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第19話
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「っ!」
「華怜っ!」
挨拶の後、走ってコートを去る今宮を泉岳寺が追いかけて行った。
俺は荷物を放置する訳にもいかず、動けなかった。
「……はぁ、仕方ねえか」
置いて行かれたのはちょっと悲しかったが、事態が事態だ。
……それにこうなったおかげで気兼ねなく行けるしな。
俺はコートで死に体となった新波先輩に声をかける。
「新波先輩、散々イキってたくせに良い様ですね」
「…………こ、越谷」
先輩は死人のように青ざめた顔でこちらを見る。
俺はそれが無性に気にくわなくて、だから言ってやった。
「……次こそ努力で才能を超えてくださいよ。あと今度朝倉に会ったら謝ってください」
「……言われなくてもわかってるわよ」
「そうですか、それじゃあ俺はこれで。負けてしまった俺の分まで頼みます」
満足のいく返事が聞けたので俺は急いでコートを出る。
「早くあいつらと合流しねえと」
……泉岳寺がついてるとはいえ今宮が心配だ。
俺は全員分の荷物を背負って会場の中を歩き回る。
入り組んでいて目立たない所を中心に探していると、意外にも今宮達はすぐに見つかった。
「……私、勝ってましたのよ」
「そうだね」
「寧々の仕返しをしてやりましたわ」
「でも少しやりすぎたな」
「……うぅ、わかっていますわ」
自販機の裏にあるベンチで、泉岳寺に愚痴を漏らす今宮。
思ったよりは元気そうで少し安心だぜ。
「よお。探したぜ…………っ!」
出ていこうとした瞬間、反対側から二人に近づいていく人物が見えて、俺は咄嗟に近くにあった柱に隠れた。
……何者だよ、このじいさん。
不審がる俺をよそに、その人は年季の入った白髪を振り乱して今宮の前に立つ。
「華怜、なんだったんだ今の試合は?」
「おじいさま! 見ていらっしゃったのですか」
マジで?
いや、よく見れば雰囲気は今宮に似ているような気はするな。
「…………にしてもなあ」
おじいさんと孫とくればおじいさんが孫にべた甘と相場が決まってるものだが、二人の空気は悪い。
今宮のおじいさんは怒りを抑えきれないとばかりに早口でまくしたてていた。
「さっきの試合はなんだと聞いているのだ。あの試合の内容は? 第1セットをなぜ落とした?」
「そ、それは…………」
「あんな人様を愚弄するような卓球がお前の理想とする卓球か? 私はそんなことのためにお前に卓球を教えたのではない」
「私はそういうつもりでは」
「ではあれはなんだというのだっ!」
沸点に達した老人が今宮に手を上げそうになると、泉岳寺が二人の間に割って入った。
パチン!
放たれた手は泉岳寺の顔面が代わりに受け止める。
「…………翼よ、華怜に甘すぎるのは感心しないぞ」
「陸郎先生、華怜も反省しています」
痛いはずなのに泉岳寺は表情1つ変えず、今宮のおじいさんに向き合っている。
「反省したからなんだというのだ。あんな卓球をする者を私は孫とは思わん」
「そ、そんな!?」
「陸郎先生! それはあんまりです。華怜は確かに熱くなりすぎましたが先生だって感情的になっています!」
「そうだ。私だって感情的にもなるさ。悲しいんだよ。愛する孫がひどい卓球をしているなんて」
今宮のおじいさんの反論に泉岳寺も黙るしかなかった。
この人だって本当は叱りたくないのだろう。
ただそれ以上に今宮の卓球が許せなかったのだ。
俺以上に付き合いが長い二人は何か他にも感じることがあるのか、ひどく心を痛めた様子でじいさんを見つめている。
「…………確かに私も熱くなりすぎたようだ。今日の所は帰るとしよう」
とぼとぼと今宮のじいさんが去っていくと、今宮が重い口を開いた。
「怒られてしまいましたわ…………久しくあんなおじい様のお顔を見ていませんでしたわ」
「華怜、気にしすぎることはない。陸郎先生だって後で会ったら許してくれるさ」
「でも……わ、わたしは…………なんてことをっ……松波さんにひどいことをっ……してしまいましたわ」
――泣いていた。
今宮が泣いていたんだ。
あの気丈で傲慢な今宮華怜が。
幼い少女のように。
泉岳寺の胸に顔をうずめて肩を震わせていた。
…………俺は馬鹿だった。
今宮は悔しいだけで泣いてるんじゃない。
自分のしたことを後悔しているから泣いているんだ。
俺は、いたたまれなくなって二人から視線を逸らす。
しばらくそのまま柱に隠れていると嗚咽は聞こえなくなった。
代わりに泉岳寺から呼びかけられる。
「越谷……そこにいるんだろ?」
「……ばれてたか。まあ今来た所だけどな」
泉岳寺の胸元では色々と限界に達したのか、今宮がやすらかに眠っていた。
「変に気を遣うのはよせ。荷物持ってきてくれてありがとう」
「お、おう。気にすることねーよ」
妙に優しい口調の泉岳寺に戸惑いながらも荷物を渡す。
俺から荷物を受け取ると泉岳寺はそれらを脇に置いた。
「越谷。俺は華怜が起きるのを待つがお前は…………」
「あー帰るよ。今日は用事があるから」
「そうか、気をつけて帰れよ」
「お前に心配されんでも平気だっつーの。まあサンキュな」
……本当は用事なんてない。
ただ二人の邪魔をしてはいけない気がして、咄嗟に嘘をついてしまった。
俺はそれを隠すようにかっこつけて手を振り、振り返らずに歩く。
エントランスを出ると、あたりは土砂降りで、
「…………ちっ、ついてねーな」
傘を忘れた俺は小さく舌打ちした。
止むまでまで待つのも疲れるので走って帰る。
久しぶりに感じる雨粒たちは、ひどく冷たかった。
「華怜っ!」
挨拶の後、走ってコートを去る今宮を泉岳寺が追いかけて行った。
俺は荷物を放置する訳にもいかず、動けなかった。
「……はぁ、仕方ねえか」
置いて行かれたのはちょっと悲しかったが、事態が事態だ。
……それにこうなったおかげで気兼ねなく行けるしな。
俺はコートで死に体となった新波先輩に声をかける。
「新波先輩、散々イキってたくせに良い様ですね」
「…………こ、越谷」
先輩は死人のように青ざめた顔でこちらを見る。
俺はそれが無性に気にくわなくて、だから言ってやった。
「……次こそ努力で才能を超えてくださいよ。あと今度朝倉に会ったら謝ってください」
「……言われなくてもわかってるわよ」
「そうですか、それじゃあ俺はこれで。負けてしまった俺の分まで頼みます」
満足のいく返事が聞けたので俺は急いでコートを出る。
「早くあいつらと合流しねえと」
……泉岳寺がついてるとはいえ今宮が心配だ。
俺は全員分の荷物を背負って会場の中を歩き回る。
入り組んでいて目立たない所を中心に探していると、意外にも今宮達はすぐに見つかった。
「……私、勝ってましたのよ」
「そうだね」
「寧々の仕返しをしてやりましたわ」
「でも少しやりすぎたな」
「……うぅ、わかっていますわ」
自販機の裏にあるベンチで、泉岳寺に愚痴を漏らす今宮。
思ったよりは元気そうで少し安心だぜ。
「よお。探したぜ…………っ!」
出ていこうとした瞬間、反対側から二人に近づいていく人物が見えて、俺は咄嗟に近くにあった柱に隠れた。
……何者だよ、このじいさん。
不審がる俺をよそに、その人は年季の入った白髪を振り乱して今宮の前に立つ。
「華怜、なんだったんだ今の試合は?」
「おじいさま! 見ていらっしゃったのですか」
マジで?
