3 / 5
2戦目
しおりを挟む
しばしば待ち合わせの指定場所になるVRシティの中央広場、その待ち合わせ場所によって意味が変わる。それぞれの像がある場所はポータルと呼ばれる転送装置に通じている。現実の都市や日本国外の名所、ファンタジー空間、FPSのステージなどなど、通じる先に種類はあれど、獅子像が送り届ける先は……PvP空間、プレイヤー同士が決闘を行うフィールドだ。
「お待たせしたわね、名前は……リーリエ、ね」
声をかけられ、その方向を向くと真紅の髪と碧い双眸、そして豊かな胸が魅力的な一人の少女。アバターの頭上に表示されたスカーレットという名と、顔の大まかな特徴から緋奈だと理解した百合恵は、はっと目を見開いた。
「え、おっぱい!?」
随分とひどい物言いである。とはいえ、驚くのにも理由はある。現実の緋奈のほっそりとした体型と、目の前にいるスカーレットの豊かな胸が一致しないのだ。そもそもVR空間で使えるアバターは現実の姿からかけ離れたものにはならない。瞳や髪の色は自由自在だが、身長や体型を大きく変えることは出来ず、もちろん男女の性別を偽ることも出来ない。
「見栄っ張りと笑いたければ笑えばいいわ。キャリブレーションの時にEカップのブラと詰め物で誤魔化したアバターを」
ヴァーチャルな空間で人は、自分が思った以上に表情が動く。それはまだVR環境が進化の途上にあることを示しているのだが、要するに緋奈の……スカーレットの表情は己の貧乳っぷりをニヒルに嗤うどころか絶望の淵に落ちた者のそれなのだ。そんな彼女を見て、リーリエは慌てて話題を逸らした。
「それで花城さ……スカーレットはどうして、ここに私を呼び出したの?」
「リーリエはVRSCの大会に出場したことは?」
「ううん、私こっちの大会にはあんまり興味なくて。リアルでやってる武道の特徴もあってね」
「リアルでは何を?」
「少林寺拳法、相手を負かす武道とはまた違う、護身術なんだけれど」
VR空間でのスポーツチャンバラ、VRSCが人気になってから、現実世界でも武道に触れる人口は増えた。とはいえ、それもスポーツチャンバラや剣道、空手が主流で、その他の武道は逆に縮小の一途であった。百合恵が少林寺拳法を始めたのも、もとは祖父がやっていたからで、同院へ入門するために市内中を探したものだった。
「なるほど……でも、貴女そこそこ動けそうね」
「はい?」
状況が飲み込めないという顔になるリーリエを連れて、スカーレットはポータルへと入った。行き先はPvP専用のコロシアム、長剣を佩いたスカーレットがリーリエと相対する。
「一戦交えましょう?」
レギュレーションは90秒の一本勝負、武器の持ち替え可というもの。ホログラムボードの承認をタップすると、10秒のカウントダウンが始まった。
「……いいけど」
どうしてこうなったんだろうかと思いつつ、手甲を身につけ構えるリーリエ。そこでふと、邪念が顔を出す。気色の悪い笑みを浮かべながら、スカーレットに問う。
「私が勝ったら、お願い聞いて貰っていいかな?」
「いいですわよ。ただ――――」
スカーレットが口角を上げると同時に、試合開始のブザーが響く。そして。
「勝つのはわたくし、ですが」
ブザーの残響が収束する時にはもう剣閃がリーリエの目の前にあった。瞬間的にリーリエが弾くと、スカーレットはますます笑みを湛え、返す刃でリーリエを切り裂いた。そして、試合終了のブザーが鳴り響いた。
「う……そ……」
リーリエもVRSCの全くの素人というわけではない。徒手空拳の打ち合いを何度か経験している。ただ、拳よりも早い剣捌きというものにデータの身体が追いつかなかったのだ。
「一撃目を弾いた人は久々よ。わたくし、貴女と仲良くなりたいわ」
剣を納めたスカーレットの言葉に、リーリエは声を出して笑った。ひとしきり笑うと、今度は挑戦的な笑みを浮かべて、
「だったら……貴女に勝つまで私は闘い続けるよ」
そう宣言して握手を求めた。これから長く続く二人の決闘の、第一戦はこうして幕を閉じたのであった。
「お待たせしたわね、名前は……リーリエ、ね」
声をかけられ、その方向を向くと真紅の髪と碧い双眸、そして豊かな胸が魅力的な一人の少女。アバターの頭上に表示されたスカーレットという名と、顔の大まかな特徴から緋奈だと理解した百合恵は、はっと目を見開いた。
