……あの日って……お前もトモエが死んだ時……一緒にいたのか……」
ばらばらと脳内に蘇ってくる記憶をつなぎ合わせながら、不足したピースを沙耶香に求めた。
「そっか、やっぱり、あの日のこと、覚えてないんだね?トモエが突然死した瞬間、トモエのすぐそばにいたのはアンタだけだったんだよ。私たちも近くにいたけど、アンタが騒ぎ始めるまで何も気づかなかったんだよ」
沙耶香は、今この場でどこまで伝えてよいものか、悩みながらもあの日のありのままを栄一郎に伝えた。
「騒いでたって……俺はなんて言ってたんだ……」
その問いに、さすがに沙耶香も言葉に詰まった。
正直、その発言のせいで、当時の同級生たちは、栄一郎がおかしくなってしまったと考え、彼から距離を置くようになり、そして、今日に至るからだ。
現に、沙耶香は高校3年間の間、栄一郎にこの話を切り出すことはなかった。
なのに、今日、栄一郎が立派に社会人をやっているようにみえたため、栄一郎がトモエのことを吹っ切れたのだと解釈してしまい、十数年間避けてきたこの話題を切り出してしまったのだ。
「一条!!」
言葉に詰まっている沙耶香にしびれをきらして、栄一郎は強い語気で問い詰めた。
「えと……その……トモエが……その……死神に……殺された……って……」
沙耶香の言葉に栄一郎の混乱は極地に達した。
夢の中のあの少女の死は現実だった。
それも自分の目の前で死んだのも現実だった。
ここまではありうることだと思っていた。
栄一郎の夢の解釈は、「そんなショックな別れのせいで、頭の中でおかしな妄想を作り出してしまい、夢と現の境界がよくわからなくなってしまった」、そのあたりが一番現実的な解釈だった。
だがしかし、彼女の死の瞬間から、空想する時間もなく、妄想する時間もなく、夢を見る時間もなく、彼は「あれ」の存在を識別していたのだ。
「あれ」は確かに存在していたということなのか……
ぐるぐると、自分の深層の価値観が書き換えられているなか、異変は起きた。
視界の中心にいた沙耶香が、ふぅっと目を閉じ、地面に吸い込まれるように倒れていった。
「一条?」
栄一郎はさして慌てることもなく、冷静に声をかけた。なぜ冷静なのか?
なぜならば、ただの悪ふざけにしか思えなかったから。
なぜならば、あの日のトモエの真似をしているかのように思えたから。
「一条?」
だが、数秒後、それが悪ふざけでも、真似でもないことを、栄一郎は認識した。倒れた彼女のかたわらに「それ」が立っていたのだ。
「それ」は全身を黒い布に包んでいた。
「それ」は黒い大鎌を携えていた。
「それ」は胸元には黒い水晶をぶら下げていた。その水晶の中には赤く光る「3」の文字があった。
栄一郎は「それ」を見上げた。
「それ」の頭は黒いフードを被っていた。
栄一郎は「それ」に問うた。
「お前は、誰だ?」
「それ」は答えない。
しかし、「それ」は笑っているかのようみえた。
皮膚も、肉も、目玉もない、空っぽの頭蓋骨の口を開けて……
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