いや、よく見れば雰囲気は今宮に似ているような気はするな。
「…………にしてもなあ」
おじいさんと孫とくればおじいさんが孫にべた甘と相場が決まってるものだが、二人の空気は悪い。
今宮のおじいさんは怒りを抑えきれないとばかりに早口でまくしたてていた。
「さっきの試合はなんだと聞いているのだ。あの試合の内容は? 第1セットをなぜ落とした?」
「そ、それは…………」
「あんな人様を愚弄するような卓球がお前の理想とする卓球か? 私はそんなことのためにお前に卓球を教えたのではない」
「私はそういうつもりでは」
「ではあれはなんだというのだっ!」
沸点に達した老人が今宮に手を上げそうになると、泉岳寺が二人の間に割って入った。
パチン!
放たれた手は泉岳寺の顔面が代わりに受け止める。
「…………翼よ、華怜に甘すぎるのは感心しないぞ」
「陸郎先生、華怜も反省しています」
痛いはずなのに泉岳寺は表情1つ変えず、今宮のおじいさんに向き合っている。
「反省したからなんだというのだ。あんな卓球をする者を私は孫とは思わん」
「そ、そんな!?」
「陸郎先生! それはあんまりです。華怜は確かに熱くなりすぎましたが先生だって感情的になっています!」
「そうだ。私だって感情的にもなるさ。悲しいんだよ。愛する孫がひどい卓球をしているなんて」
今宮のおじいさんの反論に泉岳寺も黙るしかなかった。
この人だって本当は叱りたくないのだろう。
ただそれ以上に今宮の卓球が許せなかったのだ。
俺以上に付き合いが長い二人は何か他にも感じることがあるのか、ひどく心を痛めた様子でじいさんを見つめている。
「…………確かに私も熱くなりすぎたようだ。今日の所は帰るとしよう」
とぼとぼと今宮のじいさんが去っていくと、今宮が重い口を開いた。
「怒られてしまいましたわ…………久しくあんなおじい様のお顔を見ていませんでしたわ」
「華怜、気にしすぎることはない。陸郎先生だって後で会ったら許してくれるさ」
「でも……わ、わたしは…………なんてことをっ……松波さんにひどいことをっ……してしまいましたわ」
――泣いていた。
今宮が泣いていたんだ。
あの気丈で傲慢な今宮華怜が。
幼い少女のように。
泉岳寺の胸に顔をうずめて肩を震わせていた。
…………俺は馬鹿だった。
今宮は悔しいだけで泣いてるんじゃない。
自分のしたことを後悔しているから泣いているんだ。
俺は、いたたまれなくなって二人から視線を逸らす。
しばらくそのまま柱に隠れていると嗚咽は聞こえなくなった。
代わりに泉岳寺から呼びかけられる。
「越谷……そこにいるんだろ?」
「……ばれてたか。まあ今来た所だけどな」
泉岳寺の胸元では色々と限界に達したのか、今宮がやすらかに眠っていた。
「変に気を遣うのはよせ。荷物持ってきてくれてありがとう」
「お、おう。気にすることねーよ」
妙に優しい口調の泉岳寺に戸惑いながらも荷物を渡す。
俺から荷物を受け取ると泉岳寺はそれらを脇に置いた。
「越谷。俺は華怜が起きるのを待つがお前は…………」
「あー帰るよ。今日は用事があるから」
「そうか、気をつけて帰れよ」
「お前に心配されんでも平気だっつーの。まあサンキュな」
……本当は用事なんてない。
ただ二人の邪魔をしてはいけない気がして、咄嗟に嘘をついてしまった。
俺はそれを隠すようにかっこつけて手を振り、振り返らずに歩く。
エントランスを出ると、あたりは土砂降りで、
「…………ちっ、ついてねーな」
傘を忘れた俺は小さく舌打ちした。
止むまでまで待つのも疲れるので走って帰る。
久しぶりに感じる雨粒たちは、ひどく冷たかった。
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