「え、おっぱい!?」
随分とひどい物言いである。とはいえ、驚くのにも理由はある。現実の緋奈のほっそりとした体型と、目の前にいるスカーレットの豊かな胸が一致しないのだ。そもそもVR空間で使えるアバターは現実の姿からかけ離れたものにはならない。瞳や髪の色は自由自在だが、身長や体型を大きく変えることは出来ず、もちろん男女の性別を偽ることも出来ない。
「見栄っ張りと笑いたければ笑えばいいわ。キャリブレーションの時にEカップのブラと詰め物で誤魔化したアバターを」
ヴァーチャルな空間で人は、自分が思った以上に表情が動く。それはまだVR環境が進化の途上にあることを示しているのだが、要するに緋奈の……スカーレットの表情は己の貧乳っぷりをニヒルに嗤うどころか絶望の淵に落ちた者のそれなのだ。そんな彼女を見て、リーリエは慌てて話題を逸らした。
「それで花城さ……スカーレットはどうして、ここに私を呼び出したの?」
「リーリエはVRSCの大会に出場したことは?」
「ううん、私こっちの大会にはあんまり興味なくて。リアルでやってる武道の特徴もあってね」
「リアルでは何を?」
「少林寺拳法、相手を負かす武道とはまた違う、護身術なんだけれど」
VR空間でのスポーツチャンバラ、VRSCが人気になってから、現実世界でも武道に触れる人口は増えた。とはいえ、それもスポーツチャンバラや剣道、空手が主流で、その他の武道は逆に縮小の一途であった。百合恵が少林寺拳法を始めたのも、もとは祖父がやっていたからで、同院へ入門するために市内中を探したものだった。
「なるほど……でも、貴女そこそこ動けそうね」
「はい?」
状況が飲み込めないという顔になるリーリエを連れて、スカーレットはポータルへと入った。行き先はPvP専用のコロシアム、長剣を佩いたスカーレットがリーリエと相対する。
「一戦交えましょう?」
レギュレーションは90秒の一本勝負、武器の持ち替え可というもの。ホログラムボードの承認をタップすると、10秒のカウントダウンが始まった。
「……いいけど」
どうしてこうなったんだろうかと思いつつ、手甲を身につけ構えるリーリエ。そこでふと、邪念が顔を出す。気色の悪い笑みを浮かべながら、スカーレットに問う。
「私が勝ったら、お願い聞いて貰っていいかな?」
「いいですわよ。ただ――――」
スカーレットが口角を上げると同時に、試合開始のブザーが響く。そして。
「勝つのはわたくし、ですが」
ブザーの残響が収束する時にはもう剣閃がリーリエの目の前にあった。瞬間的にリーリエが弾くと、スカーレットはますます笑みを湛え、返す刃でリーリエを切り裂いた。そして、試合終了のブザーが鳴り響いた。
「う……そ……」
リーリエもVRSCの全くの素人というわけではない。徒手空拳の打ち合いを何度か経験している。ただ、拳よりも早い剣捌きというものにデータの身体が追いつかなかったのだ。
「一撃目を弾いた人は久々よ。わたくし、貴女と仲良くなりたいわ」
剣を納めたスカーレットの言葉に、リーリエは声を出して笑った。ひとしきり笑うと、今度は挑戦的な笑みを浮かべて、
「だったら……貴女に勝つまで私は闘い続けるよ」
そう宣言して握手を求めた。これから長く続く二人の決闘の、第一戦はこうして幕を閉じたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白雪様とふたりぐらし
南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間――
美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。
白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……?
銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。
【注意事項】
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。
純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる