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2戦目
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しばしば待ち合わせの指定場所になるVRシティの中央広場、その待ち合わせ場所によって意味が変わる。それぞれの像がある場所はポータルと呼ばれる転送装置に通じている。現実の都市や日本国外の名所、ファンタジー空間、FPSのステージなどなど、通じる先に種類はあれど、獅子像が送り届ける先は……PvP空間、プレイヤー同士が決闘を行うフィールドだ。
「お待たせしたわね、名前は……リーリエ、ね」
声をかけられ、その方向を向くと真紅の髪と碧い双眸、そして豊かな胸が魅力的な一人の少女。アバターの頭上に表示されたスカーレットという名と、顔の大まかな特徴から緋奈だと理解した百合恵は、はっと目を見開いた。
「え、おっぱい!?」
随分とひどい物言いである。とはいえ、驚くのにも理由はある。現実の緋奈のほっそりとした体型と、目の前にいるスカーレットの豊かな胸が一致しないのだ。そもそもVR空間で使えるアバターは現実の姿からかけ離れたものにはならない。瞳や髪の色は自由自在だが、身長や体型を大きく変えることは出来ず、もちろん男女の性別を偽ることも出来ない。
「見栄っ張りと笑いたければ笑えばいいわ。キャリブレーションの時にEカップのブラと詰め物で誤魔化したアバターを」
ヴァーチャルな空間で人は、自分が思った以上に表情が動く。それはまだVR環境が進化の途上にあることを示しているのだが、要するに緋奈の……スカーレットの表情は己の貧乳っぷりをニヒルに嗤うどころか絶望の淵に落ちた者のそれなのだ。そんな彼女を見て、リーリエは慌てて話題を逸らした。
「それで花城さ……スカーレットはどうして、ここに私を呼び出したの?」
「リーリエはVRSCの大会に出場したことは?」
「ううん、私こっちの大会にはあんまり興味なくて。リアルでやってる武道の特徴もあってね」
「リアルでは何を?」
「少林寺拳法、相手を負かす武道とはまた違う、護身術なんだけれど」
VR空間でのスポーツチャンバラ、VRSCが人気になってから、現実世界でも武道に触れる人口は増えた。とはいえ、それもスポーツチャンバラや剣道、空手が主流で、その他の武道は逆に縮小の一途であった。百合恵が少林寺拳法を始めたのも、もとは祖父がやっていたからで、同院へ入門するために市内中を探したものだった。
「なるほど……でも、貴女そこそこ動けそうね」
「はい?」
状況が飲み込めないという顔になるリーリエを連れて、スカーレットはポータルへと入った。行き先はPvP専用のコロシアム、長剣を佩いたスカーレットがリーリエと相対する。
「一戦交えましょう?」
レギュレーションは90秒の一本勝負、武器の持ち替え可というもの。ホログラムボードの承認をタップすると、10秒のカウントダウンが始まった。
「……いいけど」
どうしてこうなったんだろうかと思いつつ、手甲を身につけ構えるリーリエ。そこでふと、邪念が顔を出す。気色の悪い笑みを浮かべながら、スカーレットに問う。
「私が勝ったら、お願い聞いて貰っていいかな?」
「いいですわよ。ただ――――」
スカーレットが口角を上げると同時に、試合開始のブザーが響く。そして。
「勝つのはわたくし、ですが」
ブザーの残響が収束する時にはもう剣閃がリーリエの目の前にあった。瞬間的にリーリエが弾くと、スカーレットはますます笑みを湛え、返す刃でリーリエを切り裂いた。そして、試合終了のブザーが鳴り響いた。
「う……そ……」
リーリエもVRSCの全くの素人というわけではない。徒手空拳の打ち合いを何度か経験している。ただ、拳よりも早い剣捌きというものにデータの身体が追いつかなかったのだ。
「一撃目を弾いた人は久々よ。わたくし、貴女と仲良くなりたいわ」
