疾風バタフライ

霜月かずひこ

文字の大きさ
5 / 27

第4話

しおりを挟む
「……であるから……この王朝は……」



 4限、世界史の授業中。

 わかりやすいと評判の先生の解説を聞く傍らで、俺は一人悶々としていた。

 ――そう、入ってしまった。

 入ってしまったのである。

 形だけとはいえ、あれほど入るまいと決めていた卓球部に。



 ……まぁ、それはこの際しゃあねえとしても、一つ大きな問題がある。

 朝倉の話が本当なら、今年の卓球部の目標は部の再建。

 もちろん大会での成績は必須となってくるだろう。

 当然、その役目は俺になるわけで。

 ――だけど俺は絶対に試合に出るわけにはいかない。

 もうあんな惨めな思いだけはしたくねえんだ。

 そうなるくらいならいっそ…………。



「はぁ、どうすっかね」



 キーンコーンカーンコーン。

 そうこうしているうちに、お馴染みのチャイムが4時間目の終了を告げた。

 俺が気づかないうちに授業も終わっていたらしい。

 視線を前に向ければ真面目なクラスメイトが黒板をきれいにしている所だった。

 そういや、まったく板書してねえな。

 ……めんどくせえから後で誰かの写せばいいか。 

 慌ててノートを埋めるのもおっくうなので、諦めて机の上を片付ける。

 テキパキと作業をしていると、見慣れた顔が目の前にあった。



「廉太郎ー昼行こうよ」



 普段通りチャラい京介の手には弁当箱が。



「ああ……って外行く気かよ。今日風強えぞ」

「いいじゃん、春風舞う中でのランチってのもありじゃない?」

「ま、京介がそういうならいいけどよ」

「決まりだね☆」 



 俺もカバンから弁当を取り出し、京介と並んで教室を出る。

 裏庭に並べられたベンチに着くと、俺たちは特に会話もないまま弁当を広げ始めた。案の定というかこんな風の強い日に外で昼食を取る奴は他に誰もいない。

 ……京介に言わせればこれもまた一興ってことなんだろうが。

 いつも通りむしゃむしゃと弁当を頬張る俺に、突然、京介は話題を振ってきた。

 

「ところで廉太郎? 卓球部の女子の中で誰が一番好み?」

「いきなりなんだよ?」

「ただの世間話だって。教えてよ」

「はぁ……そういうことはまず言い出しっぺが言うもんだろうが」

「一理あるね」



 突き放した俺の物言いにそう返すと、サンドウィッチを胃に押し込んでから、京介は語り始めた。



「まずは朝倉さん。なんと言っても可愛い。明るい性格でこっちも元気になるタイプだよね」

「ほうほう」



 まあ、外面は良いからな。

 ……外面だけは。



「次は早瀬さん、一番小柄でおしとやか。一緒にいて心が落ち着くタイプだね」

「ほいほい」



 頷きながらも、自覚する。

 最低な会話だな。



「最後は今宮さん、美人で背も高い。冷たいところもいい。そして見下されながら踏まれたい!」



 最後だけ妙に力を込めて宣言する京介に、俺は呆れたように言う。



「さっきから聞いてりゃお前の性癖を垂れながらしてるだけじゃねえか……最低だな」

「ブーメランごちそうさまです。ムッツリの廉太郎に言われたくないよ」

「うぐっ⁉」



 なまじ中学時代のあれこれを知られてるだけに、むやみに反論できない。



「ほら、じゃあムッツリくん。僕はちゃんと言ったんだから言ってね」



 この野郎。

 若干殺意が湧いたがここは大人しく京介の雑談に乗ってやることにする。

 結論が出るのにそう時間はかからなかった。



「……まあ消去法で今宮じゃねえか?」

「その心は?」

「まず、早瀬とはそんなに話したことない。よって早瀬は除く」

「確かにあんま見たことないね」

「次に朝倉か今宮だ。どっちも凶暴かつ残忍な奴らには変わりがないが…………朝倉は俺の水筒を勝手に奪った前科があるからな。よって今宮」

「ナチュラルにモテ自慢? それに結局一番大きいの選んだだけじゃん」

「ち、ちげえよ。今宮を選んだのはあくまで性格で……」



 さすがに京介程は欲望に忠実ではない。

 なんとか自分の名誉を守ろうとした、その時だった。



「――あら、うれしいことを言ってくれますわね」

「い、今宮、一体いつからここに?」



 なんか聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、俺たちの後ろに今宮が立っていた。

 非常にまずい!

 あんな会話聞かれてたらもう学校には行けなくなるって!



「どうでもいいですわ。そんなこと。それよりも越谷廉太郎さん、あなたに用があって来たんですの。ちょっと来てくれます?」



 いや、俺はどうでもよくねえんだけど。

 でも気にしないでくれるのはありがたいことだ。

 俺は羞恥心で悶えそうになるのを抑えつつ冷静に振る舞う。



「よ、用ってなんだよ、ここじゃダメなのか?」

「ええ、大事な話なので」

「そうか、じゃあ昼飯食ったらな」

「今すぐでは駄目ですの?」



 言葉こそ丁寧だがこちらに有無を言わせない圧があった。

 

「あ、いやその……また後でっ!」



 こ、殺される!

 動物的本能で命の危険を感じ取った俺はその場から逃走を図る。 



「もうダーリンたら、私とのデートが嬉しいからってそんなに喜ばなくても」



 訳 てめえどこに逃げようとしてんだ?



「っつ⁉ ぐへえ⁉」



 しかし今宮は逃げようとする俺を片腕で押さえつけてみせた。

 さすがの反射神経、そしてなんて馬鹿力だ。

 とても女子とは思えねえ。



「き、京介。俺たち親友だよな?」

「ごゆっくりー」

「裏切者ー!」



必死の抵抗むなしく俺は今宮に引きづられていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...