剣を納めたスカーレットの言葉に、リーリエは声を出して笑った。ひとしきり笑うと、今度は挑戦的な笑みを浮かべて、
「だったら……貴女に勝つまで私は闘い続けるよ」
そう宣言して握手を求めた。これから長く続く二人の決闘の、第一戦はこうして幕を閉じたのであった。
「お待たせしたわね、名前は……リーリエ、ね」
声をかけられ、その方向を向くと真紅の髪と碧い双眸、そして豊かな胸が魅力的な一人の少女。アバターの頭上に表示されたスカーレットという名と、顔の大まかな特徴から緋奈だと理解した百合恵は、はっと目を見開いた。
「え、おっぱい!?」
随分とひどい物言いである。とはいえ、驚くのにも理由はある。現実の緋奈のほっそりとした体型と、目の前にいるスカーレットの豊かな胸が一致しないのだ。そもそもVR空間で使えるアバターは現実の姿からかけ離れたものにはならない。瞳や髪の色は自由自在だが、身長や体型を大きく変えることは出来ず、もちろん男女の性別を偽ることも出来ない。
「見栄っ張りと笑いたければ笑えばいいわ。キャリブレーションの時にEカップのブラと詰め物で誤魔化したアバターを」
ヴァーチャルな空間で人は、自分が思った以上に表情が動く。それはまだVR環境が進化の途上にあることを示しているのだが、要するに緋奈の……スカーレットの表情は己の貧乳っぷりをニヒルに嗤うどころか絶望の淵に落ちた者のそれなのだ。そんな彼女を見て、リーリエは慌てて話題を逸らした。
「それで花城さ……スカーレットはどうして、ここに私を呼び出したの?」
「リーリエはVRSCの大会に出場したことは?」
「ううん、私こっちの大会にはあんまり興味なくて。リアルでやってる武道の特徴もあってね」
「リアルでは何を?」
「少林寺拳法、相手を負かす武道とはまた違う、護身術なんだけれど」
VR空間でのスポーツチャンバラ、VRSCが人気になってから、現実世界でも武道に触れる人口は増えた。とはいえ、それもスポーツチャンバラや剣道、空手が主流で、その他の武道は逆に縮小の一途であった。百合恵が少林寺拳法を始めたのも、もとは祖父がやっていたからで、同院へ入門するために市内中を探したものだった。
「なるほど……でも、貴女そこそこ動けそうね」
「はい?」
状況が飲み込めないという顔になるリーリエを連れて、スカーレットはポータルへと入った。行き先はPvP専用のコロシアム、長剣を佩いたスカーレットがリーリエと相対する。
「一戦交えましょう?」
レギュレーションは90秒の一本勝負、武器の持ち替え可というもの。ホログラムボードの承認をタップすると、10秒のカウントダウンが始まった。
「……いいけど」
どうしてこうなったんだろうかと思いつつ、手甲を身につけ構えるリーリエ。そこでふと、邪念が顔を出す。気色の悪い笑みを浮かべながら、スカーレットに問う。
「私が勝ったら、お願い聞いて貰っていいかな?」
「いいですわよ。ただ――――」
スカーレットが口角を上げると同時に、試合開始のブザーが響く。そして。
「勝つのはわたくし、ですが」
ブザーの残響が収束する時にはもう剣閃がリーリエの目の前にあった。瞬間的にリーリエが弾くと、スカーレットはますます笑みを湛え、返す刃でリーリエを切り裂いた。そして、試合終了のブザーが鳴り響いた。
「う……そ……」
リーリエもVRSCの全くの素人というわけではない。徒手空拳の打ち合いを何度か経験している。ただ、拳よりも早い剣捌きというものにデータの身体が追いつかなかったのだ。
「一撃目を弾いた人は久々よ。わたくし、貴女と仲良くなりたいわ」
剣を納めたスカーレットの言葉に、リーリエは声を出して笑った。ひとしきり笑うと、今度は挑戦的な笑みを浮かべて、
「だったら……貴女に勝つまで私は闘い続けるよ」
そう宣言して握手を求めた。これから長く続く二人の決闘の、第一戦はこうして幕を閉じたのであった。
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